TPPが大筋合意、などというニュースを、またまた何の検証も危機感も無く、単語だけを伝えているマスコミ人。
ネットでは、さまざまな立ち位置からの意見が飛び交っています。
今日ここでご紹介する記事は、2014年のものですが、その時点で自民党が企んでいたこと、認識していたことが、とてもわかりやすくまとめられています。
もちろん、伝え手は岩上さん。
ご自身の命(これは大げさな言い方ではなく)と身銭を削ってまでして、わたしたちに真実を伝え続けてくださっている方です。
これまでに何度も、ここでもお願いさせてもらっていますが、どうかこのIWJの支援を、よろしくお願いします。
岩上氏のもと、大勢のスタッフの方々も、日々必死で頑張ってくださっています。
このような報道、このような人たちを支援することもまた、日本の再生への道につながっていくと思います。
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【岩上安身の「ニュースのトリセツ」・加筆バージョン】
JAが「殺される」理由
TPP参加で「聖域」の関税を守る気のない自民党と、それでも安倍政権を支えるJAの不条理
【IWJウィークリー75号】より
「大西英男が取材を受けました、2013年5月14日の放送内容について閲覧させていただくか、もしくはデータをいただきたい」
自民党・大西英男衆院議員の政策秘書の方から、IWJ事務所にそう問い合わせがあったのは、11月17日のこと。
安倍総理が記者会見で、衆院解散を発表した前日でした。
私が大西英男議員にインタビューした映像を確認したい、との依頼です。
秘書の方が言うには、2014年10月30日付の日本農業新聞のコラム「万象点描」で、
私が大西議員の発言を引用して書いた記述が、気にかかったのだそうです。
大変あわてている御様子だったのは、安倍総理の解散の発表直前という時期だったためなのでしょう。
日本農業新聞は、読者層のほとんどが農業関係者で占められており、私が取り上げた「TPP問題」には、敏感な方が少なくありません。
同紙のコラムを読んだ読者から、大西議員の事務所に、問い合わせが殺到したようです。
▲2014年10月30日付の日本農業新聞のコラム「万象点描」
◼️「いずれ関税撤廃は、自民党の多くの議員も同じ考え」
私はコラム「万象点描」で、次のように書き、自民党の「二枚舌」を批判しました。
「2012年末の総選挙で、自民党は『ウソつかない。TPP断固反対。ブレない』というポスターを全国各地に貼り、JAの支持を取りつけて政権を奪還した。
しかし安倍総理は、13年2月22日の日米首脳会談で、オバマ大統領に対して早々にTPP交渉参加を約束。
3月15日には、TPP交渉への参加を正式表明した。
こうした安倍総理の姿勢は、JA、並びに全国で農業を営む方々に対する、明白な裏切りである。
『聖域』という名の『重要5品目の関税』、という最小限の約束も、実は守る気などさらさらない」
▲2012年12月の衆院選で自民党が掲げたポスター
大西議員秘書が「確認したい」と言われたのは、これに続く、次のくだりです。
「自民党の大西英男衆院議員は、13年5月14日に私がインタビューした際、自民党が掲げた農産品の『聖域』について、
『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。
これが、自民党の本音なのである」
「すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ」という、大西議員のこの発言部分について、大西議員の政策秘書は、
「この大西の発言とされる内容が、事実、大西が述べた内容なのか、岩上氏が内容を意訳なされたものなのかを確認したい」と、IWJに問い合わせてこられたのでした。
JAの方々は、「聖域は守る」という自民党の公約を素朴に信じ、選挙でも応援してきたのかもしれません。
それだけに、大西議員の発言は、自民党への信頼をぐらつかせるものであり、本当に事実としてそんな発言をしたのか、
我が目、我が耳を疑う思いで、大西議員事務所へ問い合わせをしたのでしょう。
その中には、大西議員の選挙区である東京16区、江戸川区の有権者の方々もいたことでしょうが、
他の都道府県の農家の方々からの、問い合わせもあったかもしれません。
しかし、もちろん、私が虚偽の事実を書いたわけではありません。
残念ながら、というべきか、大西議員は、確かに私の書いたとおりに発言されました。
◼️大西議員の口から語られた「事実」とは
ここで、該当箇所の映像と、実際に大西議員の口から語られた「事実」を、文字起こしでお示しします。
※該当箇所の映像
https://www.youtube.com/watch?v=0KnvecB9i2Q
岩上:
じゃあ次に参りたいと思います。
次は大西さんの、大西先生のTPPの。
大西:
さんでいいですよ。さんでいいです。どうぞ。
岩上:
考え方ということで、これが色々出ました。
そして、色々、アンケートにお答えになった資料というものをお送りいただきました。
ずいぶんたくさんのメディアから、アンケートが来ていて、それに対してお答えになっていらっしゃるんですよね。
これです。
はい、アップしてください。
これです。
これが、平成24年衆議院選挙においての、TPPに関わるアンケート回答。
これ、このまま出しません。
その部分のところだけ、引用させてもらいます。
読売新聞に対して、『日本はTPPに参加すべきと思いますか? 思いませんか?』と言ったら、これは『やや賛成』とお答えになっていらっしゃる。
『TPPへの参加について、あなたの考えは次のAとBどちらに近いですか?』
『A:海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだ』
『B:日本の農家の収入を脅かすのでよくないことだ』
『ややAに近い』に近いと。
だから、海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだ、というところにやや近いと。
大西:
まあまあ、これ長くなりますからね。
はっきり申し上げますよ。
条件付き賛成ですよ、全部。
岩上:
条件付き賛成…。
大西:
で、毎日新聞だけは、こういう問いをしてきたんですよ、ね?
『TPPに反対ですか?賛成ですか?』それだけ。
で、さらに加えて、あの、『TPPの農業分野について、あなたの考えにもっとも近いものを、ひとつ選んでください』」
岩上:
なるほど。
大西:
「コメなど、可能な限り、多くの例外品目を設けるべきだ」と言ってるんですよ、ね?
賛成か反対か?
そのときに、私は条件付きの賛成ですから、これ本来だったら、どちらにも丸を付けないほうが良かったんでしょうね。
毎日新聞だけです。
あとは全部一貫してますよ。
条件付き賛成、はい。
それをね、それを見ないでね、この毎日新聞だけ、なんかインターネットかなんかで公開されているんでしょうか?
それで、大西はTPPに賛成だと、孫崎さんが発言した。
それによって大変ですよ、ツイッターが。
選挙でTPPに反対したのに、なぜ今、賛成してんだ、お前は議員辞職しろとかさ。
とんでもない言論の暴力でしょ、ね?
だけど、私ははっきり述べてるんだから、自分の信念を。
岩上:
条件付き賛成なんですか?
