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小説『ある晴れた夏の朝』

2024年12月14日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ニューヨーク郊外の町の15歳の高校生のメイは、
夏休みに級友から誘われて、
コミュニティセンター主催のカルチャーイベントの
公開討論会に参加することになる。
テーマは「戦争と平和を考える-原爆投下はほんとうに必要だったのか」
肯定派と否定派に分かれ、
4人人組でディベートを闘う。
回数は4回で、
聴衆の投票によって勝ち負けが決まる。

肯定派の4人は、
秀才の白人男性生徒ノーマン、ユダヤ系のナオミ、
中国系のエミリー、そして、
両親がアメリカ生まれ、アメリカ育ちの日系人ケン。

否定派の4人は、
平和運動家のジャスミン、
天才と呼ばれる飛び級で進級したスコット、
黒人男性ダリウス、そして、
アイルランド系の父親と日本人の母を持つメイ。
物語は終始、メイの視点で描かれる。

双方の論点。

肯定派ノーマンの主張

トルーマン大統領は、原子爆弾の使用について
悩み、決断した。
この爆弾を使わなかったら、
太平洋戦争は終わらず、
何百万人以上の日本人とアメリカ人が命を落としただろう。
大統領は戦争を一刻も早く終わらせたくて、
原爆を使用する決断を下した。
平和を実現するために原爆を使用したのだ。

否定派メイの主張

ポツダム宣言のために集まった連合国首脳。
その時、ソ連のスターリン書記長から
トルーマン大統領は
ソ連が参戦する話を聞いていた。
ソ連が参戦すれば、日本は降伏し、
戦争が終わることを知っていながら、
トルーマンは原爆の使用を決めた。
戦争を一刻も早く終わらせたかったという
大統領の言葉は嘘である。
否、原爆投下は人体実験の意味があったのだ。
その結果、罪もない一般市民が亡くなった。

肯定派ケンの主張

アメリカに戦争を仕掛けて来たのは日本だ。
しかも、宣戦布告前に真珠湾を攻撃するだまし討ちだった。
原爆投下は卑怯な日本に対する報復であり、処罰だった。

否定派スコットの主張

真珠湾攻撃はだまし討ちではなかった。
日本からの宣戦布告が遅れたのは、
在米日本大使館の対応の遅れが原因。
また、真珠湾攻撃は純粋に戦艦に対する攻撃であって、
日本軍の攻撃による民間人の死亡はなかった。

肯定派のエミリーの主張

戦争末期、国家総動員法によって
日本人全てが兵士だった。
だから、原爆で亡くなった広島・長崎の市民は
罪なき人々ではない。
また、忘れてはならないのは、
戦争中、日本兵に殺された中国人の数は
原爆で死んだ日本人の何百倍だったことを忘れてはならない。
アメリカの原爆投下は
罪のない中国人の受けた苦しみに対する報復であり、
それを支持した日本人に対する処罰であった。

否定派ダリウスの主張

自分たち黒人は、長い間、奴隷として迫害されてきた。
だからといって、黒人が白人を処罰していい、
ということにはならない。
広島・長崎の人々は実は軍の奴隷で、
単なる弱い人たちだった。
それに対する原爆投下は、弱いものいじめでしかない。
南京大虐殺の罪を
広島・長崎の人たちが
死をもってつぐなわなければならない、
という考えを受け入れるわけにはいかない。

否定派ジャスミンの主張

原爆投下の根もとにあったのは、人種差別ではなかったか。
アメリカは、もっと早い時期に
原爆が完成していたとしても、
ドイツには落とさなかっただろう。
これからも、白人国家には、落とさない
落としたのは、唯一、アジアの小国日本だった。
そして、在米の日本人移民は、迫害と差別を受けた。
戦争と人種差別は切っても切り離せない。

肯定派ナオミの主張

当時日本はナチス・ドイツの同盟国だった。
戦時下で、日本人移民がいじめにあったと言っても、
ガス室に送られたわけではない。
ナチス・ドイツの同盟を結んだ国を
叩き潰すために原爆投下は必要だったのだ。

否定派メイの主張

アメリカにいた日本人移民は米国市民だった。
だから、忠誠の誓いをし、
参戦し、欧州戦線に送られた。
第442連隊はアメリカ市民として、命がけで戦った。
彼らはテキサス州兵士を救出し、
お互いに抱き合って泣いた。
人種の違いなど、個人個人の間では意味がなかった。
日本に投下された原爆はそのものだった。
戦争を終わらせる方法は複数あったのに、
アメリカは悪を行使した。

肯定派ノーマンの主張

広島平和記念公園にある慰霊碑には、こうある。
「安らかに眠って下さい
 過ちは
 繰り返しませぬから」
英訳すると、こうだ。
「Rest in peace 
 For WE JAPANESE shall not repeat the error」
日本人自ら、
自分たちの犯した過ちを反省しているのだ。

メイはこの言葉について、母に問う。
(実は、メイは日本語を話さない。
 メイの母は翻訳家だ) 
母は日本語というのは、
主語がなくても、成り立つ言葉で、
過ちを反省しているのは、
日本人だけでなく、アメリカ人でもあり、
人類全体を意味する、と。
(だから、ノーマンが主語を
 「WE JAPANESE 」としたのは、
 意図的を語訳ということになるが、
 本書では、そう明白に延べていない。)

その後、相互の討論は、
憎しみの敵はわれわれの外側にではなく、
内側にいるのだ、
という展開となり、
われわれ人類は一致団結して、
共通の敵、
無知や憎悪や偏見と闘わなければならない
という方向に向かっていく。
ディベートの勝敗は明らかにされない。
結局は、原爆を考えることは
戦争を考えることであり、
人類を考えることになるのだ。

という原爆を題材とした、
アメリカの高校生の議論によって、
戦争の罪を多角的に捕えようという書籍。

ある晴れた夏の朝とは、
原爆投下された広島と長崎の朝のこと。

全国学校図書館協議会・選定図書(2018)
ホワイト・レイブンズ(ミュンヘン国際児童図書館・児童図書目録)選定(2019)
小学館児童出版文化賞(2019)
などを受賞した、良書である。

名古屋の劇団うりんこにより、
舞台化された。

人類の歴史を見ると、戦争の歴史である。
そのほとんどが領土や資源を巡る侵略戦争であり、
虐殺、強姦と、今よりも悲惨極まりない。
国際法など影も形もない時代、
戦争は純粋に殺し合いだった。
第一次世界大戦を通じて、
戦争が疲弊しかもたらさないことを自覚した人類は、
国際連盟を作って、戦争の抑止につとめたが、
ヒトラーのような狂人が現れて、
第2次世界大戦が勃発する。
その結果国際連合が作られ、
戦争の抑止がなされたかに見えたが、
安全保障理事会の常任理事国、
拒否権を持つ国=ロシアが
侵略戦争を始めるに至り、
その形骸化が露呈された。
もはや国連は戦争解決の力を持たない
戦争抑止の方策である核兵器も、
いつ暴発するかの危機の瀬戸際にいる。
中国は虎視眈々と台湾を狙って、
力による現状変更を目論んでいるし、
国民を犠牲にして核ミサイルをちらつかせる
北朝鮮のような国もある。
日本は第2次世界大戦で懲りたから、
侵略戦争は起こさないだろうが、
自衛力さえもぎ取られてしまった。
21世紀は中国が世界の動向を左右し、
平和を破壊するかもしれないのに。

 



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