楽我喜帳

日々是遺言〜ブログは一人遊びの備忘録〜
ブログネーム啓花

食品偽装と違うのに…

2008-01-30 | 日記・雑記【アーカイブ】
古紙偽装
それらはもう売ることはできないから
すべてチャラにしてしまうという。
そのためには
莫大なエネルギーとお金を使う。
そっちのほうがよっぽどエコに逆らっているでないかい(''?

再生紙偽装問題で
学校や役所などでは紙不足になりつつあると言う。
それと、お店でも
そういう品物は売れないからと
引き上げたらしい。
古紙百パーセントでないからって
(安心と安全のためにと言っているが)
食品や医薬品、家電と違うんだから(-。-;)
なんで廃棄処分にしなきゃならないのよ(・ω・;)(;・ω・)
それこそモッタイナイ!!
もっと柔軟に考えられないのかなぁ~ヽ(・_・;)ノ
廃棄にすることはそれだけで
エコに逆らっていると思う┐('~`;)┌

「決められたことは
決められたとおりでなければダメ!
もっと頭を柔軟に働かせたらいいのでは(''?





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ショートショート「宅配ドライバーHの夢想」

2008-01-18 | 創作【アーカイブ】
宅配ドライバーHの夢想~その1~





オレは宅配ドライバー。

オレの配達担当先のプチマダム。

オレよりちょっと年上だけど。

美人なんだな。これが。

葉月里緒菜似なんだ。

ちょっと気になる存在。

オレとはあまり目と目を合わせてくれないけれど。

照れ屋さんなのかな。

そんなキミが近頃気になっている。

お金を受け取る時 品物を渡す時

何気なく それとなく さり気なく

そっと手に触れたりして。

キミの住所と名前と電話番号は

ちゃんと知っているんだからね。

と言っても

まさか誘いの電話は掛けられないよな。

そんなことしたら

即クビだもんな。



それにしてもキミ

通販(ネットショップかな)に

ハマりすぎだよ。

もう少し控えようね。

でも 控えられたら

オレはキミに会えなくなってしまうぜ。




宅配ドライバーHの夢想~その2~





配達先のかわいい美人プチマダム。

でも 夢中になってしまってはいけないオレ。

オレは妻子持ち。

向こうも亭主持ちだから。

もしももしも そんなことになったら

これはWフリンってやつじゃないか。

いけないぜ。オレ…。

だいいち 月曜から土曜の朝から晩まで

びっちり働いているオレのどこに

彼女との逢い引き時間なんてあるのさ。

日曜は死んだように眠りたいぜ。

でも 昼間からビール呑んで寝ているオレに

ウチのチビは

「パパ~こんどのにちようはあやかのようちえんのうんどうかいだよ~」

と馬乗りになってくる。

チビだけでなくママまでも

「今度の日曜は綾香の運動会だからね。ビデオの場所取り頑張ってよ!」

ときたもんだ。

はいはい。わかってますよ。幼稚園の運動会のビデオ撮影ね。

運動会ではパパ、綾香のために頑張っちゃうからな。

日曜のささやかな幸せ。

キミは今頃ご主人と 銀座のレストランでランチかな。

お互いのささやかな幸せ。壊すわけにはいかないから。

せめて夢の中だけでキミとランデブー。

夢の中でキミは僕だけに微笑む。

それはまるで女神のような。サイコーの微笑みさ。



荷物の仕分け作業中にそんなことを考えていたオレ。

こらこら! 真面目に働けよ。オレ。

おっと~これはキミへのお届け物だ。明日はキミに逢えるぜ! オレ。




By 莉梨花(りりか)

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ショートショート「中年男の夢…いつかTea For Two」

2008-01-18 | 創作【アーカイブ】
「中年男の夢…いつかTea for two」



オレは女房とニ男一女を持つ平凡な中年男。絵画教室で絵の講師をしている。立場上その絵画教室が入っている事務所の職員を兼務している。息子たちは大学生、高校生となり自分勝手に行動している。娘も小学六年ともなれば、おやじをうっとおしがる。ほんの数年前までは「お父さん、お父さん」とまとわり付いてきて可愛かったのに、今じゃ「お父さんと一緒に出かけたくない」ときたもんだ。女房に至っては何も言うまい。たまの休みに家にいようものなら「片付かないからさっさと着替えてジョンを散歩に連れてってよ」なんてオレを追い出そうとする。挙げ句、娘とオシャレして外出してしまう。

「昼飯はどうすんだよ?」

「店屋物でもとるかコンビニで買って食べてよ」

そう言い残して女房と娘はいそいそと出かけて行ってしまった。

そんなオレだが誰にも言えない楽しみがある。それはパソコンだ。パソコンにはちょっとうるさい。組み立ても自分でやってしまう。自分で作ったパソコンが何台も家を占領して、女房には「この粗大ゴミをどうにかして」と言われている。だが、やめる気はさらさらない。自分のホームページも作っている。ホームページでは自分が今の自分以外の者になれるからほっとする時間なのだ。

ある日、パソコンを開いてネットサーフィンをしていたらとても可愛らしいホームページを見つけた。早速そこを訪問してみた。内容もなかなかの出来栄えだ。

「ン?! どこかで見たような写真と文だな」

そこにはオレの絵画教室に絵を習いに来ている生徒で、定期的に通信を送ってくれる子の写真と文が載っているではないか。

「そうか、これはあの子のホームページなんだ?!」 

オレはオレとはわからないふりをして彼女のホームページにカキコミをした。彼女からもオレのホームページにカキコミがあった。オレは彼女をはじめ職場の同僚にもパソコンができないと思われているから、こんなことをやっているのがオレとは彼女にはわからないだろう。何だか楽しくなってきた。

彼女は人妻だが、少女のような面影を残し、可愛い。それでいてなかなかクレバーなところもある。彼女にとってのオレは「おにいちゃん」的存在なのだが、オレは彼女のことを「妹」以上に愛しく思っている。ネット上の文字だけのつきあいなら誰にもわからないし、迷惑もかけない。彼女のことを大切に思うが故に、本気でフリンをしようなどとは思っていない。そんな勇気もこのオレには持ち合わせていない。だが、これは「心のフリン」だろうか。オレだって一応ノーマルな男だから、目の前に美味しそうなご馳走がならんでいたら戴きたくなる。それが男の本性というものだ。

いつか彼女にオレのことをばらしてしまおうかな。あのホームページ作成者がオレだってことを。

そしていつの日かふたりでお茶を…そんなことを夢見て今日もパソコンを開くオレであった。



離れていてこそ恋、別れていてこそ恋なのかもしれない。

逢ゑばこそ君への思ひ深くなり 逢ゑない夜に枕濡らして

                   

【おわり】


By 莉梨花(りりか)
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ショートショート「儚き夢」

2008-01-18 | 創作【アーカイブ】
「儚(はかな)き夢」



私、中林誠一は某女子短期大学国文科教授。短期大学で教鞭をとる傍ら、カルチャーセンターにおいても古典文学講座の講師としてアルバイトをしている。そこに通う美しい、というよりかわいい人妻に恋をした。この歳になって(私は現在64歳である)まさに老いらくの恋である。彼女の名前は里絵子。ちょうど私の娘と同じ年頃である。

ある日、思い切って里絵子を食事に誘った。里絵子も私にうすうす好意をもっていたのか、すんなりとOKした。里絵子の夫は外資系会社勤務のエリートビジネスマンで、帰宅はいつも深夜になることがほとんどだと聞いていた。そのため里絵子は自分の時間を充分にもてあましていた。

その日はシティホテルのスウィートルームも予約していた。ファッションホテル(俗に言うラブホテル)に誘う気にはなれなかった。シティホテルのダイニンク゜ルームで食事も済み、スカイラウンジで軽く一杯やってから里絵子を部屋に誘った。里絵子は何の抵抗もなく私に従った。あまりにうまくいきすぎて、怖い気がした。

里絵子はその行為に対してとても大胆であり、普段の彼女からは想像もできないような、淫らな娼婦のようになった。私の求める恥ずかしいことも里絵子は応じてくれた。里絵子との一夜は私にとって、至福の時であった。