大西:
そうですよ。
だからTPPは、日本の経済の発展のために必要なことである。
しかし、農業の問題だけはしっかり守らなければいかんということで、農業については条件付きでやりなさいと。
こう言ってきた。
安倍総理は、そのようにオバマ大統領と会見をして、その条件付き、ね?
関税撤廃無制限でないという言質を得た。
それでオバマ大統領との会見を終えて 日本に帰ってきてから、TPP交渉に踏み切ることにしたんですよ。
岩上:
この場合の、『聖域なき』というのは、どのように解釈されるんでしょうか?
大西:
ん?
岩上:
オンザテーブルということ。
つまり、すべてが交渉の上に挙げられると。
これは、USTRもはっきり言ってるわけです。
ということは、一切、もう論議することもなく、聖域確保、撤廃なしというような約束というのは、誰もしていないはずなんですよ。
これは、必ず、テーブルに載せられると。
そこで、重要なことがひとつあって、先日、そのUSTRに直接訪米した訪米団があったわけです。
元議員や議員のグループなんですけれども、そこで帰朝して報告会をやった。
そうしましたら、聖域と言いますか、例外扱いしてくれるのかと。
この方たちも、農業を守りたいとおっしゃっているから、志は同じだと思うんですけれども。
「守りたいと思っているので、それは聖域扱いをするのか」と言ったら、これは、カトラーさんという、USTRのトップですけれども、No.3ですか。
彼女が、
「関税の完全な撤廃を目指しているんであって、関税を残すということは一切ない』と(発言した)。
ただ、それが段階的に減らすか。
つまり、時間をかけて減らすか。
つまりなくしてしまう、ゼロに。
でなければ、一時的なセーフガードが認められるだけで、いわゆる聖域として関税を残すということはない、と言ってるわけですよね。
大西:
いや、だから、そういうことですよ。
それは、だから、もちろん、その半永久的にね、この関税を残せなんて言ってないんですよ。
岩上:
あ、そうなんですか?
大西:
そうですよ。
それは、やっぱり日本の農業の体質改善や、日本の農業の競争力の強化を図りながら、
そして、ゆるやかな形で、日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。
そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ。
それを、TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない。
それは、アメリカも、農産物の関税は撤廃したいけど、自動車は守りたいんですよ。
あれ、自動車だって、10年後に協議しようということで落着したでしょ?
だから、これはまた、そこからの論議です。
なんでアメリカさん、自動車だけは、関税撤廃を認めないで、日本の農業だけ、なんで即、関税撤廃だという話になるでしょ。
それはありえない、外交交渉では。
ですからこれは、TPPを締結したあとに、しかるべき形で論議が進んでいくことだと思うんですよ。
◼️自民党「TPP対策に関する決議」とも根本的に矛盾する
読者の皆さんには、おわかりいただけたと思います。
大西議員は、
「半永久的に関税を残せなんて言っていない」とし、
「日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。
そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ」と、確かに発言されました。
この発言は、私が日本農業新聞のコラムで書いた、
「自民党の大西英男衆院議員は、(中略)『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。
これが、自民党の本音なのである」という箇所と一致します。
大西議員は、ご自身のみならず、多くの自民党議員が、関税撤廃への意思を持っていることをはっきりと明言したのです。
また、大西議員は、
「TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない」と言いつつ、
「TPPを締結したあとに、しかるべきカタチで議論が進んでいく」とも発言しています。
これは、TPPの参加が、関税引き下げ交渉の「ゴール」ではなく、締結後にも、交渉が続いてゆく、
即ち、関税のさらなる引き下げ、あるいは完全なる撤廃の圧力が米国からかかり、日本側も応じる用意があることを意味しています。
TPPは、交渉の終わりではない。
そして、日米間協議が続く中で、いずれ、「関税を撤廃していこうという基本的な考え方」を、大西議員も、他の自民党議員も持っているというわけです。
大西議員のこの主張は、インタビューのわずか2ヶ月前、2013年3月13日に出された、自民党による「TPP対策に関する決議」の中の文言と矛盾しています。
「決議」の中では、「TPP対策委員会第4グループとりまとめ」の項において、「TPPでの日本の主張」として次の文言が掲げられています。
「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物等の農林水産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう、除外、又は再協議の対象となること。
10年を超える期間をかけた、段階的な関税撤廃も含め認めない」
10年を超えるような、長期にわたっての段階的な関税撤廃も認めないと、自民党ははっきり言いきって決議までしています。
この部分の約束を、全国の農業関係者の方々は頼もしく思ったことでしょう。
自民党は、表向きには、重要品目の関税撤廃を永続的に認めないとし、あくまで「聖域を保つ」と断言して、農業関係者の歓心を買いながらも、
実際には、大西議員の言うように、いずれは関税の撤廃を目指している、という本音を腹の底にたくわえているわけです。
自民党の二枚舌が、私のインタビューの中で、図らずも露呈されたことになります。
大西議員事務所から、インタビューのデータを送るか、サイトでインタビュー全体を見られるようにして欲しい、という申し出がありました。
大西議員側だけに見てもらって確認してもらうのは、インタビューの本来の趣旨と違いますので、
多くの方に御覧になっていただけるように、11月20日に再配信し、その後もどなたでも御覧いただけるようにフルオープンにしております。
どうぞ、御覧ください。
※2013/05/14 【大義なき解散総選挙1】自民党公約「段階的な関税撤廃も受け入れない」とは違う議員が語った本音とは ~大西英男議員インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/78774
◼️1000万票のJA票を裏切り、切り崩す安倍政権
農協は、自民党の「最大の支持組織」として、長年、自民党を支えてきました。
農家数は年々減少していますが、農協は、正組合員と准組合員を合計すれば、いまだに1000万人近い組合員を擁しています。
巨大な「農協票」です。
