メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

「誰の足でも触るの?」

2019-01-28 02:18:12 | 咲人
咲人は私の足を指していた。
ヒールから覗く私の足には、ちょっとした傷があった。
私は言葉に詰まった。



「あ、えっと…これは……」



見れば、咲人はデカイ目を更に見開いてそこを凝視している。
い、いや、そんな大変なもんじゃないんだけど……汗



「えっと、これは何でもないの。ただの傷っていうか……」

「痛くないのか?」

「うん、全然。ただの靴擦れだったんだけど、なんか治りが悪くてもうトシだからアトになっちゃったっていうか…」

「どれくらい前にできたんだ?」

「え?!えぇーと多分…数ヶ月前かな……」

「数ヶ月!?そんなに長い間治らないのか!?」

「(ひぇ〜汗)で、でも、痛くないから気にならないし……」

「でも治らないなんておかしいだろ!」



だけでは済まず、咲人は
薬は塗ったのか?
病院へは行ったのか?
いつもどんな靴履いてるんだ?
この靴のせいなのか?
と、それはもう矢継ぎ早に真剣に質問してきた。
私はたかが靴擦れがアラサーだから治りにくいだけなものについて質問攻めに遭い、
すっかりタジタジしてしまった。
咲人は訊いた。



「メイサ、触ってみていい?」

「えぇっ!?」



と驚いたものの咲人が真剣に心配しているのがわかったので、私はおずおずとOKした。
咲人は跪いて、私の足を両手ですくい上げた。
そして、え〜何でなんだ…とか呟きながら、その靴擦れ派生(笑)をしげしげ見つめたり、
優しく指でさすったり、まるで本当に何かの研究員か何かみたいだった。

私はなんとも言えない表情でそれを見つめていた。
この謎の執着はすごく咲人らしい。咲人はすごく細かくてしつこい男だ。
でもこれがどうでもいい子の足にあったら、こんな風にする気はしない。
何はともあれ、会ったばかりの男に足をしげしげとチェックされているのはどうも可笑しかった。
私は苦笑した。



「ねぇ、あなたって普段そんなに女友達の足を触るの?」

「え?うーん……」



咲人はちょっと笑った。



「君が触っていいって言ったからだろ」

「いや、そうじゃないじゃん(笑)」




と日本語で言ったので、彼は何?ときいたけど、
私は何でもないよ、もういいよ(笑)と答えた。
はぐらかしたようだけど、その距離感も嫌じゃなかった。


白いけれど煌々とした月の下で私達は色んな話をした。
日本ではどんな仕事をしていたかとか
咲人の家族の話とか。
終始彼は彼らしく、細やかでちょっとキザで、笑えた(笑)
どんなに話しても彼の見た目が変わる事はなかったんだけど(そらそうだ)
でも



すごく不思議だった。



いくらずっと話してきたからって



初めて会ったこの人ともう18時間は一緒にいる。



ずーーーーーーーーっと英語で話している。



なのに



全然大変じゃないんだよなぁ。




嫌じゃないんだよね。




むしろ



完璧にやってくれてるんだよなぁ…………





「咲人」




私は足を止めた。
アスファルトの上に、真っ黒な私の影が長く伸びていた。
現実もこれくらい脚長ければいいのに。
笑顔で振り向いた咲人の影も、長く長く伸びていた。
月明かりの下で、私達は2人きり、私の部屋に向かっていた。
私が帰り方を知らないから(爆笑)。
私は言った。