私はすっかり里絵子の虜になっていた。この歳になって初めて、私は男の喜びを見出した。妻には感じられなかった満足感が私の体を突き抜けた。

ふと目が覚めると、里絵子の姿が見当たらない。私は急いで服を着て、外に飛び出した。人込みに里絵子の姿を探した。里絵子の後ろ姿を見つけた。里絵子がいた。私はそこが往来であることも忘れて所構わず、里絵子に抱きついた。里絵子はにっこり微笑み、私の耳元でこう囁いた。

「センセイの○○とってもよかった。すごくカンジちゃった」

私はあまりの嬉しさに里絵子を抱き上げキスしようとした。が、その瞬間また里絵子はどこかへ消えてしまった。

「里絵子、里絵子!」

私は叫んだ。辺りを見回した。どこにも里絵子はいない。街行く人々の群れは私など見ずにひたすら自分たちの行く方向へと向かっている。

私だけがそこに取り残された。里絵子の体の感触とにっこり微笑んだ顔と、

「センセイ、サイコーだった」という里絵子の柔らかな声だけが私を取り巻いていた。そこに里絵子はいない。探しても探しても、どこにも里絵子はいない。

「里絵子、里絵子!!」

私はなおも叫んでいた。

突然、

「あなた! もう朝ですよ。早く起きてちょうだい。今日は学部長会議がある日でしょ?! まったく、昨日は教授会とかであんなに酔っぱらって帰ってくるなりバタンキューなんだから。もう若くはないんだから、少しは体のことも考えてくださいよ。さぁさぁ早く起きないと遅れますよ」

そこには妻のいつもの声が響いた。

寝ぼけ眼の私は妻に諭されるままに起き上がり、洗面所へ顔を洗いに行った。顔を洗い終わって戻ると、そこにはいつもの味噌汁、海苔、卵焼きといった朝ご飯がしつらえてあった。いつものように朝が始まるのであった。

あれは夢だったのか?! それにしてもやけに現実的な夢だった。そんなことを思いながら、ご飯を一口、口に運んだ。と、その時、

「センセイ、サイコー。カンジちゃった」

里絵子のやさしい甘い声が頭の中で響いた。

ついにやけそうになり、慌てて新聞を広げた。新聞記事に目を通すふりをした。

「あなた! 新聞見ながら食べるのやめてください」

いつもの妻の声が飛んだ。

…終わり…



By 莉梨花(りりか)
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夢うつつ

2008-01-18 | 妄想日記・愚痴日記【アーカイブ】
風邪で寝ていた時、熱にうなされ
ステキな夢を見た(*^_^*)
私と加藤晴彦くんは
氷川きよしくんのマネージャーであり、
三人は仲良しの友だち( ^_^)人(^_^ )
どこに行くのも一緒!
一つのジュースを一本のストローで
きよしくんと飲んでいた(*^m^*) ムフッ
間接キッス(*^-^)(ε^*)
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創作「かすみ草」

2008-01-15 | 創作【アーカイブ】
     かすみ草

       (一)



 〈もうこんな時間。幸弘さん、ついに来なかった〉

優美子は腕時計を見て独り言を呟いた。

優美子はお互いの両親同士で決められた婚約者の藤岡幸弘と、青山にある行きつけの日本料理店で待ち合わせをしていた。今日は幸弘の誕生日であった。優美子は幸弘に渡すつもりで用意した誕生日プレゼントの小さな包みをバッグから取り出してリボンの結び目を直して、再びバッグの中にしまった。たぶん二度と幸弘には渡すことはないだろうという予感がその時、優美子の脳裏をよぎった。

「ごめんなさい。もう看板なのにお店を開けてもらっていて」

優美子はカウンターの中の板前、石井に話しかけた。

「いや、気にしなくていいっスよ。どうせ俺一人っスから」

幸弘と優美子はこの小料理屋をよく利用していた。その店は“新日本料理店”とでもいうのだろうか。青山辺りの店には珍しく、安価で気のきいた料理を食べさせる店であった。

板前の石井とも顔馴染みになっていたのである。

「ごちそうさま。今日は遅くまですみませんでした」

優美子が店を出ようとした時、板前の石井が呼び止めた。

「ちょっと待っててください。もう遅いから送りますよ。それに雨が降ってきたみたいだから。傘、持ってないっスよね?!」

石井は店の明かりを消し、出入り口の引き戸に鍵をかけ表に出た。

タクシーの拾える通りまで二人は一つの傘で歩きだした。

「肩、濡れませんか?」

石井は優美子の肩に手を置き自分のほうに引き寄せた。石井の手はゴツゴツとしていたが、その手からはほんのりと暖かさが伝わってきた。

〈このままずっとタクシーが捕まらなければいい〉

優美子がふとそんなことを心に思ったのは、石井の暖かい手だけのせいだったのか。

「タクシー、捕まりませんね。雨のせいかな?」

石井は通りに目をやり、落ちつきなく二本目の煙草に火をつけた。店を出る時、カウンターの上に飾ってあった一束のかすみ草に目が留まり持ってきた。  
石井はその店の主人ではなかったが、店は石井にほとんど任せられていたからそんなことも許されたのである。そのかすみ草をぶっきらぼうに差し出した。

「店のカウンターにあったんスけど、よかったらどうぞ」

「えっ、いいんですか? 私、かすみ草が大好きなの。ありがとう」

優美子は、石井が差し出したかすみ草を嬉しそうに受け取った。

「俺、花の名前はほとんどわからないっスから。花なんて柄じゃないし」

石井は照れ笑いを浮かべて言った。

店からずっと握ってきたのだろう、かすみ草はほんのりと温かった。

そのぬくもりは石井の手そのものであった。

タクシーはなかなか捕まらない。

一つの傘で寄り添うことが気まずいかのように、石井は三本目の煙草を取り出し、思い出したかのように口を開いた。

「そうだ。もしよかったら『ランチタイム』にも来てくださいよ。日替りの昼定食、安くてボリュームもあってけっこう評判がいいんスよ。一品多くするとか、特別にサービスしちゃいますよ」

石井は屈託のない笑顔を見せた。

「ほんと? 嬉しい。でもあんまり食べると太っちゃう。これでもダイエットしてるんですよ」

優美子もつられて微笑んだ。

「そういえばまだお名前を知らなかったですね。いつまでも“板前さん”じゃ変だし」

優美子も思い出したかのように言った。

               
「そうっスね。俺、石井って言います。石井裕二です。キミはエーと…、ゆみこさん?でしたっけ?!」

「ピンポーン! 風間優美子です。これからもよろしく」

「俺のほうこそ店共々どうぞよろしく」

ちょっとおどけた二人は顔を見合わせて照れ笑いを浮かべた。

そんな短い自己紹介を済ませたところへタクシーが止まった。



       (二)



 石井にタクシーで家まで送ってもらった日からしばらくして、優美子は一人で昼間に石井のいる店に行くようになった。それは幸弘には内緒のことであった。日替りの昼定食を食べながら、優美子は石井と他愛もない話しをした。それだけのことなのに幸弘といる時には感じられない心の安らぎを覚えた。話してみると、音楽の好みは少しちがうけれど、ひいきのプロ野球チームは同じことがわかった。いつのまにか二人は、好きなミュージシャンのコンサートやプロ野球の試合に行くことまで約束していた。こんなにも簡単に親しくなることができた自分に、優美子は驚いた。それは石井の持つ優しく温かい人柄がそうさせたのかもしれない。

石井の中学の後輩である、宅配ドライバーの岡野マサルが以前、店に来て言っていたことを思い出した。

「石井さんは優しいセンパイっス。ダチや後輩をチョー大事にしてかわいがってくれたし、ゾクのアタマやってた時も“正義の味方”っていうか、義理人情に厚くて、弱い者やカタギの者には絶対に手ぇ出さなかったんスよ。オレたちにパシリはさせなかったし、カツアゲなんかやったらゾクから出ていけ!って言ってたんスよ」

