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最近見たオークション出品の東南アジア古陶磁#14とサンカンペーン窯について

2020-01-19 09:17:56 | 東南アジア陶磁

写真のサンカンペーン褐釉印花双魚文盤が出品されている。開始価格は15,000円だったか16,000円だったか? タイは年々経済成長し、古美術品価格は上昇の一途である。出品された写真の盤は、タイでは15,000バーツはするであろう。実に15,000円の3.5倍はする。いずれこれらの品々は、故郷のタイへ還流するものと思われる。

尚、出品された盤は本歌(本物)である。褐釉は鉄成分を含み、これが酸化焔焼成により褐色となる。その中で出品の盤は、ガラス成分が少なく、釉薬の発色に光沢がない。一見、朝鮮古陶磁にみる伊羅保釉のように見える。実はこの手の釉薬の印花双魚文盤はそれなりの数量が存在する。

以下、サンカンペーン褐釉印花双魚文盤に関する諸々についてご紹介する。サンカンペーン陶磁に関心をお持ちの方は必見と考えている。

先ず、一口にサンカンペーン窯とかサンカンペーン陶磁と云っても、焼成窯は幅広く存在する。早いもので13世紀末からスタートし、全盛期は14から15世紀と思われる。下にグーグルアースを借用し窯場の範囲を紹介する。

北タイ陶磁の泰斗J・C・Shaw氏は、サンカンペーン窯を以下の如く分類しておられるので、それに従うものとして紹介する。

 Wat Chiangsaeng Group

 Wat Phatung Group

 Jam Per Born Group

  Gor Bong Sub-group

  Ton Haen 1 and 2 Sub-group

  Dong Dam Sub-group

  Ton Joke Sub-group

  Doi Tong Sub-group

 Sae Sorn Group

以上のように分類されている。合計70基以上と云われている。北タイ陶磁については不明な点が多々あり、サンカンペーン窯もその例にもれず、分からない点が多い。

後程紹介するが、褐釉印花双魚文盤はバリエーションが広く、少なくとも複数それも10基以上の窯で焼成されたであろうと思われる。それにしては、焼成された窯が1基以外に特定されていないのである。

その1基とは、Huay Bwack Ping(フェイブワックピン)窯と呼ばれ、タイ芸術局の調査で褐釉印花双魚文盤片が採集されている。また、故・岸良鉄英氏と清野昭雄氏等の東南アジア古窯址調査会のメンバーが、1996,12,10にフェイブワックピン窯から、写真の陶片を採取したと報告されている。

この陶片は、茶褐色で光沢のある釉薬が用いられている。この発色をした盤も所謂約束事にかなっている。つまり、この釉薬がかかる盤は、サンカンペーンのフェイブワックピン窯の焼成になるものである。

そこで、このフェイブワックピン窯の位置であるが、先のグーグルアースに示したTon Joke Groupの端で下写真の場所と思われる。思われると云うのは、当該ブロガーは現認しておらず、先の東南アジア古窯址調査会の報告記事の内容から類推したものである。合わせて白抜き丸のダム湖から流れるクリークの周辺には、写真の窯址(筆者現認・撮影)が存在することによる。

(上掲、白丸ダム湖から流れ下るクリークの脇に存在するトン・ジョーク窯址)

サンカンペーン古陶磁で、この褐釉印花双魚文盤は数の上ではメジャーな存在である。先のJ・C・Shaw氏によれば、タークの山岳墳墓から100点以上が出土したと云われている。その中には多様な双魚文盤が含まれている。次にそれらを紹介する。

これは、オークション出品の盤である。先のフェイブワックピン窯の盤の釉薬と組成はことなり、伊羅保釉のような発色をしている。しかし両者の胎土の組成比較をすれば、どのような判断になるであろうか?

この釉薬と似て、印花文様が微妙に異なる盤も存在する。それが次の盤である。

この2つの盤は、何やら兄弟のように思われ、同一の窯で時間差によるものか、あるいは同時期で近隣の窯によるものか不明である。

以下、どのような双魚文盤が存在するか羅列してみる。

見て頂いたように多様性があり、これらが同一の窯で、異なるのは時間差、つまり焼成された時期が異なる・・・との説明には無理があるように思われる。

従って、フェイブワックピン窯以外にも、褐釉印花双魚文盤を焼成した窯が存在したであろうと考えるが、それに関する情報が皆無である。

治水と灌漑目的のためダム湖が作られた。合計3箇所である。Ton Joke窯の大半がダム湖の底に沈み、Wat Patung窯は破壊され、Jam Pa Born窯は民家の下敷きになった。Wat Chiangsaen窯は保存されているが、褐色釉の陶片は出土しない。従って不明な点が多いサンカンペーン古陶磁である。

余談であるが、先に約10事例の盤を紹介した。これだけで真贋を判定はできないが、少なくとも当該事例から逸れる盤は、疑ってみるのが被害にあわない術と考えている。

<了>

 


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