<民法・家族法関係>
次は、民法ないし家族法関係。この分野からは足を洗う予定でいたのだが、そう簡単には抜けられそうもない。
まずは、以前に古本屋で見つけて買ったまま放置してあった政府刊行物を2冊。
★ 臨時法制調査会『第3回総会議事速記録(民法改正関係)』(臨時法制調査会、1946年。昭和21年10月22日、23日、24日(内閣総理大臣官邸において)と表紙に記載あり)
戦後の新憲法制定に伴って明治民法の親族法も大改正されたが、その過程で、とくに「家」制度の廃止を軸とする新民法(家族法)の提案(民法改正要綱案)に関する同調査会での審議の議事録。
なんとか「家」制度の廃止を阻止しよう、せめて裏口から新民法の中に「家」をもぐりこませようと守旧派が抵抗したことは有名だが、その一斑を伺うことができる。
同議事録の中で新民法に抵抗して発言しているのは、ほとんど牧野英一ひとりであるが、頻繁に発言を求め、多言を弄する割には意外にもその舌鋒は鈍い。「なんだ、この程度だったのか」と拍子抜けするくらいである。
70年も経過した後になって、しかも活字になった発言を読んだだけでは、牧野の発言に迫力は感じられないが、審議当時、年長の牧野から「中川君」、「我妻君」などと君付けで呼ばれて質問を受けた中川、我妻らにとってはそれなりの迫力が感じられたのかもしれない。
そんな感想を持つことができるのも議事録が残されており、それを読むことができるからこそである。議事録は残さなければならない。もちろん発言者が誰かも明記しなければならない。
都合が悪くなれば議事録は廃棄してしまう、そもそも議事録を作成しない、発言者の名前は匿名にする(官僚のお膳立て通りの結論を導くのだから発言者が誰かは記載できないのだろう)、議事運営規則すら設けないなど、平然と居直る現政権下の諸審議会・諮問委員会などは、とにもかくにも記録を残した戦時中の内務省にも劣ると言わざるをえない。次の本に収められた各道府県の内務省宛て報告書の中には、その県で開かれた対策会議の議事録が付されたものもある(205、217頁の奈良県などは、発言者の氏名、所属も記載されている)。
★ 内務省警保局『銃後遺家族を繞る事犯と之が防止状況』(刑事警察資料15輯、昭和14年、1939年)。
表題どおり、日中、太平洋戦争中のわが国で、応召軍人が内地に残した家族(とくに妻)に対して加えられた犯罪行為の実例を内務省が各道府県に収集・調査を命じ、各道府県からの回答と、それに対する対策を指示した実例集。
「部外秘」と表紙に印刷してあるが、古本屋で売られていた。内務省か警察関係者が持ち出して、戦後になって古本屋に売ったのだろう。戦時下の家族生活の一斑を示すものとして、家族法の勉強の一環と言えなくもない。
夫が召集されたのを幸いと、残された妻に夜這いをかけたり、姦通に及んだり、強姦を働いたり、かと思うと、遺家族に支払われる軍事扶助料を横領したり、出征軍人に貸した金を返せと虚言を弄して遺家族から金員を詐取したり、遺妻に支払われる扶助料や下賜金を横取りするために遺妻に離縁を迫ったり・・・と、あの日中・太平洋戦争の時代にも、わが国内にはとんでもない御仁が少なからず存在したのだった。
姦通罪は親告罪なので、夫が告訴しない場合にはかかる事件を(非親告罪の)住居侵入事件として立件したという話は授業で聞いたが、その件数が多いだけでなく、姦夫が村長だったり、義父だったり、隣組だったり、徴兵担当吏員だったりと、唖然とする例も少なくない。加害者の氏名、住所、年齢、職業まで記されているが、仮名ではなさそうである。
「夜這い」と呼ばれる慣習(悪習)が以前から存在していたことへの言及が何か所か見られ、その県名や地域名も記載されている(154、283、285頁など)。「斯かる悪習も平時は兎も角さしたる問題とはならず経過して来たが・・・」といった記述もあり(78頁)、「夜這い」に対する往時の警察の態度を示す法社会学的な資料としても有用である。
これら事犯に対する基本的な対処方針は、決して個別の犯罪を処罰することが目的ではなく、これらの事犯がなくなり(減少し)、「平和にして秩序ある銃後」(2頁)、村が平和になることこそ「銃後警察の姿である」(80頁)と書いてある。戦時中の警察活動の実態を知る刑事学・刑事政策の資料としての価値もあろう。
時あたかも、新型コロナの蔓延で、自粛だ、自粛違反だと喧しいが、自粛ムードの中を「夜の営業」による感染拡大や、六本木ヒルズの多目的トイレを他目的で使用した芸人の話題、給付金詐欺の事件などが報じられている。50年、100年くらいでは、人はあまり変わらないようだ。
2020年6月14日 記