優美子はいつのまにか、素朴だが優しい石井に魅かれていったのである。

幸弘とはお見合いで両家のなすがままに進められ、そのまま結婚までのレールをたどるだけであった。今まではそんな自分の運命に何の疑問も持たずにいた優美子であった。石井に出会うまでは。

〈幸弘さんという人がいるのに、石井さんとコンサートや野球に行くなんていけない優美子。この浮気者め!〉

優美子は心の中でちょっとふざけて、自分の揺れ動く気持ちを戒めた。

初めは石井に対する気持ちがどうということのない、ただの友達感覚であると思っていた。そう思いたかった。そうでも思わなければ幸弘に対して失礼だという気がした。だが、心は嘘をつけない。優美子と石井は次第に親しくなっていった。

あの雨の夜から一週間ほど経った頃であった。あの夜、店に来なかった理由を幸弘からは何も言わなかった。それどころか



「何で来なかったの? 電話くらいしてくれたらよかったのに。板前の石井さんが看板の後までお店を開けていてくれたのよ」

そう言った優美子に対して幸弘は

「うるさいな。女房気取りでなんだ!」と逆になじった。そのうえ、

「石井、石井って何だ。族上がりのあの板前が好きなのか? 族のアタマやってた男だぞ。高校もほとんど行ってなかったそうじゃないか。そんなヤツが好きなのか? K大大学院出の弁護士のこのオレよりも族上がりの板前のほうがいいっていうのか?!」

と言いながら、初めて優美子の体を無理矢理、求めてきた。優美子は咄嗟に幸弘を突っぱねてしまった。そんな風に振る舞うことしかできなかった自分に対して、また幸弘がそんな気持ちになったことに対しても哀しくなった。

幸弘はもともと自分の感情のままに行動するような人ではなかった。いつでも優しく優美子を見守っていてくれた。一体どこでどのようにして、二人の心は壊れてしまったのだろうか。

あの日、幸弘の求めを拒んだ優美子ではあったが、今、裕二には素直に心を開くことができたのである。二人がひとつになった時、大きな波が押し寄せた。

そんなことが幸弘にうすうす感づかれるようになり、それ以来、幸弘は優美子を誘わなくなっていた。

ふと気がつくと優美子の心の中には、いつでも裕二がいた。もう優美子の笑顔は幸弘には届かなくなっていた。



 幸弘と優美子の間に溝ができ、お互いに距離をおくようになってから優美子と石井はつきあうようになった。だが、二人の気持ちとは裏腹に優美子の両親は二人がつきあうことに猛反対であった。

「暴走族上がりの板前なんてとんでもない! 絶対に許しませんからね。高校もろくに行っていないというじゃないの?! 幸弘さんのどこが気に入らないというの? 家柄も学歴も申し分ないでしょ。世間には“釣り合い”というものがあるのよ。ママたちに恥をかかせる気なの?『風間さんのお嬢さんは何でも、暴走族上がりで高校中退の板前さんと一緒になったんですってね』そんなことが広まったらパパの大学病院での外科部長という立場上、世間で肩身が狭くなることくらいわかるでしょ!」


何かにつけて優美子の両親は石井のことを悪く言い、世間体のことを気にするのであった。

確かに幸弘はK大学の大学院を卒業している。教授の信頼も厚く、将来も約束されている。幸弘の父はT大出の敏腕弁護士としてならし、世間的地位や名誉、富さえもある。藤岡家は代々続く名門家系の家柄だ。むろん幸弘は父の後継者としての期待を一身に受けている。ただ、T大に落ちたという幸弘自身の父に対する内面的なコンプレックスを除けば。

幸弘はK大大学院卒の見栄えのする、友達にも自慢の彼であった。

一年前までは優美子には幸弘しか見えなかった。あの雨の夜がなければ、幸弘と優美子は皆に祝福されて、うわべだけは幸せな結婚をしていたかもしれない。石井裕二という板前の存在は全く気にすることもなく。

天候は人の運命さえも翻弄してしまったのである。

      (三)

 優美子は両親に石井とのことを反対された数日後、裕二に手紙を書いた。

『裕二さん。つきあい始めてから早いもので、もう一年になるのですね。一年の間にはいろいろなことがありました。二人で初めて行った、神宮球場での阪神戦。“ラッキーセブン”にジェット風船を飛ばして『六甲おろし』を歌った直後の新庄選手のホームラン。ビールで乾杯したけれど、残念ながらタイガースは八回に逆転されて負けてしまいましたね。永ちゃんのコンサートに連れていかれて、初めはちょっとビビったけれど、じっくりと聞いた矢沢永吉の歌。バラードがとてもよくて涙が出ました。そんな裕二さんがまさか、さだまさしさんのファンだなんてちょっぴり意外だったけど、ちょうど私の誕生日のさだまさしコンサートはいつまでも忘れることはないでしょう。裕二さんの後輩のマサルさんが言っていたように、裕二さんはほんとに誰にでも優しくて(女の人にもというのは困りものだけど)温かい人柄の“正義の味方”なんですね。こんな私も少しは大人になれたような気がします。それもこれも裕二さんに出会えたからです。いつのまにか私の心の中には裕二さんがいまし
た。幸弘さんとの仲がぎくしゃくして、もう元の二人には戻れないと思うようになってきた頃から、正確に言えば一年前のあの夜から。周りの人はいろいろと言うけれど、生まれも育ちもまるで違う二人だからこそ魅かれ合ったのかもしれません。もうこの気持ちを裏切ることはできません。誰が何と言おうと、どんなに反対されようと、ずっと裕二さんについていきます。

追伸。嬉しいお知らせがあります。それは今度会った時のお楽しみ』



この手紙の数日後、裕二は優美子と会った。優美子の中に芽生えた小さ 

な生命のことを聞かされ、裕二は優美子と一緒になろうと決心をした。

その足で裕二は優美子の両親に会いに行き、

「優美子さんと一緒にさせてください」と頭を下げた。

だが優美子の両親は

「とんでもない!」の一点張りで取り付くしまもない。だが、裕二は

「優美子さんのお腹には既に子どもが宿っているんです。優美子さんと子どものためにも一緒にさせてください」

と言って土下座までして頼みこんだ。

優美子が妊娠しているという事実を初めて知らされた優美子の両親は、このことが嘘であってほしいというような口調で

「本当なの?」と優美子に問いただした。

優美子は少し伏し目がちに黙ってうなずいた。

裕二の一言に優美子の両親は少し動揺した様子を窺わせたが、

「優美子には決まった方がいるのです。いくら優美子が子どもを身ごもっているからと土下座されても、どこの誰かもわからないような、まして高校もろくに行っていない暴走族上がりのあなたのような人と優美子を一緒にさせるわけにはいきません。子どもはこちらで堕胎させます。ですからもうこれ以上は優美子に近ずかないでください。お金でしたら用意させます。いくら欲しいのかおっしゃって」

と、裕二にきつい言葉を投げつけた。そこまで言うほど優美子の両親は二人の仲を許そうとはしなかった。裕二は肩と唇を震わせ、土下座したままであった。

「ひどい! そんなことを裕二さんに言うなんてあまりにもひどすぎる。いくらママやパパだって許さない。裕二さんに誤って! 決まった人が
いるっていうけれど、それはママたちが勝手に決めていることでしょ?!幸弘さんとはもう一緒に歩いていけないの。確かにあの日までは、裕二さんを知るまでは幸弘さんについていこうと思っていた。でも、やっぱりダメだった。私の心の中には裕二さんしか住めなくなっていたの。どんなに反対されても、私は裕二さんと一緒になります。このお腹の中の赤ちゃんも二人で立派に育てます」

