さて、話は2週間前にさかのぼる。
咲人とは一度しか話したことがなかった頃のことだ。
毎日仁さんのことが頭に浮かび、正直に言うと、結構堪えていた。
思い出してみれば、彼のどこがそんなに好きだったのか良くわからない。
というより、彼のことをまだそんなに知らなかった。
背が高いとか(それは好み)
顔がキレイそうとか(でもしゃくれてる←)
理系だとか
頭の回転がいいとか
勉強家だとか
明るいとか………
良いところは挙げられると思うんだけど
私はこんなにも表面的なことで人を好きになれるんだったっけ。
ルックスはとても大切だけど、それでもなお一番大切じゃない。(そもそもしゃくれてるじゃん)
私が本格的に人を好きになるには、性格の相性がすごく必要だった。
だから、彼なんかに固執してもしょうがないと思った。
みんなにソイツ良くないと言われた。
私もそう思っていた。
けど、彼に惹かれた気持ちや過ごした時間の笑顔は本当だったから、
理由もわからずこんな状態になっていることが辛かった。
人生ってのは、悲しい時に悲しいことが重なるものだ。
ふとしたことから、ものすごーく残念なトラブルに巻き込まれてしまった。
怒りに任せてその場を立ち去り、大通りを早足に歩きながら泣きそうになった。
うぅ、ここで泣く意味って何なんだろ。
こんな異国まで来てメソメソするなんてアホらしいのに。
グスンと足を止め、私は携帯を取り出した。
こんな時に連絡できるのはコイツしかいない。
ポチポチポチポチ
『梓!!今どこ?何してる?』
流石に秒速では返信はなかったが、一時間後にどうしたの?と返事が来た。
『急にごめん!何してるの?』
『俺は仲間と会ってたよ。軽く食事してた。
メイサは今どこにいるの?仕事は?』
『私はこのあたり』
『もしかして会いたかった?だったら今からなら空いてるけど』
梓はいつも優しかった。
私がこんなに急に連絡しても、それが意味不明でも、マイルドに対応してくれた。
私は日本語で即答した。
『あいたい!』
ハハハ、と笑っている顔文字付きで返ってきた。
『バーか何か行く?それともウチくる?』
梓の家には一度行ったことがある。
その時、私は相当気をつけてシャツにワイドパンツという色気ゼロの格好で向かった。
私の心配は無駄で梓は指一本触れてこず、美味しい母国料理を振舞ってくれた。(恥ずかしい)
その日もハーフパンツではあるものの、分厚い黒タイツにチェックのロングシャツと誘惑めいていなかった。
『どっちでもいい!』
『はは、分かった。じゃうちの最寄駅まで来て。迎えに行くよ』
ポチポチポチポチ
『わかった!梓、メイサはしょっぱいものが食べたい!』
と日本語で書くと、また爆笑している顔文字付きでOKと返信が来た。
梓の家に上がりこむと、私はゴメンね突然!と謝った。
「大丈夫。どうかしたの?何か飲む?」
梓は手慣れた手つきでワインをいれてくれた。
彼の部屋はとてもクリーンで、快適だ。
早くに親元を離れ、学費も生活費も自分でどうにかして来た彼はすごく自立している。
大変な思いをした人は人生の酸っぱさを知っているから優しかったりする。
でも、リアリストで、厳しい。
梓が私とのランチを奢ってくれたことは一度もない。
友達なんだから当たり前だけど、男の子は何でもないのに見栄を張る生き物だ。
「で、しょっぱいもの」
と言ってスナックを開けた。
私は苦笑した。
「ごめん、突然押しかけるわしょっぱいものが食べたいって言いよるわ…」
「ははは、面白かったよ。笑ったわ」
「 あ、そうそう。これあるわよ」
と、私はカバンから星型のタッパーを取り出した。
勢いよく開けて中を見せると、梓はラズベリー?と目を丸くした。
「何それ?ラズベリーケースなの?」
「そうよ」
「へぇ、甘いもの持ってるくせにしょっぱいもの食べたいって言ったの?」
「甘いもの持ってるからしょっぱいもの用意しろって言ったんじゃない」
エラそうにそう答えると、梓はまた笑った。
ラズベリーとワインをつまみながら、何があったのかと聞かれたけど、
私はただちょっとトラブル!でも大丈夫!とだけ答えた。
梓はそれ以上聞かなかった。
「たまに疲れる時もあるけど、大丈夫よ。私は強いから」
「そう?」
「私、ポジティブでしょ」
「そうだね。メイサはポジティブ。いいと思う」
「そ。まーこんな見た目してるから結構軽視されることあるんだよね、女だし。
そういう奴には必要以上に強めに対応してやってるんだけど」
「メイサ怒ると激しいよね」
「しょーがないじゃん。多少やり過ぎくらいでちょうど見た目とバランス取れるのよ」
童顔の男の子がヒゲを伸ばすみたいに
優しそう、大人しそう、と踏んで接してくる奴らには鉄拳を食らわすことがあった。
