追記 20240306
この「わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった」とさらりと書かれたことに注目したい。原始仏教をそのまま保つアジアの一部の地域の仏教だけが真理を伝えるものとして生き残ったとのことだろうか。だとすると達見すぎる。
名作はいつまでも考えさせる宿題を読者に突きつける。上述の一文はどういうことかを頭の中の疑問袋に入れているとある日に回答ではないがそれに近づくことができる気がする。なぜ「わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった」のだろうか。
世界の主だった宗教は仏教を除いて一神教だ。ヒンドゥは多神教だがどちらかというと一神教的だ。つまり創世主がいるかどうかがキーになる。「幼年期の終わり」のオーバーマインドは人類の創世主だったのだ。だから人類は創世主のいる宗教を信じなくなった。つまりオーバーマインドだと見いだしたのでそれらの宗教は不要になったのだ。
しかしアジアの一部の地域の仏教つまり初期仏教は創世主を持たない。輪廻と縁起、つまり世界の仕組みを説くのみで世界を創世したのではない。だからオーバーマインドとは矛盾せず普遍的な宗教として生き残ったのだ。こなれていないが大事な気づきでありメモしておきます。
世界UFOデイを記念して再掲します 2022-07-03 00:05:37
2020-10-11 15:18:26
アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」初読でさらっと流し読みした程度だが、この名作はおいおい読み込んで感想を書き込んでいきたい。まずはざっくりとしたメモから初めて見る。
この名作の注目点は次の6点で、特に6.何故オーバーロードやオーバーマインドは人類を救済しようとするのかあからさまなテーマではなく、本文中に回答も無いが読者には常に疑問がつきまとう。その答えは読者に考えさせるしかけかも。
1.未来からの往還と未来の記憶。
2.悪魔つまりオーバーロード クラークは、この知的円盤の正体に「オーバーロード」(上主あるいは主上)という名を与えているがオーバーマインド(オーバーロードが提供する知能でクラークはこの知能を「オーバーマインド」(主上心)と名付けた)は進化の袋小路に入りこんでいるというが何故だろう。
3.人類は平和でありさえすれば支配されていることに特段異議を唱えない。これも又ドストエフスキー カラマーゾフの兄弟 大審問官的だ。
4.独裁国を懲らしめるには核が必要だったが副作用も多い、だから簡単な無線機を改造したもので事足りる。
5.救済と予知をうたうあらゆる宗教がオーバーマインドの存在によって存在理由と必要が無くなる。
6.何故オーバーマインドは人類を救済するのか。
7.それでもりんごの木を植えるという覚悟が泣かせる。
1.未来からの往還と未来の記憶。
オーバーロードは悪魔の姿をしている。そして人類がもつ悪魔のイメージはこのオーバーロードなのだという時間の逆流が示される。宇宙次元では実は未来からの往還が可能なのだ。
生命現象や星の生成はエントロピー減少であり局所的な時間の逆行現象だが「未来からの往還」と呼応する話なのだろうか。
(あるいはショーペンハウワーが確か「アダムとイブの生殖行為はエントロピー減少を、キリストの死はエントロピーの増大で償う」趣旨のことを書いていたがどこかで関連するのだろうか。)
2.悪魔つまりオーバーロードがオーバーマインドに奉仕している。
オーバーロードは進化の袋小路に入りこんでいるというが何故だろう。
「オーバーマインド」がオーバーロードを管理している。
やがて、意外なことがおこる。総督たちがそれまでひたすら隠してきた姿を見せたのである。なんとその姿は翼と角と尾をもった悪魔そのものだった。しかし、もっと意外ことがおこる。地球の人間たちはこの不愉快きわまりないオーバーロードたちの姿に、言い知れぬ親しみをもちはじめたのだ。
この、宇宙人が悪魔に似ていること、その悪魔のような姿に人間や子供たちが親しんでいくという発想は、その後のすべてのET映画の原型になった。
