2021年6月18日 読売新聞「編集手帳」
メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」は、
天才科学者が作り出した醜悪な人造人間の悲しみを描く。
何度も映画化された。
中でも1994年公開の「フランケンシュタイン」は名優ロバート・デ・ニーロが人造人間役を演じ、
過去の映像作品には見られない“よくしゃべる怪物”が話題になった。
熱演シーンは数々あれど、
最近ちょくちょく思い出すセリフがある。
「おれには感情があるが、
使い方を教わっていない」
東京五輪の代表選手が次々に決まっていく。
その報に接するたび、
心がふわっと浮き立ったかと思えば、
次の瞬間には心配がよぎる。
こんなオリンピックは過去になかった。
感情の使い方がよくわからず、
戸惑う人は多いことだろう。
そもそも五輪の期間中、
どんなふうに過ごせばいいのか想像がつかない。
感染症の広がりの程度にもよる。
先が見通せないなか、
希望と不安を交錯させながらスポーツの祭典を待つ状態にこの国はある。
今回の東京五輪で記録映画が作られていることをふと思った。
未曽有の苦しみと混迷のなかで祭典を待つ人々の感情も、
主題の一つになるだろう。