先日、友人の志津子さんが、紀子さんやレイチェルと一緒に、ワシントンDCのホワイトハウス前で、プロテスト活動をしてくれました。
その後、志津子さんだけワシントンDCに残り、アフリカ系アメリカ人歴史と、文化博物館を見学したのだそうですが、
二日目に、バスの停留所を間違えて降りたら、そこに「国境なき医師団」の屋外展示場があった…という導きのような偶然があり、その展示場の模様を報告してくれました。
それを読んでいるうちに、知っているつもりでいた自分が恥ずかしくなってきました。
この厳しい現実を、みなさんにも伝えたくて、志津子さんの承諾を得て、ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
ここではグループ毎に、実際に難民の治療を行った医師やスタッフの説明を受けながら、各展示を回る。
私たちのグループは、フランス人精神科医のサラさん。
一番最初に、
「今、世界中に、何人くらいの難民がいると思いますか?」の問いかけ。
誰も答えられない。
普段気にしているつもりでも、私の答えた数は、ずっと少なかった。
ざっと6500万人、がその答え。
やはり、南スーダンに目が行く。
もらったカタログの中に、この言葉。
国内総生産GDPで、世界の56.6%を占める先進国6ヶ国、即ちアメリカ、日本、フランス、中国、ドイツ、イギリス全体で、難民総数のたったの8.9%しか受け入れておらず、ドイツが単独で、30%を受け持っている。
日本は確か、去年一年で、4人受け入れた?
安倍晋三氏は、この前もまた、国連で「日本は金は出す$$$$!」と、大声を出していたけれど、
カタログの中には、どの国が「金を出しているか」についての説明は、何処にもない。
「何人受け入れているか」、だけしか問われないのが世界の常識だと、しみじみ分かった。
アメリカも、ドイツに比べると、貢献度はダントツに低い。
シリアやアフガニスタンに爆撃を繰り返し、難民を排出する原因を作りながら、
一方では、難民排斥主義者トランプを、熱狂的に支持する国民も多い。
情け無い。
「家を追われて」とタイトルをつけた会場に、列が出来ています。
フランスで生まれた「国境なき医師団」は、日本にも支部があります。
頭文字のMSFは、フランス語から取っています。
「国境なき医師団」へようこそ
南スーダン
「私たちは非常に危惧していた。一体全体、いつまで走り続けなくてはならないのか、見当も付かなかった」
(MFS南スーダン統括担当者)
南スーダン (国内で行き場のない避難民が、グルグル回っている状態)
<2016年6月現在>
・スーダンへの難民: 231,581人
・エチオピアへの難民: 231,307人
・ケニアへの難民: 49,823人
・ウガンダへの難民: 206,523人
・南スーダン内で住まいを失っている人: 1,616,026人
南スーダンでは、何年にも及ぶ内戦で、何万人もの人が亡くなっています。
家を追われた人の数は100万を越え、多くが、人道支援の手も及ばない所に、逃げている状態です。
国境無き医師団は、計画のスケールを上げているものの、助けを求めても、戦火がアクセスを奪い、医療機関や他の民間団体が襲われたり、薬品不足も起こっています。
このため、致命的なマラリヤのような伝染病の大流行にも、医療支援が届かない、という状態を生み出しています。
南スーダンで戦火を逃れる人たち
シリア
「地獄にいるようだった。とても生き延びるとは思えなかったけれど、他の方法がなかった。自分と家族の安全を保てるならば何でも受け容れた」
(シリアBaharの難民で、イラク内難民キャンプに辿り着いた人の言葉)
シリアの難民状況
<2016年6月現在>
・トルコへの難民: 2,729,326人
・レバノンへの難民: 1,048,275人
・ヨルダンへの難民: 657,433人
・エジプトへの難民: 117,702人
・イラクへの難民: 249,395人
・国内で住まいを失っている人: 660万人
シリアの壊滅的な内戦は、何十万という人命を奪い、少なく見積もっても、430万人の難民生み出した他、660万人が、国内で住まいを失っている。
一般市民の居住地や病院が、定期的に爆撃され、ベーシックなヘルプも出来ない状態。
アフガニスタン
僕の望みは、アフガニスタンに平和が来ること。
でも、今は無理だと知っている。
だから、戦争のない所に、取り敢えず逃げて来た。
(お母さんとアフガニスタンを逃れた13歳のHaseeb君)
アフガニスタン中で、残虐かつ無差別に行われている紛争で、国内で逃げ惑っている人の数は百万を超え、何百万という人が、国を脱出している。
多くが、イランやパキスタンなどの隣国に逃れたが、何万という人が、命懸けで、粗末なボートに乗り、ヨーロッパを目指している。
やっとのことでヨーロッパに渡っても、国境でストップをかけられ、基本的なサービスも受けられず、
何処に、いつ、どうやって、安全に辿り着けるのかの情報も無く、立ち往生している。
アフガニスタンの難民状況
<2015年10月現在>
・イランへの難民: 950,000人
・パキスタンへの難民: 1,537,447人
・国内で住まいを失っている人: 1,117,153人
ボートが着いた地中海沿岸に捨てられたライフジャケット
円形テントで、各地難民キャンプの、パノラマ写真を見せてもらう。
南スーダンキャンプ
国名不明
エチオピアキャンプ
何が難民を生み出すか?
・戦争/暴力
・民族/宗教上の対立
・政治的な抗争
・不安定な経済状況
・ヘルスケアの欠如
・食糧事情の困窮
・環境や自然の災害
南スーダンで、今すぐ避難しなくてはならないとなった時、あなたは何を持ち出しますか?
