今年で42回目を迎えるこのアカデミー&音楽祭だが、一昨年はコロナ禍で全面中止、昨年はアカデミーは無くコンサートだけで変則的に開催された。しかし今年は海外からの講師の招聘も含めて平常の形に戻ったことは幸いである。とは言え長く常連だったヴェルナー・ヒュンクやパオロ・フランチェスキーニの顔が見えないのはいささか寂しい気もする。さて今年のテーマ「ロッシーニとその時代のヨーロッパ」には次のような「こじつけ」がある。1792年生まれのロッシーニが、彼のオペラが旋風を巻き起こしていた音楽の都ウイーンを初めて訪れたのが1822年、つまりそれから200年。更に今年はロッシーニ生誕230年なのだそうだ。そしてロッシーニと共に今年のプログラムに頻繁に登場するのがサンサーンスだが、こちらの方は没後100年ということになる。まあ毎年テーマはあっても、それ以外にもウイーン音楽を中心に幅広い選曲が常のこのフェスティバルなので、「テーマ」はご愛嬌と思いつつ色々と楽しんだ4日間だった。さて今年は27日の「モーツアルト:クラリネット五重奏曲とロッシーニの歌」、28日の「タマーシュ・ヴァルガのチェロ・リサイタル」、29日の「シューベルトとイタリア/シューベルト」、30日の「さらばロッシーニ、さらばサン=サーンス」の4つの本公演と、30日(最終日)の午前中に開催されたスチューデント・コンサートを聞いた。その中で印象に残ったのは、まず27日ではクラリネット五重奏でのウイーン・フィルの2nd.クラリネットのヨハン・ヒンドラーの慎み深いがウイーンを感じさせるソロ、そして三楽章で1st.バイオリンのカリン・アダムスとViolaの吉田有紀子(エクセルシオSQ.)が奏でだ密やかな音楽。またソプラノ天羽昭惠とメゾ・ソプラノ日野妙果による「小荘厳ミサ」から「グロリア」の二重奏の絶妙なアンサンブルも良かった。そして同じく天羽とメゾ・ソプラノのアンゲリカ・キルヒシュラーガーによる「ヴェネツイアの競艇(2声の夜想曲)」においての両人の切れ味もロッシーニらしい悦楽だった。28日のブラームスに先立つバッハのチェロとクラフィーアのためのソナタ2曲(BWV1028 & 1027)では、クラウディオ・プリツィのチェンバロとコルネリア・ヘルマンのピアノという2種の鍵盤楽器による伴奏の違いを楽しめた。ピアノ伴奏だとヴァルガの独奏がどんどんロマンティックになっていった。またブラームスの「2つの歌」作品91では、キルヒシュラーガーのメゾにつき従うピアノとチェロによる陰影に富む伴奏が興味深かった。29日のオーケストラコンサートは、矢崎彦太郎の指揮する群響弦楽アンサンブル&草津フェスティバル・オーケストラによるシューベルトの交響曲第5番がメインであったが、もちろんそれも流れの良いタップリとした音楽で楽しめたが、ベートーヴェンの珍しい初期のバイオリン協奏曲ハ長調(断片)では、ソロを弾いたカリーン・アダムスの粘りある美音が習作的な未完の作品を引き立てた。若き日の習作と言えどもベートーヴェンはベートーヴェンだ!30日のクロージングコンサートでは、A.シェーンベルグが4手のためのピアノに編曲した歌劇「セビリアの理髪師」からの3つのアリアが面白かった。クリストファー・ヒンターフーバーとコルネリア・ヘルマンが演奏したが、ヘルマンのピアノが歌唱のようによく歌った。最後はエクセルシオSQ.とヒンターブーバーによるサンサーンスのピアノ五重奏曲。名曲であることを発見した。毎回最終日の午前中にはアカデミーで優秀だった生徒によるステューデント・コンサートが開催されるが、これが音楽好きには実に楽しい。今年西村音楽監督賞に輝いたのは、オーボエの吉川隼介、ピアノの佐野瑠奏、チェロの石田沙羅、クラリネットの白井宏典の4名であったが、私個人的には、スクリアビンのピアノ・ソナタ第9番「黒ミサ」を流麗に弾き切った佐野とヴィドールの序奏とロンド作品72で表現の幅を鮮やか示した白井の名技と音楽性が印象に残った。
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