石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2016年版解説シリーズ:石油篇1

2016-06-16 | その他

BPが恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2016」を発表した。以下は同レポートの中から石油に関する埋蔵量、生産量、消費量等のデータを抜粋して解説したものである。

 

1.世界の石油の埋蔵量と可採年数

(断トツの埋蔵量を誇るベネズエラとサウジアラビア、両国で世界の3分の1!)

(1) 2015年末の埋蔵量

(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-G01.pdf参照)

(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-1-T01.pdf参照)

 2015年末の世界の石油確認可採埋蔵量(以下単に「埋蔵量」と言う)は1兆7千億バレル(1バレル=159リットル)である。埋蔵量を地域別に見ると、中東が全世界の埋蔵量の47%を占めている。これに次ぐのが中南米の19%であり、以下北米14%、欧州・ユーラシア9%、アフリカ8%であり、最も少ないのがアジア・大洋州の3%である。世界の石油の約半分は中東地域に存在しているのである。

 

 次に国別に見ると、世界で最も埋蔵量が多いのはベネズエラの3,009億バレルで世界全体の18%を占めており、第二位はサウジアラビア (2,666億バレル、16%)である。ベネズエラは2005年のBP統計では世界6位の772億バレルに留まっていたが、2009年統計では1,723億バレルに急増し、2011年以降は現在のような数値に置き換わっている。このような埋蔵量の急激な増加はチャベス元大統領の在任時の政府発表によるものであり国家の威信を示すための政治的要素が強いが、BPは同国にオリノコベルトと呼ばれる非在来型の重質油が2,200億バレルあると脚注している。オリノコベルト原油はこれまで商業生産の方法が確立できず、石油業界では重視されていなかった。しかし同じ非在来型のシェールオイルやオイルサンドが米国、カナダで急速に市場での存在感を高めている。従ってチャベス後のベネズエラの石油産業で若し欧米の先端石油開発生産技術が応用されるようになればオリノコベルト原油が市場に登場するのも遠い将来ではないと思われる。

 

BP統計上では埋蔵量が1千億バレルを超える国はベネズエラ、サウジアラビアのほかカナダ(1,722億バレル、10%)、イラン(1,578億バレル、9%)、イラク(1,431億バレル、8%)、ロシア(1,024億バレル、6%)及びクウェイト(1,015億バレル、6%)の7カ国である。これら7カ国のうちサウジアラビア、イラン、イラク及びクウェイトの4カ国はペルシャ(アラビア)湾岸の国である。

 

以下8位から10位まではUAE(978億バレル)、米国(550億バレル)およびリビア(484億バレル)である。米国は一昨年、埋蔵量を大幅に見直し世界11位となったが、昨年に引き続き今年もベストテンに入っている。シェールオイルの相次ぐ発見と開発の結果である。

 

なお世界上位10カ国のシェアの合計は85%に達し、石油が一部の国に偏在していることがわかる。因みにOPECの合計埋蔵量は1兆2,116億バレル、世界全体の71%を占めている。「生産量」の項で触れるが、OPECの生産量シェアは42%であり埋蔵量のシェアよりかなり低い。これは生産余力或いは潜在的な生産能力が大きいことを示しておりOPEC諸国の存在感は大きいと言えよう。

 

 (続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行        〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月13日)

2016-06-15 | 今日のニュース

・原油価格4日連続で下落、Brent $49.85, WTI $48.48

・第2四半期の石油は需給バランスの見通し:OPEC月例レポート

・IEA、今年中は需給はバランス、但し来年早々には供給過剰の見通し

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(24)

2016-06-15 | その他
第3章:アラーの恵みー石油ブームの到来
 
2.OPEC結成
 第二次大戦直後1948年の原油価格はバレル当たり2.8ドルであった。バレルとは石油独特の計量単位であり、本来の意味は「樽」である。パイプラインやタンクローリーのような専用の運搬設備が無かった時代、石油は樽に入れ馬車に積まれて消費地に送られていた。1バレルは42ガロン、リットルに換算すると160リットルである。このことから当時の原油価格は1リットル=2セント、邦貨では2円強と言うことになる。もちろんその後のインフレ係数で現在価格に直すと25ドルとなり昨年(2015年)最安値を付けた価格とあまり違わない。
 
 当時石油の売値のうち産油国の懐に入るのはセブン・シスターズを筆頭とする欧米石油会社が産油国に支払うロイヤリティ(利権料)と生産量に応じたわずかな分配金に過ぎなかった。産油国は取り分の増額を求めて欧米の石油会社と交渉したが壁は厚かった。とにかく原油の生産から精製、そして流通の末端まで欧米の石油企業が独占しており産油国は歯が立たない。1951年にはイランのモサデグ首相が国有化を強行したが、セブン・シスターズの猛烈な反撃に会いあえなく政権が倒れてしまう有様であった。
 
 戦後の復興期で石油の需要が急増したため石油各社は値段を据え置いたまま生産を増やすだけで十分な利益を上げることができた。石油が安いことは消費国或いは消費者にとって朗報である。中でも日本は最も大きな恩恵を受けた国であった。安い石油を武器に日本は戦後復興、さらに高度成長へ向けてひた走りに走った。
 
