『グッドバイ』を読んだ後で、まだまだまかてさんの作品を読みたくて、
本の紹介文から2冊選んで、図書館で借りてきました。
『恋歌』の方は、樋口一葉の師であった、中島歌子という人の話だということで。
『残り者』の方は、江戸城明け渡しの前夜に、城内に残っていた「残り者」が
居たという設定が面白いなーと思って。
どちらを先に読もうか迷ったすえ、なんとなく『恋歌』を先に読みましたが、
それは正解でした。
町人の娘が水戸藩士の家に嫁ぎ、幕末に何もかも失い、歌ひとつで身をたてていくー。
中島歌子という人の名をこの本で初めて知りましたが、中ほどを過ぎた頃から、
時代の大波に飲みこまれ、読み始めた時には思ってもみなかった壮絶な場面が
主人公を待っていたので‥。
大老井伊直弼が襲われた「桜田門外の変」のことは知っていても、襲った方が
水戸の藩士であり、当時の水戸藩はどのような状況であったのか等々、思っても
みたことがなかったので、たいそう歴史の勉強にもなりました。
それにしても、やるせないです。自分の意思ではなく主君に仕えるために
むかしながらの鎧兜のいでたちで、大砲や鉄砲を備えた軍に立ち向かって
行かなければならない夫を見送るのはー。
印象的だったのは、囚われの身になってもまだ、自分の子供たちに学問を
授ける母の姿。
死んでいく身に学など必要ないと揶揄されても、明日御沙汰が解かれるかも
しれず、自由の身になったときに、学がなければ生きていけぬから、と毅然と
言ってのけるのです‥。
潔いという言葉は、時にものすごく残酷だと思いました。
『残り者』は、江戸城の大奥勤めをしていた、役職も生い立ちも身分も
違う5人の女の、明け渡し前夜から当日朝にかけての話でした。
天璋院様のお着物を縫う「呉服之間」勤めのりつ。
お食事の用意をする「御膳所」で働くお蛸。
諸々の用事を言いつかる「御三之間」の、ちか。
静寛院様の「呉服之間」の、もみぢ。
そして、他4人よりも格段に身分が上の「御中臈」ふき。
皆事情はそれぞれでも、自らの職場であった大奥を去り難い想いは
同じで、時代や場所はまるで違っても、働く女性としての誇りは
共感できるものが多く、胸が熱くなりました。
物語の終わり方もよく、こちらを後から読んで(やはり)正解、と
また思った次第です。
そして、2冊読み終わってから知ったのですが、この2冊は「対をなす」
作品として知られているようでした。偶然とはいえ、それを選んで借りた
なんて!とちょっと嬉しいような気持ちになりました。
まかてさんまつり、まだ続きます、たぶん。