5個を取り敢えず選ぶように言われる。
携帯電話、水、薬、パスポート、毛布を選んだ。
色々話を聞いた後に、3つに減らしなさいと言われる。
水はもらえるだろう、携帯電話は電源がないだろう、と置いた。
最終的にパスポートだけ残したが、結局、個人個人、それぞれの国での事情が異なるため、これと断定出来るものはない、という説明を受けた。
これは、ヨルダン難民キャンプにいるアリサちゃんに聞かないと。
どのキャンプでも、水の供給は肝要。
水の入った重いタンクを、毎日、自分のテントまで運ぶ作業は、簡単ではない。
キャンプには、ソーラの発電機があり、携帯電話も充電出来るようななっている。
携帯電話を除外してしまった。
でも、携帯電話を故障もなく、無事に持ち込めるとしたら、ラッキーだったということになる。
医療テント。医療者も、感染には、念入りな注意を払っている。
イラク難民キャンプ用家族向けテント。
個人向けテント
イラクの難民キャンプ
ソマリアの難民キャンプ。オモチャの人形は、ビニール袋で作っている。
バングラデシュ、レバノンの難民キャンプ。
ギリシャの難民キャンプ。
フランスの難民キャンプ。
ドイツの難民キャンプ。
ここでは、難民受け入れ政策が、反対の声に押され揺らいでいるものの、コンテナを利用した住まいを与えられていて、違いは歴然としている。
シリアの現状。
難民キャンプで必要とされる基本的なもの。
難民が途中で遭遇する、様々な問題や悲劇。
難民が何処から出て、何処まで何マイルの旅をするか。南スーダンは、国内をグルグル回っていることが多い。
「あなたがこの国を逃れて、難民になると想像してください」、と言われてもらったのがホンヂュラス。
この7人乗りのボートに、何と60人も乗ると…。
ベストを貰える人はラッキー。
命を落とす人も沢山いる。
小さい子供の死体が、海辺に流された写真は、記憶に残る。
難民は、到着地点で、こんなフェンスの向こうに置かれることが多い。
全世界で、難民の数は6,500万人。
4,000万人が国内を彷徨い、国外に逃れた難民は2,100万人で、内、18歳以下の子供は半数に及ぶ。
2015年中には、毎日34,000人が難民になった計算。
最も問題が大きいのは、アフガニスタン270万人、ソマリア110万人、シリア490万人。
国内総生産GDPで、世界の56.6%を占める先進国6ヶ国、即ちアメリカ、日本、フランス、中国、ドイツ、イギリス全体で、
難民総数のたったの8.9%(210万人)しか受け入れておらず、ドイツが単独で、30%を受け持っている。
難民を排出する国トップ10
1. シリア
2. アフガニスタン
3. ソマリア
4. 南スーダン
5. スーダン
6. コンゴ
7. 中央アフリカ共和国
8. ミャンマー
9. エリトリア
10. コロンビア
難民が到着する国トップ10
1. トルコ
2. パキスタン
3. レバノン
4. イラン
5. エチオピア
6. ヨルダン
7. ケニア
8. ウガンダ
9. コンゴ
10. チャド
↑以上、転載おわり
上記の中にもあった南スーダンですが、自衛隊の方々にとって今、一番気になる場所ではないでしょうか。
去年、南スーダンは、アフガニスタンを抜き、人道支援活動を行うには、最も危険な国となった。
米国国際開発庁(USAID)系のプロジェクトである、ヒューマニタリアン・アウトカムズによると、
今年は、世界の援助活動関係者の死者のうち3割が、南スーダンで亡くなっている。
そのことについて、もう少し詳しく。
南スーダン難民100万人突破 UNHCR発表、戦闘再燃で急増
【AFP】2016年9月17日
http://www.afpbb.com/articles/-/3101270
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は16日、内戦状態にある南スーダンから国外に逃れた難民が、100万人を超えたと発表した。
7月に激しい戦闘が再燃したことで、新たに20万人近くの難民が生まれた。
UNHCRの最新の統計により、世界で最も新しい独立国である南スーダンが、
同様に内戦下にあるシリア、アフガニスタン、ソマリアといった国々に並ぶ、世界有数の難民発生国となっている現状が浮き彫りになった。
2011年の独立以後に登録された、南スーダン難民のうち、大多数は2013年12月の内戦勃発以降に、国外に逃げ出した人が占める。
これまでに、死者も多数出ている。
また、数多くの村が焼き払われたほか、国民の半数近くが、食料支援に頼っている。
人権団体によれば、政府側と反体制派の部隊が、「戦争兵器」として、住民らをレイプする事例も頻発している。
UNHCRによると、南スーダンでは、国内避難民も161万人に達している。
(c)AFP/Nicolas DELAUNAY and Claire ROSEMBERG
******* ******* ******* *******
南スーダン、迫る国家崩壊の危機 支援活動も困難に
欧米人を標的とした、政府軍兵士による集団レイプも発生
【THE WALL STREET JOURNAL】2016年9月23日
http://jp.wsj.com/articles/SB10616159211553144711104582330774030133332
5年前に誕生したばかりの、世界で最も新しい国家に、崩壊の危機が迫っている。
南スーダンの政府軍と、反政府勢力の紛争が、混迷を極める中、今年7月には、米国人を含む複数の援助関係者が、政府軍兵士にレイプされる事件が発生。
また、米外交団も襲撃を受け、米政府系の援助隊の拠点でも、略奪行為も行われた。
こうした事案は全て、わずか一週間の間に起きた出来事だ。
同国の混乱は、今に始まったことではない。
しかし、7月に発生した一連の事件に加え、南スーダンには、経済的にも破滅が迫っている。
海外からの投資は干上がり、ピーク時は1日50万バレルあった原油生産量も、今では13万バレルにとどまる。
インフレ率は700%に近づいており、政府軍の兵士には、もう数カ月にもわたって、給料が支払われていない。
先週末には、南スーダンにおける難民人口が、100万人を突破している。
南スーダンでの国際平和維持活動に参加する、モンゴルからの隊員たち
南スーダンの成立に協力した国際社会は、現状を招いた現地政府と、どう向き合えばいいのか頭を抱える。
また、同国で活動する支援団体も、政府批判をすれば、国内での活動が制限されることを恐れて、声を上げられない状況が続く。
2011年、イスラム教徒が多いスーダンから、キリスト教徒が多い南部の独立を支援したのは、米国だった。
ディンカ族であるキール大統領や政府軍と、ヌエル族であるマシャール前副大統領が率いる反乱勢力の間で、衝突が発生しても、
米国は、南スーダンの最大の援助国であり続け、紛争が始まって以降、16億ドルもの資金を、現地政府に提供している。
紛争は、一時的に停止した時期はあったものの、7月になると、再び争いは激化。
首都ジュバは、ここ数週間は平和だが、他の地域のほとんどでは、争いが繰り広げられている。
また、政府は、最近になり、支援団体関係者のパスポートを没収したり、人道目的での飛行機の運用を禁止したり、国境なき医師団などの活動を、一部で認めない方針に切り替えている。
「現地入りする前に予想していた以上に、南スーダンの状況は悪化していると感じた」と、ジュバを訪問した米国の国連大使サマンサ・パワーは、国連の安全保障理事会を前に発言。
