杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

オトナの大河ドラマ『花の乱』

2013-03-26 14:55:23 | アート・文化

 早くも桜が満開になりました。先日、上川陽子さんと一緒にやっているラジオ番組『かみかわ陽子ラジオシェイク』の収録で、平野斗紀子さんをゲストに招き、廿日会祭と静岡まつりの話をしたんですが、ああ、お祭りのときまで桜が保つかなあ、と心配になりました。逆に花がなかなか咲かない年もあるわけで、そうそう人間の都合よく咲いてくれるとは限りませんよね(苦笑)。放送は4月2日18時30分からFM-Hiです。聴ける人は聴いてください。

 

 昨日(3月25日)は久しぶりに丸一日、時間に追われたあわただしい日でした。午前中は掛川のお茶屋さんがプロデュースするスイーツショップ『雪うさぎ工房』の取材。お茶の消費拡大の一環として始めたサイドビジネスかと思ったら、パティシエを何人も雇用しての本格的なスイーツショップ経営で、ケーキから焼き菓子まですべてを自家製で揃えていました。月曜の午前中なのにお客さんがひっきりなしにやってきます。この抹茶ベークドチーズと抹茶ロール、Dsc01719
甘さ控えめで本格デンマークチーズ使用で、“緑茶と一緒に味わえる”が触れ込みでしたが、酒とも合うかも・・・なんて思っちゃいました。

 

 社長と話し込んであれこれ試食させてもらっていたら、あっという間にお昼になってしまい、新東名を飛ばして家へとんぼ返り。車を置いて、静岡県清酒鑑評会一般公開が開かれるJR静岡駅前グランディエールブケトーカイへ駆け付けました。すでに13時を回っていて、県知事賞受賞の喜久酔、富士錦、いつも人気の磯自慢は(用意した試飲酒がなくなり)瓶も片付けられてしまっていましたが、それ以外の出品酒すべてを試飲しました。

 

 

 

 今回は、入賞酒のリストを見ずに、テーブルに並んだ順番にひとつずつじっくり利いてみて、自分なりに新酒のこの時期らしい、すっきりとした仕上がりで、印象が良かったのは、正雪、初亀、杉錦、若竹、葵天下、國香でした。これらがこの1年でどんな味の変化を見せるPhotoのか楽しみですね。良い状態をキープできるのは、おそらく搾った後の処理工程や熟成管理に拠る所が大きいのでは、と思います。造り手が自分の作品にちゃんと責任を持っているかどうか矜持が試される、とも言えるでしょう。・・・なんてことを書くと、また嫌われるかもしれませんが(苦笑)、地酒を地元で愛好する者のささやかな愉しみだと思ってご容赦ください。

 ちなみに、清酒鑑評会審査員を務めた松崎晴雄さんを招いての恒例地酒サロン(4月2日)、早々に定員満席となりました。ありがとうございました。今年もまた新しい酒客との出会いが楽しめそうです。後日のレポートをお楽しみに!

 

 

 

 試飲を終え、酒のニオイを必死に拭って、14時からは静岡県ニュービジネス協議会情報渉外委員会の会合へ。毎年実施する海外視察先を決める会議で、昨年はミャンマーでしたが、今年はトルコかモンゴルの二者選択。どちらも興味がそそられますね。結果は後日、協議会HPで発表します。

 

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 夕方、家に戻り、明朝締め切りの静岡空港関連記事の執筆。一昨日、2月に新設された石雲院展望デッキに行って、間近に見られる飛行機の離発着の写真をあれこれ撮ったんですが、動いている飛行機と、それを眺める人々と、空港ターミナルビルの外観をワンショットで撮るって、私の一眼レフと腕ではとてもとても至難の業(苦笑)。それより何より、ビル内でやっていた台湾物産展で3本500円の台湾ビールを買い込んでしまいました(笑)。