09年の選挙では、民主党が、農家への「戸別所得補償制度」を打ち出したことで、農協票の大半が民主党に流れたと言われており、
これが政権交代に、大きく影響していたとも分析されています。
民主党・菅直人政権時に持ち上がった、日本のTPPへの交渉参加問題。
農協が、2011年に集めたTPP反対署名は、日本の人口の約10分の1にあたる、1160万筆を超えました。
2012年の衆院選で、自民党は「TPP断固反対」を掲げ、農協票を再び取り込み、政権を奪還したのです。
しかし、安倍政権が、アベノミクスの一環として、今年6月に閣議決定した「新成長戦略」は、
政権交代の「恩義」のあるJAに対して、「仇で返す」ようなものでした。
「新成長戦略」の最大のポイントは「農協改革」です。
これはJAの事実上の解体であり、農家の発言力の低下を狙ったものです。
まず、全国約700の農協の司令塔である「JA全中」を、新たな組織に移行させ、単協に対する経営監査などの、権限の大幅縮小を打ち出しました。
また、生産から卸し業まで、一括した管理体制で農作物を流通させている、JA全農を株式会社化するとし、
農業法人への企業の、出資の規制緩和も目指すとしています。
さらに、農業生産法人の設立要件も緩和するとしており、企業の農業参入を促進してゆくというのです。
自立した家族農・自営農の集まりである協同組合を、企業の形態に再編することは、将来的に何を意味するのでしょうか。
会社法改正以後の一般企業がそうであるように、株式企業となれば、株主支配が貫徹されることになり、株主には、高い割合で、外資が含まれることになるでしょう。
農業法人が、日本の国土の多くを占める農地を所有し、その農地を外資が株主支配すれば、
領土を巡るまがまがしい侵略戦争など引き起こさなくとも、無血で、日本の国土を事実上、手に入れることができます。
その農地をまた、別の目的に転売することも可能でしょう。
もし、そうしたグローバル資本の思惑に抵抗しようとして、政府や地方自治体が、国土保全のための規制をかけようとすれば、
TPP参加後であれば、ただちにISD条項による提訴が行われることでしょう。
小規模農家は次々と農地を手放し、農家を廃業するか、農業法人の従業者とならざるをえなくなります。
何にことはない、戦後の農地解放以前の、「小作人」へ逆戻りです。
◼️農業関係者の悲鳴「我々はなぜ殺されようとしているのか」
こうした日本の農業と農家の切り捨て政策について私は、コラムの中で、次のようにも書き、警鐘を鳴らしました。
「安倍総理が、TPPへの参加を表明した真の理由は、『強い農業』の復活による経済成長などというものでは、もちろんない。
安倍総理の狙いは、JAの解体であり、日本の小規模な家族経営農家を消滅させ、農業と農地を株式会社化した上で、大資本に売り渡すことである。
7月30日付けの産経新聞の報道によれば、
安倍総理は、TPPに反対するJAを指し、『日教組のような抵抗組織だな』と周囲に怒りをぶちまけたという。
かつての小泉政権が、郵便局を『抵抗勢力』として『悪魔化』し、新自由主義改革を推進したように、
安倍政権は、JAを、『悪魔化』するキャンペーンを張ろうとしているのだ」
安倍政権の「裏切り」を前に、農業関係者の方々は、
「我々はこれまで、さんざん自民党に尽くしてきたのに、なぜ、こんな扱いをされるのか」と、疑問に感じているでしょう。
これもコラムで書きましたが、私は今年7月、全国のJAの組合員の方々、百数十人を前にして、お話をさせていただく機会がありました。
私は、TPPに対する批判者であり、したがって、TPP参加をすすめる安倍政権への批判者でもあります。
今は、「TPPは交渉差止・違憲訴訟の会」の呼びかけ人にも名を連ねています。
そんな私に、自民党の「最大の支持組織」であるJAの関係者が、講演を依頼するとは、どんな風の吹き回しでしょうか。
「講演依頼をなぜ私に?」とおたずねしました。
「我々は、なぜ『殺されようとしているのか』わからないです。なぜなのかを、知りたい」
担当者の方は、そう率直に答えられました。
「我々は、TPP反対という自民党の公約を信じ、衆・参の両選挙で自民党を盛り立て、安倍政権を誕生させました。
しかし、その公約はあっさり反故にされ、それどころか、JA全中解体を迫られています。
尽くしたあげく、なぜ、殺されなければならないのか、わかりません」
切実な口調でした。
本気で自民党を信じ、そして裏切られた、その悔しさが、ひしひしと伝わってきました。
一方で私は、新鮮な驚きを覚えました。
この期におよんで、まだ自民党を信じていたのか、という驚きです。
◼️安倍政権は、なぜJAを殺すのか
コラムで記した通り、安倍政権の狙いはTPP参加であり、新自由主義政策の貫徹です。
そのためにも、「抵抗組織」として名指しするJAを解体し、農協を株式会社化した上で、土地を大資本に売り渡そうともくろんでいると考えられます。
そしてこの構想は、米国の思惑と表裏一体です。
安倍政権は、「愛国」的なイメージとは裏腹に、米国から突きつけられた要求を従順にこなす、「従米政権」です。
安倍政権は、米国と日本国民の利害の間の、「中間管理職」の役目を担っているに過ぎません。
郵政民営化の時には、米国の狙いは、「郵貯・簡保」の資金でした。
今度は、「農林中金の資金」に目をつけていることは間違いありません。
安倍総理はたびたび、「日本を、企業が世界で一番活躍できる国にする」と口にし、国民のほうを向いているように見せかけていますが、
その内実は、米国発のグローバル企業にとって都合の良い国にする、という改革であり、
安倍政権に命令を下す「上司」であるワシントンD.C、ウォール街などの顔色ばかりをうかがっています。
「上司」が、郵貯・簡保の市場を開放しろ、農協を解体し、参入させろ、と命令し、
「中間管理職」である安倍政権は、「上司」の命令に忠実に従い、結果として、矛先がJAにも向けられました。
自民党を長年支えてきたJAは、その甲斐もむなしく、日本の市場に手付かずで残された「ビジネスチャンス」として、米国に差し出されようとしています。
TPPに対する米国の執念は、本当に侮れません。
「夜寝ているオバマを電話でたたき起こして、『(日本に求める)優先順位はなんだ』って聞いてごらん。
1にTPP、2にTPP、3にTPP、4にTPPと言うだろうね。
集団的自衛権は多分、『あ、そう言えば…』って言って、19番目くらいに(集団的自衛権が)出てくるかもしれない」
こう証言したのは、米国の元NSC(国家安全保障会議)高官のモートン・ハルペリン氏。
元内閣官房副長官補の柳澤協二さんに、ハルペリン氏が、米国の実情を紹介するうえで語ったといいます。
12月21日に、IWJが開催した「饗宴V」の中で、パネリストとして登壇していただいた柳澤さんが、明かしてくれました。
オバマは、米国は、日本のTPP参加をそれほど悲願に考えている、という事実を端的に表す証言でした。
◼️それでも「消極的」に自民党を支持するJAの選択
それでもまだ、自民党を支持する農業関係者もいます。
佐賀と熊本のJAグループは、消極的ながらも自民党を推薦し、農協票を託すと決定しました。
