6月4日 おはよう日本
世界遺産に登録するのがふさわしいと勧告された明治日本の産業革命遺産。
ユネスコの諮問機関イコモスは長崎県の軍艦島について早急な保存の必要があると指摘している。
かつて炭鉱の島として栄えた軍艦島。
世界遺産候補として注目される中
まずまず人気を呼んでいるのがそびえたつ廃墟の景観である。
「廃墟の感じがすごいと思いました。」
「これだけ建物が残っていること自体がびっくり。」
軍艦島は海底の炭鉱として開発され明治から昭和にかけて栄えた。
遺産としての価値は
質の良い石炭を供給し日本の近代化を支えた歴史に由来する。
このため世界遺産に登録されるとしても
石炭の生産施設と島を囲む護岸の部分に限られ
人気を集める居住区域の廃墟は含まれない。
島の独特のシルエットを形作る居住区域をどう残すか。
その方法が課題となる。
軍艦島を調査している長崎大学大学院の松田浩教授。
インフラの整備や建物の構造が専門で軍艦島の建物の状態を5年前から記録している。
そのデータを基に去年4月 立体画像を制作した。
建物の劣化の状況を様々な角度から見ることが出来る。
昭和33年建設の小中学校は
この時点で鉄筋の柱が屋根を支えられなくなってきていた。
(長崎大学大学院 松田浩教授)
「棒が無くなってしまったらもう落ちてしまうんじゃないかと。
すごく危ないですね。」
松田教授が危惧していたとうり
去年の夏 柱は折れ屋根は崩れ落ちた。
さらに全体が崩壊の危機に直面している建物がある。
約100年前に建てられた30号棟。
日本最古の鉄筋コンクリート造のアパートである。
その外壁を平成22年2月と10月に撮影し
それぞれ白と緑に加工し重ね合わせた画像を見ると
8か月間で外壁が崩れてなくなってしまった部分があることがわかる。
(松田教授)
「8か月で剥落してしまっていることがわかる。
劣化の進行をつぶさに把握できる。」
長年 潮風や雨にさらされもろくなったコンクリートの建造物。
劣化は今も早いペースで進行していると言う。
イコモスの勧告から1週間がたった5月11日。
東京で専門家による協議会が開かれ
保存計画の詰めの議論が行われた。
居住施設をどこまで保存するのかが注目されるなか
この日 計画がまとまった。
アパートや学校などの居住施設については
保存の可能性を探りつつ劣化の進行を抑制することになった。
一方 建設から100年が経過している30号棟。
様々な角度から保存の可能性が検討されたが
技術的に保存は困難だとして特別な措置は見送ることになった。
(国士舘大学 岡田保良教授)
「いかに今の状態を長持ちさせるか
あきらめて目の前で崩れていくのを観察するか
まさに廃墟のままでも価値がある。
さらにこれから朽ち果てていくプロセスにも価値がある。
今までなかった価値観が端島で初めて出てきたと言える。」
廃墟の保存というほとんど前例のないことに取り組むことになった長崎市。
具体的な保存方法の検討とともに
保存にかかる費用をどのようにねん出するのか
これからが正念場となる。
(長崎市世界遺産推進室 田中洋一室長)
「巨額の費用・技術・安全を考えると今まで通りの保存は難しい。
世界遺産としてきちんと将来にわたって保全されていくことが大前提。
そのために何をすべきか
今できること・しないといけないことはやっていく。」
刻々と姿を変える軍艦島。
世界遺産として
そして多くの人を魅了する廃墟の島として
どのような姿を未来に残していけるのか
問われている。