 これをガソリン代わりにして一気に原稿を書き上げよう!と意気込んだものの、TSUTAYAの定額レンタルで借りていたドラマのDVDが気になってしまい、ざっくり草稿を仕上げた時点でパソコンを閉じ、ドラマに見入ってしまいました。

 

 

 

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 借りていたドラマというのは、1994年に放送された大河ドラマ『花の乱』完全版です。大河ドラマの中では珍しく室町時代・応仁の乱を取り上げていて、悪女で名高い日野富子が主人公ということで視聴率は低かったみたいですが、私は歴代大河の中では、この『花の乱』と『黄金の日々』が大好きでした。偶然ですが両方とも市川森一さんの脚本です。

 『花の乱』、脚本の素晴らしさは言うまでもなく、三枝成彰さんのオープニングテーマ曲も最高で、出演した俳優陣も豪華で見事でした。三田佳子(日野富子)、市川團十郎(富子の夫足利義政)、萬屋錦之介(応仁の乱西軍の将・山名宗全)、野村萬斎(東軍の将・細川勝元)、奥田瑛二(一休禅師)、檀ふみ(森女)、京マチ子(義政の母)、松本幸四郎(富子の実父)、松たか子(少女時代の富子)、市川海老蔵(青年時代の義政)、役所広司(富子の兄として育ち、のちに敵対する伊吹三郎)、佐野史郎(義政の弟・義視)等など、テレビ・映画・演劇界や歌舞伎界からオールスター総出演でこれぞ大河って感じ。偶然、ネットで市川森一さんの脚本が読めるサイトを見つけ、『花の乱』の制作秘話を熟読していたとき(こちらを参照)、市川團十郎さんの訃報を聞いて、これはもう一度見返してみなければ、と思ったのです。

 

 

 

 ゆうべ原稿をほったらかして見入ってしまったのは、35~37回の最終話(『花の乱』は4月スタートの全37回)です。

 

 応仁の乱は、足利8代将軍義政が、妻富子に嫡子が出来なかったため、出家していた弟の義視を還俗させて後継ぎに決めた直後に富子に長男義尚が授かったのが根っこの問題。あくまで弟に継がせると言い張った義政vs息子に継がせたい富子の夫婦喧嘩、守護大名畠山氏や斯波氏の親族内領地争い喧嘩、強大な武力を誇る守護職山名宗全vs娘婿の管領細川勝元の義理の親子喧嘩がドロドロの政争となって招いた大乱です。

 身内同士の愛憎劇だけに、ギリシャ悲劇かシェイクスピアの舞台を観るようで、舞台経験豊富な俳優陣の、ある意味、様式美のような演技が実にフィットするんですね。役所広司さんや佐野史郎さんのいかにも現代の日常会話的な台詞まわしがちょっとフイをつかれる感じ。

 

 野村萬斎さんはこのドラマで初めて知った人でしたが、室町幕府の管領という、武家だけどなんとなく高貴で知的なイメージが、萬斎さんの所作によってものすごくリアルに感じられました。細川勝元が造った石庭で名高い龍安寺、私もほんの少しご縁があるので、うかがうたびに萬斎さん演ずる勝元が思い出されます。勝元と、富子の異父兄で仇敵となる日野勝光(草刈正雄)が最期を迎える応仁の乱終結の回は、ものすごい高揚感に満ちた一大叙情詩でした。

 

 

 

 それにしても、最近の大河ドラマは、フィルム風に撮れるプログレッシブカメラで画面にリアル感を出したり、人物造形にもリアルにこだわる風潮の一方で、難しい用語はご丁寧にテロップ説明してくれる。それとは対極的に、『花の乱』はバッチリ時代劇メイクでいかにも作り物のスタジオで照明をガンガンに当ててって撮り方。テロップは人物名や地名程度です。ずいぶん隔世の観がありますが、ドラマの骨子がしっかりしていて、脚本が緻密で、俳優もていねいに演じているというのが、素人でもわかる。難しい時代でも、ドラマとしてすんなり入ってくるようです。映像テクニックも大事だけど、肝心要は脚本と俳優のチカラなんだと思います。

