すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

瀬戸際に立たされたときに出る人間の器

2005-08-23 09:30:38 | メディア論
 北海道新聞の高田さんが、2ヵ月ほど前に「そのとき、記者は逮捕された」というエントリーを公開されていた。そのときは「この会社、終わってるなあ」と思いながら読んだのだが、突然ある記憶がよみがえってきたのでエントリーを立てることにした。たぶん高田さんがいちばん言いたかったことのひとつは、こういうことじゃないかと思ったからだ。

 くわしくは高田さんのエントリーをお読みいただきたいが、ごくカンタンに内容を説明しておこう。

 ある記者が、警察による立件が間近に迫っていた事件関係者の自宅へ取材に出かけた。インタホンを押したが返事がない。で、しばらくインタホンを押したり、少し中をうかがうようにしていた。すると民間の警備員があらわれ、ほどなく警察のパトカーもやってきた。

 最終的に記者は住居侵入容疑で書類送検されたが、不起訴になった。しかし警察はその記者を「担当からはずせ」と会社に圧力をかけてくる。会社はそれに対しなんの抗議もせず、受け入れた。それだけでなく記者を懲戒処分にし、社員に緘口令を敷いた──。

 私が思い出したある出来事とは、警察がらみじゃない。だけど組織のあり方に関係する話だ。

 もう15年くらい前のことだが、そのとき私はある雑誌の編集部で副編集長のX氏と打ち合わせをしていた。すると同じフロアで電話をしていた30才くらいの平の編集者が、なにやら声高に電話の相手と口論をはじめた。言葉の端々から想像すると、どうやら電話の相手は広告のクライアントらしい。

 世の中に存在するほとんどの商業雑誌は、広告がなければ経営的に成り立たない。いってみればクライアントさんは、出版社にとって警察以上に頭の上がらない存在だ。

 で、何をモメているのかよくわからないが、とにかくその編集者はかなり怒っていた。初めはおだやかに話をしていたのだが、たぶん電話の相手が最初から怒ってかけてきたのだろう。応対した彼もいまや激昂している。フロアには彼のでかい怒声がとどろき、電話はその後エンエンと30分以上続いた。

「自分が被害者みたいなその言い方はおかしいんじゃないですか? 被害者はむしろこっちですよ?」

 そんなことを言いながら、怒涛のように怒っている。

 そのうちに彼はやっと電話を置き、広告担当の副編集長であるA氏のデスクへ行った。彼はことの次第をA氏に説明している様子だ。すると10分ほど話を聞いたA氏は、あっさりとこう言った。

「わかりました。ウチはその広告はもう要りません」

 そのとき編集部には30人以上の人間が居合わせたが、おそらくだれもが「このオッサンになら、ついていってもいい」と思ったはずだ。

 蛇足だがちょっと説明しておく。副編集長のA氏はその編集者の説明を聞き、「こいつの言ってることは筋が通っている」と判断した。で、その場で誰に相談することもなく、自分の責任において編集者が担当していたらしいその広告を「もう要らない」と言ったわけだ。

 現場の人間は、自分が正しいと信じたら先へ先へと進みたがる。これは本能みたいなものだ。だけどそれがときにはトラブルの元になることもある。そのときいったい誰が「ケツをもつ」のか?

「オレが責任をもつから、お前は自分が正しいと思ったことをやってこい」

 高田さんが言いたかったことは、こういうことなんじゃないだろうか。

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コメント (4)
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