産経新聞の記事を紹介します。
「JA佐賀の政治団体『佐賀県農政協議会』は11月29日、選挙区と比例の自民候補3人に推薦を決定したが、
政策協定書ならぬ『誓約書』を提出させ、当選後は、JAの意に沿った活動をするよう確約を取った。
同協議会は、昨夏の参院選でも、TPPの対応をめぐり、佐賀選挙区の新人候補の推薦をいったん撤回するなど、揺さぶりをかけた。
JAグループ熊本の熊本県農政連からは、候補者が提出した政策協定書に、『内容がぬるい、JAを甘く見ているのではないか』と不満が噴出した。
このため、梅田穰委員長は、推薦を決定する予定だった11月28日の会合で、『政府自民の農政に不信感が募っている』と語り、推薦決定を保留した。
2日後の30日、協定書の文言の『遵守』を『厳守』に変えさせるなどし、自民と次世代の候補計6人の推薦を正式に決めた。
『共産や社民候補を推薦した方がマシじゃないかと、冗談まで出るようになった。
とはいえ、すんなり推薦を出さないことぐらいしか、候補者へのプレッシャーにできないのが現状だ』」
※産経新聞(2014.12.6)農協票 TPPと組織改革、不満呑み込み自民推薦
09年の民主党のような、「受け皿」が存在していないことが響いているようです。
票を託せそうな野党がない。
であれば、効果が薄いかもしれないが、選挙後に、自民党が少しでも「手心」を加えてくれるよう、ささやかでも歯止めとなる約束を取りつけておくのが得策だ。
誓約書や協定書の細かな文言を担保に、選挙後、少しでもダメージの少ない政策を期待する。
そうした戦術を選択する他なかったのかもしれません。
茨城県や新潟県でも、同様の動きがあります。
「県JAグループの政治団体『県農協政治連盟』(加倉井豊邦委員長)は一日、常任委員会を開き、衆院選での県内小選挙区の推薦、支持者を決め、発表した。
茨城1、5区は自民、民主両党の立候補予定者を支持する。
推薦はいずれも、自民前職の額賀福志郎氏(2区)、葉梨康弘氏(3区)、梶山弘志氏(4区)、丹羽雄哉氏(6区)、永岡桂子氏(7区)の五氏。
1区の自民前職の田所嘉徳氏と、民主元職の福島伸享氏、5区の自民前職の石川昭政氏と、民主前職の大畠章宏氏は支持とした。
JAの組合員の意見を聞き、農業に理解が深い立候補予定者を選んだ。
県農政連の要領で、推薦は一選挙区一人と決まっており、二人の場合は支持とした」
※東京新聞(2014.12.2)農業に理解が深い5氏推薦4氏支持 県農政連
「県内JAグループの政治組織『県農政刷新連盟』(県農政連)は3日、14日投開票の衆院選について、県内全6小選挙区の自民党候補者を推薦することを決めた。
態度を保留していた地域農協の意向を、3日までに確認した結果、県内25の地域農協で、野党の候補者を強く推す声がなかった。
安倍政権が、農協改革を進めようとする中、自民党との関係を悪化させたくない思惑もあるとみられる」
※新潟日報(2014.12.4)県農政連、県内全区で自民推薦
他にも、福井県も自民党を推しましたが、JA内でも意見が対立し、票をまとめきれていないようです。
「福井県農政連(山田俊臣会長)は28日、来月の衆院選で、自民党公認の稲田朋美氏と高木毅氏を推薦することを決めた。
一方で、政権公約に農協改革を掲げた、自民党に対する反発は強く、農政連の動きとは別に、
26日には、県内11JAの組合長が、衆院選では中立の立場で臨むことを確認。
表裏一体の県農政連とJAは、足並みがそろわない状況となっている」
※福井新聞(2014.11.29)衆院選で農政連とJAに隔たり 福井、農協改革で足並みそろわず
◼️自民大勝を歓迎し、TPP推進を期待する米国
自らの首を締めるように、自民党をサポートするJA。
衆院選の自民大勝を受けて、米国の農業団体などからは、TPP交渉推進を期待する声が上がっています。
全米豚肉生産者協議会(NPPC)は12月19日、ニュースレターで、衆院選後のTPP交渉に関する見通しを提示。
今後、安倍政権は、構造改革を推進してゆく分析し、特に農業は、その「最大の候補」と主張。
「日本農業を競争力のある産業にするには、農産物の輸入障壁をなくすべき」だとしました。
そのうえで、日本が、TPP交渉で、農産物重要5品目を、関税撤廃の対象から例外にしようとしていることを挙げ、
NPPCは、「大幅に改善された日本の提案を要求し、特に、豚肉の差額関税制度の撤廃を求め続ける」との立場を表明しました。
さらに、米国のシンクタンク・米戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員らも、衆院選翌日の15日、今回の選挙結果を分析。
「与党の勝利は、安倍首相を、農業重要品目などの問題を前に進めるための、有利な立場に置いた」と高く評価しました。
麦などの生産者らで構成される「米国穀物協議会」は、今回の衆院選の意義をホームページで紹介し、
「もし安倍首相が支持を得られれば、農業分野などの政治的に難しい問題に取り組む、大幅な権限を与えることになるだろう」との見解を提示しました。
安倍政権の大勝を歓迎する米国とは対照的に、JAは、いよいよ窮地に追い込まれたといえるでしょう。
※日本農業新聞(2014.12.23)TPP前進 期待多く 「農業こそ構造改革を」 衆院選・自民大勝受け米国団体
◼️「この道」の先に待ち受けているもの
「一人でも多くの農家の方々に、自分たちは自らを絞首刑にかけようとする者のために、自らロープを編んでいるのだ、と気づいてもらいたいと思う」
私が、コラムの最後に書いた言葉です。
安倍政権は、米国の要求にならい、これまでの日本のかたちを変え、米国型グローバリズムに付き従ってゆこうとしています。
この選挙で、安倍・自民党は、300議席を獲得するとも報じられています。
それが現実の結果となった場合、暴走する安倍政権に、どうやってブレーキをかければいいのでしょうか。
選挙前に書いた誓約書や協定書を突き出し、「約束が違うではないか」と迫ったところで、何の効果もありません。
前回の衆院選後に、「TPP断固反対」の公約をあっさりと反故にして、交渉参加を決めた「実績」のある自民党です。
自民党が「二枚舌」をためらわないのは、大西議員が証言したとおりです。
自民党は、今回の選挙で、「景気回復、この道しかない。」とスローガンを掲げていますが、
「この道」の先には、どのような日本の農業の姿が待ち受けているか、火を見るよりも明らかではないでしょうか。
(まうみ注・この記事は、2014年に書かれたものに加筆したものですが、TPPの脅威が目の前に迫っている今、ぜひ読んでいただきたいと思い、紹介させていただきました)
ネットでは、さまざまな立ち位置からの意見が飛び交っています。
今日ここでご紹介する記事は、2014年のものですが、その時点で自民党が企んでいたこと、認識していたことが、とてもわかりやすくまとめられています。
もちろん、伝え手は岩上さん。
ご自身の命(これは大げさな言い方ではなく)と身銭を削ってまでして、わたしたちに真実を伝え続けてくださっている方です。
