新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

始めの勝ちは嘘勝ち

2022-08-09 09:03:30 | コラム
今好調な会社とは何れは失速するもの:

何も企業の例を挙げなくても、多数のCOVID感染者を出して5位に沈んでいたジャイアンツは復帰したかと思えば、首位のスワローズに三連勝して見せた。すると、気の早い報道機関の中には「ジャイアンツの巻き返しが始まった」などと言って、今にも優勝戦線に再登場するかのように囃し立てた。経営だけではなく、勝負の世界でも「勝ち続けるか、負け続けてはいられないものである」ことを実証している感がある。

私はスワローズもジャイアンツも本稿の見出しと件名の「始めの勝ちは嘘勝ち」と同じような状況の下にあるのだと思っている。と言うのは、私が就職活動(と言っても、PCもスマートフォンもなかった時代のことで、現在の就活などとは似ても似つかない動きだった)を始める前までの1950年代では、繊維・紡績産業や製紙産業は未だ花盛りで、学生たちの憧れの就職先だった。誰もがそういう産業界が低迷してしまうことなど考えてもいなかったと思う。

特に製紙産業は「三白」と呼ばれて砂糖とセメント共に我が世を謳歌していた。21世紀の現在これらの三白がどのようになっているかを見て欲しいのだ。即ち、好調や好景気や活況などは永続するものではないという事なのだ。株式だった上がり続けるとか、下がり続けるものではないと思う。

何も三白だけに限られたことではなくて「今は昔」となってしまった産業がどれだけあるかということ。「アメリカの自動車産業は」などという例を挙げれば、トランプ様に叱られるかな。

私がアメリカの会社に転出する1972年以前に、社員教育の講習会に来た講師が「素材産業である製鉄は製紙と同様に先が見えている」と語って我々を驚かせてくれた。現実には紙パルプ産業界の業界再編成の流れは凄まじいものがあり、アメリカではウエアーハウザー等は木材部門だけを残して紙パルプ産業から撤退してしまった。我が国でも同様な流れである。鉄鋼業界を見ても、日本製鉄とJFEだけになってしまって、単独では神戸製鋼所だけが残った感がある。

話を野球に戻してみよう。セントラルリーグでは、つい先頃までスワローズが「何処まで勝ち続ければ気が済むのか」と思わせる勢いで首位を独走していた。私は「勝ち続けていられるものではない」と見ているので、スワローズがどのような障害に出会って失速するのかと考えていた。

矢張り、「COVIDに感染する」という落とし穴が待っていて、苦境に立たされているし、私には投手陣の駒不足が見えるし、山田哲人の不振が気になっている。だが、先週久しぶりに「喝」に登場した張本勲は「2位以下のティームがあのゲーム差を残る試合数の間で取り返せることはない。それに、下位の球団同士で星のつぶし合いをするから」と断言していたが、どのように展開していくのだろうか。

阪神タイガースだって、矢野監督の引退予告宣言の所為か開幕と同時に負け続けたが、現在は負け越しを解消してCS出場範囲内の2位にまで上がってきた。スワローズの勢いが「あの勝ちは嘘勝ちだったかな」と心配させてくれている一方で、タイガースは「始めの負けは嘘負けだったかも知れない」という復調振りだ。

この辺りがリーグ戦の特徴であり、所謂「サドゥンデス」(sudden death)方式のトーナメントとの違いであろう。トーナメントという一発勝負では、真の実力が発揮できない嫌いがあるという意味だ。

そのトーナメント方式の短所が典型的に現れる例が目下「汗と涙」と報道機関(何も主催する朝日新聞だけのことではないが)が褒めそやす澄んだ瞳の高校球児が競い合う甲子園の野球である。あれだけの数の高校を全国の一都二府一道四十三県から参加させれば、不幸にも不運にも持てる力を発揮する前に敗退してしまう学校は出るのは仕方がないだろう。

その勝ち抜き方式の試合を地区予選から一回も負けずに全国優勝する学校は、鍛え上げられているだろうし、本当にというか真の実力者なのだろうが、運も加勢することがあるのではないか。春の選抜の優勝校が夏には地区予選でアッサリと負けることがあるではないか。その辺りが勝つことの難しさであり、厳しさであると思っている。

現に、昨日は力上だろうと見られていた感がある沖縄の興南高校が先に5点も取ったときに勝負あったかと見えた試合を、市立舟橋高校が9回の裏に満塁の好機に代わった投手のデッドボールの一投で、サヨナラ勝ちになってしまった。これぞ「始めの勝ちは嘘勝ち」の気の毒な例だなと思って見ていた。結末は、予想もしなかったときに、予想もできなかったような形で襲ってくるものだ。そう言えば「一寸先は闇」と述懐した政治家がいた。



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