7月3日 編集手帳
控えの宇宙飛行士ほど、
つらい立場はない。
〈正式な乗組員たちは溌剌(はつらつ)と訓練を つづけることができる。
訓練の先に宇宙飛行が確実に待っているからだ〉
控えの乗組員を務めたこともある向井千秋さんの夫、
向井万起男さんが『女房が宇宙 を飛んだ』(講談社)に書いている。
飛べるかどうか分からないなかで厳しい訓練をつづけていくのが控えの宇宙飛行士である、
と。
プロ野球の世界でいえば代走の選手がそうだろう。
出番はないかも知れない。
それでも毎試合、
“その時”に心身がベストに仕上がっているよう、
黙々と練習に励む。
巨人の鈴木尚広選手 (37)が「マツダオールスターゲーム2015」(今月17、18日)に選出された。
プロ19年目の初出場である。
長距離砲の登場に、
ではなく、
剛速球投手の登場に、
でもなく、
「代走、鈴木」のアナウンスに球場がどよめく様子をプロ野球ファンはご存じだろう。
走る3秒間ほどのために日々の大半を費やしている人である。
〈一流と二流の差異は0コンマ数秒にして永遠とわなる時間〉(影山一男『歌集 空夜』)。
夢の舞台に“塁間”という宇宙が待っている。