地球には国家がムダになり、犯罪や殺人がむなしいものとなり、教育はすっかりさまがわりして、大学を予定通り出ていく者などなくなった。何度でも大学に戻ってくるのである。一切の宗教が力をなくし、ほとんど無用になっていった。わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった。
オーバーロードたちと地球人の釣り合いがとれない共生が始まったのだ。そして数十年が過ぎていく。
この「わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった」とさらりと書かれたことに注目したい。原始仏教をそのまま保つアジアの一部の地域の仏教だけが真理を伝えるものとして生き残ったとのことだろうか。だとすると達見すぎる。
(なお筆者は法華経を讃仰するものだが法華経は原始仏教を讃仰する注釈の書だと筆者は理解するので「わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった」が矛盾なくすんなりと納得できる。)
3.人類は平和でありさえすれば支配されていることに特段異議を唱えない。
これも又ドストエフスキー カラマーゾフの兄弟 大審問官的だ。
米ソの宇宙開発競争が熾烈さを増す20世紀後半のある日、巨大な円盤状の宇宙船多数が世界各国の首都上空に出現する。
宇宙人の代表はカレルレン 今後地球は自分達の管理下に置かれることを電波を通じて宣言する。カレルレンは国際連合事務総長ストルムグレンを通じて地球を実質的に支配し、その指導の下、国家機構は解体してゆく。地球人はこの宇宙人を「オーバーロード」と呼んだ。
ストルムグレンは地球人としてはただ一人、オーバーロードの宇宙船に立入りを許されたが、オーバーロードは決して生身の姿を見せようとしない。ストルムグレンの定年退官直前、カレルレンは「50年後に生身の姿を公開する」ことを約束する。ストルムグレンはカレルレンの姿を見ようと一計を案じ、退官の日に実行するが、その結果については黙して語らなかった。
カレレン総督の演説がおわると、地上のめいめい勝手な主張などが通用する時代に一挙に幕がおりたことが明白になった。国連事務総長のストルムグレンや総長代行のライバーグ。オーバーロードが提供する知能を越えられない。それよりもなによりも、地上のすべての決定力よりも、この知的円盤体がくだす指導や決定のほうが、あきらかに地球全体の知恵を足し算したものよりも秀れたものであることが了解されてしまった。
5年にわたって知的円盤だけが上空にいつづけた。あるときはロンドン上空に、あるときはモスクワ上空に、あるときは東京上空に、あるときはマドリッド上空に。地球上のすべての意識の機能はすっかり変わっていった。「オーバロード」は地球中を平和にし世界市民化する。
4.独裁国を懲らしめるには核が必要だったが副作用も多い、だから簡単な無線機を改造したもので事足りる。
国家によっては、この得体のしれぬ"超存在"に抵抗したところもあった。が、ミサイルを打ちこんだところで何もおこらない。びくともしないばかりか、何の報復もない。ミサイルを打ちこんだ国では報復を恐れた陣営とさらにミサイルを打ちこんだ陣営とのあいだに対立がおこり、そのうち両陣営は知的円盤が上空に存在するというただそれだけの圧力の前に、瓦解してしまった。
南アフリカでは人種差別が甚だしかったのだが、総督はそのアパルトヘイト政策を何月何日までにやめなさいと警告し、それでもその日まで南ア政府が何もしないでいると、太陽がケープタウンで子午線を通過する前後30分のあいだ、太陽を消してしまったのである。
このためその影響を被った地域では輻射エネルギーを失って、どうしようもなくなった。翌日、南ア政府は人種差別の撤廃を発表せざるをえなくなっていた。スペインの闘牛を痛みでやめさせる。
そして簡単な無線機を改造しただけでできる人の脳に四六時中語りかける装置がヒトラーでさえコントロールできる。
5.救済と予知をうたうあらゆる宗教がオーバーマインドの存在によって存在理由と必要が無くなる。