同氏は、他の国では例がないほど、南スーダン政府が、国連関連団体の現地での活動を制限している、と指摘する。
10万人が暮らす難民キャンプの近くを流れる川で、釣りをする少年たち
国連のキャンプの近くに埋葬された遺体
7月のレイプ事件は、国連が拠点とする、テレイン居住区で発生した。
7月11日に、100人ほどの兵士が、同地を襲撃すると、外国人の支援隊員のうち、少なくとも5人をレイプ。
中には、12時間にわたって、5人の兵士に集団レイプされた隊員もいた他、
非政府組織で働く地元のスタッフも、1人殺害されている。
現場にいた被害者の証言によると、犯行は米国人を狙ったもので、国連の捜査機関も、襲撃は単発的なものではなく、事前に計画されたものだ、との結論を出している。
同じく7月11日には、南スーダンで活動する国連の世界食糧計画(WFP)の拠点でも、襲撃が発生。
その後、一週間以上にわたって、WFPの倉庫や補給施設などが荒らされ、食料4500トンと、ディーゼル油2万ガロン、コンピューター数十台を略奪した。
「首都ジュバでこのような事件が起き、しかも犯行は軍服姿の兵士たちによって行われた。前代未聞だ」と、WFPのディレクターを務めるジョイス・カニャングワ・ルマ氏は話す。
テレイン居住区のアパートに残る血痕
WFPの拠点と、テレイン居住区が襲撃される4日前には、米国大使館の車両が、政府軍の兵士に襲撃される事件も発生した。
これを受け、現地の米国大使は、正式な抗議を行なったが、南スーダン政府は、米国人が狙われたわけではない、と説明している。
南スーダンのガイ副大統領は20日、ニューヨークで、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューに応じ、
同国が、紛争解決に向けて前進している、と主張。
また、一連の攻撃が、政府主導のものではなく、捜査によって、すでに容疑者数名が逮捕されている、と語った。
「米国人は、われわれの友人だ。南スーダンは、米国人たちからの援助があるから存在できている」とも、ガイ副大統領は話した。
国連や米国は、現地の情勢を非難しつつも、南スーダン政府とは協力体制を維持し、紛争和解や、技術面での援助等を続けている。
ケリー米国務長官は、残虐行為が続くならば、支援は続けられないと表明したが、
8月に、ナイロビで行われた会見では、南スーダン政府に、1億3800万ドルの、新たな支援を行うとも発表している。
破壊された、国連やWFPの車両
南スーダンのベンティウにある、国連の難民キャンプには、約10万人が住む
去年、南スーダンは、アフガニスタンを抜き、人道支援活動を行うには、最も危険な国となった。
米国国際開発庁(USAID)系のプロジェクトである、ヒューマニタリアン・アウトカムズによると、
今年は、世界の援助活動関係者の死者のうち3割が、南スーダンで亡くなっているという。
状況の悪化を受け、地元政府への抗議として、支援団体を撤収させるべきだ、と話す関係者もいるほどだ。
「米国や欧州から来た支援隊員をレイプしても、なにも責任をとらされないとしたら、彼らは、地元の人たちには、どのようなことをするのか。
私たちが受けた扱いよりも、100万倍ひどいことをするはずだ」と、レイプされた経験を持つ隊員は話す。
5人から集団レイプされた隊員も、被害者全員が声を上げるべきだと話し、
「沈黙を守りつづければ、彼らが勝ったことになる」と指摘した。
ジュバの難民キャンプ内を歩く女性
******* ******* ******* *******
<続報真相>南スーダンへの自衛隊派遣 空論でなく現実見よ
【毎日新聞】2016年9月2日
http://mainichi.jp/articles/20160902/dde/012/010/022000c
机上の空論と言わずして何だろう。
アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への、自衛隊派遣のことだ。
安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」と、「宿営地の共同防護」の新たな任務が、11月にも課せられる方向だ。
現地を知る専門家は、「政府の想定とかけ離れた現実」と指摘するが、このまま突き進んでいいのだろうか。【吉井理記】
「駆け付け警護」は、自衛隊が、所在地から離れた場所にいる国連職員や、NGO関係者らの生命を守るために駆け付け、武器使用すること。
これまでは、正当防衛と緊急避難以外は、憲法が禁じた「武力行使」にあたるとされていたが、
安保関連法によって、別表のように、PKO参加5原則を満たしたうえで、任務遂行のための武器使用を認める条件を拡大した。
日本の国会で議論された「駆け付け警護」は、国際法にない概念で、戦闘が続く南スーダンでの武器使用が適法かは、日本が独自に判断する必要がある。
「知的怠慢としかいいようがない。
日本政府が想定するような状況が、南スーダンで、本当にあり得ると考えているのでしょうか。
PKO参加5原則の柱である『当事者間の停戦』は、とっくに崩壊しています」
と、根本的な疑問を投げかけるのは、東京外語大の伊勢崎賢治教授だ。
日本政府代表や、国連の現地責任者として、シエラレオネ、アフガニスタンに乗り込んで、武装勢力の武装解除の責任者を務めた、「紛争解決のプロ」だ。
南スーダンへの自衛隊派遣は、2012年に始まったが、翌13年から、政府側と反政府側との、事実上の内戦状態に突入。
昨年8月に、いったん停戦合意が成立し、統一政府が発足したものの、
今年7月には、大規模な衝突が発生し、8月には、統一政府を作っていた元反政府側トップが、国外脱出する事態になっているのだ。
自衛隊は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の管理下で活動しているが、
停戦崩壊した状況でのPKOは、現地では中立と受けとめられていない、と伊勢崎さんは指摘する。
「南スーダン政府側は、国連やPKO部隊、援助団体職員の活動を、『干渉』と敵視し始めています。
現に、7月には、南スーダン政府軍の兵士集団が、人道支援団体の外国人が滞在していた施設を、襲撃する事件が発生したと報じられています。
自衛隊は、どう対応するのでしょうか」
南スーダンで、民生復興支援を続けてきた日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事も、
停戦は成立していると強弁する、日本政府の姿勢を危惧する。
駆け付け警護の政府見解は、
「国、または国に準ずる組織の場合は、憲法が禁じる『武力行使』にあたる恐れがある」との立場のため、
「政府軍が敵対者として登場しない状況を、無理やり設定している」と指摘する。
「実際の紛争現場で、『武装勢力』『テロリスト』と政府軍を、どうやって見分けろというのでしょうか。
あまりに現実離れした要求です。
軍服を着ていなければ、民間人と武装勢力・テロリストの区別もつかないでしょう。
アフガニスタンでは、多くの民間人が、米軍などに殺害されました。
私たちの現地スタッフの親族も、犠牲になったのです」
民間人に犠牲者が出れば、住民感情は悪化する。
政府・反政府問わず、武器を使用すれば、どちらか一方への肩入れ、と受け取られかねない。
いざという時、自衛隊員は、ためらわずに武器を使えるか。
伊勢崎さんは、
「『撃てない銃』を抱えたまま、自衛隊の若者が、事実上の戦地に派遣されるのです。
殉職者は増える、と僕は心配しているのですが……」とつぶやいた。
間違いあれば隊員の責任?