「咲人、あの……ありがとう」



私は、黒くて長い脚に目を落としたまま続けた。



「あなた、本当に今日私のためにすごくいろんなことしてくれたわ。
沢山考えてくれたのね。こんなに急だったのに……
あなた、完璧だったわ。ずっと……」



私は顔を上げた。
咲人と目が合った。



「本当に……感謝してるの」



咲人は




微笑んだ。



そして言った。




「You are very much welcome」




何度も何度も電話で聞いた




キザでセクシーな声で言うそのセリフ。





続きます。



完璧なデート

2019-01-26 02:02:44 | 咲人
「さて。まず君に質問なんだけど、はじめに部屋に行って荷物を置いて休みたい?
それともすぐに観光を始めたい?」



都心部に向かうバスの中で、咲人はそう訊いた。
私が着いたのは郊外にある空港で、遠すぎはしないけど、
そこから咲人の住む都心部まではしばらくバスに揺られる必要があった。
私は一度荷物を置いたほうが便利だと思ったけど、
せっかくここまで来て部屋で一人ぼっちで休むのも勿体無い気がしたので、
咲人と一緒にいられそうな観光を選んだ。
あなたが荷物を持ってくれてるんだから荷物を一度置いた方がいいかな、と言ったら
そんなこと気にするなよと笑われた。
事実私のメインバッグは重かったはずだ。
でも、多分彼のキャラクター的に、咲人はカッコつけてくれたんだと思う。



観光する場所、順番、それからそのための交通。
あと、入園料とかランチ代とか諸々。
咲人は全部スマートにやってくれた。
全部プラン済みで、全部沢山説明してくれて、でもちゃんと私に意見を聞いてくれた。




その靴歩ける?とか
こっち歩きなよ(砂利じゃないから)とか
君が気に入るかわからないから二種類買おうとか
そしてそのどちらも最初に私に試させてくれたりとか



君がしたい方にしろよとか
もっともっと沢山君に見せたいものがあるとか
沢山私の話を聞こうとしてくれたりとか



その国の言葉でしか説明がない時は、
ぜーんぶ通訳みたいに英語に直してくれた。
彼は本当に英語が上手だけど、
だからってプロの同時通訳でもないから、
大変だったんじゃないかと思った。



咲人が沢山私のために準備してくれたこと
(前日に言ったのにね……ごめんよ笑)



咲人が沢山私のことを気遣ってくれたこと



彼は



完璧だった。





「ジャーン」




とちょっとおどけて開けたドアの向こうには
凄く素敵な部屋が待っていた。
咲人が空き家と呼んだそこは、凄く綺麗で手入れが行き届いていて、
ちょっとしたホテル、いや、安いホテルよりは相当いい部屋だった。




「わ……あ」




私は息を飲んでキョロキョロした。
センスのいいソファとランプ。
大きくて寝心地の良さそうなベッド。
真っ白なカーテンは心地よい風ではためいて、 南向きのいい部屋なのもわかった。
こんな素敵な部屋にタダで泊まらせてくれるの??
っていうか咲人、アンタ何者?(笑)




「咲人!私この部屋好き!!」

「はは、気に入った?」

「うん、すっごくすっごく気に入ったわ。凄くいい!
あ、ううん。
I don’t like this room.
I LOVE this room!!」



と勢い良く叫んだ私に、咲人はハハハ、良かったよ、と嬉しそうに笑った。



朝10時に着いたその国で
私達に初デートはあっという間に時間を使い果たした。
夜が更けていくに連れ、綺麗な満月が高いところにかかり始めた。



「登れそう?」



と言って、咲人は私に手を差し伸べた。
もう閉館時間だけど、周りの建物が綺麗だからと連れてこられた美術館は
なぜか工事をしていた。
他に通り道がなく、ちょっとした瓦礫の山を越えて行かなければならなかった。
大したことない山なので、ヒールを履いた私なら越えられたのだけど、
私は素直に彼の手を借りた。




その時、もう10時間以上一緒にいた。
でも、初めて彼の手に触った。



そしてそこから彼は



ずっと私の手を握って歩く



なんて事はしなかった。





咲人、どう思ってるんだろう




ずーーーーーーーーーっととにかく親切だけど




いっっっっこうに何もして来ないし




このサイッコーに便利なきっかけさえ利用せず




手すら繋がない…………



ティーンでもないのに(笑)




あと、あんなに甘い会話をしたのに……





一休みしようとベンチに座った時
咲人は声を上げた。




「ちょっと待ってメイサ。それどうしたの?」




え?




続きます。

ついに初デート…でも!?