これまでに何度も、ここでもお願いさせてもらっていますが、どうかこのIWJの支援を、よろしくお願いします。
岩上氏のもと、大勢のスタッフの方々も、日々必死で頑張ってくださっています。
このような報道、このような人たちを支援することもまた、日本の再生への道につながっていくと思います。
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【岩上安身の「ニュースのトリセツ」・加筆バージョン】
JAが「殺される」理由
TPP参加で「聖域」の関税を守る気のない自民党と、それでも安倍政権を支えるJAの不条理
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「大西英男が取材を受けました、2013年5月14日の放送内容について閲覧させていただくか、もしくはデータをいただきたい」
自民党・大西英男衆院議員の政策秘書の方から、IWJ事務所にそう問い合わせがあったのは、11月17日のこと。
安倍総理が記者会見で、衆院解散を発表した前日でした。
私が大西英男議員にインタビューした映像を確認したい、との依頼です。
秘書の方が言うには、2014年10月30日付の日本農業新聞のコラム「万象点描」で、
私が大西議員の発言を引用して書いた記述が、気にかかったのだそうです。
大変あわてている御様子だったのは、安倍総理の解散の発表直前という時期だったためなのでしょう。
日本農業新聞は、読者層のほとんどが農業関係者で占められており、私が取り上げた「TPP問題」には、敏感な方が少なくありません。
同紙のコラムを読んだ読者から、大西議員の事務所に、問い合わせが殺到したようです。
▲2014年10月30日付の日本農業新聞のコラム「万象点描」
◼️「いずれ関税撤廃は、自民党の多くの議員も同じ考え」
私はコラム「万象点描」で、次のように書き、自民党の「二枚舌」を批判しました。
「2012年末の総選挙で、自民党は『ウソつかない。TPP断固反対。ブレない』というポスターを全国各地に貼り、JAの支持を取りつけて政権を奪還した。
しかし安倍総理は、13年2月22日の日米首脳会談で、オバマ大統領に対して早々にTPP交渉参加を約束。
3月15日には、TPP交渉への参加を正式表明した。
こうした安倍総理の姿勢は、JA、並びに全国で農業を営む方々に対する、明白な裏切りである。
『聖域』という名の『重要5品目の関税』、という最小限の約束も、実は守る気などさらさらない」
▲2012年12月の衆院選で自民党が掲げたポスター
大西議員秘書が「確認したい」と言われたのは、これに続く、次のくだりです。
「自民党の大西英男衆院議員は、13年5月14日に私がインタビューした際、自民党が掲げた農産品の『聖域』について、
『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。
これが、自民党の本音なのである」
「すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ」という、大西議員のこの発言部分について、大西議員の政策秘書は、
「この大西の発言とされる内容が、事実、大西が述べた内容なのか、岩上氏が内容を意訳なされたものなのかを確認したい」と、IWJに問い合わせてこられたのでした。
JAの方々は、「聖域は守る」という自民党の公約を素朴に信じ、選挙でも応援してきたのかもしれません。
それだけに、大西議員の発言は、自民党への信頼をぐらつかせるものであり、本当に事実としてそんな発言をしたのか、
我が目、我が耳を疑う思いで、大西議員事務所へ問い合わせをしたのでしょう。
その中には、大西議員の選挙区である東京16区、江戸川区の有権者の方々もいたことでしょうが、
他の都道府県の農家の方々からの、問い合わせもあったかもしれません。
しかし、もちろん、私が虚偽の事実を書いたわけではありません。
残念ながら、というべきか、大西議員は、確かに私の書いたとおりに発言されました。
◼️大西議員の口から語られた「事実」とは
ここで、該当箇所の映像と、実際に大西議員の口から語られた「事実」を、文字起こしでお示しします。
※該当箇所の映像
https://www.youtube.com/watch?v=0KnvecB9i2Q
岩上:
じゃあ次に参りたいと思います。
次は大西さんの、大西先生のTPPの。
大西:
さんでいいですよ。さんでいいです。どうぞ。
岩上:
考え方ということで、これが色々出ました。
そして、色々、アンケートにお答えになった資料というものをお送りいただきました。
ずいぶんたくさんのメディアから、アンケートが来ていて、それに対してお答えになっていらっしゃるんですよね。
これです。
はい、アップしてください。
これです。
これが、平成24年衆議院選挙においての、TPPに関わるアンケート回答。
これ、このまま出しません。
その部分のところだけ、引用させてもらいます。
読売新聞に対して、『日本はTPPに参加すべきと思いますか? 思いませんか?』と言ったら、これは『やや賛成』とお答えになっていらっしゃる。
『TPPへの参加について、あなたの考えは次のAとBどちらに近いですか?』
『A:海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだ』
『B:日本の農家の収入を脅かすのでよくないことだ』
『ややAに近い』に近いと。
だから、海外の需要を取り込み、経済成長が望めるのでよいことだ、というところにやや近いと。
大西:
まあまあ、これ長くなりますからね。
はっきり申し上げますよ。
条件付き賛成ですよ、全部。
岩上:
条件付き賛成…。
大西:
で、毎日新聞だけは、こういう問いをしてきたんですよ、ね?
『TPPに反対ですか?賛成ですか?』それだけ。
で、さらに加えて、あの、『TPPの農業分野について、あなたの考えにもっとも近いものを、ひとつ選んでください』」
岩上:
なるほど。
大西:
「コメなど、可能な限り、多くの例外品目を設けるべきだ」と言ってるんですよ、ね?
賛成か反対か?
そのときに、私は条件付きの賛成ですから、これ本来だったら、どちらにも丸を付けないほうが良かったんでしょうね。
毎日新聞だけです。
あとは全部一貫してますよ。
条件付き賛成、はい。
それをね、それを見ないでね、この毎日新聞だけ、なんかインターネットかなんかで公開されているんでしょうか?
それで、大西はTPPに賛成だと、孫崎さんが発言した。
それによって大変ですよ、ツイッターが。
選挙でTPPに反対したのに、なぜ今、賛成してんだ、お前は議員辞職しろとかさ。
とんでもない言論の暴力でしょ、ね?
だけど、私ははっきり述べてるんだから、自分の信念を。
岩上:
条件付き賛成なんですか?
大西:
そうですよ。
だからTPPは、日本の経済の発展のために必要なことである。
しかし、農業の問題だけはしっかり守らなければいかんということで、農業については条件付きでやりなさいと。
こう言ってきた。
安倍総理は、そのようにオバマ大統領と会見をして、その条件付き、ね?