もう一つの新たな任務、「宿営地の共同防衛」も、リスクが高く、「民間人を殺傷した場合の責任の所在が不明確」と懸念するのは、
カンボジアPKOなどを現地取材した経験のある、軍事ジャーナリスト、前田哲男さんだ。
「例えば、宿営地に車が向かってくる。
武装勢力か避難民か分からない。
何となく、銃みたいなものが見えた。
隊員個人が撃った、または、指揮官が発砲を命じた。
相手は実は民間人だった、という場合もあり得る。
この時、日本の法体系の下、だれが責任を負うのか、きちんと議論されていないんです。
国の命令で派遣されるのに、間違いがあれば、隊員や指揮官個人が、責任を負うことになりかねない」
これまでの自衛隊のPKO派遣では、武器使用した自衛隊員が、個人的に責任を問われないよう、正当防衛を主張するための手続きがあった。
前田さんは、新たな任務では、過失での武器使用を含め、こうした法的問題があいまいだ、と指摘する。
「例えば、これまでの正当防衛なら、警察官職務執行法をもとにした部隊行動基準があり、
(警告や威嚇の射撃をしてから、相手を狙い撃つ)事前回避義務があった。
駆け付け警護や共同防衛は、判断の遅れが命取りになる場合もある。
事前回避義務が徹底できるのか」
自衛隊OBは、新たな任務をどう見ているか。
01年、自衛隊初の特殊部隊、「海上自衛隊特別警備隊」の創設に携わり、7月に出版した著書「国のために死ねるか」が波紋を広げる、伊藤祐靖さんを訪ねた。
自衛隊出身者なら、PKOなど、海外活動の縛りを緩める安保関連法を、歓迎するかと思いきや、
「個人的には、ものすごく疑問です」ときっぱり。
何のために、自衛隊員を危険地に向かわせ、命をかけさせるのか。
隊員が納得できる理由が必要だ、と感じているという。
「私が派遣命令を受けたら、上官に『何で?』と問いますね。
命を落とす危険性がある、でも、憲法との絡みで、活動に制約がある、
それでも、国として、『国家の理念』を貫くために必要な行動だ、その理由はこれこれだ、だから行け、と。
そうであればいいんですよ。
隊員は、『事に臨んでは危険を顧みず……』と、宣誓して入隊するんですから」
伊勢崎さんは、「苦渋の代替策」を提言する。
「憲法上、非現実的な武器使用を想定するしかない自衛隊に代わり、完全武装の警察を、国連文民警察に派遣する。
警察権の執行なら、憲法の問題はありません。
そもそも、事実上の戦地に派遣したくはないんですが……」
PKOは変質、先制攻撃も許容
なぜ、こんなに現実離れした想定で、計画が進んできてしまったのか。
伊勢崎さんは、PKOを巡る国際情勢は、日本が初めて、自衛隊をカンボジアに派遣した1992年とは変わっているのに、日本ではそれが認識されていないことが背景にある、と言う。
「かつてのPKOは、中立を守るため、停戦合意が破られればすぐ撤退しましたが、今は違う」と解説する。
転機は、94年に、ルワンダで住民虐殺が起きた際、PKO部隊が、現地にいながら阻止できなかったことに対する、国際社会の批判だったという。
「これ以降、PKOの最優先任務は、『住民保護』になり、場合によっては中立性を捨て、住民を守るための武力行使をするようになったんです。
10年のコンゴ民主共和国(旧ザイール)PKOでは、住民を攻撃する武装勢力に対し、先制攻撃する特殊部隊すら承認された。
今のPKOは、撤退しないし、交戦主体となることをためらいません。
日本だけ、時計が止まったままなんです。
憲法上、交戦権のない自衛隊を、長年その現場に送り続けたことに無理がある。
国会とメディアの怠慢ですよ」と、記者を見据えた。
PKO部隊のリスクが高まったことに伴い、先進国主導の部隊編成から、紛争国周辺や発展途上国から、参加を募る流れも加速しつつある。
国連PKO局資料によると、日本が初参加した92年末、PKO派遣人数の上位10カ国のうち6カ国を、英仏加など欧米諸国が占めた。
昨年末の統計では、欧米諸国は姿を消し、パキスタンなど南アジア諸国や、エチオピア、ナイジェリアなど、アフリカ諸国が占めた。
南スーダンで展開する13カ国の内訳は、日本以外には、工兵部隊として、インド、韓国、中国、バングラデシュの4カ国で、
残りの歩兵や航空部隊の主力は、アフリカやアジアの発展途上国だ。
谷山さんは、
「今や、ほとんどの先進国は、PKOに軍を派遣していません。
PKOへの貢献は、自衛隊を送ることだけじゃないんです。
民間や文民警察、他の公務員でだってできる。
日本はいいかげん、PKO・国際貢献=自衛隊派遣という、凝り固まった考えを捨てるべきです」と話す。
安保関連法で、新たな任務が法的に可能になったからと、自衛隊の武器使用を急ぐ必要はない。
机上の空論はやめて、何のための国際貢献か、憲法上可能なのか、現地の状況や国際情勢を、踏まえた議論をすべきではないだろうか。
_________________________________________________
安保関連法施行後の「武器使用」に関する政府見解
(首相官邸ウェブサイトの資料などを基に整理)
<PKO参加5原則>
1992年制定のPKO協力法に定めたPKO参加5原則は、
(1)紛争当事者間で、停戦合意が成立。
(2)紛争当事者が、PKOと日本のPKO参加に同意。
(3)中立性の厳守。
(4)原則が満たされない場合は、部隊を撤収できる。
(5)「武器使用」は、隊員の生命保護などのための、必要最小限に限る。
<現行法で認められる武器使用>
武器使用は、
(1)隊員自身の他、一緒にいる他の隊員や、管理下の住民らの生命・身体を守る「正当防衛・緊急避難」。
(2)自衛隊の武器・装備の防護。
(3)「駆け付け警護」「宿営地の共同防衛」などの、任務遂行を妨害する相手の排除−−の場合に限られる。
(3)では、相手が犯罪集団であることが明確な場合は、武器使用が許容されるが、
派遣国・周辺国の政府軍や現地警察など、「国または国に準ずる組織」の場合、憲法で禁じる「武力行使」にあたる恐れがある。
<憲法が禁じる武力行使>
憲法が禁じる武力行使は、「国または国に準ずる組織に対する組織的・計画的な戦闘行為」。
PKO部隊に派遣された、自衛隊の活動でも認められず、仮に、PKO部隊が武力行使に及んだとしても、一体化することはない。
その後、志津子さんだけワシントンDCに残り、アフリカ系アメリカ人歴史と、文化博物館を見学したのだそうですが、
二日目に、バスの停留所を間違えて降りたら、そこに「国境なき医師団」の屋外展示場があった…という導きのような偶然があり、その展示場の模様を報告してくれました。
それを読んでいるうちに、知っているつもりでいた自分が恥ずかしくなってきました。
この厳しい現実を、みなさんにも伝えたくて、志津子さんの承諾を得て、ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
ここではグループ毎に、実際に難民の治療を行った医師やスタッフの説明を受けながら、各展示を回る。
私たちのグループは、フランス人精神科医のサラさん。
一番最初に、
「今、世界中に、何人くらいの難民がいると思いますか?」の問いかけ。
誰も答えられない。
普段気にしているつもりでも、私の答えた数は、ずっと少なかった。
ざっと6500万人、がその答え。
やはり、南スーダンに目が行く。
もらったカタログの中に、この言葉。
国内総生産GDPで、世界の56.6%を占める先進国6ヶ国、即ちアメリカ、日本、フランス、中国、ドイツ、イギリス全体で、難民総数のたったの8.9%しか受け入れておらず、ドイツが単独で、30%を受け持っている。
日本は確か、去年一年で、4人受け入れた?
