日本版の演出の面白さなど、書きたいことはたくさんあるんですが、とりあえず今回は「ちょっと気になること」について書かせてください。
長年ジャージー・ボーイズのファンをやっていて一番残念だったのは、一部の人からは常に「単なるジュークボックス・ミュージカル。お馴染み曲の合間にエピソードを挿んだだけ」と言われ続けたことです。それだけに、ドラマ部分の緻密さを分かってもらうためにも、日本語での上演を強く望んだというのは前の記事で書かせていただいたとおり。
嬉しいことに、日本版をご覧になった方からは上記のような感想はなく、どの方も、その音楽だけでなく、人間ドラマにも深く共感されているのが手に取るようにわかりました。本当に、日本で、日本語でやってくれてよかった…感動も新たになりました!
ところが、次第に複雑な思いになってきました。
実際、私が7日に観たときも、日本の観客にわかりやすいように、オリジナル脚本に説明を加えてあるところがあって、そのときは、それがあることによって筋がわかりやすく、登場人物の気持ちに共感しやすくなっていて「良く工夫されているな~」と感心することしきりでした。
しかし、感想を目にしていると、「工夫的としての説明」の部分が次第にアドリブとして発展し、お客さんもそれを期待するようになったり、あるいは、演者さんが台詞を忘れたりすると、周囲の演者さんが「素」で反応されたりすることが報告されていて、残念な気持ちになっていきました。観客のみなさんは、そういう「思わぬハプニング」を楽しんでいらっしゃるようでしたが。
日本公演は毎回満席という素晴らしい成功をおさめました。何度も劇場に足を運んで支えてこられたファンの人たちは誇りに思われて当然だと思います。同時に、いつまでも「ブロードウェイのオリジナルはこうだ」と、ブロードウェイのやり方を引き合いに出されるのを快く思われない雰囲気もできつつあるのかなぁと感じます。これはこれで当然の流れでしょう。
それでも、これを言うことはお許しいただきたいです。
私はブロードウェイを中心に北米キャストで40回ぐらい観ていますが、アドリブは、(演出家の方針だと言われていますが)まったくありません。パフォーマンス途中に不慮の事故が起きてもステージ上では何ごともなかったようにパフォーマンスが続けられるし、一人が台詞を間違えても、周りの演者は、それが元から脚本に組み込まれていたかのように、さりげなくカバーに入る。少なくとも演者の「素の表情」が舞台上で見せられることはありません。
これは「ブロードウェイが特別素晴らしいから」ということではなく、私はずっとこれが当然だと思っていました。
この点については、ほかの皆さんのご意見を聞かせてもらったりしながら、自分なりに考えてみました。日本の舞台ではよくあることなのでしょうか…でも「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」でも同様のことが行われているとは思えない。
え~、「レ・ミゼラブル」や「ミス・サイゴン」と「ジャージー・ボーイズ」は違うでしょ!
…と、思われる方もいらっしゃるかも知れません。確かに異なる点はありますが、それでは、なぜそれが「ジャージー・ボーイズ」ならば、劇中、演者さんたちの「ちょっとした軽いお遊び」が許されるということになるのでしょうか。
「ジャージー・ボーイズ」は「希望と絶望」「成功と挫折」「夢と現実」という対比を鮮やかに描き、その狭間で生きる人間を描いた、緻密に作り上げられたドラマです。他のドラマティックなミュージカル作品と同様に、一寸の遊びが入る隙間もないはず。
でも、多くの人たちはそういう考えではなく、「ジャージー・ボーイズ」って、そんな堅いことを言わなくてもいい作品ではないの?…と、感じていらっしゃるのだとしたら、私がここの最初で、興奮気味に述べたことは…ちょっと違うってことか。
もう一つ気になる点について…。
前回の記事でも書いたように、日本で、もっとも早い時期から「ジャージー・ボーイズ」に関心を持っておられたのは音楽関係の人たちでした。その人たちは2014年1月のフランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズの初来日、同年秋の映画版公開、2015年夏の北米ツアー招聘公演があったときも、次々と印象的な感想をSNSなどで発信されました。
そういう人たちは日本版もご覧になっているのでしょうか?…そういう情報は入ってきません。
私は、舞台作品を観るのに小さな劇場は良くないと思っているわけでは決してありませんが「ジャージー・ボーイズ」という作品のメジャー度を考えれば、他のトニー賞、オリビエ賞に輝いた作品の日本における上演状況をみても、「ジャージー・ボーイズ」はもっと大きな箱で上演するという選択もあったのでは、と思います。(繰り返しますが、私は上演される劇場の規模で作品の価値が判断できると思っているわけでは決してありません)
今回、600席という規模の箱で、俳優さんたちの熱心なファンの人たちに何度も劇場に足を運んでもらい、全公演完売という結果を出し、熱狂の渦の中で再演のアナウンス…これ、東宝さんの作戦勝ちですかね(笑)
でも、これまでずっと「ジャージー・ボーイズ」を見守って来られた(音楽ファンも含む)音楽関係の人たちの多くは、この熱狂の中にはいらっしゃいませんでした。
向こうでは、これまで舞台なんて観たことがなかった中高年男性を大勢劇場に呼び込んだのがジャージー・ボーイズ。フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズが聴けるっていうんでやって来た、ちょっと他の劇場では見かけない雰囲気を醸し出している人たちでいっぱい。でも、それは日本も同じで、映画館もシアター・オーブもおじさんでいっぱいでした(笑)
「音楽」ということに話を戻せば…私自身は、洋楽も好きだけど、自分は音楽関係者に近いわけではないと思ってます。やはり「舞台劇としてのジャージー・ボーイズ」が好きなのであって…。
基本的に、音楽関係の人たちは、実在のアーティストやその音楽が忠実に再現されることを強く望まれる傾向があります。アーティストが残した膨大な資料からその音楽性を研究される立場の人たちですから、それは当然でしょう。いっぽう、私は、忠実な再現が舞台劇にそぐわない場合は、演劇的効果のほうを優先させてもいいと思っています。
とにかく、日本版は全曲日本語になっていますから、忠実な再現を求められる音楽ファンの人たちには、それだけで受け入れられにくいであろう…ということは容易に想像できます…まぁ、いろいろタイヘンなのは想像できます。
でも、やはり今度は、少々大き目の箱を準備しても、そういう音楽ファンも巻き込むようなものを目指してほしいです。(これって、きわめて個人的な意見ですけど…)不可能だと思われていた日本語訳詞もあれだけ素晴らしいものになったわけですから、まだまだ可能性はあると信じています。
多様な観客を巻き込んで盛り上がってこそ「ジャージー・ボーイズ」だと私は思うんですよね…
次の記事では、いよいよ演出の面白かったところなどを書きたいと思います。
今回はこれで…
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