2月5日 NHK海外ネットワーク
ライン川のほとり、2000年の歴史を持つドイツ中部の都市ケルン。
町の中心部には世界遺産のキリスト教の大聖堂がある。
ケルンに、高さ55m1200人の信者が集まることが出来るイスラム教のモスクを、
トルコ人の団体が建設を進め、
今年中に完成する予定である。
半世紀前から労働力としてドイツに移り住んだトルコ人は、
本国から家族を呼び寄せて数が増えていった。
ケルンでは今10人に1人がトルコ系住民である。
ケルン市長
「私たちには開かれた社会が必要。
キリスト教会と同じように大きなモスクも受け入れられなければならない。」
市が建設を許可し、モスクの建設が明らかになったのは4年前。
しかし市の許可に対して強い反発の声が上がった。
巨大なモスクが形を見せ始めた今も批判は続いている。
トルコ移民の多くは市内の3箇所の地域に集まって暮らしている。
多くの人がドイツ語ではなくトルコ語で話している。
「街はすっかり変わってしまった。
小さなイスタンブールにいるような錯覚に陥る。」
“反イスラム”を掲げる団体の活動は毎週会合を開き、
イスラム系住民に生活が脅かされていると口々に訴えている。
「クリスマス市のときにも彼らがいるせいでテロの警戒情報が出るようになった。」
「イスラム教徒の子供が豚肉を食べないからといって
学校給食で豚肉を出さないところもある。
やりすぎ。まさにイスラム化している。」
「彼らの文化や生き方を押し付けられているようで嫌。」
ケルンの街角で存在感を増すイスラム系移民。
その象徴ともいえる巨大なモスクの存在が市民の間に対立という影を落としている。
少子化で人口が減り続ける反面、外国からの移民の割合は20%近くにまで達している。
大統領はイスラムはドイツの一部だと発言し、
増え続ける移民や若い世代をドイツ社会の一員にしようとしている。
しかし、イスラム系住民はドイツ社会になじもうとせず社会の重荷になっている、
と批判した本がベストセラーになっている。
イスラム教に対する誤解や偏見もある。
ドイツ人よりも移民への社会保障が手厚いとの思い込みもある。
移民は働きもせず政府から援助だけもらって生活しているといった不満も強い。
不満が広がるとイスラム系住民とドイツ人との壁が新たな問題となり、
イスラムへの不満や偏見が強まるという悪循環に陥りかねない。
ドイツに移り住んだイスラム系住民は・・・
ドイツ西部の都市アーヘンにある小さなモスクには、
コーランを心のよりどころとする人たちが集まってくる。
子どもがドイツ語をしゃべれないという教育の悩み、
誰に相談していいかわからないという悩み、
ドイツでイスラム教徒として暮らす難しさの悩みが多く寄せられている。
ある若者は、テロが起こるたびに、
イスラム教徒に向けられる誤解や偏見に苦しんできた。
「自分はイスラム教徒だと打ち明けられない。
テロリストのレッテルを貼られる。」
信者たちに共通しているのは、
ドイツ社会に適応し溶け込むためにどうすればよいかという悩みである。
イスラム教徒を対象として開かれた、ドイツ社会とのかかわり方を学ぶ大学講座。
ドイツ政府が去年秋からはじめたものである。
このなかで講師は、もっと柔軟に物事を考えることで社会に溶け込めると呼びかけた。
「イスラム教は各地でその土地に適応して発展してきた。
イランのイスラム教、インドネシアのイスラム教があって、
ヨーロッパのイスラム教がないのはおかしい。」
議論は、欧米とイスラム圏で全く考えが異なる男女同権をどう考えればよいかに及んだ。
男女平等は当然の欧米社会に対して、
イスラム社会では女性に対する制約は多く、その地位も男性に比べて低いとされている。
ドイツの学校でもイスラム系移民の女子生徒が
水着でプールに入ったり、
泊りがけの修学旅行を父親が許さなかったという事例がおきている。
講師は男女同権はドイツ憲法の基本的な考え方として
社会の現実として受け入れるよう求めた。
「ドイツ憲法の男女同権は受け入れなければならない。
現実と宗教上の理念は区別しなくてはならない。」
イスラム教の教えを大切にしながらどのように現実のドイツ社会と融和していくか、
ドイツで暮らす移民の子供たちも増えている中で、とりくみがが続く。