2019-01-25 07:07:09 | 咲人
「ふぅ……」



咲人にまだ部屋が空いているか聞いた20時間後、私は某国の空港にいた。
イミグレを通過した後に入ったトイレは狭く、化粧直し用スペースはなかった。
鏡の中の自分はやや髪のカールが取れていた。
無理もないなー、早起きして巻いたものの機内でもタクシーの中でも船漕いでたもん。
でもまぁ、今までのビデオコールから判断する限り、
咲人はそんなにハンサムじゃなさそうだし?(いや好みではあるんだけど)



私だって一応相手とのバランスを考える。
もし相手がひっじょーにイケてなかったらこっちが綺麗にする必要を感じないし、
めちゃんこキレイな男の子なら自分の見た目も気になる。
何はともあれ綺麗でいたいとは思うけど、
一緒にいる人との相対評価っていうか相手にどう思われるかが気になるのは割とフツーかなって思う。



で、話を戻すよん!



私はリップを塗り直し、手櫛で髪を整えた。
いよいよ感動のご対面だ。
彼と話し始めて3ヶ月。
私達の会話はただの友達以上なのは確かだ。
だけどこの初デートでお互いどう思うかが一番大切なのは当然。
そしてそれに対してちょっと緊張気味なのも当然。。。
えぇーい、ままよ!


私ははやる気持ちを抑え、トイレを飛び出した。
事前にどんな服装で来ているか聞いていたけど、到着ゲートには彼の姿はなかった。


『どこぉー??』

『今ゲートの近くにいるよ』



んんーーーー
あ。


ポチポチポチポチ



『本屋の中にいるよん』




便が重なったのか、到着ゲートはお迎えの人間でごった返していた。
けれど、そのすぐ近くにある本屋は閑古鳥が鳴いていて、
なおかつ店の外からも中の様子が良く見える作りになっていた。
私はランダムに選んだ雑誌を見つめ、緊張を紛らわそうとしていた。
えーとえーと、咲人は身長がこれくらいって言ってたな。
それから、帽子をかぶってて、チェックのシャツを着てて、それから……



すると不意に



「Meisa.」



名前を呼ばれた。
聞き覚えのある耳触りが凄くいい、セクシーな声。
でも、イヤフォン越しじゃないからか、小さめ。
私は振り向いた。
そこには




思ってたのと違う感じの人が立っていた




えぇーーーーーーー!?!?!?(ガーーーーーーーーン!!)




目の前にいたのは想定したよりずっと小柄で細身の咲人だった。
(下手したら私の方が体重重いんじゃないかって思った)
痩せてるとかそういう問題じゃなくて、とにかく小柄、華奢だった。
多分骨格の問題(いや問題とか言うなよ)。




ごめぇーーーーーーーん
私は体が大きい人が好きなのよーーーーー!!!!



はい、人物紹介にも書いております通り、わたくしは背が高い人が好きなんです。。。
いやマッチョとかスマートとかそういう話ではなくてですね。
デカイ肩幅とか、大きい手とか、長い四肢とか大きい肋骨とか、
本当に骨格がデカイ人が好きなんです。。。


勿論、お会いする前にわかったことだと思うんですね。
実際咲人と私はお互いの身長とか知っていたし。
でもどうやら咲人はちょっとサバ読んで教えてくれたようで、
私が想定していたより6cmは小さかったのです。
かつ、華奢ね。。。
気にならない人なら全く気にならないんだろうけど、
いかんせん私にとっては重要なことなので(笑)



えぇぇぇーーーー全然好みじゃないよーーーー
襲われたらどうしようって思ったけど、これじゃーこっちがその気にならないから100%大丈夫だな。。。



なーんて自意識過剰な心配が無駄だったと思っておりました。
それでも私は冷たくなんかしませんし、とにかくフツーの対応をしました。
そりゃそうです。
咲人とは長く仲良く過ごしてきたし、この国の2泊は彼のオススメ物件にご厄介になるんだもの。
マトモにしなかったらマトモじゃない。
私は笑顔でHi!と答えた。
咲人は挨拶のためにハグしようかどうしようか迷って苦笑したけど、
(彼は日本人がハグしないのを知っている)
私は笑顔で彼をハグした。
マジでちっちゃいこの人ーーー(涙)




「君のスーツケースは?これだけ?」

「え?えぇ」

「貸しなよ。軽いな!」



と、彼は私にとってはまぁまぁ重いそれをヒョイと持って笑った。
それからフライトはどうだったとか色々私に質問したけど、
とにかく彼は終始凄く楽しそうで、本当にニコニコしていた。
私は、あぁきっと咲人にとっては私はガッカリさんじゃなかったんだ、と
ちょっとホッとした。





さぁ、果たしてどうなるこのデート!?


