ジャコ・パストリアスというベーシストが偉大だってことは、ずーーーっと前から知っていました。
高校時代に所属していた社会人ビッグ・バンドで、「ウェザー・リポート」の「バードランド」という曲を演奏したことがありました。それがぼくの、ジャコの音楽との出会いです。
でも、なぜかそれ以上ジャコ・パストリアスというミュージシャンに関わってみようとは思いませんでした。その時のぼくには、まだジャコの素晴らしさが分からなかったんです。そして、そのまま10年以上も時が経ってしまいました。
ぼくは多少ミエッパリなのでしょうね。
音楽雑誌には、ジャコを絶賛する記事があふれ返っている。先輩たちや、他のベーシストはみんな「ジャコはやっぱ凄ぇよな~」なんて言ってたし。そんな中で今さら、「ジャコってそんなに凄いの?」なんて、恥ずかしくて訊くことができなかったんですね。
それに、みーんな「ジャコ凄い!」って言うもんだから、逆に「ジャコだけがベーシストじゃないもんね~」なんて、ちょこっとツムジを曲げてみたり。
だから、かなり後まで、ジャコ・パストリアスのサウンドに触れずじまいだったんです。横目でジャコを見ながら、遠巻きに通り過ぎる感じ(笑)でした。
もともとぼくは、自分がベース弾きであるにもかかわらず、しぶしぶ耳コピーする時以外は、ベースだけを聴き込むということをあまりしなかったんです。
音楽を聴いても、「このギター、シブいな~」とか、「このキーボード・ソロ、泣けるな~」とか、「ここのドラムのフィル・イン、カッコよすぎ」だとか、ぼくは、ベース以外のところにばかり気を取られていたバチ当たり(笑)だったんです。
ベースを始めてから10年以上が過ぎ去った頃、ようやく「やはり一度は教材としてジャコの作品を聴いておかねば」と思うようになりました。そして買ってきたのが、『ジャコ・パストリアスの肖像』です。
初めてこの作品を聴いた時は、それこそ思い切り頭を殴られたくらい(それもバットで)の衝撃と感動を受けました。それまでに色んな音楽を聴きあさっていたおかげで、ある程度耳が肥えていたのも幸いしたのでしょうね。
華麗なフィンガリング、伸びやかで粒立ちのよい独特のブライトな音色。
まるで生き物のような強烈なグルーヴ感、メロディックで奔放なベース・ソロ。
ハーモニクスを始めとする特殊奏法の数々・・・。
抜群のベース・プレイにもすぐマイってしまいましたが、なんといっても素晴らしいのは、既成概念を見事なまでに打ち破ったその革新的な音楽性です。
「こういう自由なベースの使い方があるのか・・・」「こういう発想で音楽を創っているのか・・・」。出るのはもはや、タメ息ばかりです。「ああ、もっと早くこのアルバムを聴いておくべきだった・・・」
フレットレス・ベースとパーカッションのデュオで演奏される1曲目の「ドナ・リー」で一気にジャコ・ワールドに引き込まれてしまいます。
3曲目の「コンティニュウム」の美しいメロディ、大好きです。ハーモニクス奏法によるベース・ソロが披露される5曲目の「トレイシーの肖像」、これ、最初聴いた時は、いったいどうやって演奏しているんだろうか、と不思議に思ったものです。
サポートに回った時のジャコの強力なバッキング(これがまた凄くてカッコイイ!)の洪水が堪能できる「カム・オン、カム・オーヴァー」、「クル/スピーク・ライク・ア・チャイルド」、「チャ・チャ」・・・。
このアルバムにはジャコの全てが凝縮されている、と言ってもいいでしょう。この作品を制作したのが24歳の時、って言うんだから、もうそれだけで平伏してしまいます。しかも、30年前にして、すでにこのサウンドだもんな~。
自分がベーシストだから、このアルバムが好きなのではありません。このアルバムで聴くことのできるジャコの世界そのものが好きだからこそ、ぼくの愛聴盤になっているんです。
ジャコ・パストリアスは、「ベーシスト」というよりも、「ベースという楽器の可能性を驚異的に広げた、イノヴェイターでありクリエイター」と言えるのではないでしょうか。
◆ジャコ・パストリアスの肖像/Jaco Pastorius
■演奏
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
■プロデュース
ボビー・コロンビー/Bobby Colomby
■リリース
1976年8月
■録音
1975年9月、10月、12月 ニューヨ-ク
■収録曲、録音メンバー
① ドナ・リー/Donna Lee
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ドン・アライアス/Don Alias (conga)
② カム・オン、カム・オーヴァー/Come On, Come Over
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (clavinet, electric-piano)
ランディ・ブレッカー/Randy Brecker (trumpet)
ロン・トゥーリー/Ron Tooley (trumpet)
ピーター・グレイヴス/Peter Graves (bass-trombone)
デヴィッド・サンボーン/David Sanborn (alto-sax)
マイケル・ブレッカー/Michael Brecker (tenor-sax)
ハワード・ジョンソン/Howard Johnson (baritone-sax)
ナラダ・マイケル・ウォルデン/Narada Michael Walden (drums)
ドン・アライアス/Don Alias (conga)
サム&デイヴ (Sam & Dave)/Sam & Dave (Sam Moore, Dave Prater vocals)
③ コンティニューム/Continuum
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (electric-piano)
アレックス・ダルクィ (electric-piano)
レニー・ホワイト/Lenny White (drums)
ドン・アライアス/Don Alias (conga)
④ クル/スピーク・ライク・ア・チャイルド/Kulu/Speak Like A Child
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (electric-piano)
ボビー・エコノム/Bobby Economou (drums)
