キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

ホームレス歌人のいた冬

2012-04-05 16:43:53 | 
ホームレス歌人のいた冬
三山 喬
東海教育研究所

        リーマン・ショック後、派遣切りの嵐が吹きまくった冬、朝日新聞の歌壇

        に突如現れ、驚異的なペースで選出掲載され、九ヶ月後にまたしても突然

        投稿がなくなった謎の投稿歌人『公田耕一』を探し求めた三山喬さんの真摯

        なルポルタージュです。普通名前とともに住所を書いて葉書で投稿するの

        に、その住所の欄が毎回(ホームレス)と記されていたのだそうです。

          (柔らかい時計)を持ちて焚き出しのカレーの列に二時間並ぶ
                                   (ホームレス)公田耕一

        (柔らかい時計)というのはスペインの画家ダリの絵のぐにゃっと歪んだ

        時計のこと。これだけでもある程度の教養を持った人だと分かります。

          パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる

          温かき缶コーヒーを抱きて寝て覚めれば冷えしコーヒー啜る

          哀しきは寿町と言ふ地名長者町さへ隣にはあり

          美しき星空の下眠りゆくグレコの唄を聴くは幻

        著者は歌に出てくる地名や、グレコなどの名前から、住処や年齢を推測し

        彼に迫ろうとします。横浜のドヤ街である寿町に通いつめ、多くのホーム

        レスの人々と出会い、その人々の境遇に自分の人生を重ね合わせ、心を寄

        り添わせ、公田耕一にたどり着こうとしますが、ついには叶わず、結局人

        それぞれの「公田耕一」がいるのだと気づくに至ります。それぞれに辿っ

        てきた道はちがうけれど、深い悲しみと苦しみを背負って社会の吹き溜ま

        りに集まってきた人々が大勢いいる今の日本の紛れもない現実を、抑制の

        効いた筆致で描いた質のよいルポルタージュです。大部分が自分を表現す

        る術を持たず闇の中に沈み込んでいる中で、たった九ヶ月ながら閃くよう

        な才能を見せて姿を消した公田さん、今も歌い続けていることを願ってや

        まない気持ちになりました。

              

              我が上は語らぬ汝が上は訊かぬ梅の香に充つ夜の公園
                                (ホームレス)公田耕一

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 黄金の雨 | トップ | さくら、さくら »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おはようございます (go51525)
2012-04-07 08:09:33
今朝は早くから起きて、寒いのでベッドの中からうつらうつらしながら
マスタ-ズを観戦しています。

奈良でも桜の開花が急ピッチ!来週半ばには又荒れ模様の予報ですので満開になったとたんに
散ってしまいそうです。そこで10日に有給休暇を取りましたよ~

返信する

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事