4月7日 海外ネットワーク
19世紀の半ばにヨーロッパの名門ハプスブルグ家に嫁いだエリザベート。
絶世の美女と言われたハプスブルグ帝国の皇帝の妻エリザベートが
愛してやまなかったスイーツ。
ハンガリーの人々の暮らしに欠かせないカフェ文化。
しかし今、ヨーロッパの景気の低迷が波紋を広げている。
ドナウの真珠とたたえられるブタペストは
ヨーロッパを広く支配下に治めたハプスブルグ家の宮廷文化を今に伝えている。
ブタペストの中心部にある老舗カフェは創業が1858年。
当時流行のロココ様式のシャンデリアが店の華やかな雰囲気を演出している。
コーヒーを嗜みケーキを楽しむ19世紀のオーストリアのカフェの文化は
ハプスブルグ帝国の領土の拡大とともにヨーロッパ各地に広まった。
ブダペストにあるカフェは約1,000店。
市民生活と切っても切れないものとなっている。
創業154年 カフェの店長
「ハンガリー人は甘いものが本当に好き。
ケーキ カフェの雰囲気 それにサービス。
これらの調和こそがハンガリースイーツの伝統。」
しかし今 その伝統にヨーロッパの信用不安が影を落としている。
ケーキの消費が落ち込んでいるのである。
3年前 ギリシャに端を発した信用不安は
通貨ユーロを導入している国々に次々に飛び火。
影響はEUのほかの国にも広がり景気が低迷していたハンガリーにも及んだ。
海外の資金が引き上げられたため
通貨ホリントがユーロに対して急落し
政府の借金が膨らんで財政状況が年々悪化。
破綻の危機を避けるため
去年 IMF国際通貨基金などに金融支援を要請するに至った。
EUから財政赤字の削減を求められたハンガリー政府は
財政再建の一環として国民健康製品税という新税をうちだした。
塩や砂糖を多く含む特定の商品を対象としたこの税金は
塩分や当分のとりすぎによる国民の病気を防ぎ
医療費の削減につなげようというねらいもある。
ケーキの場合
スーパーなどで販売されるパックや箱に入ったものが課税の対象である。
全体に占める砂糖の重さが25%超で税金がかかり
税率は50%にのぼるケースもある。
この新たな税金がケーキ業界に追い討ちをかけている。
1972年に創業したケーキ工場。
いち早く大量生産に乗り出し
最盛期には約100人が働いていた。
社長のカルマーネ・ポルガーさんは業界ではケーキ作りの母と呼ばれている。
ポルガーさんは新しい税金がかからないようケーキの砂糖の量を減らした。
すると長い間ケーキを納めてきた大手ファストフードチェーンから
ケーキが甘くないとクレームがついた。
もとの甘さにもどすを提案したが契約を打ち切られた。
売り上げはかつての20%にまで落ち込み
従業員は今は9人だけ。
大量生産は出来ず注文生産に変えざるを得ない。
カルマーネ・ポルガー社長
「大打撃です。
でもわが子同然のケーキ作りをやめることは出来ない。」
町のケーキ店にも影響が広がっている。
首都ブダペストに4つの店舗を持つケーキ店は
ホールケーキにして1日に500個以上も売れる人気店である。
しかし信用不安以降 一人当たりの購入額が少なくなっていて
売り上げは40%も減少した。
景気が良かったときに建てた店舗兼作業場のローンの返済も重くのしかかっている。
返済は3ヶ月に一度 約300万円にのぼる。
なんとかして売り上げを回復させたいと
店はあえて伝統のケーキとは違う新たな商品開発を始めた。
経済力のある富裕層や観光客をターゲットにすることで
売り上げの減少に歯止めがかかってきた。
ケーキ店経営 フェレンツ・ホルバートさん
「ハンガリーのケーキ業界には数百年の歴史があり
ハンガリー国民にとって甘いものを食べることは伝統。
わたしは伝統を守っていきたい。」
ハンガリーの人々にとってなくてはならないカフェ文化。
華やかな伝統文化が
時代の厳しい荒波にさらされている。
ハンガリーの場合
糖分 塩分の多い食品に対して税金がかけられているが
ポテトチップスも対象となることからポテチ税を呼ばれている。
デンマークではバターやチーズに含まれている飽和脂肪酸が
一定以上含まれていると課税される脂肪税が去年の10月から始まっている。
フランスでは甘い炭酸飲料などを対象としたソーダ税が1月から始まっている。
いずれも国民の健康改善のためだと政府は理解を求めているが
財政再建に苦しんでいて税収を上げるための新たな財源確保が目的ではないか
と言われている。
それによって企業の経営が悪化してしまうと
財政再建につながるのかどうかといった疑問の声も聞こえる。