○ 株式の対価として金銭以外の資産を出資する現物出資に関する規制については、会社設立のときは変態設立事項の調査として会社法33条に、会社成立後については207条に規定されていますね。昔と比べると随分緩和されました。原則は、裁判所の選任する検査役の調査(207条1-5項)で現物出資財産の価額の調査をして、適正な価額を算出し、この価額に対して株式の割当を行います。原則の適用除外として、207条9項では、①発行済株式数の10%以下の場合、② 出資財産の総額が500万円以下の場合、③市場価格のある有価証券をマーケット価格以下で出資する場合、④弁護士・公認会計士・税理士(法人を含む)から、その価額が相当であることについての証明(不動産の場合は、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価を付ける)を受けた場合、⑤弁済期が到来した会社に対する金銭債権を現物出資する場合には、検査役の調査が免除され、株式の割当を行えるとしていますね。
○ 金銭以外の資産ですから、土地・建物・機械、権利(物権・債権・知的財産権)、有価証券、あるいはのれん・ノウハウ・ブランド等の財産的価値のあるものなら、あるいは有機的一体となった事業でもよいわけですね。検査役の調査を要求する趣旨は、資産の過大評価をして水増しされて多くの株式を取得して例えば支配権を維持したりする者と、他の金銭出資をした株主との間の不公平を防ぐ趣旨と、水膨れの資産が形成されて債権者を欺くのを防ぐ趣旨ですね。
○ 最近は、例えば、不動産価格で言えば、2年前の青山辺りの不動産価格は半値どころか、1/3以下になっています。不動産の鑑定評価等も、ご承知のように結構鑑定人によって違うというか、まあそれなりに操作もできるわけですね。株式でも去年なら価値のあった日本航空の株式も今は殆ど価値無しですね。最近は資産価値が急激に変化しますね。非常にVolatileです。まあ下がることが多いですけどね。
○ 特許などの知的財産の評価は難しいですね。特許など持っていてもすぐに事業化できるわけでもありませんし、ハッキリ言って、特許で儲かるのは千に3つぐらいでしょうか。発明者の思い入れは別として、金が儲かる・事業として成り立つ特許というのは、一連の特許の組み合わせとか、その特許を利用した製造技術等の総合力ですからね。特許権等の開発コストというのも一つの価額ですし、特許を利用して将来のフリーキャッシュフローの現在価値を予測するのも価額ですね。結構どんな数字でも出せますね。
○ 弁護士等により価額の相当性の証明をしてもらうとしていますが、資産を正当に評価する能力があるのでしょうか?ありませんね。昔、弁護士のみしか証明ができないころ(今は公認会計士等もできますが)。ある案件である弁護士に証明をお願いしたら、評価できなので、公認会計士の評価書を出して欲しいといわれたことがあります。仕方がないから、こちらである考え方と方式で算出した評価を全部公認会計士に教えて、それに従って評価書を出してももらって、それを弁護士に持ち込んで証明書を出してもらったことがあります。金・時間の無駄ですね。こんなことやめてもらいたいですね。まあ、最近は融通性ある税理士さんにお願いすれば簡単かも?(ある程度常識の範囲内ならね)
○ 現物出資財産は、その財産を利用し収益を上げられる能力のある会社にとっては価値がありますが、そういった能力のない会社にとっては価値がないということです。相当な価額というのは、その会社の役職員がその財産を事業にうまく利用し、どれぐらいの収益を上げられるかを基に算出が可能となるのですね。といっても実際の価額算出はかなり難しいですけどね。しかもどれだけの利用価値があるのかは、例えば同じ特許権でも同じ業種の他の会社の場合は全く違うでしょうね。
○ 現物出資財産を見て価額が相当である証明を出せというのは、考え方そのものがおかしいのです。その会社がその現物出資財産から、どれぐらい収益を得られるか、収益に貢献するかという点が重要なのに、そういう視点がないのが会社法の規定ですね。でも現実的には、将来収益等どれぐらい得られる等「とらぬたぬきの計算」しかできないでしょうから、結局は現物出資をするときに関係者がその価額で納得すれば、それが相当の価額なのだと思います。ではどうすれば良いのでしょうか?
○ 私は、今の現物出資の規制を廃して、現物出資の簡単な内容と価額・割当株式の種類・数を登記事項にすべきと思います。現物出資を受ける企業は未上場企業です。株式は公開されていません。企業・事業関係者やベンチャーキャピタル等のプロの投資家が株式を取得します。これら出資者・投資家は、登記簿の記載を契機として、経営陣から現物出資の内容の詳細を聴き、その財産が事業に役立っているのかを、経営者の言葉をそのまま鵜呑みにすることなく自分で調査し判断すれば良いのです。その会社に関わりを持つ人・持とうとする人が納得すれば良い話だと思います。債権者は、現物出資財産を利用してその会社がきちんと事業をしているのかを見れば良いのだと思います。
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