あまりに勝手でひどい両親の言葉に、優美子は毅然とした態度で言った。物心ついてから初めて、両親に反抗した優美子であった。

数日後、裕二から手紙が届いた。

『優美子。俺の気持ちは変わらない。一年前の夜、あの日もしも藤岡さんが店に来ていたら、もしも雨が降らなければ、今の二人の関係はなかっただろう。あれは運命のイタズラなのか。優美子のことを愛する気持ちに生まれも育ちも関係ないと思っている。いつかきっと優美子のご両親もわかってくれると信じている。優美子のご両親は優美子のことがとても大事でかわいくて、心配でしょうがないんだよ。そんなにも大切に育てられたお嬢様の優美子が俺は少しばかり羨ましい。何もわざわざ苦労をするために俺と一緒にならなくてもいいじゃないか。優美子のご両親が望むように藤岡さんと一緒になることが優美子にとっては一番いいのかもしれないよ。今の俺にはこんな“駆け落ち”という方法しか思い浮かばないんだから。知っている人が誰もいない、まるっきり知らない土地で暮してゆくことは大変かもしれない。これからの二人の生活は決して裕福なものではない。新しい服やブランド物のバッグの一つも買ってはあげられない。優美子はスーパーの安売りのチラシが気になり、そこには口紅もささない優美子の姿が鏡に映っているだろう。けれどそれを承知の上で優美子はついてきてくれると言う。こんな学歴もない、族上がりの俺がマジでいいと言う。お嬢様育ちの優美子に苦労をかけさせたくはないから俺は精一杯、頑張るよ。優美子のご両親に認めてもらえる日が、藤岡さんでなくて俺と一緒にさせてよかったと、ご両親に思ってもらえる時がくるまで。優美子を幸せにするために。優美子の中に芽生えた小さな生命を守るために。子どもが産まれたらきっと、ご両親も許してくれるだろう。孫がかわいくない親はいないというからね。

いつの日にか俺は、優美子の大好きなかすみ草を両手で抱えきれないほ
ど贈ろう。優美子はお父さんと腕を組んで俺の待つところまで、かすみ草の花束を手にしてヴァージンロードを歩いてくるんだ。その後ろには小さな天使がついてくるだろうね。

追伸。優美子のおかげで花の名前が少しはわかるようになったよ』



この手紙の数日後、二人は住み慣れた東京をあとにして、山陰のひなびた町へと向かった。店の主人の遠縁にあたる夫婦が経営する、温泉旅館の板前として、住み込みで働くことを決めた裕二であった。優美子と生まれてくる子どものために。少しばかりお腹の目立ちはじめた優美子をいたわるように、寝台特急『出雲』に乗り込んだ。発車のベルが鳴り、列車は静かにプラットホームを離れていった。発車のベルはまるで二人のウェディングベルのようでもあった。



                 【終】





                          立原 麻沙









       † ‡ † ‡ † ‡ † ‡ † ‡

 キャスト

【配役】

風間優美子……酒井美紀     優美子の父……清水紘治

石井裕二………東山紀之     優美子の母……山口果林

藤岡幸弘………椎名桔平     幸弘の父………仲谷昇

マサル…………堂本 剛     幸弘の母………野際陽子



〈BGM〉……新沼謙治「ヘッドライト」
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創作「沈丁花」

2008-01-15 | 創作【アーカイブ】
     沈丁花

                                     
       (一)



 万亀楼(ばんきろう)は三代続いた、伊豆・熱川でも老舗の旅館である。

浩一の父、長一郎は先代に見初められ、この万亀楼に婿養子として迎えられたのである。

浩一の母、佐和子は心臓に持病があり、ここ何年かは入退院を繰り返す日々であった。そんなこともあり、家事一切は旅館の仲居頭である、幸代が一手に引き受けていた。

幸代は小柄で、あまり化粧っ気のない、さっぱりとした性格の女である。しかし、艶っぽい色気のある、男好きのする顔立ちではあった。そんな幸代と長一郎が数年来の深い関係だということは、浩一にとって青天の霹靂であった。

「父さん、本当なのか?」浩一は半信半疑で父に尋ねた。

父は何も言わずに唸づくだけであった。父の背中は男と女の関係を認めていた。



「あなた、幸代さんとのこと……嘘ですよね?!」

いつもは温和な佐和子が珍しく語気を荒げた。

「……許してくれ」

それは信じていた夫の裏切りであった。佐和子の目を見ず、虚ろに答える長一郎の言葉は佐和子の体を日毎悪化させていった。

「お気の毒ですが、長くてせいぜいあと半年です」

担当医の言葉は残酷に響いた。





 佐和子が他界したのは、二月も終わるというのに霙混じりの冷たい雨が降る寒い日であった。佐和子の四十九日が過ぎるか過ぎないかのうちに、幸代は当たり前のように、旅館のことのみならず家のことまでも切り盛りし始めた。そんな幸代に、長一郎は何も言えず

                                                  

「ゆくゆくは幸代を女将にするつもりだ」と仄めかしていた。幸代にとって女将になるということは、長一郎の後妻になることでもあった。

「幸代さん、とうとう女将やねぇ」

「遅かれ早かれ、ダンナさんの後妻になるんやろ」

「うまいことやりはったわ」

「そうそう、幸代さんの息子さんね、ダンナさんとの間に出来た子供やいう噂」

「今年、東京の大学を卒業した和也くんとかいう?!」

そんな仲居たちの言葉も、幸代には心地良い微風のように感じられた。浩一は父と幸代のことを許すはずもなく

「母さんを死なせたのは父さんと幸代じゃないか!」

尊敬していた父の裏切りに、浩一は父を殴らんばかりに睨みつけた。



       (二)

 浩一にとっての母の思い出は、まだ幼かった浩一を膝に抱き、絵本を読んでくれた頃のことが一番記憶に焼きついている。いつも母の着物は仄かな甘い香りが漂っていた。まだ幼かった浩一だが、その香りだけは強烈に覚えていた。浩一が中学に入学してからというもの、母は殆ど病院暮らしであった。そんな理由で、浩一が大人になってからの母は、いつも病院のベッドに座る小さくなった母だけであった。母が入院中の病室にもその甘い香りはいつもあった。

「浩ちゃん、いい香りでしょ」



差し出す母のか細く白い手には一枝の沈丁花が握られていた。



      (三)

 公認会計士の資格を持つ浩一は、経理部長として書類上、万亀楼の若旦那ではあったが、実権は幸代が握っていた。長一郎は老齢のこともあり、隠居の身の毎日であった。あんなにしつこく迫っていた幸代も、長一郎が男として役立たずと見るや、長一郎に対しての態度は冷たく、事務的になっていったのである。



 近辺の旅館が娯楽施設を完備した観光ホテルに様変わりしていく中、万亀楼は頑なに昔のままの姿を貫いている。ひと頃の温泉ブームの時も、テレビの旅番組や若い女性向け雑誌の取材はことごとく断わってきた。それも、この落ち着いた雰囲気を壊したくないという父・長一郎の願いであった。だが、今の状態では若者や若い家族連れ、団体客はあまり見込めないのが実情だ。浩一は今のままの万亀楼に固執していたが、幸代は今風の大型観光ホテルに造り替える野心を持っていた。そんな幸代と浩一は、経営上の意見のくい違いからことごとく反発していった。



      (四)

 万亀楼の板長である石井は、二年前に最愛の妻・由理絵を、過労が元の病気で亡くしている。

由理絵はそもそも、浩一が学生時代から交際しており、将来をも約束していた女性であった。

当時、浩一は東京の大学院で公認会計士になるべく、勉強に明け暮れていた。

由理絵は短大を卒業後、大学の研究室で教授の助手をしていた。浩一と知り合ったのは教授の紹介である。

石井が板前として働く店は、新日本料理店とでもいうのだろうか、安価で気の利いた和食を食べさせる店であった。それでも、夜ともなれば多少は値が張るため、教授に誘われて行くということが多かった。昼の『ランチタイム』は学生の身分でも充分に行くことが出来たので、浩一は由理絵と一緒によく利用していた。



二人は石井とも顔馴染みになっていた。親しくなるにつれ、石井は由理絵や浩一とは生まれ育った環境がまるっきり違うこともわかった。どこか陰のある寡黙な石井が、由理絵には気になる存在になっていた。

