小島教育研究所

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【教育×デジタル】1人1台の端末支給によって、教育現場はどこに向かうのか

2021-01-03 | コンピュータよもやま話

■まもなく実現する1人1台端末
 2021年は教育、そして学校にとって大きな意味をもつ年になりそうだ。
 世界中を直撃した新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の影響は多方面におよんだが、教育も例外ではなかった。大きく変わろうとしているのは、なんといっても学校でのICT利用環境である。 政府が2020年4月7日に閣議決定した緊急経済対策において、2023年度までの達成を文科省が予定していた「1人1台端末」の実現が前倒しされ、2021年3月までに実現されることになった。そのICT環境整備のための予算額は、2292億円におよぶ。

 OECD(経済協力開発機構)加盟国の生徒を対象に行われるPISA(学習到達度調査)の18年実施調査結果によれば、日本のICT活用は加盟国内で最下位だった。その原因の判断は難しいところだが、端末の普及が大きな障害になっていたことは間違いない。 2019年8月30日に文科省が発表した同年3月1日時点の「教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数」は、全国平均で「5.4人」となっている。しかも、これはあくまで全国平均であり、そのバラつきは大きい。例えば佐賀県では1.8人だが、愛知県は1台あたり7.5人といった具合である。

■教育×ICT分野における日本の現状
 このような状況では、ICTを授業に活用することは難しい。
 OECDのTALIS(国際教育指導環境調査)の2018年報告書には、「中学校で生徒に課題や学級での活動にICTを活用させる」という調査結果が載っている。

 それによれば、トップのデンマークでは活用の割合が9割に達しているが、日本は2割にも満たない。OECD加盟国のなかで後ろから2番目である。ICT端末普及率が最下位なのだから、これは当然の結果なのかもしれない。
 しかし、2021年3月までには「1人1台端末」が実現する。普及率であればOECDの中でトップになるだろう。そして、手元に端末があれば何らかの形で利用されることになる。ICT活用でもOECD加盟国トップの座に躍りでるに違いない。

 ただし、言うまでもないが、端末が普及したからといって、実質的にICTを活用した授業がすぐに実現できるわけではない。活用するには、それを利用した授業そのものから考えていく必要がある。 

■デジタル化の目的と手段、そして責任
 1人1台端末の実現が前倒しとなったのは、授業のオンライン化という目的があったからだ。新型コロナで一斉休校となった際に、小中学校でもオンライン授業を実施した学校もあった。
 そこから、新型コロナの影響が長期化したり、新たに子どもたちが登校できない事態が起きたときのために、オンライン授業の体制を整えておくことが必要だ、という意見が強まった。
 さらに、ICT端末を使えば、子どもたちが個々に学べることを強調した意見も多い。クラス全員で足並みを揃えて授業を受けるより、理解の早い子はどんどん先に進み、そうでないこは自分のペースでじっくり学べるというわけだ。特に経済界では、こうした意見を押す声が多い。

 その一方で、萩生田光一文科相は20年11月6日、オンライン授業の実施については受信側にも教員が必要との考えを明らかにしている。ただし、子どもが在宅で勉強する場合には教員の同席は不要としている。
 特定の教員が行うオンライン授業を教室で受ける場合には別の教員の同席が必要だが、自宅で受ける場合には必要ではないということだ。訳が分からない。 萩生田文科相自身もはっきり理解しているわけではないらしく、「丁寧に説明しながら議論していきたい」と述べている。

 つまり、オンライン授業を取り入れていく方針ではあるものの、どのように運用・活用していくのか具体的には何も決まっていないのが現状だ。どう利用していくのかは学校現場に委ねられることになる。まさに「丸投げ」されるのだ。しかし、教員がみなICT利用に長けているわけではない。そこに丸投げされるのだから、手探りでICT利用の授業を教員は組み立てていかなくてはならない。

 その余裕が教員にあればいいのだが、そうもいかない。教員の多忙が社会問題化している現状では、ICT利用の授業は新たな負担となり、2021年の教員は、さらに多忙を強いられることになるだろう。

■教員の「定額働かせ放題」はどうなる
 公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を導入することを可能とする給特法の改正が行われたのは、2019年12月のことだった。それが、2021年4月から施行される。
 導入には各自治体が条例を設けなければならないが、条例制定を見送る決議が地方議会で相次いでいる。一方で、北海道をはじめ条例制定に動きはじめている自治体も出始めてきている。

 1年単位の変形労働時間制は「多く働いた分を夏休み時期などにまとめて休む」という理屈なのだが、利用には適用する前の年が「月45時間・年360時間以内」であること、そして、適用される年は「月42時間・年320時間以内」が見込まれるという上限がある。 この上限を超えて働けば変形労働時間制を利用することはできず、「働き損」で泣き寝入りするしかない。働く教員ほど報われないのが、変形労働時間制なのだ。

 北海道教職員組合が20年9月について実施した「勤務実態記録」の集計結果によれば、月45時間の上限を超えて働いていた教員は、小学校で66.9%、中学校で79.0%、高校では72.2%に達していた。4月に北海道で変形労働時間制が導入されても、これだけの教員が利用できないことになる。 ICTを利用した授業が教員に丸投げされれば、上限を超えて働く教員の割合はもっと引き上がるはずだ。変形労働時間制が導入されたところで、誰も利用できない制度になってしまう可能性が高いことになる。

■変化は教員と子どもたちに何を与えるのか
 他にも問題がある。
 先ほどの北海道教職員組合の調査では、もちろん上限に達していない教員もいるのだが、その教員たちも上限を強制されることになりかねない。変形労働時間制があるのだからもっと働け、というプレッシャーが強まる可能性が高まりそうだ。 2021年からのICT利用の授業、そして1年単位の変形労働時間制は、確実に教員を多忙化に追い込む。さらに教員から余裕を奪うことになり、子どもとの関係にも悪影響をあたえかねない。

 学校を子どもたちが安心して成長できる場にしていくことができるのかどうか、それは教員の多忙化に拍車をかけるICT利用と変形労働時間制への対応にかかっているといっていい。変化の波に飲み込まれず、流れに棹さす姿勢が、2021年の学校には求められている。

以上BT!より

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