母ちゃんは、
お前が可愛くってしょうがないんだ。
なのに、
どうして気付いてやらなかったんだろう・・・
おはようございます。
小さな頃は、甘ったれの食いしん坊で、
ついでに、いつも目を離したすきに、ウンチを垂らして泣いていた。
ようやく自分で歩けるようになったかと思いきや、
もっと小さな子達がやってきて、
いつからだろうか。
お前は甘えなくなったし、泣かなくなった。
その代わりに、母ちゃんの手伝いをするようになっていた。
「たれ蔵、赤ちゃんに触るなよ」
母ちゃんがそう言うと、近くで大人しく見ていたし、
「たれ蔵、優しくな」と言えば、
はしゃぎたい盛りのくせに、赤ん坊には、そっと手を伸ばした。
生後3か月、まだまだ小さなお前に、
母ちゃんは、長い留守番をさせるようになった。
「たれ蔵、姉ちゃん達と居るから、留守番できるな?」
母ちゃんは、お前の返事も聞かずに、赤ちゃん達だけを連れて仕事へ出掛けた。
そんなある日、
母ちゃんが帰ってくるなり、お前の鳴き声を久しぶりに聞いたんだ。
キーーーって、超音波みたいな高音で、絞り出すような声だった。
あれ以来、お前の声は、いつも超音波みたいで聞き取りづらい。
いつ聞いても、そうなんだ。
病院で、簡単に調べてもらっても、
何の異常も見つからなかったから、
母ちゃんは安心して、
「たれ蔵の声は、そういう声なんだな?」と、
お前の頭を撫ぜると、お前は静かに撫ぜられた。
どうして、気が付かなかったんだろう。
今になって、母ちゃんは思い出したんだ。
たれ蔵の声は、そんな声じゃなかった。
お前を初めて抱いた、あの日、
お前は、そんな声で泣いちゃいない。
キンキンに冷えた小さな体から信じられないくらい、
大きな声が鳴り響いていた。
甘ったれの食いしん坊だった頃も、たれ蔵の声はうるさいくらいの声だった。
お前、
長い留守番をしていた間、ずっと泣いていたのか?
そのせいで、声をつぶしてしまったんじゃないか?
あの頃、
私はあえて、まだ幼いたれ蔵を留守番させた。
次に来た、子猫達とばかり居るようでは、
我が家の猫達のルールを覚えられない。
そう考えて、子猫達と引き離した。
たれ蔵にとったら、晴天の霹靂だったろう。
「どうして、僕だけ置いて行かれるの?」
と思ったに違いないが、
私は、たれ蔵を置いて行ったんだ。
その結果、
あの大人しいおたまが、たれ蔵には本気で唸るようになっていた。
置いてけぼりで、どうしていいか分からないたれ蔵は、
わんわん鳴いていたのかもしれない。
それが原因で、
成猫達が、たれ蔵を怖がるようになったのではないだろうか。
そんな事知りもしない私は、本気で威嚇しているおたまを叱りつけた。
あやも叱った。
「たれ蔵を虐めたら、許さんぞ!」
あの頃の私は、
時間も心も、余裕なんてものは、全く無くなっていたんだ。
もはや八つ当たりのように、おたまに詰め寄る私の足元で、
たれ蔵は体を擦り付けてきた。
まるで
「どうしたの?やめてよ、母ちゃん」と言っているようで、
その都度、私は冷静になれた。
気付いた頃には、
たれ蔵は、おたまやあやとも、良い関係性を築いていた。
おたまなんて、たれ蔵を誘って追いかけっこしている。
あやからは、おたまと並んで叱られているから、笑っちゃう。
私は、たれ蔵が可愛くって仕方ないのに、
たれ蔵に、なんにもしてやれてなかったって訳だ。
たれ蔵の声さえ、聞いてやれなかったんだ。
たれ蔵、ごめんな。
声、また出るようになるといいな。
今、これこれ、聞こえる?
聞こえるわけないよね、動画じゃないんだから。
小さな声で、キーって言ってるんだよ。
これは、あくびしてるだけなんだよ。ごめん。
たれ蔵、ずっと母ちゃんの側にいるんだぞ。
母ちゃんは、えっらそうにしてるが、
本当は、君たちのようになりたくて、
だから、君たちを見上げて、追い掛けているんだよ。