安倍晋三氏は、この前もまた、国連で「日本は金は出す$$$$!」と、大声を出していたけれど、
カタログの中には、どの国が「金を出しているか」についての説明は、何処にもない。
「何人受け入れているか」、だけしか問われないのが世界の常識だと、しみじみ分かった。
アメリカも、ドイツに比べると、貢献度はダントツに低い。
シリアやアフガニスタンに爆撃を繰り返し、難民を排出する原因を作りながら、
一方では、難民排斥主義者トランプを、熱狂的に支持する国民も多い。
情け無い。
「家を追われて」とタイトルをつけた会場に、列が出来ています。
フランスで生まれた「国境なき医師団」は、日本にも支部があります。
頭文字のMSFは、フランス語から取っています。
「国境なき医師団」へようこそ
南スーダン
「私たちは非常に危惧していた。一体全体、いつまで走り続けなくてはならないのか、見当も付かなかった」
(MFS南スーダン統括担当者)
南スーダン (国内で行き場のない避難民が、グルグル回っている状態)
<2016年6月現在>
・スーダンへの難民: 231,581人
・エチオピアへの難民: 231,307人
・ケニアへの難民: 49,823人
・ウガンダへの難民: 206,523人
・南スーダン内で住まいを失っている人: 1,616,026人
南スーダンでは、何年にも及ぶ内戦で、何万人もの人が亡くなっています。
家を追われた人の数は100万を越え、多くが、人道支援の手も及ばない所に、逃げている状態です。
国境無き医師団は、計画のスケールを上げているものの、助けを求めても、戦火がアクセスを奪い、医療機関や他の民間団体が襲われたり、薬品不足も起こっています。
このため、致命的なマラリヤのような伝染病の大流行にも、医療支援が届かない、という状態を生み出しています。
南スーダンで戦火を逃れる人たち
シリア
「地獄にいるようだった。とても生き延びるとは思えなかったけれど、他の方法がなかった。自分と家族の安全を保てるならば何でも受け容れた」
(シリアBaharの難民で、イラク内難民キャンプに辿り着いた人の言葉)
シリアの難民状況
<2016年6月現在>
・トルコへの難民: 2,729,326人
・レバノンへの難民: 1,048,275人
・ヨルダンへの難民: 657,433人
・エジプトへの難民: 117,702人
・イラクへの難民: 249,395人
・国内で住まいを失っている人: 660万人
シリアの壊滅的な内戦は、何十万という人命を奪い、少なく見積もっても、430万人の難民生み出した他、660万人が、国内で住まいを失っている。
一般市民の居住地や病院が、定期的に爆撃され、ベーシックなヘルプも出来ない状態。
アフガニスタン
僕の望みは、アフガニスタンに平和が来ること。
でも、今は無理だと知っている。
だから、戦争のない所に、取り敢えず逃げて来た。
(お母さんとアフガニスタンを逃れた13歳のHaseeb君)
アフガニスタン中で、残虐かつ無差別に行われている紛争で、国内で逃げ惑っている人の数は百万を超え、何百万という人が、国を脱出している。
多くが、イランやパキスタンなどの隣国に逃れたが、何万という人が、命懸けで、粗末なボートに乗り、ヨーロッパを目指している。
やっとのことでヨーロッパに渡っても、国境でストップをかけられ、基本的なサービスも受けられず、
何処に、いつ、どうやって、安全に辿り着けるのかの情報も無く、立ち往生している。
アフガニスタンの難民状況
<2015年10月現在>
・イランへの難民: 950,000人
・パキスタンへの難民: 1,537,447人
・国内で住まいを失っている人: 1,117,153人
ボートが着いた地中海沿岸に捨てられたライフジャケット
円形テントで、各地難民キャンプの、パノラマ写真を見せてもらう。
南スーダンキャンプ
国名不明
エチオピアキャンプ
何が難民を生み出すか?
・戦争/暴力
・民族/宗教上の対立
・政治的な抗争
・不安定な経済状況
・ヘルスケアの欠如
・食糧事情の困窮
・環境や自然の災害
南スーダンで、今すぐ避難しなくてはならないとなった時、あなたは何を持ち出しますか?