「おびただしい数の人類の救世主がその神性を失うことになった。冷たく、感情の入り込む余地のない真実の光のもと、2千年にわたって何百万もの人々の心を支えてきた宗教は、朝露のようにはかなく消えた。それらによって巧妙に作られてきた善と悪は、すべて一瞬にして過去のものとなり、人類の心を動かす力を失った。」「新しい時代は、宗教と完全に縁を切っていた。」
オーバーロードがやってくる前の時代に存在していた信仰のうち残っているのは、純粋な形の仏教(あらゆる宗教のなかで、おそらくもっとも厳格なもの)だけだった。奇跡やお告げをよりどころとしていた宗派はことごとく破綻した。」これはクラークの宗教観だろうか。
彼自身は汎神論的だとも、転生については彼は転生の概念を魅力的だとも言っているが、限りある存在であることを好むとしていた。2000年にはスリランカの新聞のインタビューに「私は神も来世も信じていない」と述べ自身を無神論者だとしている。自身を「隠れ仏教徒」と称しつつ、仏教は宗教ではないと主張している。wiki
ここで言う「純粋な形の仏教」は、いわゆる小乗と唯識や法華経と思われる。「救世主」を立てるキリスト教、イスラム教、大乗仏教の阿弥陀信仰や菩薩信仰も滅びた。これはどう考えるべきか。おそらく偶像化した宗教と終末を説く宗教は滅び、彼が「純粋な形の仏教」と呼ぶ原始仏教のみが残ったといいたかったのかも。
純粋な形の仏教の輪廻転生観とダルマだけはオーバーマインドの視点からもずれていないので生残ったと解釈してみる。ビッグバン、ビッグクランチを繰り返すことが明らかになった現在、終末のよみがえりと救済を解く宗教は意味を持たない。
量子論などの発達により輪廻転生観とダルマが科学されたため終末のよみがえりと救済を解く宗教は意味を持たなくなったとも。
阿頼耶識的なものの集合体となったオーバーマインドと「無我」や空の仏教観が一致したということか。
二人の沙門は、ひたすらその完全な安らかさ、その姿の静けさによって、仏陀を見たわけだ。そこには、何の求めるところも、欲するところも、まねるところも、努力するところも認められず、光と平和があるばかりであった。
その静かに垂れた手は、さらに、静かに垂れた手の指の一つ一つまでが、平和と完成を語っており、求めず、まねず、しおれることのない安らかさの中で、しおれることのない光の中で、侵すことのできない平和の中で、穏やかに呼吸していた。
その手の指の一つ一つの関節が教えであり、真理を語り、呼吸し、におわせ、輝かせている、と思われた。この人、この仏陀は小指の動きに至るまで真実だった。この人は神聖だった。 (ヘルマンヘッセ『シッダールタ』新潮文庫 高橋健二訳
幼いフラニーが冷然と聖書を棄てて、まっすぐに仏陀に赴くのはここのところさ。仏陀はかわいい空の鳥たちを差別待遇しないからね。J・D・サリンジャー
「僕はただ仏教の、この世はすべて苦なりという真相に心を惹かれただけ。」ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』
「仏教的な考え方こそ未来を開く答えだと思う」アレン・ギンズバーグ
6.何故オーバーマインドは人類を救済するのか。
50年後。大都市上空にあったオーバーロードの宇宙船は、ニューヨーク上空のものを除いて忽然と姿を消す。天文学者ジャン・ロドリックスはオーバーロードの出現によって人類の宇宙進出が挫折したことを遺憾とし、クジラの剥製標本に潜り込んでオーバーロードの母星に密航する。
一部の芸術家達は、地球人固有の心性を守ろうと太平洋の火山島に独自のコミュニティを作る。コミュニティに住む子供達に異変が起こり始めた カレルレンは人類へ向けて最後の演説を行ない次の内容を告げる。
地球人はその多くがテレパシー癌とでもいうべき病に罹っていて、それは「精神そのものが悪性腫瘍になっている状態」になっていると。「精神そのものが悪性腫瘍になっている状態」とは何か不明だが。
80年後、天文学者のジャン・ロドリックスがカレルレンの演説を知らないまま地球に帰還する。彼を迎えたのは変わり果てた地球。君臨すれども統治をしないカレルレンはジャンに真相を語り、協力を要請する。
総督カレルレンと搭乗員たちがそれまではひたすら隠してきた姿を見せた。その姿は翼と角と尾をもった悪魔だった。地球の人たちはオーバーロードたちの姿に親しみをもちはじめたのだ。宇宙人が悪魔に似てその悪魔の姿に人間や子供たちが親しんでいく発想はスピルバーグ「未知との遭遇」の原型になった。
