今年、こまつ座が『日本人のへそ』を上演しました。宮城県でも上演したので、宮城県でならば新型コロナウイルスも大丈夫だろうとチケットを購入しました。しかし、新型コロナウイルスが予想外に広がり見に行くことを取りやめました。残念でした。今回WOWOWで放送したので、映像ではありますが見ることができました。どんでん返しの連続で、初期の井上ひさしの作品のおもしろさを存分に味わえました。
『日本人のへそ』は、井上ひさしの最初の戯曲です。井上さんは「ひょっこりひょうたん島」の脚本で有名であり、また、てんぷくトリオのコントの作家としても活躍しました。当時は、現在のような大作家という扱いではなく大衆作家という印象でした。その井上さんが1969年にテアロルエコーに書き下ろしたのが『日本人のへそ』です。今から50年以上前の作品です。描かれている事物は古くなってしまって現在にそぐわないものも多いのですが、内容的には今でも十分納得できます。というよりも今の状況に一番よく合う内容なのです。
例えばどんでん返しの繰り返し。真実の見えない今の新型コロナウイルスの状況そのものです。新型コロナウイルスに対する対応に対しての世論がコロコロと変化していく状況とまったく同じです。新型コロナウイルスの状況が落ち着いてきたと思ったら、次の日には緊急事態宣言。それがよくなったからオリンピックを開催したと思ったら、爆発的な拡大。どこに真実があるのかがわからない。真実は権力者が握りつぶす。現在の状況とそっくりです
もうひとつ、演劇でなければ真実を言うことができないような現状も今の状況そのものです。現在は何か言えばSNSで炎上し、「炎上歓迎」と開き直ったような言動がまかり通り、真実を言うことを誰もがためらうようになっています。真実を言おうとすると「ども」ってしまうような、この演劇の登場人物と同じです。真実は虚構の中で表現するしかない。こういう時こそ演劇が必要なのです。虚構が必要なのです。
現実はもはや形を失ったしまった現在、真実を描く虚構の重要性を感じる演劇でした。
最後にもうひとつ。小池栄子さんはすごい役者です。
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