関税撤廃無制限でないという言質を得た。
それでオバマ大統領との会見を終えて 日本に帰ってきてから、TPP交渉に踏み切ることにしたんですよ。
岩上:
この場合の、『聖域なき』というのは、どのように解釈されるんでしょうか?
大西:
ん?
岩上:
オンザテーブルということ。
つまり、すべてが交渉の上に挙げられると。
これは、USTRもはっきり言ってるわけです。
ということは、一切、もう論議することもなく、聖域確保、撤廃なしというような約束というのは、誰もしていないはずなんですよ。
これは、必ず、テーブルに載せられると。
そこで、重要なことがひとつあって、先日、そのUSTRに直接訪米した訪米団があったわけです。
元議員や議員のグループなんですけれども、そこで帰朝して報告会をやった。
そうしましたら、聖域と言いますか、例外扱いしてくれるのかと。
この方たちも、農業を守りたいとおっしゃっているから、志は同じだと思うんですけれども。
「守りたいと思っているので、それは聖域扱いをするのか」と言ったら、これは、カトラーさんという、USTRのトップですけれども、No.3ですか。
彼女が、
「関税の完全な撤廃を目指しているんであって、関税を残すということは一切ない』と(発言した)。
ただ、それが段階的に減らすか。
つまり、時間をかけて減らすか。
つまりなくしてしまう、ゼロに。
でなければ、一時的なセーフガードが認められるだけで、いわゆる聖域として関税を残すということはない、と言ってるわけですよね。
大西:
いや、だから、そういうことですよ。
それは、だから、もちろん、その半永久的にね、この関税を残せなんて言ってないんですよ。
岩上:
あ、そうなんですか?
大西:
そうですよ。
それは、やっぱり日本の農業の体質改善や、日本の農業の競争力の強化を図りながら、
そして、ゆるやかな形で、日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。
そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ。
それを、TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない。
それは、アメリカも、農産物の関税は撤廃したいけど、自動車は守りたいんですよ。
あれ、自動車だって、10年後に協議しようということで落着したでしょ?
だから、これはまた、そこからの論議です。
なんでアメリカさん、自動車だけは、関税撤廃を認めないで、日本の農業だけ、なんで即、関税撤廃だという話になるでしょ。
それはありえない、外交交渉では。
ですからこれは、TPPを締結したあとに、しかるべき形で論議が進んでいくことだと思うんですよ。
◼️自民党「TPP対策に関する決議」とも根本的に矛盾する
読者の皆さんには、おわかりいただけたと思います。
大西議員は、
「半永久的に関税を残せなんて言っていない」とし、
「日本農業の改革を進めるなかで、関税を撤廃をしていこうというような基本的な考え方は、私は持ってますよ。
そして、自民党の多くの人たちも持ってますよ」と、確かに発言されました。
この発言は、私が日本農業新聞のコラムで書いた、
「自民党の大西英男衆院議員は、(中略)『すぐにではなく、いずれ関税撤廃ということ。自民党の多くの議員も同じ考えだ』と語った。
これが、自民党の本音なのである」という箇所と一致します。
大西議員は、ご自身のみならず、多くの自民党議員が、関税撤廃への意思を持っていることをはっきりと明言したのです。
また、大西議員は、
「TPPに入ったから、即関税撤廃だということはありえない」と言いつつ、
「TPPを締結したあとに、しかるべきカタチで議論が進んでいく」とも発言しています。
これは、TPPの参加が、関税引き下げ交渉の「ゴール」ではなく、締結後にも、交渉が続いてゆく、
即ち、関税のさらなる引き下げ、あるいは完全なる撤廃の圧力が米国からかかり、日本側も応じる用意があることを意味しています。
TPPは、交渉の終わりではない。
そして、日米間協議が続く中で、いずれ、「関税を撤廃していこうという基本的な考え方」を、大西議員も、他の自民党議員も持っているというわけです。
大西議員のこの主張は、インタビューのわずか2ヶ月前、2013年3月13日に出された、自民党による「TPP対策に関する決議」の中の文言と矛盾しています。
「決議」の中では、「TPP対策委員会第4グループとりまとめ」の項において、「TPPでの日本の主張」として次の文言が掲げられています。
「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物等の農林水産物の重要品目が、引き続き再生産可能となるよう、除外、又は再協議の対象となること。
10年を超える期間をかけた、段階的な関税撤廃も含め認めない」
10年を超えるような、長期にわたっての段階的な関税撤廃も認めないと、自民党ははっきり言いきって決議までしています。
この部分の約束を、全国の農業関係者の方々は頼もしく思ったことでしょう。
自民党は、表向きには、重要品目の関税撤廃を永続的に認めないとし、あくまで「聖域を保つ」と断言して、農業関係者の歓心を買いながらも、
実際には、大西議員の言うように、いずれは関税の撤廃を目指している、という本音を腹の底にたくわえているわけです。
自民党の二枚舌が、私のインタビューの中で、図らずも露呈されたことになります。
大西議員事務所から、インタビューのデータを送るか、サイトでインタビュー全体を見られるようにして欲しい、という申し出がありました。
大西議員側だけに見てもらって確認してもらうのは、インタビューの本来の趣旨と違いますので、
多くの方に御覧になっていただけるように、11月20日に再配信し、その後もどなたでも御覧いただけるようにフルオープンにしております。
どうぞ、御覧ください。
※2013/05/14 【大義なき解散総選挙1】自民党公約「段階的な関税撤廃も受け入れない」とは違う議員が語った本音とは ~大西英男議員インタビュー
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/78774
◼️1000万票のJA票を裏切り、切り崩す安倍政権
農協は、自民党の「最大の支持組織」として、長年、自民党を支えてきました。
農家数は年々減少していますが、農協は、正組合員と准組合員を合計すれば、いまだに1000万人近い組合員を擁しています。
巨大な「農協票」です。
09年の選挙では、民主党が、農家への「戸別所得補償制度」を打ち出したことで、農協票の大半が民主党に流れたと言われており、
これが政権交代に、大きく影響していたとも分析されています。