5個を取り敢えず選ぶように言われる。
携帯電話、水、薬、パスポート、毛布を選んだ。
色々話を聞いた後に、3つに減らしなさいと言われる。
水はもらえるだろう、携帯電話は電源がないだろう、と置いた。
最終的にパスポートだけ残したが、結局、個人個人、それぞれの国での事情が異なるため、これと断定出来るものはない、という説明を受けた。
これは、ヨルダン難民キャンプにいるアリサちゃんに聞かないと。
どのキャンプでも、水の供給は肝要。
水の入った重いタンクを、毎日、自分のテントまで運ぶ作業は、簡単ではない。
キャンプには、ソーラの発電機があり、携帯電話も充電出来るようななっている。
携帯電話を除外してしまった。
でも、携帯電話を故障もなく、無事に持ち込めるとしたら、ラッキーだったということになる。
医療テント。医療者も、感染には、念入りな注意を払っている。
イラク難民キャンプ用家族向けテント。
個人向けテント
イラクの難民キャンプ
ソマリアの難民キャンプ。オモチャの人形は、ビニール袋で作っている。
バングラデシュ、レバノンの難民キャンプ。
ギリシャの難民キャンプ。
フランスの難民キャンプ。
ドイツの難民キャンプ。
ここでは、難民受け入れ政策が、反対の声に押され揺らいでいるものの、コンテナを利用した住まいを与えられていて、違いは歴然としている。
シリアの現状。
難民キャンプで必要とされる基本的なもの。
難民が途中で遭遇する、様々な問題や悲劇。
難民が何処から出て、何処まで何マイルの旅をするか。南スーダンは、国内をグルグル回っていることが多い。
「あなたがこの国を逃れて、難民になると想像してください」、と言われてもらったのがホンヂュラス。
この7人乗りのボートに、何と60人も乗ると…。
ベストを貰える人はラッキー。
命を落とす人も沢山いる。
小さい子供の死体が、海辺に流された写真は、記憶に残る。
難民は、到着地点で、こんなフェンスの向こうに置かれることが多い。
全世界で、難民の数は6,500万人。
4,000万人が国内を彷徨い、国外に逃れた難民は2,100万人で、内、18歳以下の子供は半数に及ぶ。
2015年中には、毎日34,000人が難民になった計算。
最も問題が大きいのは、アフガニスタン270万人、ソマリア110万人、シリア490万人。
国内総生産GDPで、世界の56.6%を占める先進国6ヶ国、即ちアメリカ、日本、フランス、中国、ドイツ、イギリス全体で、
難民総数のたったの8.9%(210万人)しか受け入れておらず、ドイツが単独で、30%を受け持っている。
難民を排出する国トップ10
1. シリア
2. アフガニスタン
3. ソマリア
4. 南スーダン
5. スーダン
6. コンゴ
7. 中央アフリカ共和国
8. ミャンマー
9. エリトリア
10. コロンビア
難民が到着する国トップ10
1. トルコ
2. パキスタン
3. レバノン
4. イラン
5. エチオピア
6. ヨルダン
7. ケニア
8. ウガンダ
9. コンゴ
10. チャド
↑以上、転載おわり
上記の中にもあった南スーダンですが、自衛隊の方々にとって今、一番気になる場所ではないでしょうか。
去年、南スーダンは、アフガニスタンを抜き、人道支援活動を行うには、最も危険な国となった。
米国国際開発庁(USAID)系のプロジェクトである、ヒューマニタリアン・アウトカムズによると、
今年は、世界の援助活動関係者の死者のうち3割が、南スーダンで亡くなっている。
そのことについて、もう少し詳しく。
南スーダン難民100万人突破 UNHCR発表、戦闘再燃で急増
【AFP】2016年9月17日
http://www.afpbb.com/articles/-/3101270
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は16日、内戦状態にある南スーダンから国外に逃れた難民が、100万人を超えたと発表した。
7月に激しい戦闘が再燃したことで、新たに20万人近くの難民が生まれた。
UNHCRの最新の統計により、世界で最も新しい独立国である南スーダンが、
同様に内戦下にあるシリア、アフガニスタン、ソマリアといった国々に並ぶ、世界有数の難民発生国となっている現状が浮き彫りになった。
2011年の独立以後に登録された、南スーダン難民のうち、大多数は2013年12月の内戦勃発以降に、国外に逃げ出した人が占める。
これまでに、死者も多数出ている。
また、数多くの村が焼き払われたほか、国民の半数近くが、食料支援に頼っている。
人権団体によれば、政府側と反体制派の部隊が、「戦争兵器」として、住民らをレイプする事例も頻発している。
UNHCRによると、南スーダンでは、国内避難民も161万人に達している。
(c)AFP/Nicolas DELAUNAY and Claire ROSEMBERG
******* ******* ******* *******
南スーダン、迫る国家崩壊の危機 支援活動も困難に
欧米人を標的とした、政府軍兵士による集団レイプも発生
【THE WALL STREET JOURNAL】2016年9月23日
http://jp.wsj.com/articles/SB10616159211553144711104582330774030133332
5年前に誕生したばかりの、世界で最も新しい国家に、崩壊の危機が迫っている。
南スーダンの政府軍と、反政府勢力の紛争が、混迷を極める中、今年7月には、米国人を含む複数の援助関係者が、政府軍兵士にレイプされる事件が発生。
また、米外交団も襲撃を受け、米政府系の援助隊の拠点でも、略奪行為も行われた。
こうした事案は全て、わずか一週間の間に起きた出来事だ。
同国の混乱は、今に始まったことではない。
しかし、7月に発生した一連の事件に加え、南スーダンには、経済的にも破滅が迫っている。
海外からの投資は干上がり、ピーク時は1日50万バレルあった原油生産量も、今では13万バレルにとどまる。
インフレ率は700%に近づいており、政府軍の兵士には、もう数カ月にもわたって、給料が支払われていない。
先週末には、南スーダンにおける難民人口が、100万人を突破している。
南スーダンでの国際平和維持活動に参加する、モンゴルからの隊員たち
南スーダンの成立に協力した国際社会は、現状を招いた現地政府と、どう向き合えばいいのか頭を抱える。
また、同国で活動する支援団体も、政府批判をすれば、国内での活動が制限されることを恐れて、声を上げられない状況が続く。
2011年、イスラム教徒が多いスーダンから、キリスト教徒が多い南部の独立を支援したのは、米国だった。
ディンカ族であるキール大統領や政府軍と、ヌエル族であるマシャール前副大統領が率いる反乱勢力の間で、衝突が発生しても、
米国は、南スーダンの最大の援助国であり続け、紛争が始まって以降、16億ドルもの資金を、現地政府に提供している。
紛争は、一時的に停止した時期はあったものの、7月になると、再び争いは激化。
首都ジュバは、ここ数週間は平和だが、他の地域のほとんどでは、争いが繰り広げられている。
また、政府は、最近になり、支援団体関係者のパスポートを没収したり、人道目的での飛行機の運用を禁止したり、国境なき医師団などの活動を、一部で認めない方針に切り替えている。
「現地入りする前に予想していた以上に、南スーダンの状況は悪化していると感じた」と、ジュバを訪問した米国の国連大使サマンサ・パワーは、国連の安全保障理事会を前に発言。