この店に行き始めて一年ちょっと経ったある日、浩一と待ち合わせをしていた由理絵だが、約束の時間になっても一向に浩一は現われない。ついに看板の時間になってしまい、石井は店の主人の了解を得て、暫くの間、暖簾だけをしまい店の入り口は開けておいてくれた。その後、一時間近く待った。それでも浩一は来なかった。仕方なく帰ろうとする由理絵に「もう遅いから」と石井はタクシーで由理絵の家まで送ってくれた。

翌日、店が開く前に由理絵は「昨日のお礼に」と手土産を持って石井を訪ねた。そんなことが引き金となり、由理絵と石井は急速に親しくなっていった。

浩一は前日のことを詫びるでもなく、「教授に誘われたら仕方ないだろ!」とだけ言い、「電話でもしてくれたらよかったのに」と言った由理絵を逆になじった。

世間知らずのお嬢様育ちであった由理絵は、浩一の夢を見守ることが出来ず、些細なことから口論することが多くなっていた。浩一と由理絵の心は次第に離れていった。

「高校中退で元・暴走族の板前なんかとんでもない!」と由理絵の家族の猛反対の中、駈け落ち同然に優しい石井との生活を選んでいた。由理絵の両親にしてみれば、浩一と石井とは家柄、学歴などあまりにも違いすぎていた。  由理絵のお腹にはすでに小さな命が宿っていた。その時は目先の幸せしか見えなかった。が、決して裕福ではない生活の遣り繰りの苦労は、何不自由なく育った由理絵にとって並大抵のものではなかった。短大時代に友達とよく行ったケーキ屋も、今ではショーケースを眺めながら通り過ぎるだけであった。有名ブランドのセールの案内よりも、スーパーの特売日のチラシが気になっていた。鏡の中には口紅もささない由理絵の顔があった。



「もしも由理絵が浩一と一緒になっていたなら由理絵は死なずにすんだかもしれない。身ごもった子供を七ヶ月の早産で死産することもなかったかもしれない。元々体のあまり丈夫ではない、お嬢様育ちの由理絵に苦労をさせたのは
自分なのだ」と石井は自責の念にかられていた。

 由理絵の三回忌後、石井は板前として万亀楼に住み込みで入った。石井を雇い入れることに浩一はいい顔をしなかった。石井は浩一に土下座までして頼み込んだ。石井は由理絵のことで浩一に負い目を感じていたため、浩一の実家である万亀楼をあえて選んだのかもしれない。

由理絵の死から二年経ても、妻を忘れることは一時もなかったが、男盛りである石井は当然、男の欲求には勝てず、幸代を欲求のはけ口にしてしまっていた。そんな時の幸代はまるで石井よりも年下の女性のようにしおらしく、石井の言うままに抱かれるのであった。時には年上の女らしく激しく身悶える夜もあった。



      (五)

 万亀楼の女将としててきぱきと仕事をこなす幸代は以前にも増して色気を漂わせ、板長の石井を誘惑し始めていた。石井は真面目ではあるが、なかなかの男前である。石井が板前として万亀楼に入ることになったのも幸代の強い要望であった。そんな石井を放っておく幸代ではなかった。

「お店を持たせてあげるわよ。いつまでも使用人じゃいやでしょ?!」

女の武器で石井を上手く丸め込んだ幸代は、数名の板前と仲居を万亀楼から引き抜き、熱海に料理屋を開店させた。残った僅かな板前と仲居では当然、対応も鈍くなり客足も遠退く。常連客は「板さん代わったの? 味が落ちたね」と予約を取り消す。万亀楼の収入は激減していった。

そんな中で佐和子の七回忌の法要を無事に済ませた翌月、心労からか長一郎が逝った。



      (六)

 万亀楼を救うための浩一に残された道はただ一つ、幸代に戻って来てくれと頭を下げることであった。そうすれば、必然的に板長の石井も、腕利きの板前も戻って来る。が、それは万亀楼を幸代の構想である、大型観光ホテルにする
こと、そして、父と幸代のことを認めることになる。由理絵を奪った石井をも許すことになる。

浩一にとっては辛い選択であった。だが、万亀楼を存続していくための残された方法はそれしかなかった。

父と母が眠る墓に手を合わせた浩一は、胸中に辛い決心をして、水桶を手にその場を後にした。

甘い香りに振り向けば、風が沈丁花を淋しく震わせていた。


          【終】


〔あとがき〕



 書くということは大変根気のいる作業である。日頃、根気のない私ではあるが、なぜか書くことだけは続いている。『好きこそものの上手なれ』(自己満足であって、決して上手いとはいえないが)やはり、「好き」だからできることなのだ。



                                                      立原 麻沙





 キャスト

【配役】

浩一…………美木良介     
浩一の父……杉浦直樹    浩一の母……八千草薫     

石井…………新沼謙治          
幸代…………野川由美子   幸代の息子…萩原聖人

由理絵………常盤貴子     
由理絵の父…風間杜夫    由理絵の母…山口果林
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創作「この愛を君に」

2008-01-15 | 創作【アーカイブ】
    この愛を君に 
               
       (一)

 「優子、来てごらん。焼き上がったぞ」

裕樹の呼ぶ声に洗い物の手を休め、丘の上の窯場へと急いだ。

「わぁ、素敵な色! これで有名陶芸家の仲間入りね。あなたのパパは陶芸家の大先生なんでちゅよ」

優子は目立ち始めたお腹にそっと手を触れた。

「これで貧乏生活ともおサラバできるよ。優子には苦労をかけたな」

裕樹は優子の肩をそっと抱いた。そんな二人を木陰から温かくそっと見つめる二つの人影に、裕樹と優子は気づいていない。

「やっぱりこういうことだったんスか。邪魔者は去るのみですね。二人の幸せそうな顔を見せつけられちゃたまらないっスからね」

「二人とも今度こそ幸せになれよ」

藤木はそっと呟くと歩き出した。後を振り向き、眩しそうに目を細めた。

「フミヤ、行くぞ」

車のエンジンをふかし、ふっとため息をつくと煙草に火をつけた。



       (二)

 今から四年前の秋、中林優子は家の近くにある陶芸教室に入会した。彼女は人妻であったが、どことなく少女の面影を残していた。その横顔に一抹の淋しさを隠していたのを村井裕樹は見過ごさなかった。それもそのはず、彼女は半年前に、間もなく一歳のお誕生を迎えるわが子を『乳幼児突然死症候群』で失っていたのである。わが子を失って魂のない人形のように毎日を暮らす妻に、夫は生け花教室やらパッチワーク教室だのといったパンフレットを取りよせては
妻の元気な笑顔を取り戻そうとしていた。

優子の夫、誠一は短大の教授である。優子は教え子の一人であった。年齢が一廻り近く離れていることもあり、誠一は優しかった。優子は教室で作った花器に花を生けてテーブルに飾り、作った皿に料理を盛りつけ、食後は揃いのコーヒーカップで安らぎの時間を持つようになっていた。その頃には笑顔も戻ってきた。教室の講師である村井、藤木とも次第に親しくなり、他愛のない世間話をすることも出来るようになっていた。ただそれだけのことなのに、優子にとっては毎日が輝いてみえた。ところが誠一は、二人の若手陶芸家と妻の関係を執拗なまでに詮索するようになり、何かにつけて妻の行動を疑った。そんな時、夜の営みは激しさを増した。それはやはり年齢差からくるものであったのだろうか。



 ある日、村井が優子を食事に誘った。

「今度教室の皆で食事会をするんだけど来ませんか? 藤木先生もフミヤも来るし…」

その夜、優子は誠一にそのことを話した。

「お食事会に行ってもいいでしょ」

「ああ、行っておいで。たまには羽根を伸ばしてくるといい」

ものわかりのいい優しい夫を演じている誠一であった。

 当日、優子はおしゃれをして待ち合わせの店に出かけていった。その日は土曜日ということもあり、店はかなりの人でいっぱいだった。が、知っている顔は誰もおらず、一人で座っていた。するとそこへ村井が回転扉を押して入ってきた。

