よねが居なくなって、
1週間以上経った。
いまだに家に帰ると、真っ先によねの定位置だった場所に目をやる。
よねの座布団は、とっくに無いのに、その癖だけはまだ残っている。
よねは、もう居ない。
よねを探す癖は、
それを確かめるために繰り返しているように残っている。
おはようございます。
ほくろも、以前ほど手が掛からなくなった。
ちょっと目を離すと、どこへ行ったか探さなければならない程、
活発になってきた。
おかげで、私の足は
バサバサになってきた。
傷は、もっと増えるだろう。
冬用の長い靴下を履くべきか、根性で乗り切るべきか、
今、悩んでいる。
少し時間の余裕が出来たことで、
仕事帰りも、ゆっくり買い物ができるようになった。
すると、ソーセージの試食コーナーで、お姉さんがソーセージを焼いていた。
歩く速度を落としたのが、いけなかった。
お姉さんは、それを見逃さない。
「はい、これ!」と爪楊枝に刺された1本のソーセージが、
私の目の前に差し出された。
今にも、バランスを崩して落ちてしまいそうな不均衡なソーセージを
思わず救い上げるように手にしてしまった。
「パリッとかじって!」
その声に、私は嫌な予感しかしなかった。
「メキシカーン、かじってみて!」
メキシカーン・・・
熱そう・・・
「美味しいで~」
ここまで急かされては、もう引けない。
むしろ、持ってしまった時点で、やるしかないのだ。
そう腹をくくった私は、
無邪気で無謀だった子供時代に戻ったような、
懐かしい感覚を自分の中に蘇らせんと試みた。
よし!よし!よし!
気合だ!気合だ!気合だ!
蘇らせてみたら、ノリはアニマル浜口だった。
では参ります。
パリッ!
「あつーーーー!」と叫んだと同時に、お姉さんが、
「辛いで―――-!」と叫んだ。
熱さをアピールしつつ、お姉さんを見ると、
お姉さんは、いやいやいやそっち?という顔をした気がした。
あれ?私、間違えちゃった?と不安になった瞬間、
ついに出た。
「からーーーーー!」
熱いわ辛いわ、若干パニック状態になった私に、
お姉さんは、さらにソーセージを手渡してきた。
「チーズインソーセージ!」
もう私に、考える余裕は与えられない。
寝ている幼子の鼻先に、おやつを近付けると、
反射的に口に入れてしまう、そういう動画を観た事があるが、
この時の私は、その幼子のように、
ソーセージを素直というより無の表情で、口へと運んだ。
そこで、お姉さんが合わせるように早口で
「パリッとかじると、ジワ~じゃないで~」と前説を入れた。
では参ります。
パリッ!ブッシューーー!!
私「あっちーーーーー!」
お姉さん「ブシュっと出るでーーー!」
そう、お姉さんの言う通り、チーズはジワ~っと出てくるのでなく、
ブッシューーーと噴射した。
まるで、荒れ狂う火の粉に皮膚をつんざかれたような痛みが、
口周り広範囲にもたらされた。
ここで、私はようやく気がついた。
周囲のお客さん達が、拍手をしているではないか。
そして、メキシカーンとチーズインソーセージは、どんどん売れていく。
そんな中、私は合計6本のソーセージを完食していた。
つまり、この地獄の試食ショーは、3通り行われていたのだ。
こうして、
ワゴンは、ほぼ完売状態となり、
私はようやく解放される事となった。
何食わぬ顔で立ち去ろうとした時、お姉さんは、
ペーパータオルで私の顔を拭きながら、こう言った。
「ありがとね。今日はもう、豚は食べんでもいいでーーー!」
その時、私の口腔内は、
熱さと辛さが痛みに変わっていて、上手く口が動かせなかった。
唯一発した言葉が
「おちゅかれしゃまれした」だった。
図らずも、赤ちゃん言葉になってしまった訳だが、
家に帰っても、引き続き、おかっぱ一家は
赤ちゃん言葉の大人たちが溢れている。
たれ~
どちたの?
たれちゃ~ん
ブレた。
ここまで育って来ると、ブレた画像ばかりになるね。
ほくろ「ぼく、こうばこじゅわりが、できりゅようになったでちゅ」
ちょーでちゅか~。
ちゅごいね~。