同氏は、他の国では例がないほど、南スーダン政府が、国連関連団体の現地での活動を制限している、と指摘する。
10万人が暮らす難民キャンプの近くを流れる川で、釣りをする少年たち
国連のキャンプの近くに埋葬された遺体
7月のレイプ事件は、国連が拠点とする、テレイン居住区で発生した。
7月11日に、100人ほどの兵士が、同地を襲撃すると、外国人の支援隊員のうち、少なくとも5人をレイプ。
中には、12時間にわたって、5人の兵士に集団レイプされた隊員もいた他、
非政府組織で働く地元のスタッフも、1人殺害されている。
現場にいた被害者の証言によると、犯行は米国人を狙ったもので、国連の捜査機関も、襲撃は単発的なものではなく、事前に計画されたものだ、との結論を出している。
同じく7月11日には、南スーダンで活動する国連の世界食糧計画(WFP)の拠点でも、襲撃が発生。
その後、一週間以上にわたって、WFPの倉庫や補給施設などが荒らされ、食料4500トンと、ディーゼル油2万ガロン、コンピューター数十台を略奪した。
「首都ジュバでこのような事件が起き、しかも犯行は軍服姿の兵士たちによって行われた。前代未聞だ」と、WFPのディレクターを務めるジョイス・カニャングワ・ルマ氏は話す。
テレイン居住区のアパートに残る血痕
WFPの拠点と、テレイン居住区が襲撃される4日前には、米国大使館の車両が、政府軍の兵士に襲撃される事件も発生した。
これを受け、現地の米国大使は、正式な抗議を行なったが、南スーダン政府は、米国人が狙われたわけではない、と説明している。
南スーダンのガイ副大統領は20日、ニューヨークで、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューに応じ、
同国が、紛争解決に向けて前進している、と主張。
また、一連の攻撃が、政府主導のものではなく、捜査によって、すでに容疑者数名が逮捕されている、と語った。
「米国人は、われわれの友人だ。南スーダンは、米国人たちからの援助があるから存在できている」とも、ガイ副大統領は話した。
国連や米国は、現地の情勢を非難しつつも、南スーダン政府とは協力体制を維持し、紛争和解や、技術面での援助等を続けている。
ケリー米国務長官は、残虐行為が続くならば、支援は続けられないと表明したが、
8月に、ナイロビで行われた会見では、南スーダン政府に、1億3800万ドルの、新たな支援を行うとも発表している。
破壊された、国連やWFPの車両
南スーダンのベンティウにある、国連の難民キャンプには、約10万人が住む
去年、南スーダンは、アフガニスタンを抜き、人道支援活動を行うには、最も危険な国となった。
米国国際開発庁(USAID)系のプロジェクトである、ヒューマニタリアン・アウトカムズによると、
今年は、世界の援助活動関係者の死者のうち3割が、南スーダンで亡くなっているという。
状況の悪化を受け、地元政府への抗議として、支援団体を撤収させるべきだ、と話す関係者もいるほどだ。
「米国や欧州から来た支援隊員をレイプしても、なにも責任をとらされないとしたら、彼らは、地元の人たちには、どのようなことをするのか。
私たちが受けた扱いよりも、100万倍ひどいことをするはずだ」と、レイプされた経験を持つ隊員は話す。
5人から集団レイプされた隊員も、被害者全員が声を上げるべきだと話し、
「沈黙を守りつづければ、彼らが勝ったことになる」と指摘した。
ジュバの難民キャンプ内を歩く女性
******* ******* ******* *******
<続報真相>南スーダンへの自衛隊派遣 空論でなく現実見よ
【毎日新聞】2016年9月2日
http://mainichi.jp/articles/20160902/dde/012/010/022000c
机上の空論と言わずして何だろう。
アフリカ・南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への、自衛隊派遣のことだ。
安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」と、「宿営地の共同防護」の新たな任務が、11月にも課せられる方向だ。
現地を知る専門家は、「政府の想定とかけ離れた現実」と指摘するが、このまま突き進んでいいのだろうか。【吉井理記】
「駆け付け警護」は、自衛隊が、所在地から離れた場所にいる国連職員や、NGO関係者らの生命を守るために駆け付け、武器使用すること。
これまでは、正当防衛と緊急避難以外は、憲法が禁じた「武力行使」にあたるとされていたが、
安保関連法によって、別表のように、PKO参加5原則を満たしたうえで、任務遂行のための武器使用を認める条件を拡大した。
日本の国会で議論された「駆け付け警護」は、国際法にない概念で、戦闘が続く南スーダンでの武器使用が適法かは、日本が独自に判断する必要がある。
「知的怠慢としかいいようがない。
日本政府が想定するような状況が、南スーダンで、本当にあり得ると考えているのでしょうか。
PKO参加5原則の柱である『当事者間の停戦』は、とっくに崩壊しています」
と、根本的な疑問を投げかけるのは、東京外語大の伊勢崎賢治教授だ。
日本政府代表や、国連の現地責任者として、シエラレオネ、アフガニスタンに乗り込んで、武装勢力の武装解除の責任者を務めた、「紛争解決のプロ」だ。
南スーダンへの自衛隊派遣は、2012年に始まったが、翌13年から、政府側と反政府側との、事実上の内戦状態に突入。
昨年8月に、いったん停戦合意が成立し、統一政府が発足したものの、
今年7月には、大規模な衝突が発生し、8月には、統一政府を作っていた元反政府側トップが、国外脱出する事態になっているのだ。
自衛隊は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の管理下で活動しているが、
停戦崩壊した状況でのPKOは、現地では中立と受けとめられていない、と伊勢崎さんは指摘する。
「南スーダン政府側は、国連やPKO部隊、援助団体職員の活動を、『干渉』と敵視し始めています。
現に、7月には、南スーダン政府軍の兵士集団が、人道支援団体の外国人が滞在していた施設を、襲撃する事件が発生したと報じられています。
自衛隊は、どう対応するのでしょうか」
南スーダンで、民生復興支援を続けてきた日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事も、
停戦は成立していると強弁する、日本政府の姿勢を危惧する。
駆け付け警護の政府見解は、
「国、または国に準ずる組織の場合は、憲法が禁じる『武力行使』にあたる恐れがある」との立場のため、
「政府軍が敵対者として登場しない状況を、無理やり設定している」と指摘する。
「実際の紛争現場で、『武装勢力』『テロリスト』と政府軍を、どうやって見分けろというのでしょうか。
あまりに現実離れした要求です。
軍服を着ていなければ、民間人と武装勢力・テロリストの区別もつかないでしょう。
アフガニスタンでは、多くの民間人が、米軍などに殺害されました。
私たちの現地スタッフの親族も、犠牲になったのです」
民間人に犠牲者が出れば、住民感情は悪化する。
政府・反政府問わず、武器を使用すれば、どちらか一方への肩入れ、と受け取られかねない。
いざという時、自衛隊員は、ためらわずに武器を使えるか。
伊勢崎さんは、
「『撃てない銃』を抱えたまま、自衛隊の若者が、事実上の戦地に派遣されるのです。
殉職者は増える、と僕は心配しているのですが……」とつぶやいた。
間違いあれば隊員の責任?
