「よっ、マスター。また来ちゃった。」
扉を開けるなり、O(オー)さんがにこやかに入ってきた。
確かに、昨日今日と連チャンである。
時々思うのだが、こんなに頻繁に飲みに来て、家内は大丈夫なのだろうか。
いやいや、マキちゃんみたいに商売っ気がないことを考えてはいけない。
Oさんの指定席は、L字型の短い直線の端っこ、つまり壁際の席である。
Oさんはマキちゃんのお気に入りで、というか、
マキちゃんがOさんのお気に入りなのか。
どちらにしろ浮いた関係ではない。
Oさんにはもう大学に入ろうかという娘さんもいて、
そんなことが全部分かっていると、なかなか浮いた話にはならない。
Oさんは気さくな人柄で、見知らぬお客さんとも気楽に話をする。
今日は日本酒ファンの、Tさんが来ていて、
これも高森町は山村酒造の、「霊山」のファンであるマキちゃんがいて、
どうやら3人で日本酒の話で盛り上がっている。
カクテルバーで、日本酒の話もないだろう、と思うのだが。
そういえば、以前にも一度3人が一緒の時があって、
日本酒の話が盛り上がって、確か小国町のどぶろくを次回飲もうという話になり、
本当にOさんが、「風ノ杜」だったかのどぶろくを持参して、
3人で、「美味い、こりゃあ美味い。」などと、おだを上げていたことがある。
よりによって、このわたしのカクテルバーでのことなのだ。
そうはいいながら、Oさんはクラッシュドアイスに、マッカランの12年ファインオークのロック。
Oさんは長い馴染みの、筋のいいお客さんだが、
なぜかカクテルにはほとんど興味を示さない。
スコッチか、バーボン。ウィスキー党である。
今日はマキちゃんが、知り合いからもらってきたという冬瓜を、
少し濃いめのコンソメで炊いたものがある。
若干大きめの四角に切った、熱々の冬瓜の上部を少しくり抜いて、
ズワイガニのほぐし身(カニ缶のもの)をそこに入れ、
炊いたコンソメのスープに、白だしとみりんをほんの少し加えて、葛でトロトロにした出汁をかける。
本来日本酒のつまみだ。
ウィスキーに合えばいいのだがと思いながら、そっとOさんに椀を出すと、
瞬く間に椀の中を空にして、
「おかわりできる?」ときた。
仕入れたのは、カニ缶5個までだから、今日は一人一椀だけで品切れ、と告げると、
Oさんは、芯から残念そうな顔をした。
わたしはOさん用に、特別に氷と水を用意している。
別に贔屓しているわけではなく、ウィスキーを注文するほかのお客さんにも、同じものを提供している。
ウィスキーのロックや水割りは、その味が、もろに水の影響を受けるので、
最低でもミネラルをーターでないといけない。
水道水なんて、どんなに熊本の水の質がいいといっても、とんでもないことなのだ。
長年ウィスキー党を貫いてきたOさんは、
わたしの用意した氷と水でないと、ウィスキーが不味い、と言うようになった。
本当に分かって言っているのかどうかは定かでない。
最初に自分でこれを試したときは、確かに普通の水より美味い!と感じた。
ただ最近では、わたしも、多分こちらの方が美味い、という思い込みのようなものがあるのだから、
Oさんの味覚をとやかく言うことはできない。
ウィスキー好きの皆さんに準備している氷と水がどんなものですかって。
それをお試しになりたければ、一度、名も知らぬ駅に来ませんか。
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
扉を開けるなり、O(オー)さんがにこやかに入ってきた。
確かに、昨日今日と連チャンである。
時々思うのだが、こんなに頻繁に飲みに来て、家内は大丈夫なのだろうか。
いやいや、マキちゃんみたいに商売っ気がないことを考えてはいけない。
Oさんの指定席は、L字型の短い直線の端っこ、つまり壁際の席である。
Oさんはマキちゃんのお気に入りで、というか、
マキちゃんがOさんのお気に入りなのか。
どちらにしろ浮いた関係ではない。
Oさんにはもう大学に入ろうかという娘さんもいて、
そんなことが全部分かっていると、なかなか浮いた話にはならない。
Oさんは気さくな人柄で、見知らぬお客さんとも気楽に話をする。
今日は日本酒ファンの、Tさんが来ていて、
これも高森町は山村酒造の、「霊山」のファンであるマキちゃんがいて、
どうやら3人で日本酒の話で盛り上がっている。
カクテルバーで、日本酒の話もないだろう、と思うのだが。
そういえば、以前にも一度3人が一緒の時があって、
日本酒の話が盛り上がって、確か小国町のどぶろくを次回飲もうという話になり、
本当にOさんが、「風ノ杜」だったかのどぶろくを持参して、
3人で、「美味い、こりゃあ美味い。」などと、おだを上げていたことがある。
よりによって、このわたしのカクテルバーでのことなのだ。
そうはいいながら、Oさんはクラッシュドアイスに、マッカランの12年ファインオークのロック。
Oさんは長い馴染みの、筋のいいお客さんだが、
なぜかカクテルにはほとんど興味を示さない。
スコッチか、バーボン。ウィスキー党である。
今日はマキちゃんが、知り合いからもらってきたという冬瓜を、
少し濃いめのコンソメで炊いたものがある。
若干大きめの四角に切った、熱々の冬瓜の上部を少しくり抜いて、
ズワイガニのほぐし身(カニ缶のもの)をそこに入れ、
炊いたコンソメのスープに、白だしとみりんをほんの少し加えて、葛でトロトロにした出汁をかける。
本来日本酒のつまみだ。
ウィスキーに合えばいいのだがと思いながら、そっとOさんに椀を出すと、
瞬く間に椀の中を空にして、
「おかわりできる?」ときた。
仕入れたのは、カニ缶5個までだから、今日は一人一椀だけで品切れ、と告げると、
Oさんは、芯から残念そうな顔をした。
わたしはOさん用に、特別に氷と水を用意している。
別に贔屓しているわけではなく、ウィスキーを注文するほかのお客さんにも、同じものを提供している。
ウィスキーのロックや水割りは、その味が、もろに水の影響を受けるので、
最低でもミネラルをーターでないといけない。
水道水なんて、どんなに熊本の水の質がいいといっても、とんでもないことなのだ。
長年ウィスキー党を貫いてきたOさんは、
わたしの用意した氷と水でないと、ウィスキーが不味い、と言うようになった。
本当に分かって言っているのかどうかは定かでない。
最初に自分でこれを試したときは、確かに普通の水より美味い!と感じた。
ただ最近では、わたしも、多分こちらの方が美味い、という思い込みのようなものがあるのだから、
Oさんの味覚をとやかく言うことはできない。
ウィスキー好きの皆さんに準備している氷と水がどんなものですかって。
それをお試しになりたければ、一度、名も知らぬ駅に来ませんか。
※この話及び登場人物も基本的にはフィクションです。
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