「やぁ、待たせたかな。ゴメン」

「先生お一人ですか? 他の皆は…」

「藤木先生にもフミヤにもフラれてしまってね。というのは嘘で、ほんとは誰にも声をかけていないんだ。皆との食
事会とでも言わなきゃ君を誘えないからね」

村井は優子を見つめた。そんな村井の視線をそらすかのように優子は

「あ、あの…、私、一時間くらいしかいられないんです。すみません…」

申し訳なさそうに小さな声で言った。

「ご主人が心配しているんだ。妬けるね」

ワイングラスをテーブルに置くと村井は呟いた。

男の人と二人きりでの食事。村井とは何でもない関係なのだ。それなのに胸がドキドキしてくる。そんなことが優子は無性に嬉しかった。男は夫一人しか知らないし、その夫ともときめくような恋をして結婚したわけではない。そんな時は自分が結婚していることを忘れていた。

亡くしたわが子や夫のことを忘れたわけではなかったが、優子は次第に村井に魅かれていった。



「恋とかそういうものじゃないわ。これは単なる憧れ。そうよ、だって私は人妻だもの」と、結婚している身でありながら他の男に魅かれていく自分の気持ちに何度も何度も言い聞かせた。



 そんな気持ちを昂ぶらせる決定的な事が、誠一と優子の間に生じた。誠一に女がいるということを夫の口から聞かされたのである。その女は、短大の研究室で誠一の助手を務めている女性であった。むろん優子よりは年上である。そんなことはどうでもよかった。それだけなら許せたかもしれない。だが、もう一つの信じがたい事実をつきつけられたのである。彼女には五歳になる娘がいた。父親は誠一であった。誠一の話は「小学校入学前までに子供を認知することにした」というのである。信じられないことであった。自分の妻と同時進行で、愛人にも子供を産ませていたのである。その頃、優子はわが子を亡くし失意のどん底にいた。だが彼女の子供は満一歳の誕生日を迎えていたのである。優子のまるっきり知らないところで。



今の今まで夫を信じてついてきた。真面目一途の地味な国文科教授で、浮いた話など聞いたこともなかった。当然、外に女をつくるような人ではないと思っていた。誠一が優子と結婚したのも、学部長の薦める見合いだった。優子の父は大学の国文科でもかなり有力な教授であり、当然のことながら、学部長には逆らわないのが教授への早道だということを、誠一自身充分に知っていた。

「中林くん、今度の教授会で君を次期教授に推薦しようと思うのだがね。まぁ、君なら女などの問題でとやかく詮索されることもないだろう。だがくれぐれも身辺は綺麗にしておきたまえ」

助教授時代にこう言われてうなずいた誠一であった。だが、教授になった途端に女をつくって子供まで産ませた。すべてが崩れ落ちた。優子は信じていた夫に裏切られて、もうどうでもよくなっていた。



       (三)

 久しぶりに陶芸教室へ行くと、村井の姿が見えない。

「村井先生はお休みですか?」と藤木に尋ねる。

「知らなかった? 村井先生は先週で辞めたんだよ。何でも親父さんの遺した甲府の窯場で本格的に陶芸をするとか言って。それ以上のことは聞いてないけど…」

藤木の言葉に優子は足が震えた。

「あっ、これ預かっていたんだ」そういうと藤木はポケットから白い封筒を優子に手渡した。

「ラブレターかな?」

おどけたフミヤの言葉は優子の耳には入らなかった。



 行き先は決まっていた。気がつくと新宿駅の中央線ホームに立っていた。松本行き特急『あずさ』が入ってきた。列車の座席に腰を降ろすやいなや、藤木から受け取った白い封筒を開け、手紙を取り出した。



『前略。突然ですが、甲府へ戻ります。親父の遺した窯を継いでいこうと思います。君が僕のアパートを訪ねてきた夜、初めは正直言って少し途惑いました。このまま帰すべきだと思いました。君の幸せのために。けれど、君の打ち明け話を聞いて無性にいとおしく感じられました。僕を信じてそんな大切なことを話してくれたこと、とても嬉しかったです。心から好きになった人の前では一途になれるものだということを改めて実感しました。でも君は人妻だから、まさか「好きだ」なんて言えるわけはなかったし…。気持ちだけ受け取って貰えれば嬉しく思います。君に何も言わずに去って行く僕を許してください。これ以上君の側にいたら、君の家庭を壊してしまいそうで怖いのです。「バツイチ同士もう一度やり直せたら…」なんて都合のいいことも考えました。君はまだバツイチじゃないのに、心のどこかで君がバツイチになることを期待していた……。

追伸。いつまでも待っています』

涙が便箋の文字をにじませて最後の一行はぼやけた。が、そこに書かれている言葉の意味ははっきりとわかった。

もう迷わない。自分の気持ちに嘘はつけない。

 夫の誠一から愛人のことを聞かされた夜、村井のアパートを訪ねた。それがどういうことを意味しているか、わかっていた。自分でも驚くほど積極的になれたと思う。ただ誰かに側にいてほしかった。村井にすべてを打ち明けた。村井は何も言わずに抱いてくれた。その時、温かいものが優子の頬に落ちた気がした。村井は優子のために泣いてくれた。



 駅に降りたら裕樹の4WDが見えた。藤木とフミヤが連絡したのだった。

「やだ。藤木先生もフミヤくんも気を利かせたつもりなんだ」優子は心の中でそっと呟くと、急いで涙を拭った。泣き笑いの顔に青空が眩しかった。改札口を抜けると、涙まじりの笑顔で裕樹の4WDに手を振った。   

                    【終】
                      

〔あとがき〕



 ほとんど自己陶酔、自画自賛の世界である。『趣味』なんていうものは結局、己の為に己で楽しむものであるわけだから。別にこれで喰っていこうとか、そんなとんでもないことは考えていない。ただ、私個人のみで楽しむのなら誰にも迷惑をかけないのだが、こんなものを読まされた方は災難かもしれない。許せ!



                                                         立原 麻沙







                 † ‡ † ‡ †



 キャスト

【配役】

優子………永作博美     村井裕樹…真田広之     
中林誠一…三田村邦彦     
藤木………仲村トオル    フミヤ………河相我聞

優子の父…山本學      学部長………田村高廣
優子の母…根岸季衣     誠一の愛人…名取裕子      
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創作「君だけにLOVE」

2008-01-15 | 創作【アーカイブ】
        君だけにLOVE

                (一)

 「先週の火曜日は正直言って驚いた。まさか由季ちゃんとあんな所で再会できるなんて思ってもみなかった。十年一昔というけれど、お互いに中学入学後は手紙も途絶えてしまったし。とにかく哲也と洋子さんには感謝しなければいけないね。謝々! 二人がつきあっているおかげで僕と由季ちゃんは再会できたんだから。

 P.S. 小学生の時と比べてすっごくキレイになっててまたまたビックリ!

山本由季様                                        渡辺幸平より」



 「先日はお手紙をどうもありがとう。私も『えっ?!』って感じでした。私の目の前にあの頃の幸平くんがいるなんてとっても信じられなかった。私の知っている幸平くんは小学校三年のいじめっ子の幸平くん。それがあんなにステキになっちゃって! ホントに信じられなかったよ。ヨーコの彼が野球部にいるっていうんで短大の友達と見に行ったわけ。野球はともかくお目当てはヨーコの彼。そしたらメンバー表に『渡辺幸平』って名前があるじゃない。初めは同姓同名の別人二十八号かと思ってたんだよ。試合後、私たちのところへ来るなり『オマエ泣き虫オモラシののユッキじゃん? オレだよオレ! ナベさんちの幸平だよ』ってそれはないんじゃない、皆の前で。姿形はカッコ良くなっていたけど、あの一言ですぐに幸平くんだってわかったよ。言葉の悪いのは変わってなかったもん。でも、ほんとのところどんな形にせよ、再会できて嬉しかった。