民主党・菅直人政権時に持ち上がった、日本のTPPへの交渉参加問題。
農協が、2011年に集めたTPP反対署名は、日本の人口の約10分の1にあたる、1160万筆を超えました。
2012年の衆院選で、自民党は「TPP断固反対」を掲げ、農協票を再び取り込み、政権を奪還したのです。
しかし、安倍政権が、アベノミクスの一環として、今年6月に閣議決定した「新成長戦略」は、
政権交代の「恩義」のあるJAに対して、「仇で返す」ようなものでした。
「新成長戦略」の最大のポイントは「農協改革」です。
これはJAの事実上の解体であり、農家の発言力の低下を狙ったものです。
まず、全国約700の農協の司令塔である「JA全中」を、新たな組織に移行させ、単協に対する経営監査などの、権限の大幅縮小を打ち出しました。
また、生産から卸し業まで、一括した管理体制で農作物を流通させている、JA全農を株式会社化するとし、
農業法人への企業の、出資の規制緩和も目指すとしています。
さらに、農業生産法人の設立要件も緩和するとしており、企業の農業参入を促進してゆくというのです。
自立した家族農・自営農の集まりである協同組合を、企業の形態に再編することは、将来的に何を意味するのでしょうか。
会社法改正以後の一般企業がそうであるように、株式企業となれば、株主支配が貫徹されることになり、株主には、高い割合で、外資が含まれることになるでしょう。
農業法人が、日本の国土の多くを占める農地を所有し、その農地を外資が株主支配すれば、
領土を巡るまがまがしい侵略戦争など引き起こさなくとも、無血で、日本の国土を事実上、手に入れることができます。
その農地をまた、別の目的に転売することも可能でしょう。
もし、そうしたグローバル資本の思惑に抵抗しようとして、政府や地方自治体が、国土保全のための規制をかけようとすれば、
TPP参加後であれば、ただちにISD条項による提訴が行われることでしょう。
小規模農家は次々と農地を手放し、農家を廃業するか、農業法人の従業者とならざるをえなくなります。
何にことはない、戦後の農地解放以前の、「小作人」へ逆戻りです。
◼️農業関係者の悲鳴「我々はなぜ殺されようとしているのか」
こうした日本の農業と農家の切り捨て政策について私は、コラムの中で、次のようにも書き、警鐘を鳴らしました。
「安倍総理が、TPPへの参加を表明した真の理由は、『強い農業』の復活による経済成長などというものでは、もちろんない。
安倍総理の狙いは、JAの解体であり、日本の小規模な家族経営農家を消滅させ、農業と農地を株式会社化した上で、大資本に売り渡すことである。
7月30日付けの産経新聞の報道によれば、
安倍総理は、TPPに反対するJAを指し、『日教組のような抵抗組織だな』と周囲に怒りをぶちまけたという。
かつての小泉政権が、郵便局を『抵抗勢力』として『悪魔化』し、新自由主義改革を推進したように、
安倍政権は、JAを、『悪魔化』するキャンペーンを張ろうとしているのだ」
安倍政権の「裏切り」を前に、農業関係者の方々は、
「我々はこれまで、さんざん自民党に尽くしてきたのに、なぜ、こんな扱いをされるのか」と、疑問に感じているでしょう。
これもコラムで書きましたが、私は今年7月、全国のJAの組合員の方々、百数十人を前にして、お話をさせていただく機会がありました。
私は、TPPに対する批判者であり、したがって、TPP参加をすすめる安倍政権への批判者でもあります。
今は、「TPPは交渉差止・違憲訴訟の会」の呼びかけ人にも名を連ねています。
そんな私に、自民党の「最大の支持組織」であるJAの関係者が、講演を依頼するとは、どんな風の吹き回しでしょうか。
「講演依頼をなぜ私に?」とおたずねしました。
「我々は、なぜ『殺されようとしているのか』わからないです。なぜなのかを、知りたい」
担当者の方は、そう率直に答えられました。
「我々は、TPP反対という自民党の公約を信じ、衆・参の両選挙で自民党を盛り立て、安倍政権を誕生させました。
しかし、その公約はあっさり反故にされ、それどころか、JA全中解体を迫られています。
尽くしたあげく、なぜ、殺されなければならないのか、わかりません」
切実な口調でした。
本気で自民党を信じ、そして裏切られた、その悔しさが、ひしひしと伝わってきました。
一方で私は、新鮮な驚きを覚えました。
この期におよんで、まだ自民党を信じていたのか、という驚きです。
◼️安倍政権は、なぜJAを殺すのか
コラムで記した通り、安倍政権の狙いはTPP参加であり、新自由主義政策の貫徹です。
そのためにも、「抵抗組織」として名指しするJAを解体し、農協を株式会社化した上で、土地を大資本に売り渡そうともくろんでいると考えられます。
そしてこの構想は、米国の思惑と表裏一体です。
安倍政権は、「愛国」的なイメージとは裏腹に、米国から突きつけられた要求を従順にこなす、「従米政権」です。
安倍政権は、米国と日本国民の利害の間の、「中間管理職」の役目を担っているに過ぎません。
郵政民営化の時には、米国の狙いは、「郵貯・簡保」の資金でした。
今度は、「農林中金の資金」に目をつけていることは間違いありません。
安倍総理はたびたび、「日本を、企業が世界で一番活躍できる国にする」と口にし、国民のほうを向いているように見せかけていますが、
その内実は、米国発のグローバル企業にとって都合の良い国にする、という改革であり、
安倍政権に命令を下す「上司」であるワシントンD.C、ウォール街などの顔色ばかりをうかがっています。
「上司」が、郵貯・簡保の市場を開放しろ、農協を解体し、参入させろ、と命令し、
「中間管理職」である安倍政権は、「上司」の命令に忠実に従い、結果として、矛先がJAにも向けられました。
自民党を長年支えてきたJAは、その甲斐もむなしく、日本の市場に手付かずで残された「ビジネスチャンス」として、米国に差し出されようとしています。
TPPに対する米国の執念は、本当に侮れません。
「夜寝ているオバマを電話でたたき起こして、『(日本に求める)優先順位はなんだ』って聞いてごらん。
1にTPP、2にTPP、3にTPP、4にTPPと言うだろうね。
集団的自衛権は多分、『あ、そう言えば…』って言って、19番目くらいに(集団的自衛権が)出てくるかもしれない」
こう証言したのは、米国の元NSC(国家安全保障会議)高官のモートン・ハルペリン氏。
元内閣官房副長官補の柳澤協二さんに、ハルペリン氏が、米国の実情を紹介するうえで語ったといいます。
12月21日に、IWJが開催した「饗宴V」の中で、パネリストとして登壇していただいた柳澤さんが、明かしてくれました。
オバマは、米国は、日本のTPP参加をそれほど悲願に考えている、という事実を端的に表す証言でした。
