アサギマダラはなかなかユニークなチョウとして知られる。それは南方の台湾・沖縄から北は東北地方まで、数千キロに及ぶ「渡り」をするからであるが、当地でも「アサギマダラの会」が作られ、アサギマダラが吸蜜に訪れるフジバカマやヨツバヒヨドリを植栽して成虫を呼び寄せ、渡りの実態調査を行うためのマーキングも行われている。
次の表は、私も会員になっている「花咲山蝶の楽園・軽井沢アサギマダラの会」のオーナーT氏が作成し、会員向けに配布した記録で、軽井沢で捕獲されたアサギマダラが、遠くは鹿児島県の喜界島で再捕獲されたことがわかる。
私も、フジバカマの咲くころには現地でアサギマダラの撮影を楽しんでいる。我が家のブッドレアにも吸蜜に来たところを撮影したことはあるが、フジバカマの集蝶力は別物で、多い時には一時に数百頭が訪れるという。
軽井沢の「蝶の楽園」に植えられたフジバカマに集まるアサギマダラ(2021.9.21 撮影)
ところで、先日、小諸でバタフライガーデンを主催している、Mさん宅を訪問した時に、このアサギマダラの幼虫を「飼ってみませんか」と促されて5匹持ち帰ってきた。近くで卵を採集したものだとのことだが、すでに孵化している。
長距離の渡りをするアサギマダラであるが、移動途中で繁殖をし、代を重ねながら移動を続けていくものらしい。
以前にも一度同じように誘われたことがあったが、その時は食草についての知識もなく、餌の確保に自信がなかったので、辞退していたのであった。
今回も同様で、餌が「キジョラン」や「イケマ」であることは知っているものの、入手する自信がないと伝えたところ、軽井沢にもいくらでもありますよという返事である。そう言われても、これまで山野で確認したことが無く、軽井沢のどのあたりに行けば見つかるのか、全く判らないと私が言うと、Mさん宅からそう遠くないイケマの生育場所をピンポイントで教えていただけた。
Mさんがアサギマダラの幼虫を飼育していた瓶挿しした「イケマ」の葉
ではまず「餌の確保を」ということで、教えていただいた場所に車で向かった。山道を進み、駐車スペースのある場所に到着して車を降りると、すぐ目の前に「イケマ」があっけなく見つかった。Mさん宅でこのイケマの葉を見せていただいていたからであるが、つる性で特徴あるハート形の、ややツヤのある葉が対生していて、他種との違いも明確である。
駐車場所から少し歩いて周辺を探してみると、更に数株が見つかったので、その中から5本ほどツルの先の方を切り取って、持っていた容器に入れて再びMさん宅に向かった。イケマのツルをMさんから借りてきたハサミで切ると、断面からすぐに白い液体が滲みだしていた。
こうして、当面の餌の確保ができたので、Mさん宅に引き返し、幼虫を5匹預かって、観察・撮影をすることになった。6月27日のことであった。幼虫は、孵化後まだそれほど時間が経っていないと思える体長が5ー6㎜程の2匹と、やや成長し体長が12㎜程になったものが3匹の計5匹である。
図鑑によると1齢幼虫は体色と模様、突起の有無などで2齢以降と区別できるとあるので、5匹の幼虫は2齢と3齢であろうと推測し、まずはそれぞれの成長の様子を撮影することにした。
体長5ー6㎜程の一番小さい2齢と思われるアサギマダラの幼虫 1/2(2023.6.27 撮影ビデオからのキャプチャー画像)
体長5ー6㎜程の一番小さい2齢と思われるアサギマダラの幼虫 2/2(2023.6.27 撮影ビデオからのキャプチャー画像)
もう1匹の体長が5-6mmの幼虫の方は、目視では2齢かと思われたが、撮影してみると、体色、頭部の大きさや突起の長さももう1匹の個体とはやや異なって見え、判断に迷うところである。
体長が5-6mmの他方のアサギマダラの幼虫(2023.6.27 撮影)
2日後、この幼虫が脱皮するところを撮影した。2齢か3齢かの判断は保留とする。
アサギマダラ幼虫の脱皮(2023.6.29, 08:24 ~ 09:25 30倍タイムラプス撮影後編集)
体長が12mmの大きい方の3匹の幼虫はどれも次のようであり、こちらは3齢と思われた。
Mさん宅から持ち帰った体長12mmほどのアサギマダラの3齢幼虫(2023.6.27 撮影)
実は、小さい方の幼虫の脱皮を確認した前日28日に、大きい方の3齢幼虫の中の1匹が脱皮を終えたばかりのところを目撃していた。まだしっぽの先に抜け殻をつけたままであったのでそれと判るのだが、他の2匹の3齢幼虫の脱皮も近いと思われた。