この温和そうかつ超女子な見た目、どーにかなんないかな。
梓は言った。
「でも…そうしてたらメイサは辛くない?ずっと強いふりしてたらさ」
いい案だね、とでも言われるかと思っていたので、ちょっと意外だった。
けれど、私のことを気にしてくれてるのがわかった。
「んー、大丈夫。ありがとう」
「そっか、ならいいんだけどさ。こっちで飲まない?」
と、梓はソファを指した。
ワインの後に梅酒にも手を出して、夜中なのも手伝って、眠かった。
ソファで私たちは色んな話をした。
将来のこと、過去のこと、恋愛のこと……
「私は見た目で言えばアジア人の方が好みかな。まぁ差別も抵抗もないけど、単純に黒髪が好きだから」
「あー、わかる。俺も黒人の子とか可愛いなって思うけどアジア人の方が多分好き」
「まぁ私は背が高い人が好きだから、欧米人の方が当たりやすいんだけどね」
「メイサ背どれくらい?」
「ここじゃ小さめだけど日本じゃ大きい方だよ」
「うん、日本に行った時もっと皆小さかったよ。
おばあちゃん達なんか俺の2/3くらいしかないイメージだった」
「ははは(笑)梓は背高いもんね」
「180くらいだから、まぁもっと背が高い人たくさんいるけど」
梓は自分の手を開いてみせた。
「俺は手と足がデカイんだよね」
「え?あっ確かに。足デカ!」
「そう(笑)靴がないんだよ〜」
「大変そうだねー。私は手小さいからなぁ」
と、私が手を見せると、梓は自分の手を重ねて小さ!とビックリした。
「日本人の中でも小さいからね…」
「可愛いと思う」
へ?
私は聞こえなかったふりをした。
「不便だよー。球技とか不利だし(笑)」
梓は笑っただけだった。
私が欠伸すると、梓はマットレスを引き出してソファベッドを作ってくれた。
ありがと〜と半ば寝ぼけながら横になると、彼も隣に横になった。
ふと
彼の腕が私を後ろから抱きしめていることに気がついた。
あれ?
「梓…」
「ん?」
「終電って何時だっけ?」
「今日は一晩中あるよ」
「そっか」
「帰るの?」
「うーん、もうちょっとしたら。明日仕事あるし」
梓は、何時から?どこで?と珍しくたくさん質問して来た。
いつも聞き分けが良いというか、すぐにわかったと言うのに。
不意に
梓の腕に力がこもった。
続きます。
咲人とは一度しか話したことがなかった頃のことだ。
毎日仁さんのことが頭に浮かび、正直に言うと、結構堪えていた。
思い出してみれば、彼のどこがそんなに好きだったのか良くわからない。
というより、彼のことをまだそんなに知らなかった。
背が高いとか(それは好み)
顔がキレイそうとか(でもしゃくれてる←)
理系だとか
頭の回転がいいとか
勉強家だとか
明るいとか………
良いところは挙げられると思うんだけど
私はこんなにも表面的なことで人を好きになれるんだったっけ。
ルックスはとても大切だけど、それでもなお一番大切じゃない。(そもそもしゃくれてるじゃん)
私が本格的に人を好きになるには、性格の相性がすごく必要だった。
だから、彼なんかに固執してもしょうがないと思った。
みんなにソイツ良くないと言われた。
私もそう思っていた。
けど、彼に惹かれた気持ちや過ごした時間の笑顔は本当だったから、
理由もわからずこんな状態になっていることが辛かった。
人生ってのは、悲しい時に悲しいことが重なるものだ。
ふとしたことから、ものすごーく残念なトラブルに巻き込まれてしまった。
怒りに任せてその場を立ち去り、大通りを早足に歩きながら泣きそうになった。
うぅ、ここで泣く意味って何なんだろ。
こんな異国まで来てメソメソするなんてアホらしいのに。
グスンと足を止め、私は携帯を取り出した。
こんな時に連絡できるのはコイツしかいない。
ポチポチポチポチ
『梓!!今どこ?何してる?』
流石に秒速では返信はなかったが、一時間後にどうしたの?と返事が来た。
『急にごめん!何してるの?』
『俺は仲間と会ってたよ。軽く食事してた。
メイサは今どこにいるの?仕事は?』
『私はこのあたり』
『もしかして会いたかった?だったら今からなら空いてるけど』
梓はいつも優しかった。
私がこんなに急に連絡しても、それが意味不明でも、マイルドに対応してくれた。
私は日本語で即答した。
『あいたい!』
ハハハ、と笑っている顔文字付きで返ってきた。
『バーか何か行く?それともウチくる?』
梓の家には一度行ったことがある。
その時、私は相当気をつけてシャツにワイドパンツという色気ゼロの格好で向かった。
私の心配は無駄で梓は指一本触れてこず、美味しい母国料理を振舞ってくれた。(恥ずかしい)
その日もハーフパンツではあるものの、分厚い黒タイツにチェックのロングシャツと誘惑めいていなかった。