 1959年に戦後不況で石油の需要が落ち込むと、セブンシスターズは原油の買い取り価格(公示価格)を引き下げた。それまでインフレの昂進により実質的な実入りが減少していた産油国は、公示価格の引き下げでさらなる歳入の減少に陥った。
 
 堪忍袋の緒が切れた産油国が立ち上がった。個別の国ごとにメジャーと交渉しても拉致があかないことをイランの例から学び取っていた産油国は結束する道を選んだ。こうして1960年9月、OPEC(石油輸出国機構)が結成された。当初の加盟国はサウジアラビア、イラン、イラク、クウェイト及びベネズエラの5か国である。いずれも石油収入以外に外貨を稼ぐ手段を持たな国々である。OPECにはその後10年の間にリビア、インドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、ナイジェリアなどが相次いで加盟している。
 
 OPEC加盟国は石油収入の拡大を目指し結束してメジャーに立ち向かったがその壁は厚く成果はなかなか上がらなかった。残された手段はただ一つ、かつてイランが果たせなかった石油産業の国有化だけであった。サウジアラビアなどの穏健な産油国に飽き足らなかった急進派のリビアが1970年に最初に石油産業の国有化に踏み切った。陣頭指揮を取るのは前年にクーデタで実権を握った「北アフリカの暴れん坊」カダフィ大佐である。彼の数々の蛮勇はつとに有名であるが石油産業の国有化はその最初のものであった。
 
 石油産業の国有化はその後世界の潮流となるが、その背景には天然資源についての二度の国連決議があった。最初の決議は1962年の国連総会における「天然の富と資源に対する恒久主権」の決議である。これは1966年の決議によってさらに強固なものとなった。このとき(1)資源は本来その所在国に帰する、(2)資源の開発と販売は資源所在国が自力で行うことが望ましい、(3)資源開発に従事する外資は受入国のコントロールに服さなければならない、ことが決議された。天然資源の国有化の正当性をはっきりと認めたのである。
 
 国連決議に勇気を得たOPECは1970年代に入るや怒涛の進撃を開始するのである。それはセブンシスターズを恐れさせただけでなく、1973年の第4次中東戦争で世界中にオイルショックを引き起こし石油消費国を震撼させたのである。
 
 (続く)
 
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月13日)

2016-06-13 | 今日のニュース

・欧米との新しい油田開発契約はなお修正が必要:イラン石油相

・LNG市場を目指す欧米石油企業、Shellは世界シェアの6分の1目指す

・メキシコ国営石油PEMEX、110億ドルのメキシコ湾Trion油田をファームアウト

・英国石油産業の雇用数、2014年の45.3万人から今年末には33万人に減少

 

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今週の各社プレスリリースから(6/5-6/11)

2016-06-11 | 今週のエネルギー関連新聞発表

6/7 国際石油開発帝石 島根県及び山口県沖合における掘削調査の開始について 

6/7 Shell Capital markets day 2016: Re-shaping Shell to create a world class investment case

6/8 BP 65th edition of BP Statistical Review shows world shifting to lower-carbon fuels  

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月10日)

2016-06-10 | 今日のニュース

・イラン、アジア顧客7月向け価格を35セント値上げ

・原油価格、今年最高値に。Brent$52.86, WTI $51.67

・BPが恒例の世界エネルギー統計発表。昨年の石油生産量9,167万B/D。 *

 

*BP統計2016年は追って本ブログで解説します。

2015年以前の統計は下記参照。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/BPstatistics.html

 

 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月8日)

2016-06-08 | 今日のニュース

・Shell合理化計画発表、10か国から撤退

・原油価格、今年最高値。WTI $51.30, Brent $50.37

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(23)

2016-06-08 | その他
第3章:アラーの恵みー石油ブームの到来

1.中東の石油産業の曙
 アラブ産油国の人たちはよく「石油は我々の神アラーの恵みである」と言う。それは豊かな富をもたらす石油を与えてくれたアラーに対する純粋な感謝の気持ちであり、同時に石油を持たない他の民族(たとえば日本のような)に対する少しばかりの優越感が発する言葉でもある。実際、世界の産油国の多くはイスラームの国である。イラン、イラク、サウジアラビアは言うまでもない。アルジェリア、リビアなどの北アフリカの産油国もアラブ民族であるとともにイスラームが国教である。サハラ砂漠を越えたナイジェリアもイスラーム教徒が多数を占めている。さらに東南アジアの産油国インドネシアもイスラームの国である。世界の原油生産量の半分近くはイスラームの国々が占め、埋蔵量ベースで見ればその割合はもっと高くなる。彼らが「石油はアラーの恵み」であるというのもあながち的外れではないように思われる。
 