やがて最後の時が来た。地球を脱出するオーバーロードの宇宙船に向って、ただ一人地球に残ったジャンは、地球の悲壮で華麗な滅亡の様子を実況する。
オーヴァーロード自身は、人類のようにオーヴァーマインドへ進化する可能性が無いと断言されていることだ。確かに卓越した能力、科学技術、知性を持ってはいるが、しょせんそこまで。彼ら自身はすでに完成されてしまっており、社会や種族としての発展はすでに袋小路だというのだ。
幼年期こそが発展の芽を宿しており、成熟した後は発展の余地がないということか。人類自体の幼年期の終わりと一人一人の幼年期の終わりをダブらせている。
オーヴァーロードたちは、実は宇宙を統べる超強力な精神体「オーヴァーマインド」に奉仕する種族であった。
その能力を活かして、宇宙に存在する知的生命体が、オーヴァーマインドの一部へと進化することを促進する役目を負わされている。
その進化の種として今回選ばれたのが地球人類というわけである。
そして、新世代の子供たちは、もはや親たち旧世代には理解の及ばぬ存在へと変貌を遂げ、最終的にはオーヴァーマインドへと進化し、彼らと一体化する。(SI、群知能を連想する。そして遺伝子操作まで連想させる)
この変貌・進化・統合の過程こそが、タイトル「幼年期の終わり」の意味であり、すなわち人類史の終わりだ。人類史の終わりが幼年期の終わりだから真の終わりはビッグクランチで、さらに輪廻的未来が待っている・・・
カナダの元国防相Paul Hellyerは、グローバルニュースチャンネル「RT」の取材に対し、UFOの存在を認める以下のような回答をしたことで話題となったがオーヴァーマインドと絡ませてみると興味深い。
「彼らが存在します。何千年もの間、この地球に訪問してきました。特に、人間が核兵器を発明してからというもの、彼らの活動は頻繁さを増しています。我々が再び、核兵器を使用するのではないかと懸念しているかのように。
なぜなら、この宇宙はすべてが繋がっていて、地球に住む人間だけでなく、他の惑星にも影響を与えるから。彼らは人間が再び、核兵器の使用に手を染めることを恐れているのです。
彼らにはルールがあります。私たち『地球人を妨害しない』ということ。これが私たちの惑星であり、人間がこの星を使う権利を持っていることを認めているのです。
ただ、非常に心配しています。私たちが地球にとって最適な管理人とは、みなしていないようです。人間はあまりにも傍若無人に、この星を傷つけてきました。彼らはそれを明らかにし、私たちに警告を与えているのです」
オーヴァーマインドは群知能ならぬ群生命化している、つまり共同体としてコンパッション、慈悲の体現者でなくては存在できないものになっている、だから地球人類を救わざるを得ない。
シンギュラリティーの先に量子化して阿頼耶識として一体化する技術を獲得したのかとの妄想も膨らむ。一方、オーバーロードは救いようのない存在と化している。何故かを考えさせるのだが、実はまだ自分には読み解け無い。
(オーバーロードも進化の袋小路にはいったから?)
7.それでもりんごの木を植えるという覚悟が泣かせる。
ジャンやオーヴァーロードたちの、自分にはどうにもできない状況の中でもできることをする、ジャンという旧人類の青年が唯一の人類の生き残りとして地球に残り、滅びを見届けることを選択する。科学者だった彼は、自らの余生の短さを悟り、過去に才能の面で諦めたピアノに再度向き合い没頭する。なんせ彼は、今や世界最高のピアニストなのだから。この、覆せない終わりを見据えつつも、自分のやりたいことに向き合うところが切なくて感動的だ。
人類は群知能とテレパシーの結びつきで肉体を離れて進化を遂げる壮大な物語と理解した。
加筆と追記2020/10/11
ロジャー・ペンローズ博士がノーベル賞を受賞した。氏は「宇宙は誕生と消滅を繰り返している」という共形サイクリック宇宙論の提唱者で、わたしは「一切の宗教が力をなくし、ほとんど無用になっていった。わずかに生き残ったのはアジアの一部の地域の仏教だけだった。」に関連を見出している。