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(目次)
第2章 戦後世界のうねり:植民地時代の終焉とブロック化する世界(11)
049離合集散を繰り返すアラブ世界(2/3)
ナセルはこの昔日の栄光を取り戻すためにアラブ民族の大同団結を目指したと言えよう。歴史上、新興支配者が征服の御旗に使うのは民衆に「我々は同じ民族だ」と語りかける甘いささやきである。戦前の日本で「アジア民族による大東亜共栄圏」構想が声高に叫ばれたのもその一例である。ナセルは演説でことさらにアラブ民族意識或いはイスラム信仰心を掻き立て、一般市民はその言葉に酔いしれた。
ナセルはシリアに連合国家構想を持ちかけた。アラブ民族主義を掲げるバース党が支配するシリアに異論のあるはずがない。1958年2月、両国はエジプト・シリア・アラブ連合共和国を樹立する。ここにはもちろんイスラエルを挟み撃ちにするという戦略的発想も潜んでいたことは言うまでもない。この動きに乗り遅れまいとするかのようにわずか3か月後の同年5月に「イラク・ヨルダン・アラブ連邦」が発足する。
両国は共に教祖ムハンマドに連なるハーシム家の末裔を国王に戴くイスラム王制国家、すなわち「血」と「信仰」を共有する兄弟国家なのである。こちらは緩やかな絆による連邦を目指しており、政治的一体化を目指したエジプトとシリアの連合とは異なる。イラクとヨルダンの場合は対イスラエルと言うよりもエジプト・シリアに代表される共和制国家の出現に脅威を抱き、君主体制を死守しようとしたためと考えられる。
(続く)
荒葉 一也
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