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筒井康隆『巨船ベラス・レトラス』

2007-06-07 15:13:51 | ノンジャンル
 吾妻ひでおさんが推薦している筒井康隆氏の「巨船ベラス・レトラス」を読みました。
 33才の作家・笹川は、イタリアンカフェでの催しを終えて外に出ると、店内で爆発が起こり死者が出ます。犯人は鮪(しび)という地方同人誌の作家で、自分の小説が認めてもらえなくて、プロの作家を恨んでの犯行とのことでした。笹川より二回り上で文学的実験をしてきた、大阪に住む錣(しころ)山はこのニュースを見て、自分の同じような体験を思い出し、憂鬱になります。翌日のパーティーに、こういう場所にはめったに来ない前衛詩人で盲目の七尾霊兆が来ます。彼は高校時代SF的な詩を書き、コンクールで七尾に絶賛され、それ以来お供をするようになった美しい娘・村田澄子を連れていました。1年ほど前、パソコンソフト製作会社の社長で文学好きな狭山から錣山へ革新的な作品ばかりを載せた新雑誌「ベラス・レトラス」を創刊したいと相談があり、狭山が知っていた七尾以外に笹山と伊川谷と根津を紹介しました。破格の執筆料に皆この仕事を引き受けましたが、革新という言葉に縛られて、ろくな作品が集まらず、廃刊寸前です。ある日、七尾がレストランで食事をしていると、ボーイと話しているうちに客船の中にいることを指摘されます。鮪が作品集を出すので推薦文か解説を書いてほしいと頼まれた錣山は、文学にもなってないとは思いながら、推薦文を書いて編集者に渡すと、その場が大きく揺れます。笹川と澄子は雑誌の対談でバーにいると、やはりバー全体がグラッと揺れ、巨大客船のラウンジになります。鮪の作品集は売れますが、河田梵天という男が鮪と錣山を罵倒し、錣山を刺し殺す内容の小説を書いていると言います。伊川谷と根津はホテルのレストラン出会うと、またグラッと揺れます。七尾は昔「めくら」と言ったことで息子をしかった女・伽苗と船に乗っています。澄子は原稿を書き終え朝になると、グラッと揺れ、窓の外は海になっています。錣山がよく乗ると言っていたベラス・レトラス号に自分も乗せてもらえるようになったか、と彼女は思います。錣山は自宅で妻と踊っていると、軽いめまいがして船の上にいました。澄子も来ています。そして自分の作品の登場人物まで来ています。根津は今書いている作品に、笹山と伊川谷をモデルにした夜のビルを歩き回る警備員を登場させます。船上の狭山が主催した夕食会が始まり、この小説の登場人物が全員集まります。カーテンを開けると、大海原が広がっています。笹山と伊川谷は、根津の執筆がビルの巡回のところで止まっているので、巡回を止められない、と不満を漏らします。怒鳴り込んで来た河田は連れ出され、ゴミ箱に変身します。船尾に移ったメンバーは空中に浮く教会風の建物を見、狭山は文学の批評家があそこにいる、と言います。狭山の一声でメンバーは散り、それぞれの行動をとっていると、七尾の予言通り、この小説の作者・筒井康隆が現れる。彼は自分の本の偽物の落款・サイン入りの本を出した出版社とのこれまでのやりとりを話し、怒りを爆発させる。彼の演説が終わると、船上の舞台で、劇が始まる。劇は途中から文学のあり方を説き始め、客席と舞台が一緒になって議論を始める。そして最後に澄子が船首像になる、という話です。
 前半は普通の話なのですが、後半から突然登場人物が船上にワープし始め、彼らが書く小説の登場人物も実体化して、話が混乱してくると、今度は筒井康隆氏自らが出て来て、どうも本当の話らしい著作権侵害事件を実名で書く、という訳の分からない小説です。もしかしたら著作権侵害の話を訴えたかったから、この小説を書いたのでは、と私は疑いました。とにかく、へんてこな小説です。毛色のかわったSF小説をお探しの方にはオススメです。

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