素朴な人々が暮らす小さな村。正直な若者与ひょう
はやさしく美しい妻つうと貧しくとも仲むつまじく、楽
しく暮らしていた。村の子どもたちと唄い、遊ぶことを
何よりの楽しみとする無邪気なつう。そんな幸せな
日々も長くは続かなかった。 つうが与ひょうのた
めに織った素晴らしい布「鶴の千羽織り」が巨万の
富をうむ名品であると知った村の運ずと惣どは欲の
とりことなり、「つうにもっと織らせろ」と与ひょうをそ
そのかす。そして、与ひょうの心にも欲を植えつけ
る。 つうの正体は、以前に与ひょうが「罠から助
けた鶴の化身であった。けがれない心を愛する
つうには人間たちの欲望が理解できず、与ひょう
が自分の手の届かないところに行ってしまうことを
恐れ、自分の身を削らねば織ることができない「鶴
の千羽織り」をもう一度だけ織る決心をする。
「私が織っている間は決してのぞかないでくだ
さい。」と与ひょうに言い渡して・・・。しかし、運ず
と惣どに心を乱されている与ひょうは・・・。
劇作家木下順二の代表的な戯曲の一つ。佐渡の
民話「鶴女房」を題材に金銭にとらわれず、ひたむ
きに人を思う純真な心の美しさを詩情豊かに描く。