続きます!!





ついにこの日が来た

2018-12-17 23:12:55 | 咲人
それは某月某日。
私はパソコンとにらめっこしていた。


うぅーーーーーん
高いなぁ……



見ていたのは航空会社のウェブサイトだ。
煌々と値段一覧が表示されているが、そのどれもがメチャクチャ高かった。
2日後のフライトは厳しそうだ。


そもそも2日後のフライトなんて高いに決まってる。
どうしてもっと早く決めておかなかったんだ。
と、誰も彼もに言われそうだけど、私の仕事は予定が読みにくい。
さらに言い訳させてもらうけど、元々はもっと近くの国でウロウロする予定だったのだ。
でも急に、そこには行けない理由が出来ちゃったもんだから……



はぁ、とため息が漏れる。
フライト先は、咲人のいる国だ。
どこかこの国以外の外国へ行ってみたかった。
でも誰も知り合いがいなかったら寂しい。
どうせなら会いたいと思える人がいる国に行きたかった。
おもむろに携帯を開くと、咲人からメッセージが来ていた。




『メイサ、本当に来るの?チケットは見つかった?』



彼はわかりやすくウキウキワクワクしている。
日中はあまりマメじゃないのに、ものすごく早く既読がつき返信が来る。
アンタ仕事大丈夫なのか…?


ポチポチポチポチ



『んんー、あるっちゃるけど、とにかくバカ高いわ。
まぁ当たり前ね、今ハイシーズンだし。
日本円で言うところのこれくらいしちゃうわ』



とフライト代のスクショを送ってやると、OH NOと返信が来た。



『確かにそれは高いな…。そうだな、俺の街に空き部屋があるよ。
綺麗だし誰も住んでない。
もし君がくるならそこを使っていいし、君は何一つお礼や支払う必要はない。
俺からのバースデープレゼントだよ』





そう



此度の旅行は、私めの誕生日旅行なのです。



無料で使っていい部屋?どんだけオンボロなんだろう。
っていうか咲人ずいぶん来て欲しそうだなぁ。


初めに予定していた国は、咲人の一度行ってみたいと言っていた国で、
私の国からやたら近い。電車で1時間だ。
私は初め、咲人にそこへ行く予定を告げ、あなたも来ればと言ってみたのだ。
咲人は私が休暇を取ると言った瞬間、俺の国にくるの!?と大喜びし、
いや、ここに行く予定なんだと言ったらガッカリし、
あなたも来ればと言われ、君がくるなら案内できるくらいの時間は取れるけど俺がそこへ行けるほどのそんな時間はないと答えた。
確かに電車で1時間の私とは違うかもしれないけど、あちらはあちらで飛行機で1時間半だ。
私は正直、こいつ自分は来て欲しいくせに来ないのかよと腹が立った。
そしてとても、悲しかった。
何なら正直言うと、ちょっと泣けた(恥)




何よ、結局好き好き言っと私のことなんか真面目に考えてないんじゃん。
なんで自分から行く気はないのよ。
一度でも会ってみたいとか会う努力しようとか思わないわけ?
…………その程度ってことだよね。



メソメソとその場に崩れ落ちて泣いたのは、
今でも悲しい思い出であります。はい。




んで!(話を戻す)




その晩、咲人は私と電話で話したいと提案して来た。
真っ暗な部屋で話し始めると、彼は言った。



「で、どう?もう決めたの。そもそもなんで初めの予定変えたの?」

「だってさーあたしが行く予定とガッチリ合わせたかのように、大嫌いな上司がそこ行くっつったんだもん」

「あー……オッケーそれは無いな」

「そぉよ。あんな狭い国、絶対遭遇するじゃん。
しかも何が悲しくて自分の誕生日に会わなきゃならんねん」

「わかったわ」



ふむ、と咲人は唸った。
私は続けた。



「今も迷ってるけど……あなたの国に行くかどうか」

「今もって、わかってるのか、明後日だぜ」

「わかってるわよ。でも1人でそんなとこ行ったことないんだもん。
フライトも高いし、アンタの母国語なんか一個も喋れないわよ」

「安心しろよ。大都市だぜ。ほぼ100で英語喋れるから」

(いや私の英語そんな良くないだろ)