渡辺幸平様                                        山本由季より」



 「あの時はゴメン。オレって口悪いからさ。小学校三年の時、オヤジの仕事の都合で群馬に移って以来、東京は久しぶりだろ。すっかりカントリーボーイになってしまって。シティボーイの僕とあろうものが。なんせ新里(にいさと)村なんて言うんだぜっ。今時ムラだぜ。む・ら! まあ地名のことをとやかく言うすじはないけど、せっかく東京の大学に入ったのだから、これからはトーキョーライフをエンジョイしようと思ってはいるものの、野球部員の現実はそんな暇
がないんのよね。練習練習の日々。なんせ二年後のエース、将来はプロ野球のスターと期待されているこのナベちゃんだからね。由季ちゃんとのデートもままならないもんナ。哲也たちはどこでどうして会っているんだろう? そうか、哲也は将来もベンチ控えだからデートしててもかまわないんだ。

                                             渡辺幸平より」



 「幸平くんは二年後のエースなんだ。そして将来はプロ野球のスター! そんなカッコイイ人と幼な馴染みだったなんて、なんかハナ高々! でも、一つだけ心配。女の子にキャーキャー言われてモテモテになってしまうんだろうなぁ。私の手の届かない人になってしまいそうで…。活躍するのは嬉しいけれど、あんまり目立ってほしくない。そんなワガママ由季です。

                                             山本由季より」



 「やっぱ僕としてはプロが目標だから目立ってしまうだろうなぁ。なんせカッコいいナベちゃんだし。でも心配無用! 由季ちゃんを泣かせたりはしないぜっ。入団発表と同時に婚約発表もしてしまおうってか!

 P.S. あるツテで米米クラブのチケットが二枚、手に入ったよ。

                                             渡辺幸平より」



 「先日のコンサートは大盛り上がりで疲れてしまったのダ。やっぱコメコメはいいよねっ。カールスモーキー石井さん、ステキ! あっ、ゴメンね。今度はドリカムのコンサートに行きたいナ。

 P.S. でもほんと、チケットよく手に入ったね。謝々です!

                                             山本由季より」





 「そうなのダ。あのチケットはやーっとの思いで手に入れたものなのダ! そのうえ一般学生と違って野球部員はバイトができないから超ビンボーなのだヨ。休みもほとんどないし。なのに今度はドリカムだって?! オイオイ!

 P.S. あんまり会えなくてゴメン。

                                             渡辺幸平より」



 「ドリカムや小沢健二のコンサートに行けなくたって神宮球場で元気な姿の幸平くんを見ているだけでいいの。幸平くんには神宮のマウンドがイチバン似合うもんね。

                                             山本由季より」



 「今年プロに入った先輩が寮に遊びに来ました。まだ二軍なのにソアラなんかに乗っている。『一軍に上がったらBMWを買うんだ』と言っていた。やっぱプロの選手だなぁ、というジッカン。オレなんかチャリンコだぜっ。それもママチャリ。バイクどころかマウンテンバイクも買えない…」

                                             渡辺幸平より」



 「やったゾ! 由季、喜べ! 背番号十八番をもらったゾ。十八番というのはエースの背番号なんだゾ! ジャイアンツは嫌いだけど、オロナミンCのコマーシャルにもあるだろ。♪こぉーどもの頃か~らエースで四番♪ってか!もうブルペン控えピッチャーなんて言わせないゾ!

                                             渡辺幸平より」



 「おめでとう! 来年の三月で私は卒業だけど、幸平くんは四大だからあと二年ですね。ガンバッテ! 私は卒業後、就職もせずにブラブラするつもりです。優雅でしょ。

                                             山本由季より」



 「由季、近頃手紙がこないようだけど…。どうしたのかな?

                                             渡辺幸平より」



 「由季と洋子さんの卒業記念パーティーを哲也と計画しています。

                                             渡辺幸平より」



 「幸平くん。実は、お見合いの話があります。誰にって、もちろんこの私にです。信じられないでしょ。私も信じられない! 相手はパパの知り合いの息子さん。な、なんと! 大学病院のお医者さまです。お見合いといってももう話はほとんど決まっていて、たぶん短大卒業直後の三月に結婚式となりそうです。向こうのご両親も見合い相手も(信じられないでしょうが)私のことを気に入った様子です。というよりアセっているのか、せかされています。私はというと、少し早いかなぁと思ってはいるものの、相手の方が超ステキな人なのでグラグラ震度四くらいです。幸平くんが『プロ入団発表の時に婚約発表もしてしまおう』なんて言っていたのを思い出して、あれはどういうことだったんだろう…なんてへんなふうに意識しちゃったりして。アハッ、バカみたいだね。幸平くんお得意のジョークに決まっているのに。だって友達だもん。

                                             山本由季より」



 《『バカだね、由季。何を期待してんのよ!』とこの手紙は投函出来ずに引き出しの中にしまいこむ由季であった》



             (二)

 「由季、結婚したんだって?! マジかよ? 水クサイじゃないか! なんで黙ってたんだよ。哲也と洋子さんのセンから聞いた。そういや卒業記念パーティーにも風邪気味だとか言って来なかったね。あまりの電撃スクープにブッ飛びのナベちゃんです。野球場で黄色い声をはりあげている由季がねぇ。ま、とにかくおめでとサン。幸せになれよ。月並みな言葉だけど。

山本(じゃなかった)三田村由季様

         渡辺幸平より」



 「幸平くん。お見合いのこと結婚のこと、隠していたわけじゃなかったのです。ただなんとなく言いづらくて…。

報告します。短大を卒業した三月に式を挙げました。結婚なんてまだ早いと思っていたのに、パパの知り合いの紹介でなんとなく決まったというカンジ。相手は十歳も年上のオジサンです。大学病院の医局医で、なかなかのハンサムです。俳優の羽場裕一さんに似ています。家は成城で、お父様は医学部教授、お母様は超ビジン! 私なんかでよかったのかなぁと今頃になって思っています。この生活環境では野球なんか見に行けそうにありません。幸平くんの大好きなあのお肉屋さんのコロッケを、もう一度歩きながら食べたいです。お金が足りなくて一つのコロッケを二人で食べたね。一緒に飲んだビールの味も忘れられません。それがバレて、幸平くんが監督さんに思いっきり殴られたって言っていたね。幸平くんとももう会ってはいけないのカナ? 私は一応人妻だからフリンになっちゃうね。But! 私たちは幼な馴染みの友達だよン。

渡辺幸平様                                       三田村由季より」



 「幸せな人妻の手紙にしては何かクライけど。僕の思い過ごしか? 僕もこれからは手紙を書かないほうがいいかな。でも、ベビー誕生の時は今度こそ知らせろよ。出産祝いくらい贈ってやるからさ。それから。一つのコロッケを半分ずつ食べたことはご主人には内緒にしとくように。何年たっても言っちゃダメだ。僕と由季は友達だけど、そう
いうことって、なんちゅうか恋人っぽいだろ? そんなことを聞いたら大人のご主人でも超ムカツクと思うしサ。

 P.S. ご主人の真一さんにもよろしく。

                                             渡辺幸平より」



             (三)

 「幸平くん。お元気ですか? 私はというと、毎日炊事・洗濯・掃除とシッカリ主婦しています。山本家の生活と三田村家の生活の違いに今とまどっています。『ご実家ではそんなふうになさっていたの? 』なんて、ほんと嫁姑の闘いをジッカンしています。あんなことはドラマの中のことだと思っていたのに。先日の幸平くんからの久しぶりの電話、私としてはすごく嬉しかったです。が、お母様に取り次がれたのは不覚であった。皆とは相変わらず神宮球場で今でも一緒によく会っているんだ。何かうらやましい。久しぶりの幸平くんの声を聞いて、ほんと懐かしくて嬉しかった。でも、その後のお母様の冷たい視線。ウッ、どうのりきるか? 幸平くんはただの幼な馴染みなのに。ほんとにほんとに友達なのに…。手紙、これからは私のほうから書きます」