ドン・アライアス/Don Alias (conga, bongo)
violin・・・デヴィッド・ナディアン/David Nadien、ハリー・ルーコフスキー/Harry Lookofsky、ジョー・マーリン/Joe Malin、
ポール・ガーシュマン/Paul Gershman、ハリー・サイクマン/Harry Cykman、ハロルド・コーホン/Harold Kohon
viola ・・・スチュワート・クラーク/Stewart Clarke、マニー・ヴァルディ/Manny Vardi、ジュリアン・バーバー/Julian Barbar、
cello ・・・チャールズ・マクラッケン/Charles McCracken、カーミット・ムーア/Kermit Moore、ビヴァリー・ローリゼン/Beverly Lauridsen
⑤ トレイシーの肖像/Portrait Of Tracy
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
⑥ オーパス・ポーカス/Opus Pocus
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (electric-piano)
ウェイン・ショーター/Wayne Shorter (soprano-sax)
オセロ・モリノー/Othello Molineaux (steel-drum)
リロイ・ウィリアムズ/Leroy Williams (steel-drum)
レニー・ホワイト/Lenny White (drums)
ドン・アライアス/Don Alias (percussion)
⑦ オコンコレ・イ・トロンパ/Okonkolé Y Trompa
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ピーター・ゴードン/Peter Gordon (french-horn)
ドン・アライアス/Don Alias (percussion)
⑧ (ユースト・トゥ・ビー・ア)チャチャ/(Used To Be A)Cha-Cha
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (bass)
ヒューバート・ロウズ/Hubert Laws (piccolo, flute)
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (electric-piano)
レニー・ホワイト/Lenny White (drums)
ドン・アライアス/Don Alias (conga)
⑨ 忘れさられた愛/Forgotten Love
ハービー・ハンコック/Herbie Hancock (piano)
violin・・・デヴィッド・ナディアン/David Nadien、ハリー・ルーコフスキー/Harry Lookofsky、ジョー・マーリン/Joe Malin、
ポール・ガーシュマン/Paul Gershman、ハリー・サイクマン/Harry Cykman、ハロルド・コーホン/Harold Kohon、
マシュー・レイモンディ/Matthew Raimondi、マックス・ポリコフ/Max Pollinkoff、アーノルド・ブラック/Arnold Black
viola ・・・スチュワート・クラーク/Stewart Clarke、マニー・ヴァルディ/Manny Vardi、ジュリアン・バーバー/Julian Barbar、アル・ブラウン/Al Brown
cello ・・・チャールズ・マクラッケン/Charles McCracken、カーミット・ムーア/Kermit Moore、ビヴァリー・ローリゼン/Beverly Lauridsen
contrabass・・・リチャード・デイヴィス/Richard Davis、ブルース・ブランズビイ/Bruce Bransby、ホーマー・メンチ/Homer Mensch
ジャコ・パストリアス/Jaco Pastorius (strings-arrangement)
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「continuum」はもしや?と思っていたのですが、
やはり、ジャコの曲名からいただいたのかしら?
やっとこの疑問を解く日がきました
教えてください
はいお見事、正解です。
一度、この曲をベースとドラムのデュオで演奏するという冒険(ムチャ、と読んでね 笑)をして、冷や汗をかきまくったことがあります。
でも、良い曲だと思います。機会があれば、今度は完全にベース・ソロで演奏してみようとタクランでいるんですよ。
こんばんは。
ワタシも一応ベーシストなんですが、ジャコのコピーをしようと思ったこと、殆ど無いんですよね。アタクシにはまず無理だと思っているから・・・、はっは
ジャコは作曲家としても凄いですよね。
その上、アレンジャーとしても凄いですし(エリントンの系譜に入るような気もしますね)、このアルバムだとか、「Twins」みたいなのをもっとタクサン作って欲しかったと思います。
>ジャコのコピー
単なるR&Bに聴こえたあの「チキン」、いざコピーしてみるとあのフィーリング、出ないんですよね ぼくもジャコのコピーは、うむむ、なかなか苦しいです。だからすぐ自分流にゴマカスんですよ。(笑)
>作曲家としても
全く同感です!あんなサウンド、どこから湧いて出るんだろう・・・すごいとしか言えません。
天才肌のように思われるジャコですが、アレンジなんかはすごく勉強したそうですね。やっぱり偉大な人は、そう言われるだけの汗は流してるんですよね。
MINAGIさんお久しぶりです。小生もBassかじりなんですが、若いころ「生Jaco」をみた世代です。
まだ今よりもガキだったロック少年の自分がみても目を奪われるカッコよさがありました!
もちろん家へ帰ってBassをコピーしまくることもなく(できるわけなく)今日にいたっております。
それと、このアルバムは小生にとって数少ないLPを買い直し、CDも買った アルバムです。
お久しぶりです。ライブお疲れさまでした。(^^)
残っているジャコの映像は少ないらしいですね。その中で、モントリオールでのライブと、ジョニ・ミッチェルのバックでの演奏の映像、何度も何度も繰り返し見ていますが、ほんとにタメ息がでるくらいカッコいいです。