「ふーむ、まぁフライト代はな……」



半分払うよとか言ってくれないかなー。
いや、別にお金の問題じゃなくて、それくらい来て欲しがってほしかったんだよね。



電話を切り、ベッドの中でも私はまだ迷っていた。
するとふと、携帯が光った。
咲人からメッセージだ。




『メイサ、もし君が俺の国に来るなら、俺は君とできるだけ過ごせるようにするし、案内するよ。
空港も、都市部の空港についても郊外の空港についても、
俺は君を迎えに行くよ。』





(°_°)



咲人が


押してる。




来て欲しいんだろうなぁ。





翌朝目を覚まして、ぼんやりする視界の中で考えた。
明日どこへ行くか。
何が何でも誕生日にこの街で1人でいるのは嫌だ。
大嫌いな上司に会ったら、自由を感じないから嫌だ。
って事はもう…………







ポチっ




購入ボタンが光った。





ポチポチポチポチ




『Hello, Sakito. あなたの言ってた部屋まだ空いてる?』




チケット購入画面のスクショを添付した。





『私、





明日そっちへ行くわ』






続きます。









あなたが好き!

2018-12-12 10:43:52 | 咲人
こうして咲人との電話は所謂ラブラブな感じになっていった。
でもあくまで日本語の練習をしているというテイだったし、
私は相変わらずエラそうで素直じゃなかったし、
何より、咲人から真剣にそういう話をしてくる気配はなかった。
例えばさ、付き合うとかさ、会ってみようとかさ…モゴモゴ。


私はもう自分が咲人にご執心なのはよく理解していた。
でも会ったこともな人に恋して痛い目に遭ったばかりっていうかまだ遭ってる最中じゃねーかと思っていた。


でも咲人と仁は人柄も何もかも全然違っていたから、
同じ結果が待ってるとは思いたくなかったし、思えなかった。


だけど、咲人が会おうと行動に起こさないのは
彼もオンラインでの疑似恋愛を楽しんでいるだけで、それで十分なのかなって。


でも、じゃぁそれだけで人はこんなにマメに連絡取れちゃうもの?
自分の睡眠を削ってまで?
好き好き言うものなのかなぁ。


考えれば考えるほどわからなくなった。



ある日、私たちは3度目のビデオコールをしていた。




「そういえば初めてのビデオコールはどうだった?あなたにとって」



そうきかれた咲人は相変わらずのさしてハンサムじゃない顔で、首を傾げた。
あたし、本当にこの人のこと好きなんだろうか。笑



「どうって?」

「んー、たとえば、写真と違ってガッカリしたとか色々あるじゃん」




咲人は、うーんとちょっと考えてから答えた。




「結論から言うとよかったよ。話してから、君と話したいっていう気持ちが増した」

「本当?」

「おう。3倍になった」



と、手で表現した。(笑)



「それは良かったわ」

「うん。………時々、それと逆なこと起こるからな(笑)」

「は?あぁ、ガッカリするってこと?」

「そう(笑)俺の友達がこんな話ししてくれたんだけど……」




咲人の話によれば、彼はオンラインでひどく美しい女性に出会ったらしい。
2ヶ月ほど愛を育む会話を楽しみ、何度か写真を交換し合い、
彼はすっかり恋に落ちていた。
だがしかし




「ある日、奴はビデオコールを提案した。そりゃそうだ、彼女を見たかったんだ。
でも彼女は断固として拒否し続けた。
でも奴も譲らなかった。
ついに彼女は承諾していざ電話が始まったんだが……」


咲人は堪え切れないように震えながら言った。


「画面に出てきたのは、超ーーー長い髭を生やした中年の男だったんだとさ」



(・▽・)



「…えっ、えぇぇーーーー!?」

「マジかよって思うよな(笑)ははは」

「そ、それは可哀想〜。彼、きっと恋してたのに。。。」

「ま、そうだな」

「で、でもそのヒゲは何目的でそんな事してたんだろう?」

「知らねーよ(笑)でもまぁ、男が好きなんだろうな。
友達も何度か自分の写真送ったって言ってたからな」




あ、あぁそうかぁ。。。
可哀想だけど、中年ヒゲ男の生贄になっていたのね。。。
どんな写真送ってたのか気になるけど言わずもがなかな(笑)


