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鈴木則文『下品こそ、この世の花 映画・堕落論』

2015-02-04 12:38:00 | ノンジャンル
 鈴木則文さんの’14年作品『下品こそ、この世の花 映画・堕落論』を読みました。鈴木さんが様々な雑誌・パンフレットに書いてきた文章33編を集めてできた本です。
 この本を読んで書き残しておきたいと思った文章は、「(前略)わたしにとって実感として〈戦後の確かな終焉---〉を思わせる二つの死が、今年、あいついであった。山口組三代目田岡一雄と美空ひばりの母加藤喜美枝の死である」、「昭和12年、大日本帝国が中国大陸の泥濘に戦火の火蓋をきったその年に誕生し、昭和天皇の死とともに去った美空ひばりの生涯は、極めて象徴的に名もなき庶民の稗史(はいし)を綴っていたといえよう」、「さて、(美空ひばりの出演作は)160本!」、「(戦後映画で)彼女に比肩する〈主演女優は)しいてあげれば吉永小百合であろうか」、「ひばり映画といえば絶対に忘れられないのは沢島忠監督である。白眉は昭和33年、東映作品『ひばり捕物帖・かんざし小判』。(中略)圧巻はひばりが千代之介と踊る酒場の場面(後略)」、「島耕二監督は、日本では珍しくミュージカルへの造詣が深く、この国ではもっとも困難なミュージカル映画に挑戦した人である」、「西陣が栄えれば五番町も栄えるといった関係にあり、(中略)いわばB級の遊郭街(だった)」、「(藤純子の)成長に大きな役割を果したのがマキノ雅弘、加藤泰の二人の監督(後略)」、「私は、今でも日本の戦争映画の最高峰は『わが青春に悔なし』であり、外国映画ではアンリ・コルピの『かくも長き不在』であると思っている」、「若き日、狂のつく映画ファンで内田吐夢ファンでもあった友人と『観ようか』ということになり二十年振りに対面した『花の吉原百人斬り』は、当時無気力でダルな日常にまどろんでいたわたしを痛打し叩きのめすにたる傑作であった」、「内田作品の特徴は、骨太なリアリズムとダイナミックなカメラワークにある」、「『飢餓海峡』のとき、16ミリで撮影した後、そのフィルムを35ミリシネマスコープに拡大する方法論を思いつき、主人公の荒涼たる飢餓の原光景を描こうとしたのも、彼の若く野心的な実験精神の現れであろう」、「思うに内田吐夢最大の傑作は『飢餓海峡』ではなかろうか」、「私の映画人としての師は加藤泰である」、「人間の物語を冷たい論理ではなく、生きとし生けるものの感情で描こうとする加藤さんは、その美しい映像もあって『情念の作家』と一部の熱烈なファンの支持を受けてきたのである」、「情念の作家・加藤泰といえばその集大成的名作は『明治侠客伝 三代目襲名』である。(中略)加藤さんの女性讃美フェミニストの一面がうまく出たのが『骨までしゃぶる』である」、「『緋牡丹博徒 お竜参上』はシリーズ中一番評価の高かった作品であり」、「『純子はいいお嫁さんにするために女優にしたんだ』と語る(中略)マキノ監督の言葉が一番純子への本当の〈愛〉を感じさせます」、「一女学生俊藤純子を藤純子にしたのはマキノ監督なのです」、「シナリオにとって一番大事なものは何か。(答)題名 題名をつけるに一番必要なものは何か。(答)才能 (中略)その才能とは何か。(答)ラブレター」、「去年の11月封切った『エロ将軍と二十一人の愛妾』という映画は、正確に言えば私の作品ではない。上映3日にして、フィルムを切られたからである」、「私はかつて溝口健二の名作『西鶴一代女』を二回目観たときのことを思い出した。(中略)確か題名も『好色ナントカ……』という変テコリンなものがついており、毒々しい絵看板がかかげられた新東宝の映画館の前で私は呆然としていた。フィルムはかなりカットされてあり、地下の溝口健二が聞いたら墓石をはねのけてとび出してくるのではないかと思った」、「わたしは、人生はやさしさを訪ねる旅であると思っています」、「わたしが創りたいな……とひそかに念願していた映画は、射手座の人々によって総て創られてしまったあとなのだ。小津安二郎『晩春』『生れてはみたけれど』、木下恵介『わが恋せし乙女』『女の園』、浦山桐郎『非行少女』『わたしが棄てた女』、前田陽一『にっぽん・ぱらだいす』『あゝ軍歌』、寺山修司『田園に死す』、武智鉄二『白日夢』」、「だが、どうしてもつくっておきたい映画が3本ある。(中略)運命に慟哭する映画と、運命にツバを吐く映画と、運命に別れを告げる映画……(中略)更にもう1本、運命を抱く映画を」、「創りたい映画をもう1本思い出しました。江戸川乱歩の『人でなしの恋』です。あ、もう1本、青柳裕介の『土佐の一本釣り』……(後略)」です。また「解説」にあたる松平乗道さんの文章には「僕が映画作りにかかわっていた頃、撮影所の人たちはみんなおしゃべりで、他人の噂話、悪口などが大好きだった。その典型はマキノ雅弘監督」、「ドジな新米(を)ひとりだけ、やさしく接してくれたのが2つ年上のサード助監督、コーフンさんだった」、「鈴木則文の作として印象に残るのは力作『殉愛記』。(中略)それから、愛すべきコメディ『祭り囃子に恋が咲く』というのもあった。アメリカ映画の佳篇『ピクニック』にヒントを得た青春時代劇である」という文章もありました。
 私のような鈴木監督のファン、そしてマキノ雅弘監督、加藤泰監督のファンにも新たな発見がある本だと思います。映画ファンなら必読の書です。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/