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(つづき)ぼくを理解しなよ。まったくつまらないことのために、ぼくは病気のぶり返しの責任を負いたくないんだよ。
(アリアーヌ) あなた、何が望みなの? それでも、自分の行為の結果は引き受けなければならないわ… でも、つまり、私はとても嬉しいのよ、私があなたに、そうね… 必要だということを確かめられて。(このフレーズには半ば疑問の感じがある。) ほかの多くの人々は、あなたの立場なら…
(ジェローム) 何だって?
(アリアーヌ) いいえ、あなたは怒るでしょう… 私が言おうとしたのは、ただ、多くの男性は、あなたの立場だったら、なにやかやの仕方で気晴らしをしたことでしょう、ということよ。ほんとに、だからといって誰が、そういう男性方を責められるでしょう!
(ジェローム、疑い深くなって。) どうしてぼくにそういうことを言う?
(アリアーヌ) 正面から現実を見なければならないことを、私、いつもますます確信しているのよ。
(ジェローム、とても低い声で。) いつもということはあり得ない。
(アリアーヌ) 何をつぶやいたの? あなた。
(ジェローム、少し声を大きくして。) それは時には難しいな。
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(アリアーヌ) あなたには、私に打ち明ける決心がつかない心配事があるのだと、私は考えないわけにはゆかないわ。
(ジェローム、沈黙の後。) いや、きみは間違っている。
(アリアーヌ、曖昧な口調で。) いいわ。あなたが私にほんとうのことを言っていないと考えてあなたを侮辱するようなことは、私、もちろんしません。
(ジェローム) きみの声には皮肉みたいなものがあるぞ。
(アリアーヌ) いいえ、あなた、そんなもの少しもありません。それに、けっきょく、もしもあなたが秘密を持っているとしても、私はそれを受け入れることができるにちがいないわ(ジェロームに反応がある)。私は、もしもあなたが持っているとしたら… と言っているのよ。
(ジェローム) ぼくが依然として解らないのは、フランシャール夫妻がここへ何をしに来たのかということだ。
(アリアーヌ) 彼らは、私が彼らに何か役に立つことができるのではないかと、想像したのだと思うわ。
(ジェローム) そう想像するどんな理由が、彼らにはあったのかな?… マザルグ嬢たちの処だったの? きみが彼らと出会ったのは。
(アリアーヌ) 彼とは出会ったわ、セルジュとは。でもあなたがよく知っているとおり、私は彼とはとっくに知り合っていたわ。
(ジェローム) ぼくが想像するに、(つづく)
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(つづき)きみは事情に詳しい… きみは、そのフランシャールが、言語道断な振舞いをあの若い娘にたいしてしたことを、知っている。こういう状況で、きみが彼を招いてここに来させたのが、ぼくには納得ゆかない。
(アリアーヌ) でも彼女自身が彼を受け入れているのよ。
(ジェローム) 子供のためにね。でも彼女は彼に言葉をかけることはない。
(アリアーヌ) そんなことちっとも気がつかなかったわ。
(ジェローム) 多分、きみが同席していたから、彼女は堪えたんだ… それから、きみがどうしてあの若い娘に首ったけになったのかも、ぼくには解らない。
(アリアーヌ) 才能のある若い女性ヴァイオリニストと一緒に稽古をいくらかしようと思ったことに、何か場違いなところがあるの?
(ジェローム) 他のヴァイオリニストがいるじゃないか。
(アリアーヌ) どうして彼女よりも他のひとたちを選ぶ必要があるの? 彼女はとても感じのいいひとなのよ。
(ジェローム) きみは何も知らないな。彼女はとても遠慮深くて、ひじょうに理解し難いひとなんだよ。彼女はそのうちここにまた来ることになっているのではないのかい?
(アリアーヌ) 何ですって?
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