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奥田英朗『オリンピックの身代金』

2009-07-11 17:36:00 | ノンジャンル
 奥田英朗さんの'08年作品「オリンピックの身代金」を読みました。
 東京オリンピックの開催を控えた昭和39年7月の中旬、東大院生の島崎国男は秋田の貧農の出で、ある日兄が出稼ぎ先の飯場で急死した知らせを受け、遺体を貰い受けにいきます。国男はそこで、オリンピックの開催に沸き立つ東京の町からは置き忘れられたような現場の悲惨さを目にし、また兄の遺骨を持って帰った田舎の疲弊した様子にショックを受け、自ら人足として兄と同じ現場で働くようになります。過酷な労働に耐え働くうちに、兄がヒロポンの過剰摂取で死んだことを知り、自らもヒロポンを味わい、やがてオリンピックを口実として労働者を搾取する体制への怒りが生まれ、現場の取引先である発破業者からダイナマイトを盗み、それまで世間を騒がせていた連続爆破魔・草加次郎の名前を名乗って警察に脅迫状を送り、オリンピック警備の責任者宅と警察学校を負傷者が出ないように爆破します。そして秋田で知合った、やはり秋田出身の中年のスリ・村田と組んでからは、開通間近のモノレールの橋脚を爆破し、警察へはオリンピックの身代金として8千万を用意するように言います。8月一杯で現場の仕事は終えますが、イカサマ博打で秋田出身の出稼ぎ者から給料を巻き上げていたヤクザ者を同僚の米原と一緒に殺してしまいます。死体は埋めますが、すぐにそれは見つかり、警察に国男と村田の身元も割れ、追われる立場となります。ヤクザ者が属していた組に米原が捕まったと聞いて事務所に駆けつけた国男を救うため、村田はダイナマイトを事務所で爆発させて二人で逃げ、東大の本郷キャンパスの過激派のアジトに匿まってもらいます。そして第一回目の身代金受け渡し。大安の日曜日、結婚式の後新婚旅行への見送りをする人たちでごった返す東京駅のホームでそれは行われ、運び屋から現金の入った風呂敷を奪った村田は警備についていた警察を振り切りますが、駅を出たところをスリ担当の刑事に見つかってしまい、現金を置いて国男とともに逃走します。それに対する報復として国男は警視総監と警視庁宛てに発火装置付きのダイナマイトを送りつけ、村田の手引きで朝鮮総連の男の世話になります。そしてオリンピック開会式当日。国男はダイナマイトを体に巻き付けて虚無僧姿で会場入りし、現金はリュックに入れて神宮プール前で警官に背負わせるよう指示し、それを村田に人波の中取りに行かせ、村田は国男の逮捕を最優先として監視する警官の目をあざむいて、選手団送迎のバス190台の中に隠れます。バスの下のマンホールを開けておいた国男の偽装工作はすぐにばれ、結局バスのエンジンルームの中で村田は発見されます。すきを見てバスの屋根に登った村田を公安が組み伏せ、村田が屋根から落ちるのをバスの運転手の休憩所で見ていた国男は、国立競技場の地下道を通ってメインスタンドに出、聖火台を目指しますが、村田から情報を得た警察の手で、聖火台を目前にして射殺されるのでした。
 実際には、国男以外にも、警視庁捜査一課の落合昌夫、オリンピックの警備責任者の息子でテレビ局に勤務し国男と東大で同級生だった須賀忠、国男がよく通う古本屋の娘でOLの小林良子も話者となり、日時別に語られていきます。忠の実家が爆発する場面から始まり、それに伴って昌夫が事件を追う様子が語られ、それと平行してその事件の元となった事情を1~2月遡って国男が語っていくという格好です。錯綜した構成に思われるかもしれませんが、非常に工夫されていて読みずらいということは全くありませんでした。活字の小さい2段組の500ページを超える大作で、読みごたえ十分でしたが、ラストで結局権力側が一方的に勝利して終わるというところが今一つすっきりしませんでした。せめて国男に将来を与えてあげてほしかったような気がします。いずれにしても久しぶりに読書を堪能しました。オススメです。