 ただ石油とイスラームの関係は単なる偶然にすぎない。何しろ地中に石油が生まれたのは数億年前のことであり、それに比べると人類が誕生したのはごくごく最近のことになる。だから石油とイスラームを結びつけるのはかなり無理がある。もちろん信仰心の篤いイスラームの人々(ムスリム)からすればすべてこの世はアラーの御業と言いうことになるのであろうから、アラーがムスリムたちのために太古の昔に石油を地下に作りおいてくださった、と言うことになるのであろうか。科学的無神論(智)と信仰(心)の論争は常に水掛け論である。
 
19世紀末、それまでの石炭炊きの蒸気機関に対しドイツで石油を燃料としたガソリンおよびディーゼル内燃機関が発明された。これは輸送分野に革命をもたらし、軍事面では戦車や軍艦の推進機関として急速に普及した。その結果石油の需要が急激に膨らみ世界各地で石油開発が盛んになった。中東では1908年にペルシャ(イラン)で油田が発見され、そしてイラク(1928年)、クウェイト(1938年)さらにサウジアラビア(1940年)と地図上を南下しながら次々と油田が発見された。イランからイラク、クウェイト、さらにサウジアラビア、アブダビへと続く石油の埋蔵地帯は「オイル・ベルト」と呼ばれる。
 
 このオイル・ベルトの開発を手掛けたのは欧米の石油企業であった。中でも「セブン・シスターズ(7姉妹)」と呼ばれる米英の7企業が大きな存在感を示した。スタンダード・オイル・ニュージャージー(エッソ)、スタンダード・オイル・ニューヨーク(モービル)、スタンダード・オイル・カリフォルニア(ソーカル)、ガルフオイル、テキサコの米国系5社と英国のアングロペルシャン及び英蘭系のシェルオイルの7社である。スタンダードの名前を冠する3社はロックフェラーが創業したスタンダード・オイルが反トラスト法で分割されて生まれた会社であり、エッソとモービルはその後合併してエクソン・モービル(ExxonMobil)となり、ガルフオイルとテキサコの2社も合併し現在はシェブロン(Chevron)となっている。
 
 中東の石油開発で先行したのはアングロペルシャン石油(現BP)である。英国の国策会社として発足したBPは第一次大戦下にチャーチル海軍大臣(その後首相)が艦艇の燃料確保のため石油開発を積極的に後押ししたこともあり、英国の強い影響下にあったイランに足掛かりを築き、さらにイラクのキルクーク油田、クウェイトのブルガン油田等の開発権も手に入れた。
 
 出遅れた米国はサウジアラビアに接近して開発権を獲得、同国東部の陸上で世界最大のガワール陸上油田を発見、さらに海上ではサファニア油田を発見した。エッソ、モービル、ソーカル及びテキサコの米系4社はアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー(略称アラムコ)を設立して、サウジアラビアにおける石油開発を独占する。セブン・シスターズは中東のオイル・ベルトに盤石の基盤を築き世界の石油を支配したのである。
 
 このセブン・シスターズに反旗を翻した者がいた。イランのモサデグである。共産主義政党ツデー党の流れを汲み1951年に首相に就任したモサデグはアングロペルシャン石油が所有する石油利権を国有化した。これに対してセブン・シスターズは結束してイラン産原油を国際市場から締め出し、社会主義政権の登場を苦々しく思う米国政府もひそかにセブン・シスターズに肩入れした。モサデグは失脚、シャー(パハレビー皇帝)が復権し、以後イランと米国の蜜月関係が始まる。
 
産油国がセブン・シスターズに戦いを挑むのは9年後の1960年にOPEC(石油輸出国機構)を結成して以後のことであり、またイランが米国と袂を分かつのは29年後のホメイニによるイラン革命からである。
 
 (続く)
 
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今週の各社プレスリリースから(5/29-6/4)

2016-06-04 | 今週のエネルギー関連新聞発表

5/30       JOGMEC            カナダブリティッシュコロンビア州(BC州)政府との天然ガスおよび、石炭事業の相互協力に関するMOU締結~エネルギー資源の豊富なBC州との関係強化~              http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_06_000135.html 

5/31       出光興産              役員異動に関するお知らせ               http://www.idemitsu.co.jp/company/news/2016/160531.pdf 

6/2         Opec      OPEC 169th Meeting concludes     http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/3487.htm 

6/3         JX石油開発         北海ウトガルドガス・コンデンセート田の権益売却について    http://www.hd.jx-group.co.jp/newsrelease/2016/20160603_03_1050061.html 

6/3         JXエネルギー     マレーシア ペトロナスLNG9社への資本参画について         http://www.hd.jx-group.co.jp/newsrelease/2016/20160603_01_1050061.html 

6/3         石油連盟              石油連盟会長コメント 第169回OPEC定例総会終了にあたって              http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2016/06/03-001733.html 

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(6月2日)

2016-06-03 | 今日のニュース

(OPEC総会関連)

・生産目標合意できず。直後の原油価格急落WTI $48.14.

・OPECプレスリリース:原油市場の安定に努力。新事務局長にナイジェリアのBarkindo氏。次回総会は11月30日

・Falihサウジエネルギー相、石油市場安定を保証「市場に石油が溢れることは無い」

・Barkindo新事務局長:OPECの結束固め、新風吹き込む

 

 

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