脱皮直後の4齢幼虫(2023.6.28, 07:25 撮影映像からのキャプチャー画像)
成長段階の異なる5匹の幼虫なので、時間を追って紹介すると成長の様子が判りにくくなるので、上では撮影日時順を無視したが、以下同様に齢を追って順次紹介する。
この日、イケマの葉上で眠状態になっている3齢がいたので、脱皮が近いと判断して、タイムラプス撮影を行った。次のようである。
アサギマダラ3齢幼虫の脱皮(2023.6.28, 07:36 ~ 12:49 30倍タイムラプス撮影後編集)
脱皮後の4齢幼虫は勢いよくイケマの葉を食べ始めた。
イケマの葉を食べる4齢幼虫(2023.6.28, 14:13 ~ 15:24 30倍タイムラプスで撮影後編集)
幼虫の成長は思いのほか早く、すぐに5齢(終齢)になるものが出てきた。前日の夜にイケマの葉上に静止し眠状態に入っていた個体は、翌日には脱皮をしていたようであった。一晩ずっと撮影すればよかったが、撮影のための照明をあて続けるのをためらい、一時撮影を中断していたので、その間に脱皮してしまったようである。
アサギマダラの幼虫は齢が変わってもほとんどその変化が判らないが、突起の長さからそれと判断された。
今度は抜け殻は残っていなかったので、食べてしまったと思われる。残りの2匹の4齢幼虫もタイミングが合わず、脱皮の様子を撮影できないまま終齢になってしまった。
脱皮前のアサギマダラ4齢幼虫(2023.6.30, 19:30 撮影ビデオからのキャプチャー画像)
脱皮後のアサギマダラ5齢幼虫(2023.7.1, 06:50 撮影ビデオからのキャプチャー画像)
ここで、5匹の大きさの比較をしておく。この時点で、3齢(1匹)、4齢(1匹)、5齢(3匹)と揃ったことになる。
イケマの葉裏に止まっていた5匹の幼虫を並べて大きさを比較した(2023.7.1 23:13 撮影 )
2日後には小さい2匹の内の4齢幼虫も脱皮して5齢になったが、今度は脱皮の様子も抜け殻をすっかり食べてしまう様子も撮影できた。
アサギマダラの4齢幼虫の脱皮ー1(2023.7.3, 12:09 ~ 15:16 30倍タイムラプス撮影後編集)
この後、一番小さかった幼虫も4齢になり、さらに脱皮して終齢になった。この個体は脱皮後の自身の抜け殻を全部は食べずに途中でくるりと向きを変えてしまった。
アサギマダラの4齢幼虫の脱皮ー2(2023.7.5, 09:17 ~ 12:13 30倍タイムラプスで撮影後編集)
いよいよ蛹化のタイミングを迎えることとなった。終齢幼虫は前日から瓶挿ししたイケマの葉を食べなくなり、葉を離れて飼育箱の中を這いまわり、天井部を覆っていた不織布につかまって、そこで静止状態になった。
こうして、前蛹になる体勢に入ったのを見極めて、飼育箱から出して撮影を始めた。
アサギマダラの蛹化ー1(2023.7.4, 07:50~ 7.5, 03:12 30倍タイムラプスで撮影後編集)
この映像を見ていると蛹化前後と蛹化後も長さや形状の変化が大きいことに気づく。撮影した映像からのキャプチャー画像で比較すると次のようである。
前蛹から蛹になる過程でのアサギマダラの形と長さの変化(2023.7.4 ~7.5 撮影)
蛹化数日後に見ると、蛹の表面にはメタリックに光る斑点が多数現れている。次のようである。
蛹化後4日目の蛹表面に見られるメタリックな斑点(2023.7.8 撮影)
終齢幼虫の中には、散々飼育ケースの中を這いまわった後、瓶挿ししたイケマにもどり前蛹になるものもでた。
次は前蛹になってから蛹になるまでの様子を30倍タイムラプスで撮影した映像である。
アサギマダラの蛹化ー2(2023.7.5, 10:30 ~ 22:30 30倍タイムラプス撮影後編集)
一番遅く終齢になった幼虫と、蛹の大きさとを比較してみると次のようである。終齢幼虫の大きさと比べると蛹は驚くほど小さくなっているのがわかる。
アサギマダラの終齢幼虫と蛹の大きさ比較(2023.7.8 撮影)
資料によれば、アサギマダラは蛹化後2週間程度で羽化するとされているので、無事羽化すれば、その様子もまた次回にご紹介できればと思っている。
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