しつっこい生理でかなり怠いけど、だからといって仕事を休むわけにはいかないので、雪が降り始めている外に出た。
エンジンをかけるとなにやら鈍~い音。でもまあ、こんだけ寒いもんなあ~と思いながらシートベルトを装着。
ガソリン無いし……
誰やねんっ
最後にこの車に乗ったんはっ
まあええわ、とにかく今はエリックの工場に行くことが先決。
ついこのあいだ、後ろのタイヤを新しく交換したところのお局アウディ、工場から戻ってきた日から、なにやら妙~なブィ~ン音が鳴り出した。
時速40キロまでならそれほど気にならないが、60キロを超えるとうるさいぐらい。
気がついてすぐに旦那に言うと、「タイヤが新しいからとちゃうの?」と、またまた希望的刹那的なことを言う。
走るたんびに「やっぱりおかしいって」と言っても、「別にそんなたいしたこととちゃうと思う」と向こうもしつこい。
数週間がこんな調子で過ぎ、わたしはいい加減イヤになってきたので、「よほど近場でない限りこの車には乗らない!」と宣言した。
ようやく旦那も楽観論を並べることをやめ、じゃあちょっとエリックに見てもらおうやないのと運んで行くと、
「後ろのタイヤのボールベアリングがかなりやられてる。交換は高いよ」……マジで高つくし、お局さん……。
で、三日にいっぺん空気を入れんとへこんでくる、新しいはずのタイヤは?
「ああ、ホイールが欠けてるわ」……号泣
してもええよね、ええよね?!
修理をしてもらって戻ってきた次の日に、あらら?左のヘッドライトつかへんし……。
ということで、今夜、片目で町中を走るわけにはいかないので、とりあえずエリックの工場に行き、ヘッドライトの交換をしてもらってから仕事に行くことにした。
交換はものの数分で済み、これなら生徒の家に行く前にガソリンを入れられると判断。いつもの、狭いけれども町で一番安いガソリンスタンドに行く。
現金払いにするとカードよりも10セント安くなるので、もちろん現金。けれども慌てて家を出たので、財布の中には17ドルしか入っていなかった。
「ごめん、半端な数字やけど、17ドル分だけ入れて」
それでもまあタンク半分ぐらいは入り、さあ出発!
グイ……ブイン、プスッ……。
え
そんな
まさかぁ~
その、まさかぁ~なのであった。
どないもこないもエンジンがかからず、店員は、さっさと車をどけろとばかりに睨んでくる。
「あんな、わたしかてこんなとこで停まってんと動かしたい気持ちは山々なんやけどな、エンジンがかからへんねんからしゃあないやん」
「まずブレーキを踏んで、パーキングにして」
あのなあ、わたしは運転歴30年以上のベテランなんやで!
「そやし、やることは全部やってんけど、それでもエンジンがかからんのやって!」
「バッテリーじゃないの?」
あ……。そうかも……。
「あのさあ、どうでもいいけどさあ、お宅の車、思いっきり商売の邪魔してるんだけど……」
もちろんそれもわかってるよ。だからなんとか早急に動かしたいと思てるんやん!仕事にも遅れたくないし。
「バッテリーの可能性が大やから、ジャンプスタートしてもらえたらありがたいんやけど」
「それならそこの修理工場で働いてる誰かに頼んだら?」
「わかった」
店の敷地内にある工場に飛び込んで事情を話すと、お易い御用だと、ジャンプスタートのケーブルを持って出て来てくれた兄ちゃん。あんがとぉ~!
瞬間でバッテリーは回復。さて……お礼は?
「ああ、ほんのチップ程度でいいよ」
「それが……その……現金は一銭も無くて……さっきガソリンに全部使てしもてて……」
「はあ?……」
なんとなく信じてもらえてない感じが強~くしたので、財布の中を見せたのだけど、それでもなんとかせぇ~よと言いた気な兄ちゃん、ムッとした顔して立っている。
「ごめん!今日はお礼を言うだけしかできませんねん。ほんまにごめんなさい!ありがとう!おおきに!」
どうしようもないので、それだけ言って車の中へ。
やっと呆れ顔の兄ちゃんも諦めてくれた。
で、生徒の家に着いたのがそれから5分後。レッスンの時間をすでに10分遅れている。
「いっぺん切れたバッテリーはね、せめて30分は走らないと再充電がちゃんとできないから、車を止めたらアウトだよ」
などと言われたけど、この世知辛い時に、通りにエンジンをかけたままの車を放っとけるわけがない。
ど~しよう……。またエンジンかからなかったら仕事をキャンセルしないといけなくなるし、だからといって車自体を盗られた日にゃ~元も子も無いし。
悩みに悩んだ末、きっとエンジンはまたかかる。に賭けることにした。
その家の、三姉妹のレッスンが終わり、それからはとりあえずどの家もスムーズに行くことができたけれど、車を止めるたびに神さんにお願いした。
「今月はそれでのうてもホリデイシーズンで仕事が少ないんです。神さん、無事に年末年始を過ごせるよう、守っておくれやっしゃ~
!」
車がないと、冗談抜きでどこにも行けないここアメリカの郊外。
普段の点検をもっとしっかりしようと、自分で自分を戒めた貧血気味の今日のわたしだった。
追記。
昨晩眠る前、いつものように、今日もいろいろあったけれど、結局は無事に一日を終えさせてもらったお礼を言っていた時、ハッと気がついた。
あの場所でバッテリーが切れたことは、わたしにとってどんなに幸運だったのかということに。
あれが、生徒の家の前の通りだったらどうだったろう。
親もおらず、お手伝いさんだけで、しかも英語があまり通じない人達ばかりなのだ。
守ってもらったことを強く感じ、あらためて心からお礼を言った。
タイトルを変更した。
ししははちゃんの言葉がピッタリだと思ったので、拝借した。ありがとうししははちゃん!