○ 会社法120条には、株主の権利の行使に関する利益の供与禁止の規定があります。ご承知のように、総会屋への利益供与(直接の金銭の交付のみならず、中身の無い新聞・雑誌などの高値購入など)を封じ込める規定ですね。第1項では、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。」としています。
① では、子会社の社長が、視察に訪れた親会社の社長に対して、取締役重任や役員退職慰労金の増額を狙って、会社のお金(負担)で、高価な壷・それなりの価格の絵画・高級ゴルフセット、金貨セット等の利益を供与したときにはどうなるのでしょうか?(私的保身)
② あるいは、業績不振を親会社から追求されるのを防ぐために、保身のため、親会社の社長・しかるべき人・主管責任者等議決権行使の意思決定できる人個人に、上記のような贈答をした場合はどうでしょうか。(私的保身)
③ また、逆に、業績不振の親会社を助けるために、親会社から高値で製品購入をしたり、親会社に不当に安い価格で製造子会社が納品した場合等はどうなるのでしょうか(当該製品がグループ外に売却できなければ、連結会計では同じですけれども)(私的ではなく会社のため)。100%子会社の場合は身内ですから、実際上は問題にならないケースが多いでしょう。しかし、完全子会社ではなく、少数株主がいた場合等問題になる事例も考えられます。ただ、「株主の権利行使に関し」という部分の解釈の広狭にもよると思われますけれどもね。
- 上記は極端な例ですね。しかし、常識・社交儀礼を超えた接待・供応も、結構行われている例がありますね。会社のお金ですからね。ついでに自分も役得をエンジョイしている場合もあります。上記に特徴的なのは、身内で行っており外部からは分からないということですね。ただ、やりすぎて、そのおこぼれに預かれない人や対立関係にある人に分かると、内部告発なりで身内以外や外部に漏れることになるということでしょうね。まあ、現実的には、税務調査等で分かるケースがあるのではと思います。損金算入が認められない交際費、使途不明金・使途秘匿金等で経理処理されている場合もあるでしょう。寄付金・受贈益の税金問題が発生しますからね。
・ 上記①②は、株主に対する利益供与禁止違反の責任ですね。③は、この責任に加えて任務懈怠責任(423条1項)でしょうか。任務懈怠責任については、善意でかつ重大な過失がないときは一部免除ができますね(425条)
○ 利益供与禁止違反の責任については、120条3/4項に規定されています。
3項 株式会社が第1項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社に返還しなければならない。
4項 株式会社が第1項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(執行役を含む。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
また、120条2項には、推定規定があります。
2項 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。
○ 120条の規定は総会屋への利益供与禁止の規定と考えられていますが、上記①②のような、親子会社の役員間の不明朗な関係にも当てはめることができるのではないでしょうか。こういう役員は健全な企業経営には有害ですし、ステークホルダーの利益に反します。この120条を積極活用して欲しいと思います。取締役は監督義務を監査役は監査義務を発揮してほしいですね。