背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

プリティー・ドリンカーの夜

2009年02月11日 07時26分23秒 | 【DVD特典ブックレット】読了以降推奨


へべれけに酔って、手塚に寮まで運ばれた柴崎。
いい具合にしんなりと郁の腕におさまる。
くっそおと郁は柴崎を支えて舌打ちしたい気分になる。腕を回したその腰の細さに、そして柔らかさに同性ながら心落ち着かない気にさせられる。
酒を浴びるほど飲んでも、何でこの女はこんなにいい匂いをさせれんのよ。
そんなこんなで幾分手荒に柴崎をベッドに置く。どさ、っとスプリングが利く。
柴崎はいたってご機嫌な様子だ。鼻歌なんかを口ずさんでいる。
「ほら、服着替えないと、皺はいっちゃうよ、柴崎」
肩を揺すっても、「んん? わかってる~」と聞いてるんだか聞いてないんだか。
「ほんと珍しい。あんたがこんなに酔っ払うなんて。何かあったの?」
しようがなく、毛布を柴崎に掛けてやりながら気遣わしげに見やる。
悪い酒ではないように見える、けど……。
まさかあんたのせいよ、とは言えず、柴崎はうーんと唸り声で誤魔化した。
あんたが、堂上教官といい感じになっちゃったら、めでたくくっついちゃったら、ここを出て行っちゃうんだろうなあって。そう考えただけで酔わずにはいられなくなっただなんて。まだ恋の自覚もない笠原に言えるはずもない。
いや、自覚があったとしても言えない。そんな弱音みたいなこと。
だから、あいつを呼び出した。
それに……。
柴崎はごろんと寝返りを打つ。
酔っていても、頭はクリアだった。
それに、それよりも、……羨ましかったんだわ、あたし。
笠原のことが。


いつもタスクフォースの飲み会があるごと、タフな酒飲み連中に潰されては堂上教官に負ぶわれて帰ってくるあんた。
あたし一人じゃ手に負えない大娘を、それはそれは大事にベッドまで横たえてあげて、その上その日の笠原の酒量から酒の種類まで細かくあたしに知らせて、悪いが時々様子を見てくれと言う。
そんな教官を見てたら、なんだか……。
なんだか、とっても羨ましくなっちゃったの。
ああ、心底大事にされてるなあって。
きっと、教官の頭には酔った笠原をどうにかしようなんて思いは全くなくて、――ううん、男の人だもの。それは違うか。
たとえそう言う思いがあったとしても、泥酔した笠原を前にすると、まずその身を案ずる気持ちが先に立ってしまうのだろう。
それが、恋だ。――なんて言ったら、笠原、笑う?
あたしらしくないよって。


一緒に飲んで潰れても、絶対に自分に不埒なことをしない。
きっちり定規で線を引くように、寮まで送り届けてくれる。
そんな男があたしの周囲にどれだけいるか、って見渡したら、思い当たるのはたった一人しかいなかった。
だから、呼び出したの。愚痴を聞いてもらいがてら、あいつの前で泥酔してみたかった。正体なくすまで飲んで、絡んで、甘えた。
そして予想にたがわず手塚はあたしを軽々と負ぶって夜道を歩いてここへ送り届けてくれた。
堂上教官が、いつも笠原にするように。


少しの間だけでいいから、大事にされたかったの。
してくれる男もいるんだって、――身体目当て、顔目当てであたしに近づいてくる馬鹿ばっかだけど、それでも中にはちゃんと大事に思ってくれるやつもいるって、確かめたかった。
それだけよ。
だから、これは恋じゃない。
断じて。
何事もなくここに送り届けられて、それなのにそのことに少しがっかりしてるなんて、――ありえないから。


「……りえないんだからね」
むにゃむにゃと半分寝言のようにくぐもった声が柴崎の唇から漏れる。
「え、何?」
何か言った? と郁が柴崎に屈み込んでも、すうすうと寝息が聞こえるだけ。
あーあ。化粧も落とさないで。
肌荒れるよー。そう言いながら柴崎を揺すって、でも諦め、郁は部屋の電気を消した。


さすがに帰り道、ふて腐れたのか、ちらっと郁への嫉妬を零した手塚。
「お前、俺がいなくなったらどうなんだ?
どうせ便利な使いっ走りくらいにしか思ってないんだろうけどな」
全然、分かってない。
……分かってないわ、コイツ。
むかっ腹が立った。お門違いとは分かっていても。
だから噛み付いた。
マフラーと服を剥いて、思い切り首筋にキスマークを刻んだ。
一瞬鼻先をかすめた男くささに眩暈がした。けどそれはアルコールのせいかもしれなかった。
手塚の動揺がダイレクトに伝わってくるのが、その肌の熱が、嬉しかった。



……バカな男。

自分がいなくなったらあたしがどうするか、ですって?
そんなの決まってるじゃない。分からない方がどうかしてる。激ニブ。
だからあれは罰よ。しばらく消えないようにつけといたから、鏡で見るたびに、ひとに冷やかされるたびに、あたしのことを思い出すといい。
明日、【作品】をみんなに披露するのが楽しみね。


柴崎は寝返りを打って、毛布の中に潜り込む。
その顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。

fin.

web拍手を送る


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 冬は、スポ根 【4】 | トップ | しかえし »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
柴崎が羨ましいっすヨ (あだち)
2009-02-11 20:02:34
手塚みたいな男を何年も待たせて。
まあ彼が鉄の自制心を持っているから待てたんでしょうけど。。。
柴崎の意地っ張りの仮面の下の、素顔を覗き見ちゃったら、きっとたいていの男の人は参っちゃうんじゃないのかなあ。
でも手づかみたいに何年も待てる男はいないから、やっぱ彼のものになるのでしょうね。ウン
返信する
酔っ払い (たくねこ)
2009-02-11 16:20:13
いい仕事しましたよね~~。
ただ、ここから長かったのは、意地っ張りなせいでしょうか、
手塚がヘタレだからでしょうか…
柴崎はとってもかわいい子だと私は思います。
わかりにくいですけどね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

【DVD特典ブックレット】読了以降推奨」カテゴリの最新記事