もう一つの新たな任務、「宿営地の共同防衛」も、リスクが高く、「民間人を殺傷した場合の責任の所在が不明確」と懸念するのは、
カンボジアPKOなどを現地取材した経験のある、軍事ジャーナリスト、前田哲男さんだ。
「例えば、宿営地に車が向かってくる。
武装勢力か避難民か分からない。
何となく、銃みたいなものが見えた。
隊員個人が撃った、または、指揮官が発砲を命じた。
相手は実は民間人だった、という場合もあり得る。
この時、日本の法体系の下、だれが責任を負うのか、きちんと議論されていないんです。
国の命令で派遣されるのに、間違いがあれば、隊員や指揮官個人が、責任を負うことになりかねない」
これまでの自衛隊のPKO派遣では、武器使用した自衛隊員が、個人的に責任を問われないよう、正当防衛を主張するための手続きがあった。
前田さんは、新たな任務では、過失での武器使用を含め、こうした法的問題があいまいだ、と指摘する。
「例えば、これまでの正当防衛なら、警察官職務執行法をもとにした部隊行動基準があり、
(警告や威嚇の射撃をしてから、相手を狙い撃つ)事前回避義務があった。
駆け付け警護や共同防衛は、判断の遅れが命取りになる場合もある。
事前回避義務が徹底できるのか」
自衛隊OBは、新たな任務をどう見ているか。
01年、自衛隊初の特殊部隊、「海上自衛隊特別警備隊」の創設に携わり、7月に出版した著書「国のために死ねるか」が波紋を広げる、伊藤祐靖さんを訪ねた。
自衛隊出身者なら、PKOなど、海外活動の縛りを緩める安保関連法を、歓迎するかと思いきや、
「個人的には、ものすごく疑問です」ときっぱり。
何のために、自衛隊員を危険地に向かわせ、命をかけさせるのか。
隊員が納得できる理由が必要だ、と感じているという。
「私が派遣命令を受けたら、上官に『何で?』と問いますね。
命を落とす危険性がある、でも、憲法との絡みで、活動に制約がある、
それでも、国として、『国家の理念』を貫くために必要な行動だ、その理由はこれこれだ、だから行け、と。
そうであればいいんですよ。
隊員は、『事に臨んでは危険を顧みず……』と、宣誓して入隊するんですから」
伊勢崎さんは、「苦渋の代替策」を提言する。
「憲法上、非現実的な武器使用を想定するしかない自衛隊に代わり、完全武装の警察を、国連文民警察に派遣する。
警察権の執行なら、憲法の問題はありません。
そもそも、事実上の戦地に派遣したくはないんですが……」
PKOは変質、先制攻撃も許容
なぜ、こんなに現実離れした想定で、計画が進んできてしまったのか。
伊勢崎さんは、PKOを巡る国際情勢は、日本が初めて、自衛隊をカンボジアに派遣した1992年とは変わっているのに、日本ではそれが認識されていないことが背景にある、と言う。
「かつてのPKOは、中立を守るため、停戦合意が破られればすぐ撤退しましたが、今は違う」と解説する。
転機は、94年に、ルワンダで住民虐殺が起きた際、PKO部隊が、現地にいながら阻止できなかったことに対する、国際社会の批判だったという。
「これ以降、PKOの最優先任務は、『住民保護』になり、場合によっては中立性を捨て、住民を守るための武力行使をするようになったんです。
10年のコンゴ民主共和国(旧ザイール)PKOでは、住民を攻撃する武装勢力に対し、先制攻撃する特殊部隊すら承認された。
今のPKOは、撤退しないし、交戦主体となることをためらいません。
日本だけ、時計が止まったままなんです。
憲法上、交戦権のない自衛隊を、長年その現場に送り続けたことに無理がある。
国会とメディアの怠慢ですよ」と、記者を見据えた。
PKO部隊のリスクが高まったことに伴い、先進国主導の部隊編成から、紛争国周辺や発展途上国から、参加を募る流れも加速しつつある。
国連PKO局資料によると、日本が初参加した92年末、PKO派遣人数の上位10カ国のうち6カ国を、英仏加など欧米諸国が占めた。
昨年末の統計では、欧米諸国は姿を消し、パキスタンなど南アジア諸国や、エチオピア、ナイジェリアなど、アフリカ諸国が占めた。
南スーダンで展開する13カ国の内訳は、日本以外には、工兵部隊として、インド、韓国、中国、バングラデシュの4カ国で、
残りの歩兵や航空部隊の主力は、アフリカやアジアの発展途上国だ。
谷山さんは、
「今や、ほとんどの先進国は、PKOに軍を派遣していません。
PKOへの貢献は、自衛隊を送ることだけじゃないんです。
民間や文民警察、他の公務員でだってできる。
日本はいいかげん、PKO・国際貢献=自衛隊派遣という、凝り固まった考えを捨てるべきです」と話す。
安保関連法で、新たな任務が法的に可能になったからと、自衛隊の武器使用を急ぐ必要はない。
机上の空論はやめて、何のための国際貢献か、憲法上可能なのか、現地の状況や国際情勢を、踏まえた議論をすべきではないだろうか。
_________________________________________________
安保関連法施行後の「武器使用」に関する政府見解
(首相官邸ウェブサイトの資料などを基に整理)
<PKO参加5原則>
1992年制定のPKO協力法に定めたPKO参加5原則は、
(1)紛争当事者間で、停戦合意が成立。
(2)紛争当事者が、PKOと日本のPKO参加に同意。
(3)中立性の厳守。
(4)原則が満たされない場合は、部隊を撤収できる。
(5)「武器使用」は、隊員の生命保護などのための、必要最小限に限る。
<現行法で認められる武器使用>
武器使用は、
(1)隊員自身の他、一緒にいる他の隊員や、管理下の住民らの生命・身体を守る「正当防衛・緊急避難」。
(2)自衛隊の武器・装備の防護。
(3)「駆け付け警護」「宿営地の共同防衛」などの、任務遂行を妨害する相手の排除−−の場合に限られる。
(3)では、相手が犯罪集団であることが明確な場合は、武器使用が許容されるが、
派遣国・周辺国の政府軍や現地警察など、「国または国に準ずる組織」の場合、憲法で禁じる「武力行使」にあたる恐れがある。
<憲法が禁じる武力行使>
憲法が禁じる武力行使は、「国または国に準ずる組織に対する組織的・計画的な戦闘行為」。
PKO部隊に派遣された、自衛隊の活動でも認められず、仮に、PKO部隊が武力行使に及んだとしても、一体化することはない。