一人静かにドアを開けて入ってきたKさんが、カウンターに着くのを待って、
「Sさんから電話がありましたよ。今日はKさん来てますかって。」
とマキちゃんがおしぼりを渡しながら、微妙な視線をKさんに送った。
「そう。」と、手を拭きながら、素っ気ないとも思える返事をKさんは返した。
Sさんが始めて店に来たのは、Kさんに連れられてのことだった。
30歳前後のSさんと、40代半ばのKさんの組み合わせは、
マキちゃんの好奇心がかき立てられる要素を十分備えていて、
それが、今の伝言に添えられた視線の意味でもあった。
SさんとKさんが2人で来たのは最初の頃2回だけで、
その後は一緒に連れ立ってくることはないが、だからといって、Sさんが店に来なくなったということはない。
Sさんは、もの静かな女性で、時々友達を連れてきたりと、
新しいお客さんを、何人かわたしの店のお馴染みさんにしてくれた、店にとってありがたいお客さんである。
2人で来たとき、どちらかというと、Sさんの方はずいぶん親しげにKさんに接していたが、
Kさんの方は、突っ慳貪まではないが、いくぶん冷たい感じの接し方だった。
わたしやマキちゃん、ほかのお客さんたちに、変な勘ぐり方をされるのが嫌だったからじゃないかと、
その時のKさんの態度を、わたしなりに解釈しているのだが。
本当のところはどうなのか、二人の関係も含めて、わたしには量りようがない。
Kさんは、わたしに向かって「ダイキリ」を注文すると、
マキちゃんの方に顔を向け、
「で、Sさんにはなんて言ったの?」と、先程の話を続けた。
「来てないって言ったら、もし来たら自分が行くまで待ってて、と伝えて欲しいって。」
「ふ~ん、なんだろう。」Kさんは怪訝な顔でダイキリに口をつけた。
ダイキリは、キューバのダイキリ鉱山の技師たちが、ラムをライム・ジュースで薄めて飲んでいたことから命名されたと言われている。
ラムベースのカクテルで、シェイクするため、Kさんはわたしにオーダーしたのだろう。
爽やかで、ほどよい甘さがあって、古典的だが人気は高い。
Kさんの好みのカクテルは、ダイキリやマルガリータなどの系列のようだ。
KさんがSさんと一緒に来なくなって、1年以上が経過している。
その理由については、わたし達には知る由もないし、
いたずらに、お客さんのプライバシーに興味を持つべきでもない、と思っている。
ただ、マキちゃんは若いだけに、男女関係の機微には興味があるようで、
時々そういう振る舞いを見せるときがあるが、仕方ないかと、わたしは諦めている。
11時半を過ぎて、マキちゃんはいくぶん名残惜しそうに帰り支度を始めた。
まだSさんは店に来ていなくて、そのことに気持ちを残して帰るのが残念なのだろう。
マキちゃんが帰って、おおよそ30分後の0時過ぎに、Sさんは店に来た。
その頃、店にはKさん一人で、マルガリータを飲んでいた。
Sさんは、Kさんの手元にあるマルガリータを見ながら、
「私は、あなたにとってのマルガリータなのかな?」とつぶやいた。
もちろん、わたしはカクテルのマルガリータの由来を知っている。
それでも、Sさんの言葉はどちらの意味だったのだろうと、
思わずSさんの顔を見て、一人納得した。
Kさんは、視線をわたしの後ろのボトルの棚に向けたまま、黙っていた。
Sさんが言った言葉の意味ですって。
それをお知りになりたいなら、一度名も知らぬ駅に来ませんか
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
「Sさんから電話がありましたよ。今日はKさん来てますかって。」
とマキちゃんがおしぼりを渡しながら、微妙な視線をKさんに送った。
「そう。」と、手を拭きながら、素っ気ないとも思える返事をKさんは返した。
Sさんが始めて店に来たのは、Kさんに連れられてのことだった。
30歳前後のSさんと、40代半ばのKさんの組み合わせは、
マキちゃんの好奇心がかき立てられる要素を十分備えていて、
それが、今の伝言に添えられた視線の意味でもあった。
SさんとKさんが2人で来たのは最初の頃2回だけで、
その後は一緒に連れ立ってくることはないが、だからといって、Sさんが店に来なくなったということはない。
Sさんは、もの静かな女性で、時々友達を連れてきたりと、
新しいお客さんを、何人かわたしの店のお馴染みさんにしてくれた、店にとってありがたいお客さんである。
2人で来たとき、どちらかというと、Sさんの方はずいぶん親しげにKさんに接していたが、
Kさんの方は、突っ慳貪まではないが、いくぶん冷たい感じの接し方だった。
わたしやマキちゃん、ほかのお客さんたちに、変な勘ぐり方をされるのが嫌だったからじゃないかと、
その時のKさんの態度を、わたしなりに解釈しているのだが。
本当のところはどうなのか、二人の関係も含めて、わたしには量りようがない。
Kさんは、わたしに向かって「ダイキリ」を注文すると、
マキちゃんの方に顔を向け、
「で、Sさんにはなんて言ったの?」と、先程の話を続けた。
「来てないって言ったら、もし来たら自分が行くまで待ってて、と伝えて欲しいって。」
「ふ~ん、なんだろう。」Kさんは怪訝な顔でダイキリに口をつけた。
ダイキリは、キューバのダイキリ鉱山の技師たちが、ラムをライム・ジュースで薄めて飲んでいたことから命名されたと言われている。
ラムベースのカクテルで、シェイクするため、Kさんはわたしにオーダーしたのだろう。
爽やかで、ほどよい甘さがあって、古典的だが人気は高い。
Kさんの好みのカクテルは、ダイキリやマルガリータなどの系列のようだ。
KさんがSさんと一緒に来なくなって、1年以上が経過している。
その理由については、わたし達には知る由もないし、
いたずらに、お客さんのプライバシーに興味を持つべきでもない、と思っている。
ただ、マキちゃんは若いだけに、男女関係の機微には興味があるようで、
時々そういう振る舞いを見せるときがあるが、仕方ないかと、わたしは諦めている。
11時半を過ぎて、マキちゃんはいくぶん名残惜しそうに帰り支度を始めた。
まだSさんは店に来ていなくて、そのことに気持ちを残して帰るのが残念なのだろう。
マキちゃんが帰って、おおよそ30分後の0時過ぎに、Sさんは店に来た。
その頃、店にはKさん一人で、マルガリータを飲んでいた。
Sさんは、Kさんの手元にあるマルガリータを見ながら、
「私は、あなたにとってのマルガリータなのかな?」とつぶやいた。
もちろん、わたしはカクテルのマルガリータの由来を知っている。
それでも、Sさんの言葉はどちらの意味だったのだろうと、
思わずSさんの顔を見て、一人納得した。
Kさんは、視線をわたしの後ろのボトルの棚に向けたまま、黙っていた。
Sさんが言った言葉の意味ですって。
それをお知りになりたいなら、一度名も知らぬ駅に来ませんか
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
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