◼️それでも「消極的」に自民党を支持するJAの選択
それでもまだ、自民党を支持する農業関係者もいます。
佐賀と熊本のJAグループは、消極的ながらも自民党を推薦し、農協票を託すと決定しました。
産経新聞の記事を紹介します。
「JA佐賀の政治団体『佐賀県農政協議会』は11月29日、選挙区と比例の自民候補3人に推薦を決定したが、
政策協定書ならぬ『誓約書』を提出させ、当選後は、JAの意に沿った活動をするよう確約を取った。
同協議会は、昨夏の参院選でも、TPPの対応をめぐり、佐賀選挙区の新人候補の推薦をいったん撤回するなど、揺さぶりをかけた。
JAグループ熊本の熊本県農政連からは、候補者が提出した政策協定書に、『内容がぬるい、JAを甘く見ているのではないか』と不満が噴出した。
このため、梅田穰委員長は、推薦を決定する予定だった11月28日の会合で、『政府自民の農政に不信感が募っている』と語り、推薦決定を保留した。
2日後の30日、協定書の文言の『遵守』を『厳守』に変えさせるなどし、自民と次世代の候補計6人の推薦を正式に決めた。
『共産や社民候補を推薦した方がマシじゃないかと、冗談まで出るようになった。
とはいえ、すんなり推薦を出さないことぐらいしか、候補者へのプレッシャーにできないのが現状だ』」
※産経新聞(2014.12.6)農協票 TPPと組織改革、不満呑み込み自民推薦
09年の民主党のような、「受け皿」が存在していないことが響いているようです。
票を託せそうな野党がない。
であれば、効果が薄いかもしれないが、選挙後に、自民党が少しでも「手心」を加えてくれるよう、ささやかでも歯止めとなる約束を取りつけておくのが得策だ。
誓約書や協定書の細かな文言を担保に、選挙後、少しでもダメージの少ない政策を期待する。
そうした戦術を選択する他なかったのかもしれません。
茨城県や新潟県でも、同様の動きがあります。
「県JAグループの政治団体『県農協政治連盟』(加倉井豊邦委員長)は一日、常任委員会を開き、衆院選での県内小選挙区の推薦、支持者を決め、発表した。
茨城1、5区は自民、民主両党の立候補予定者を支持する。
推薦はいずれも、自民前職の額賀福志郎氏(2区)、葉梨康弘氏(3区)、梶山弘志氏(4区)、丹羽雄哉氏(6区)、永岡桂子氏(7区)の五氏。
1区の自民前職の田所嘉徳氏と、民主元職の福島伸享氏、5区の自民前職の石川昭政氏と、民主前職の大畠章宏氏は支持とした。
JAの組合員の意見を聞き、農業に理解が深い立候補予定者を選んだ。
県農政連の要領で、推薦は一選挙区一人と決まっており、二人の場合は支持とした」
※東京新聞(2014.12.2)農業に理解が深い5氏推薦4氏支持 県農政連
「県内JAグループの政治組織『県農政刷新連盟』(県農政連)は3日、14日投開票の衆院選について、県内全6小選挙区の自民党候補者を推薦することを決めた。
態度を保留していた地域農協の意向を、3日までに確認した結果、県内25の地域農協で、野党の候補者を強く推す声がなかった。
安倍政権が、農協改革を進めようとする中、自民党との関係を悪化させたくない思惑もあるとみられる」
※新潟日報(2014.12.4)県農政連、県内全区で自民推薦
他にも、福井県も自民党を推しましたが、JA内でも意見が対立し、票をまとめきれていないようです。
「福井県農政連(山田俊臣会長)は28日、来月の衆院選で、自民党公認の稲田朋美氏と高木毅氏を推薦することを決めた。
一方で、政権公約に農協改革を掲げた、自民党に対する反発は強く、農政連の動きとは別に、
26日には、県内11JAの組合長が、衆院選では中立の立場で臨むことを確認。
表裏一体の県農政連とJAは、足並みがそろわない状況となっている」
※福井新聞(2014.11.29)衆院選で農政連とJAに隔たり 福井、農協改革で足並みそろわず
◼️自民大勝を歓迎し、TPP推進を期待する米国
自らの首を締めるように、自民党をサポートするJA。
衆院選の自民大勝を受けて、米国の農業団体などからは、TPP交渉推進を期待する声が上がっています。
全米豚肉生産者協議会(NPPC)は12月19日、ニュースレターで、衆院選後のTPP交渉に関する見通しを提示。
今後、安倍政権は、構造改革を推進してゆく分析し、特に農業は、その「最大の候補」と主張。
「日本農業を競争力のある産業にするには、農産物の輸入障壁をなくすべき」だとしました。
そのうえで、日本が、TPP交渉で、農産物重要5品目を、関税撤廃の対象から例外にしようとしていることを挙げ、
NPPCは、「大幅に改善された日本の提案を要求し、特に、豚肉の差額関税制度の撤廃を求め続ける」との立場を表明しました。
さらに、米国のシンクタンク・米戦略国際問題研究所(CSIS)の研究員らも、衆院選翌日の15日、今回の選挙結果を分析。
「与党の勝利は、安倍首相を、農業重要品目などの問題を前に進めるための、有利な立場に置いた」と高く評価しました。
麦などの生産者らで構成される「米国穀物協議会」は、今回の衆院選の意義をホームページで紹介し、
「もし安倍首相が支持を得られれば、農業分野などの政治的に難しい問題に取り組む、大幅な権限を与えることになるだろう」との見解を提示しました。
安倍政権の大勝を歓迎する米国とは対照的に、JAは、いよいよ窮地に追い込まれたといえるでしょう。
※日本農業新聞(2014.12.23)TPP前進 期待多く 「農業こそ構造改革を」 衆院選・自民大勝受け米国団体
◼️「この道」の先に待ち受けているもの
「一人でも多くの農家の方々に、自分たちは自らを絞首刑にかけようとする者のために、自らロープを編んでいるのだ、と気づいてもらいたいと思う」
私が、コラムの最後に書いた言葉です。
安倍政権は、米国の要求にならい、これまでの日本のかたちを変え、米国型グローバリズムに付き従ってゆこうとしています。
この選挙で、安倍・自民党は、300議席を獲得するとも報じられています。
それが現実の結果となった場合、暴走する安倍政権に、どうやってブレーキをかければいいのでしょうか。
選挙前に書いた誓約書や協定書を突き出し、「約束が違うではないか」と迫ったところで、何の効果もありません。
前回の衆院選後に、「TPP断固反対」の公約をあっさりと反故にして、交渉参加を決めた「実績」のある自民党です。
自民党が「二枚舌」をためらわないのは、大西議員が証言したとおりです。
自民党は、今回の選挙で、「景気回復、この道しかない。」とスローガンを掲げていますが、
「この道」の先には、どのような日本の農業の姿が待ち受けているか、火を見るよりも明らかではないでしょうか。
(まうみ注・この記事は、2014年に書かれたものに加筆したものですが、TPPの脅威が目の前に迫っている今、ぜひ読んでいただきたいと思い、紹介させていただきました)