『どっちでもいい!』
『はは、分かった。じゃうちの最寄駅まで来て。迎えに行くよ』
ポチポチポチポチ
『わかった!梓、メイサはしょっぱいものが食べたい!』
と日本語で書くと、また爆笑している顔文字付きでOKと返信が来た。
梓の家に上がりこむと、私はゴメンね突然!と謝った。
「大丈夫。どうかしたの?何か飲む?」
梓は手慣れた手つきでワインをいれてくれた。
彼の部屋はとてもクリーンで、快適だ。
早くに親元を離れ、学費も生活費も自分でどうにかして来た彼はすごく自立している。
大変な思いをした人は人生の酸っぱさを知っているから優しかったりする。
でも、リアリストで、厳しい。
梓が私とのランチを奢ってくれたことは一度もない。
友達なんだから当たり前だけど、男の子は何でもないのに見栄を張る生き物だ。
「で、しょっぱいもの」
と言ってスナックを開けた。
私は苦笑した。
「ごめん、突然押しかけるわしょっぱいものが食べたいって言いよるわ…」
「ははは、面白かったよ。笑ったわ」
「 あ、そうそう。これあるわよ」
と、私はカバンから星型のタッパーを取り出した。
勢いよく開けて中を見せると、梓はラズベリー?と目を丸くした。
「何それ?ラズベリーケースなの?」
「そうよ」
「へぇ、甘いもの持ってるくせにしょっぱいもの食べたいって言ったの?」
「甘いもの持ってるからしょっぱいもの用意しろって言ったんじゃない」
エラそうにそう答えると、梓はまた笑った。
ラズベリーとワインをつまみながら、何があったのかと聞かれたけど、
私はただちょっとトラブル!でも大丈夫!とだけ答えた。
梓はそれ以上聞かなかった。
「たまに疲れる時もあるけど、大丈夫よ。私は強いから」
「そう?」
「私、ポジティブでしょ」
「そうだね。メイサはポジティブ。いいと思う」
「そ。まーこんな見た目してるから結構軽視されることあるんだよね、女だし。
そういう奴には必要以上に強めに対応してやってるんだけど」
「メイサ怒ると激しいよね」
「しょーがないじゃん。多少やり過ぎくらいでちょうど見た目とバランス取れるのよ」
童顔の男の子がヒゲを伸ばすみたいに
優しそう、大人しそう、と踏んで接してくる奴らには鉄拳を食らわすことがあった。
この温和そうかつ超女子な見た目、どーにかなんないかな。
梓は言った。
「でも…そうしてたらメイサは辛くない?ずっと強いふりしてたらさ」
いい案だね、とでも言われるかと思っていたので、ちょっと意外だった。
けれど、私のことを気にしてくれてるのがわかった。
「んー、大丈夫。ありがとう」
「そっか、ならいいんだけどさ。こっちで飲まない?」
と、梓はソファを指した。
ワインの後に梅酒にも手を出して、夜中なのも手伝って、眠かった。
ソファで私たちは色んな話をした。
将来のこと、過去のこと、恋愛のこと……
「私は見た目で言えばアジア人の方が好みかな。まぁ差別も抵抗もないけど、単純に黒髪が好きだから」
「あー、わかる。俺も黒人の子とか可愛いなって思うけどアジア人の方が多分好き」
「まぁ私は背が高い人が好きだから、欧米人の方が当たりやすいんだけどね」
「メイサ背どれくらい?」
「ここじゃ小さめだけど日本じゃ大きい方だよ」
「うん、日本に行った時もっと皆小さかったよ。
おばあちゃん達なんか俺の2/3くらいしかないイメージだった」
「ははは(笑)梓は背高いもんね」
「180くらいだから、まぁもっと背が高い人たくさんいるけど」
梓は自分の手を開いてみせた。
「俺は手と足がデカイんだよね」
「え?あっ確かに。足デカ!」
「そう(笑)靴がないんだよ〜」
「大変そうだねー。私は手小さいからなぁ」
と、私が手を見せると、梓は自分の手を重ねて小さ!とビックリした。
「日本人の中でも小さいからね…」
「可愛いと思う」
へ?
私は聞こえなかったふりをした。
「不便だよー。球技とか不利だし(笑)」
梓は笑っただけだった。
私が欠伸すると、梓はマットレスを引き出してソファベッドを作ってくれた。
ありがと〜と半ば寝ぼけながら横になると、彼も隣に横になった。
ふと
彼の腕が私を後ろから抱きしめていることに気がついた。
あれ?
「梓…」
「ん?」
「終電って何時だっけ?」
「今日は一晩中あるよ」
「そっか」
「帰るの?」
「うーん、もうちょっとしたら。明日仕事あるし」
梓は、何時から?どこで?と珍しくたくさん質問して来た。
いつも聞き分けが良いというか、すぐにわかったと言うのに。
不意に
梓の腕に力がこもった。
続きます。
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