 

 三田佳子さんは舞台調の様式美な演技で通してきましたが、主役としての風格というのかな、最近の若手の主役とは違う安定感があります。最後の最後、溺愛してきた息子の義尚(松岡昌宏)に「自分の本当の敵は母上だ」とつき放され、ヤケ死にされたときの演技は実にリアルでした(京都大文字の送り火は義尚追悼のために富子が始めたと知ってヘェ~!でした)。背景にあったのは、酒色に溺れて死線を彷徨った義尚のもとに、応仁の乱の後、京を追われた義視の息子義材 (大沢たかお)が見舞いにやってきたのを、回復した義尚が、自分にとって代わる将軍として母が呼んだものと思い込んだ・・・という悲劇です。

 

 

 夫の義政が亡くなってラスト、「自分があるのは夫のおかげ」とつぶやいたのも見事でした。これ、富子がそう語っていたと記録に残っていたそうです。戦争をおっぱじめるほど反目しあっていた夫婦が、死別の後にそういう境地になれたって、なんてドラマチック・・・!個人的にはさほど感動しなかった『篤姫』なんかに比べると、連続ドラマの題材としてこんなに適したプロットってないんじゃないかしら。

 

 脚本の市川さんは、夜の8時にお茶の間で見せるテレビドラマとして、悪女日野富子のイメージをなんとかしようと工夫したようです。富子は母が酒天童子に犯されて産まれた不義の子で、出産直後に捨てられ、一休禅師が拾って椿の庄という山里で育てられたとし、その後、日野家に産まれた正規の富子は5歳で目を患い、山里育ちの富子と入れ替わることに。盲目の富子は一休の侍者・森女となり、修羅の道を歩く富子の影の存在として、観音のような清らかな心を持つ・・・という設定になりました。一休が晩年愛した盲目の森女、実在の人物ですから、この女性からインスピレーションを得たのでしょう。

 富子の命をつないだ一休禅師が終盤、路傍で亡くなったとき、色狂いして出奔した富子の息子義尚が偶然通りかかり、森女を手伝って一休の遺体を葬るという展開、伏線を見事につないだシナリオです。

 

 市川さんは、応仁の乱で破壊された京の町の復興のため、丹波口や鞍馬口など京都七口(関所)で通行税を徴収したり(=この通行税を着服したと噂され、悪女のレッテルを貼られた)、織物業の集積地(=西軍が陣を張った場所に造ったので、“西陣”と銘打った)を造って集中投資するなど、現実的な経済政策を打ち出した富子の政治家としての一面もきちんと描きます。史実とフィクションをうまく噛み合わせる、歴史大河ドラマならではの、脚本家の腕の見せ所ですね。

 

 

 同じように桜をタイトルバックにした今年の大河ドラマ『八重の桜』。一昨日の蛤御門の戦いの回では、「京の町が焼かれたのは応仁の乱以来・・・」という台詞が出てきて、私のアタマの中では『花の乱』と見事にリンクしました。女性を主人公にした難しい時代を描くのに、もう少しドラマ的に遊びの部分があってもいいように思いますが、八重さんが本格的に活躍する戊辰戦争以降の展開を楽しみにしましょう。

 TSUTAYA定額レンタルでは、これから、『黄金の日々』完全版に挑戦します!

 


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ブログ楽しく読ませていただきました。役立つ情報... (只野剛)
2013-05-11 07:17:59
ブログ楽しく読ませていただきました。役立つ情報をありがとうございます
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初めまして。 (aqua)
2013-08-05 21:21:00
花の乱は大河ドラマでも一番好きでした。
これに出てくる檜扇って何処かで売ってるのでしょうか?
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訪問してくださってありがとうございます。 (鈴木真弓)
2013-08-06 08:26:57
槍扇・・・踊りの小道具を売っている専門店であるかもしれませんが、どうでしょう・・・そっちの情報がなくてスミマセン。
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