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And This Is Not Elf Land

OUR TOWN (Jan 31)

作者のソーントン・ワイルダーも、21世紀のロングランは想像していなかったのではないでしょうか?今やオフ・ブロードウェイの定番となった『わが町』

この作品を(アメリカで)観たのは4回目。
このプロダクションでは3回目。
この劇場では2回目…

しかし、ウェストビレッジの劇場での「夜」のショーというのも…なかなか大変でしたよ!場所がわからん!!!

W4stで地下鉄を降りて、地上に出て、少し地図を頼りに歩いてはみたんですが…「自力で」劇場に辿りつくのは早々にあきらめました。で、キャブを拾ったんですが…私のgoogle地図のプリントが悪かったのか、はたまた私の英語が拙かったのか、ドライバーの勘違いなのかわかりませんが…(前回は、自力でも、そんなに迷うことなく着けた気がするんですけどね~)(それよりも、最近のNYのキャブドライバーは「当てにならなくなりつつある」と感じているのは私だけ?)とにかく、素っ頓狂な場所で降ろされてしまいました!でも、道を尋ねた人たちが、皆さん親切で、どうにか開演前に劇場にたどり着きましたよ!みなさん、ありがとう!


さて、この劇については何度も取り上げていますが(関連記事はこちらに)今回の観劇作品については「キチンとしたレビューを書く」を目当てにしていることでもありますし(これがまた、私にとっては大変なのだ)いま一度、初めての方にもわかりやすいように紹介いたしましょう。

これはソーントン・ワイルダーの1938年発表の3幕劇。ピューリッツアー賞にも輝いています。

ニュー・ハンプシャーの架空の町「グローバーズ・コーナーズ」が舞台。ステージには2セットのテーブルとイスがあるだけ、道具も最小限、主に俳優たちの身振り手振りで演じられます。

1幕で描かれるのはグローバーズ・コーナーズの「日常」
医師をしているギブ氏の家と新聞の編集者であるウェブ氏の家は隣同士でした。それぞれに高校生の息子と娘がいて、二人はお互いを意識し始めています。両家の妻たちは典型的な良妻賢母。てきぱきと家事をこなし、教会でのコーラスの練習を楽しみにしています。コーラスの指導をしているのは町に住む芸術家肌の男性でしたが、彼は非社交的でアルコール依存のうわさもありました。しかし、小さな田舎町では、彼のような人間とどう付き合ってよいものか、いい知恵を持ち合わせている人間はいませんでした。あと、新聞配達の少年や牛乳配達の男性、警官などが登場します。すべて、身振りでの演技で、観る者の「想像」で補完されます。

2幕はウェブ家のエミリーとギブ家のジョージの恋愛と結婚が描かれます。これ、ちょっと「順序が逆」に描かれるのがミソですね。

とにかく、今回はなぜか私は結婚式のシーンで泣きました。何故かわかりません(?)今回の短いNY滞在…全てが「濃すぎて」(?)軽い興奮状態だったのかもしれません。はたまた、後ろの席の女性が笑うわ、泣くわ…非常ににぎやかな人で、で、彼女の感情の起伏が、私にまで伝染したのかもしれません。どっちにしても、自分のキャラでは「結婚式に感動する」ということなど、まずありえないはずなのです。今でも、他人の結婚式なんて、一番出席したくないものの一つです!人の幸せなんて、傍で見ていて何が面白いの?(はいはい)

でも、今の時代のように「結婚しない選択」も普通に受け入れられている時代と違って、何かにせきたてられるように、若い二人が結ばれる。人間というのは、どんなときも「迷う」のです。でも、最終的には、究極の部分では「楽天的」に考えるんですよね…この「楽天性」がなかったら、人はまた違う生き物になっていたかもしれないと思う今日この頃なのだ~ここでも、善良な人たちがお祝いして…とくに、お人好しのソームズ夫人が「なんて、美しい式でしょう。私は若い人たちが幸せになるのを見るのが大好きだわ」と屈託なく叫ぶシーンで、私は泣けた!!