                                            三田村由季より」



 「幸平くん。あんな所で偶然に会うなんて…。これはもう奇跡としかいいようがありません。あの日は医局のお医者さまたちがいらっしゃる日で、めずらしく主人がスーパーにつきあってくれたのです。あんなところを幸平くんに見られちゃって…。荷物が重いから主人に『持って』と言っただけなのに、いきなり『男がスーパーの袋なんかぶらさげられるか! 』と私もビックリの平手打ち。周りの人たちも目が点になっていた。途方に暮れていた私に、何も言わずに持ってくれたのは何と! 幸平くんだった。嬉し恥ずかしの涙まで見られてしまった。結婚してから主人とは、買物も食事も映画も旅行も近所のスーパーにさえ一緒に行ったことがないんです。そのうえ私が外出するのはあまりいい顔をしない。実家に行くのですら。まして友達と野球なんてとんでもない! 一度『クッキングスクールに
行きたい』と言ったら『何も金を出してまで料理なんて習うことないだろ。かあさんに習えばいいだろ』と。お料理のイロハも知らずにお嫁に来ちゃったし、それにそういう所へ行けば話し相手も出来るかなぁという理由でした。結婚して初めてのゴールデンウイークの頃、医局のお医者さまたちに『奥様も』とテニス旅行に誘われ、ルンルンしてました。すると主人、『オレだけ行くに決まってるだろ。一緒にというのは社交辞令だよ。そんなこともわからないのか? このバカ! 』という冷たい一言。はしゃいでいた私はあきれるほどバカみたいで、笑ってごまかしてシマッタ。当日、迎えに来た方たちは私が行かないのを怪訝そうにしていたけれど、主人はさっさと車に乗って行ってしまった。お土産もなかったよ。一緒に行ったお医者さまからかわいいキーホルダーを貰った時は嬉しくて、その夜一晩中泣いていた。旅行から帰った日、お土産らしきものがあったので『これ、私の? 』と聞いただけなのに主人は『バカ! さわるな。オマエのじゃないんだから』と怒鳴られてシマッタ。あれは一体誰に? すっごくキレイなラッピングだった。外科部長や婦長さんではないと私はニラんだ。同僚のお医者さまに『ご主人のシャレたポーチにはかないませんけど』とキーホルダーを貰った時に言われたけれど。私、そんなもの貰ってない。貰ってないゾ!

                                            三田村由季より」



             (四)

 「幸平くんからの電話の時以来のお母様の目といい、幸平くんとスーパーで会った時以来の主人の目といい、すごく冷たいものを感じる。幸平くんと私、もう会っちゃいけないの? 電話でおしゃべりするだけでもダメなの? 手紙も私のほうから書くだけ。私たち、幼な馴染みの友達なのに…。

                                            三田村由季より」



 「あのテニスのお土産はお母様にあげていたことが判明しました。愛人じゃなくてちょっぴり安心。でも、これって少しばかりブキミです。医局のお医者さまたちが遊びにいらした日、実家のママに作ってもらったキンピラを『主
人が好きなので実家の母に作ってもらったんです』と私が作ったんじゃないことをバラしてしまい、大いにウケていました。すると主人は『オレがいつオマエの家のキンピラを好きだって言った?! オレが好きなのはカアさんのキンピラなんだ』と怒鳴り、それ以後絶対に箸をつけなかった。以前、私の作った味噌汁も一口すすったきり『カアさんの味を見習えよ! 』と箸を投げつけた。ヒョッとしたら主人は冬彦さんなんじゃないかと今頃になって思ったりしています。そういえば幸平くんはママのキンピラが好きでよく食べに来てくれたね。よかったらこれからも家にママのキンピラを食べに来てください。幸平くんのご両親は群馬だから、ちょくちょく帰るわけにはいかないでしょ。自分の実家だと思って、パパのお酒の相手もしてやってください。娘が嫁に行って寂しいでしょうから。

                                            三田村由季より」



 「由季のお母さんのキンピラはサイコーだよ。由季がそう言ってくれるなら毎日でも食べに行ってしまおう。毎日毎日、合宿所のオバチャンの料理だもんね。でも…。由季の家に行っても由季がいないんじゃつまらない…。

                                             渡辺幸平より」



              (五)

 「幸平くん。ずーっとお手紙を書かないでごめんなさい。実は私、入院していたのです。主人は一人っ子だし、主人のご両親も跡取りの誕生を待ち望んでいました。でも、私の不注意で…。もっと私が気をつけていればよかったのかも。主人はそれ以来、以前にも増して冷たくなりました。主人のお母様には、流産したのは私に気の働きがなかったからだと責められました。私だって赤ちゃんの顔を見たかったよ。私だけが悪いわけじゃないのに…。つわりがひどくて体調が最悪だった日に主人はゴルフに行ってしまったし、お母様だってお友達をドッと連れて来たし…。少しも私のことなんか考えてくれなかったじゃない! ヤダ、こんなグチを聞いてもらうために幸平くんに手紙を書いたんじゃないのに。ゴメン、ゴメンね。まだ体がほんとじゃないみたい。主人と主人のお母様が冷たくなった本当の理
由、実は…。『もう子供は望めない』とお医者さまに言われたそうです。その後、お母様が主人に『子供の産めない嫁なんて! 』と言っていたのを聞いてしまったのです。ショックでした。もう赤ちゃんができないという哀しさも主人や主人のお母様の態度も。私たち、もうダメかもしれない。ヤダ、こんなことまで幸平くんに書いてしまった。ゴメン、ゴメンね。私、体だけじゃなくて頭までおかしくなったみたい。

                                            三田村由季より」



 「由季。今までの君の手紙を読んで僕は決心したよ。大学を辞めようと思う。なーに、選り好みしなければ仕事は肉体労働でも何でもあるさ。野球はどこだってできる。プロばかりが野球じゃないし。愛する由季を幸せにするために僕が出した結論です。一緒に暮らさないか? そんな家にガマンしていることはない。妻をセックス付きの無料家政婦くらいにしか思わないような超関白マザコン男と、嫁は子供を産んでひたすら夫や夫の家族に仕えるためだけのものと思っているような姑にいつまでも耐えていることはない。バツイチくらいオレはかまわない。子供がいなくても二人でずーっと、死ぬまで仲良くやっていこうぜ。僕には由季を幸せにする自信がある。必ず幸せにしてみせる!小学校三年の時からずっと君を見てきた。あの日、神宮球場で十年ぶりに再会した日にそれを強く確信したんだ。僕たちはただの幼な馴染みなんかじゃなかった。僕たちはただの友達じゃないってことを今頃になって気づいた。少し遅過ぎた。でもこれからは絶対に君を離しはしない。いつもジョークばかりの僕だけど、これだけはマジです。由季、愛してる。 プロ野球選手の奥さんにはしてあげられないけれど。もう一度二人でやり直してみないか? もう一度二人で、あの肉屋のコロッケを歩きながら食べよう。

Dear My YUKI

                                              From KOUHEI With Love」



                                                      【終】
            

〔あとがき〕



 日頃、ドラマが好きな私なので、何やらいろんなドラマの『寄せ鍋風』味付けになってしまった。それにしても、何ともクサいタイトルをつけたものだと我ながら赤面してしまう。プリントアウトされたものを読んでいて『カアさん』と書くと何やら「からすのカアさんみたいだ」と一人笑いこけていた。(箸が転がっても可笑しい年頃ではないのにネ)



                                                                    立原 麻沙







             † ‡ † ‡ †



 キャスト

【配役】

由季…………鶴田真由     幸平…………木村拓哉     
三田村真一…羽場裕一

由季の父……橋爪功      幸平の父……蟹江敬三     
真一の父……神山繁

由季の母……日色ともゑ    幸平の母……倍償美津子    
真一の母……馬淵晴子



哲也…………松岡昌宏

洋子…………水野美紀
コメント

うふ♪(* ̄ー ̄)v

2008-01-14 | 日記・雑記【アーカイブ】
「でも、恥じらいのない女性は魅力ないよ。

男を惹きつけるタイプかもよ~~~^^」

と、言ってくれた人がいた(@⌒ο⌒@)b ウフッ
うふ♪(* ̄ー ̄)v
キャッ(^^*))((*^^)キャッ
あなうれし(* ̄▽ ̄*)ノ"
たぶんそうだと
自分でも思う(*≧m≦*)ププッ
(・_・)ヾ(^o^;) オイオイ
自意識過剰だって|* ̄m ̄)ノ彡☆ププププ!!バンバン!☆




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