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神代辰巳監督『恋人たちは濡れた』その1

2015-09-27 02:44:00 | ノンジャンル
 WOWOWプライムで、神代辰巳監督・共同脚本、姫田真左久撮影の’73年作品『恋人たちは濡れた』を見ました。
 琵琶の音。自転車をこぐ青年。鐘の音。お経の声。海辺の道を走り、後ろを何回も振り返る。青年、男を避けようとして転び、積んであったフィルム缶を落とす。転がるフィルムと缶。「この野郎、誰や?」。フィルムを巻き取るが、フィルムはからまる。「あ、この……(聞き取れない)野郎」。
 自転車を必死でこぐ青年。タイトル。公民館に着き、荷台のいくつかのフィルム缶を抱えて、公民館に入る。「こんちは」。映写機の音。「バカ、長かったじゃないか。間に合わないと思ったよ。あとこれだけだよ」と映写機のほとんど残ってないフィルム指す。「落としたんですよ」とフィルムを拭く青年。「バカ、もっとよく拭け。もっと」「やってますよ。言われなくたって」「ゴミついてるじゃねえか」。青年、男の顔を一瞬見て、懸命に拭く。「だけどお前、中川のカツじゃねえのか?」「え? 違うよ」。フィルムを拭き、男の方を見て「違うよ」。
 自転車こぐ青年。「変ですね」。トラックのクラクション。「よお、お前中川のカツじゃないかよ。カツだろ。ほら、俺だよ。三浦」「俺は中川のカツって野郎じゃないし、お前も知らないよう」「こん畜生」。クラクション。青年、トラックにつかまる。「バカ野郎、放せよ」。
 劇場の入り口。「奥さん、行って来ましたよ」。チケット売り場の女「ねえ、ちょっと、ここへ来る前、何か良くないことしてきたんじゃないでしょうね」「何をですか?」「入って」。青年がチケット売り場に入ると女、「警察か何かに追われてるんじゃないでしょうね」「そう見えますか?」「あたしが訊いてんじゃない」「何も心配なさるようなことはしませんよ。でもどうしてですか?」「あんたみたいな若い男が、こんな所で働くの、何かおかしいような気がしてね」。
 青年、ポルノ映画を上映している劇場の中へ。「追われていると言えば、追われてい
るんですけどね」と独白。
 劇場の客席の床に水を撒く青年。掃除するチケット売り場の女。「あんた、過激派かなんかじゃないわね?」「過激派?」「学生さんでしょ?」「冗談でしょ。そんなインテリじゃないですよ。見たら分かりそうなもんじゃないですか」。
 バケツに水汲み、また劇場の客席へ戻る青年。「旦那遅いですね。出ていくと大体遅いですね」「いいでしょう。遅かろうと早かろうと、あんたに関係ないわよ。人のこと、とやかく言わないでよ」「悪いこと言ったかなあ。だけど奥さんだって、俺のこと根ほり葉ほり訊くからな」「当たり前でしょ? あんたを雇ってるんじゃない。いくら人手不足だからって、変な人雇いたくないわよ」「だけど雇い人だって、ゴチャゴチャ言われれば同じだよ。いい気持ちしないもんだよ」「生意気言うね」。
 海の上の岩に海鳥がたくさん留ってる。琵琶の音。
 舞台を歩く青年。中央で立ち止まり、いい声で「いらっしゃいませ。全国の農協の皆さま。ようこそいらっしゃいませ。わたくし、三波春夫でございます。(両手を広げ)あなたあっての南です。こんにちは~♪こんにちは~♪にし~の~くにから~♪ こんにちは~♪こんにちは~♪ひがしの~くにから~♪ お客様は神様です。あなたあってのわたくしです」。舞台を降り、客席を出て、女に「おはようございます」「あんた、ひょっとしたら役者さん?」「見てたんですか?」「見えたのよ」「役者なんかじゃないですよ。また身元調査ですか? ゆうべ、旦那は帰って来なかったようですね」「余計なお世話よ」「フィルム取りに行って来ます」。見送る女。
 海辺の道を傘さして自転車をこぐ、透明なレインコート姿の青年。パンという音。自転車倒れそうになり「あちち」。タイヤを見て「畜生」。無理やり自転車をこぐ。「だからって、さからって、ほー」。自転車を押し出す。
 軒下。ロング。「お前は5年前、東京へ出て行く時に、俺たち親友だったじゃないかよ。
忘れちまったのかよう。三浦だよ」「悪いけどなあ、ホントに人違いだよ。俺、あんたなんか知らないよう。俺はこの町初めてだしな。3日前に来たばっかりなんだから」「いいんだよ。お前はきっと訳があるんだろ? だから昔の知り合いとは会いたくないんだろ。だけどお前、故郷に帰ってきたんだよ。しかも俺たち親友だったじゃねえかよう。(青年、男に背向ける)忘れちまったのかよう。冷てえなあ。ほら(青年のアップ。青年、何かに気づき、遠くを見る)麻雀屋の清水がいたろう」。(明日へ続きます……)

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/