で、第3幕。式から9年後の設定になります…エミリーは第2子出産後、産後の肥立ちが悪く、亡くなってしまいます。描かれるのは死者たちの世界です。エミリーの姑に当たるギブ夫人もすでに亡くなっています。コーラスを指導していた偏屈な芸術家も死者の一人になっています。そして、あの屈託ないソームズ夫人も亡くなっているのでした。

実際、ここの死後の世界のシーンは、正統な演劇としてはあまりに「スピリチュアル」なシーンであると考えられ、公開当初は評価が分かれたといわれます。この場面で、エミリーは、一度だけでいいから現世に戻りたいと言います。しかし、皆は「そんなことをしても、絶望するだけだよ!」と止めるのですが…それでも、諦めきれないエミリーは、一番幸せだった12歳の誕生日に戻ってみるのでした。幸福な日々…しかし、そこにいる父も母も、あまりにも「当たり前」に与えられたときを生きているだけに見える。「なぜ、なぜなの?」「もっと私を見て!」「大切な一瞬に気づいて!」…絶望するエミリー

エミリー役のジェニファー・グレース…観るのは3度目。シカゴでの演技は感情をもっと激しく表現したのですが、NYでは抑えた演技になっています。しかし、それだけに現世への絶望感が観客と共有されてきます。(実際、シカゴではちょっと「力技」だったな~)

とにかく、この人とギブ夫人のロリ・マイヤーズあってのOUR TOWNの成功でしょう。この二人はもう「鉄板」の演技ですよ。ギブ夫人は鎖骨と首筋にドラマを感じさせるのです(?)そして、意志が強そうで、あまり笑わない…隣人のウェブ夫人はふくよかな外見の皮肉屋さんというイメージで、この二人のコンビネーションも素晴らしい。二人が豆を剥きながら、世間話をしているシーン…ここでも泣けた(なぜだ!?)

で、また私は大事なことを後回しにしておりますよ…

この劇は、ステージ・マネージャーが進行役になっており、彼の語りで話が進行するのです。シカゴで観たときは、監督のデヴィッド・クロマーがステージ・マネージャー役を務めていました。「まなざし」が印象的だった…で、9月に観たときは、この役は俳優のジェイソン・バトラー・ハーナーでした。この人が何気に私好みで(…)今回もこの「セクシーすぎるステージ・マネージャー(?)」との再会を楽しみにしていたら、あ~~~、変わっているやんか!!新しい人はえらく地味な兄ちゃんだ。(別に地味でもいいやろ、この役…笑)

でも、全体的には、演技のメリハリやバランスも良く、非常にいいプロダクションとして、さらなる成長を遂げたという感じでした。NYのローカル放送でも宣伝していましたし、町のあちこちでOUR TOWNのアドを見かけました。今やオフ・ブロードウェイの定番です。

この話自体は20世紀初頭の話であり、我々にとってはちょっと古さも感じる話なのですが…でも、不思議なもので、「だから安心して」観ていられるようなところがあります。この時代のありのままの現実を詳細に見せられるのだけど、観ている側が「その後の成り行きが見える」位置にいるというのは、大きな安心要素なのです。

劇中で、警官は、この町にも東欧からの移民が増えて、治安の状態も変わってきつつあると言います。こうやって、彼らの社会が変わっていくのは、その後の、たとえば『欲望という名の電車』でも描かれるとおりですが、ここではそこまで触れられません。女性の生き方も変わりました。劇中の二人の夫人と比べると、私たちはずっと家事からも解放されました。結婚に対する考えが変わったのは先に述べたとおり。盲腸や出産で命を落とすことなど、ごく希なケースに限られるようになりました。面白いのは、1幕の終わりにステージ・マネージャーのセリフ「10分間休憩します。煙草を一服やりたい方はどうぞ」ここは大爆笑になります。今はどこでも厳しい禁煙が敷かれている。

この話が「歴史」であると同じく、今生きている私たちも移りゆく歴史の真っただ中にいることを、改めて意識させてくれるのがこのOUR TOWNでありましょう。この劇の面白いところは、ドラマにのめり込むのを許してもらえないような作りになっているところでしょうか?いいタイミングでステージ・マネージャーが介入してきます。ここがこの作品の隠し味でもあり、作品としての評価も高めている部分であると私は考えております。もちろん、簡潔で味のあるセリフや、当時としては(そして現在でも)「遊び」のある演出というのも、時代を超えて人々を惹きつけている要素になっていると思います。

これって…私的には、JERSEY BOYSにも通じる部分ですよ。あれにしても、いろいろ心を打つエピソードが綴られながらも、決してそれに「浸らせてくれない」…感傷に浸ろうとすると、ナレーターが介入してきて巧みに「引き戻して」くれる…「そのものの裏の真実を見よ」と言っているようで。ま、JBの話はもういいか…(汗)


OUR TOWNの中で、ステージ・マネージャーは「タイムカプセルにこの本を入れて、何千年後の人にも、ここに生きた人々のことを知ってほしい」と言います。

私も、日本語の訳本を持って行ってまして、エミリー役のジェニファー・グレースかギブ夫人のロリ・マイヤーズ、また(まだいると思っていた)ジェイソン・バトラー・ハーナーのサインをもらうつもりだったのですが、氷点下10度の街灯もないバロウ・ストリート…実現しませんでした。

しかし、これはまだ諦めておりません!!
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