おいしいケーキ屋さん知りませんか? 作家の岸田奈美さんは都内の裏路地を歩いていたとき、30分間で6人に同じ質問をされた。まずは女性2人組。店を紹介し、出身地や仕事の話がはずんだ後に別れた。次は会社員風の男女。最後の若い男性2人にはお茶に誘われた
▼なぜ、こんなことが起きるのか。知りたくて2人についていくと、ファミレスだった。彼らのスマホは、きれいな外国の写真であふれていた。うち1人が切り出した。SNSの副業で「誰でももうかる」。友達5人を入会させれば「無料でウユニ塩湖に行ける」。ただ、最初に30万円と月1万円が必要だ、と。話は1時間で終わった(『傘のさし方がわからない』)
▼マルチ商法の勧誘だった。そういえば、少し前に喫茶店で似たような場面に出くわした。あの青年は、やっかいなことにならなかっただろうか
▼春は、出会いの季節である。未知の世界に胸を躍らせる新入生や新社会人のみなさん。そんな時こそご注意を。「必ずもうかる」なんて話が通るほど、世の中は甘くない
▼魔の手は、華やかな舞台をみせながら、将来への不安や孤独にさりげなく忍び寄る。道ばたで、友人や知人を通じて、SNSを介して。巧妙な罠(わな)にはまり、借金を抱えて自ら命を絶った若者もいる。なんともやりきれない
▼人ごとと思うなかれ。
「8人に1人」が消費者トラブルにあう時代だ。
「これは、あなたのために書いている」。自らの体験を記した岸田さんの思いにうなずく。
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