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スパコン富岳、新型コロナウィルス対策に挑戦。富士通ジャーナルより

2021-01-01 | 武漢発パンデミックからの脱却
明けましておめでとうございます。
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新型コロナウイルスに、次世代スパコン「富岳」が挑む

世界的課題と言える新型コロナウイルスとの闘いをテクノロジーが支える

 2019年末頃に世界で初めて患者が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中に拡散し依然として猛威を振るっています。2020年4月末時点で世界の感染者は319万人を超え、22万人以上の死者が出ています。日本でも感染者数が増えたことから、緊急事態宣言が発令されて国民の生活や経済活動に多大な影響が出ています。

(注意:2020年31日現在、世界の新規感染者は8000万人、死者は170万人を超えている。)

 世界中で新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンの開発が進められていますが、現時点では、有効性が確認された抗ウイルス薬やワクチンは存在していません。治療方法としては、対症療法が中心となっています。また、社会的・経済的な影響も不明な点が多く、対策の寄りどころとなる試算も十分ではない状況にあります。

 新型コロナウイルス感染症への有効な対策を打ち出すため、官民学が一体となった研究開発プロジェクトが多く立ち上がっています。そこで重要な役割を担っているのが、最先端のICTです。

理研、文科省が連携、新型コロナ対策に次世代スパコン「富岳」を投入


 理化学研究所(理研)は2020年4月、文部科学省と連携し、新型コロナウイルスの対策に貢献する研究開発にスーパーコンピュータ(スパコン)「富岳(ふがく)」の利用を開始することを発表しました。

 「富岳」は、理研と富士通が共同開発している次世代型スパコンです(注1)。本来は2021年度、つまり来年度から共用が開始される予定でしたが、コロナ禍の状況を受け、現時点で提供可能な「富岳」の一部を、共用開始に先駆けて優先的に提供されることになりました。

「富岳」の計算パワーを有効な新薬の開発や対策の研究開発に活用し、できる限りの技術的サポートを実施しようという試みです。新型コロナウイルスによる被害を最小限に食い止め、一日も早い収束の実現に貢献することが期待されます。

治療薬、パンデミック現象等5つのコロナ対策研究に「富岳」を活用


 それでは、「富岳」は実際にどのような研究開発に利用されているのでしょうか。2020年4月末現在、文部科学省が決定した以下5分野の研究開発で「富岳」が優先的に利用されています。

①新型コロナウイルス治療薬候補同定(課題代表者:理化学研究所/京都大学 奥野 恭史氏)
②新型コロナウイルス表面のタンパク質動的構造予測(課題代表者:理化学研究所 杉田 有治氏)
③パンデミック現象および対策のシミュレーション解析(課題代表者:理化学研究所 伊藤 伸泰氏)
④新型コロナウイルス関連タンパク質に対するフラグメント分子軌道計算(課題代表者:立教大学 望月 祐志氏)
⑤室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策(課題代表者:理化学研究所/神戸大学 坪倉 誠氏)

 これらの研究課題に対して、「富岳」の活用でどのような効果が期待できるのか、ここでは、2つの研究課題の概要と期待される効果をご紹介します。

約2000種類の既存医薬品から治療薬候補を探索する


 まずは、理研と京都大学が進めている研究課題が「新型コロナウイルス治療薬候補同定」です。

 新型コロナウイルスでは「プロテアーゼ」という酵素がウイルスを増殖させる役割を担っています。その機能を阻害する薬の創出が求められています。しかし、新薬の場合、副作用の心配があるために様々な試験をクリアし、十分な治験を経なければならず、1年以上の時間を要すると言われています。

 この研究課題では、使用許諾が出ている既存の医薬品の中から効果的な治療薬候補を発見することに取り組んでいます。現在国内外で実施されている臨床試験で対象にされている既存の抗ウイルス薬に限定せず、約2000種の既存医薬品の中から分子動力学計算によって治療薬候補を探索しています。

 分子動力学計算では膨大な量のシミュレーションが必要となります。しかし、私達が普段使用するようなパソコンの性能では、複雑に作用する分子の動きを計算しきれません。そこで「富岳」を活用して、治療薬候補の短期間での特定や抗ウイルス薬の作用メカニズムの解明、複数薬剤のコンビネーション効果の推定等を実施しています。これらで得た知見を生かし、既存の医薬品の効果を明らかにし、有効活用することが期待されます。


ロックダウン時の経済的な影響をシミュレーション解析

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、社会経済への影響が広がっています。その様子を可視化し、影響を分析するビッグデータマイニングが進められています。理化学研究所の研究チームでは、パンデミック現象と対策のシミュレーション解析に「富岳」の計算資源を活用しています。

 具体的には、感染シミュレーションやSNSテキストマイニング、企業活動シミュレーションを行うことで、今後発生する可能性がある社会経済活動への影響を評価し、収束シナリオとその実現方法を探っていきます。また、ウイルスの変異等で感染や発病の経過が変化した場合への対応策を立案することを目指しています。

 今後の感染や社会・企業活動、マクロ経済への影響を及ぼす行動や施策を探ることで、悪化や改善の要因となる候補を明らかにすることが期待されます。また、首都圏・関西圏等地域ごとの感染・社会経済の状況を反映することで、複合的な効果を考慮した施策の立案にも役立つことも見込まれています。


 東京地区をロックダウンした場合に各地の企業活動がどのような影響を被るかについて、予備的なシミュレーションを行っている。

一日も早い新型コロナウイルスの危機終結を目指して

 「富岳」は科学面での貢献のみならず、人々が安全・安心・快適に生活を営む未来社会「Society 5.0」の実現に役立てるために開発されています。今回の新型コロナウイルスへの対応は、こうした「富岳」の利用目的に沿ったものだと言えます。

 理研 計算科学研究センター 松岡聡センター長は「今回の新型コロナウイルスによる国難に対し、診断・治療から感染拡大防止等における科学をベースとした対応に稼働準備中の「富岳」の能力を大幅に前倒して速やかに提供し、一日も早いパンデミックの終結に貢献します」とコメントしています。

 共同開発している富士通では、今回の前倒しでの利用において理研との協力体制の下で迅速な環境構築をサポートしました。

 神戸市・ポートアイランドの理化学研究所計算科学研究センターの計算機棟では、装置(ラック)の搬入、設置、稼働のための調整作業等が急ピッチで進められました。しかも、現場から感染者がでてしまえば、プロジェクトそのものが頓挫してしまうリスクと背中合わせです。後半では、感染予防を図りながら開発を進めた富士通のエンジニアの声を取り上げます。

(注1)スーパーコンピュータ「富岳(ふがく)」とは?
 超高速で膨大な計算ができる計算機が、スーパーコンピュータです。「富岳」は、スーパーコンピュータ「京」の後継機です。「京」の名は1秒間に1京(10の16乗)回の計算ができることに由来します。「京」は世界性能ランキングのTOP500で2011年6月と11月に1位、Graph500では2014年以降、通算10期(連続9期)1位に輝きました。最大で「京」の100倍のアプリケーション実効性能を目指す「富岳」には、FACOMに始まる富士通コンピュータ開発の知識と経験も結集しています。

「富岳」とは“富士山”の異名で、富士山の高さが性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがユーザーの拡がりを意味しています。医療だけでなく災害・エネルギーや持続可能性といった社会課題解決、新発想のものづくり、宇宙や生命の謎の解明、それらを助けるAIやロボット研究等の世界最先端技術を結集した「富岳」は現在も多くの挑戦を続けています。

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