暫くして、私がアクビをするとそれを見て咲人は吹き出した。



「もう寝ろよ(笑)」


私はソファの上で体勢を直して、ニヤリと不敵な笑いを見せた。


「そ、の、前に。あなた今日、十分日本語の練習した?」



咲人は笑った。



「いや?」

「じゃ、眠いけど、寝る前に少しだけ練習に付き合ってあげる」

「マジで?ずいぶん親切な先生だな」

「ええ勿論」



すると咲人はからかうように、どうしてそんなに親切なの?と聞いた。
私は物ともせず、学生を愛しているからよん、と答えてやった。
咲人はただでさえデカイ目を見開いた。




「はー?マジで?ずいぶんいい先生だな」

「とーぜん。Why not?」

「はは、確かに君はいい先生だよ。じゃぁ、練習させてもらおうかな」




画面の中の咲人が、私を見つめ直して、ゆっくり喋り始めた。




「咲人は、メイサが、好き。 合ってる?」





もう何度も繰り返された言葉だけど、やっぱり、声だけじゃなくて
こうして見つめて言ってもらえると
すごく、嬉しくて
すごくすごく愛おしく感じた。


私は少し照れ笑いしたけれど、咲人は真っ直ぐこちらを見つめたままでいてくれた。
彼のキャラクターからすると、苦笑したり誤魔化したりしそうなものだけど、
それはもう散々今までの会話でしたから(笑)
少し素直になれていたのかもしれない。




「いいよ、合ってる」

「よかった」

「ねぇサ……」




ブツっと





突然、電話が切れた。
しまった。話に夢中になって(あと眠くて)電池が空っぽなのに気づかなかった。
こうなってしまうと今更充電器につないだところですぐにはリカバリーしてくれない。
再起動するのに5分はかかるだろう。



仕方がなく携帯と充電コードを持って寝室へ移動した。
枕元で充電しながら、私は寝る支度を始めた。
確かにもういい時間で、咲人にとってはもっといい時間だ。
さっさと寝ないとお互いの明日に差し支える。(ていうかすでに差し支えてる)


私はため息をついた。
良いところだったのにぃー。



咲人の日本語を聞くのは大好きだ。
電話を切る前に毎回やるこの儀式は、私達の気持ちを強くしてくれていると思う。
言霊という言葉があるように、誰かを思う気持ちを口に出すことは、
不確かだったそれを形あるものにして生み出すような行為だと思う。
メイサが好きだと言われるたびに、私の心に咲人の気持ちが積もっていくようだった。
咲人は毎回たくさん褒めてくれたし、好きだと言ってくれた。
褒めてくれるたびに、たまらなく会いたくなった。


突如、パッと携帯が光った。
ようやくリカバリーしたようだ。
すぐにトーク画面を開き、ゴメンネと書き出した。



『大丈夫。もう寝よう。メイサの目、もうすごく眠そうだったし、俺の目も同じだったから(笑)』



すぐに咲人らしい優しい返事が届いた。
咲人らしいって書いたけど、結構辛辣なこと言う人だったよな。
きっと、好きな子には優しいだけ、だな。



私はせっかくのラブリータイムが終わってしまったことがとても残念で、
だけどここからまた話すのはちょっと現実的ではなかったので、
仕方がなくベッドに横になったが、胸の中いっぱいの気持ちが消化できなくて、
吐き出した方がいいと思った。
形あるものにしてしまったほうが、いいと思った。



今まで一度も私は



言ったことがなかったけど





『咲人、私はもっとあなたと話したかった。すごく』




すぐに既読マークがつき、彼が何かを入力している事も分かった。
けれど、それを待たずに私は続けた。







『それから』








『私は咲人が大好き!』






ピロリン






『俺も』






と、



嬉しそうな絵文字付きで送られてきた2文字は



私の心を明るく優しく、温めてくれた。




咲人



咲人



いつになったら会えるの




会いたいって思わないの?




私だけバカなのかな。





そんな日々は




ある日突然終わりました。





続きます。