背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

私を忘れたあなたと(1)

2025年02月26日 18時41分41秒 | CJ二次創作
「あんた……、誰だい?」
 
 頭部被弾による緊急手術のあと、10日以上の昏睡状態を経て目覚めたジョウが、あたしを目にした時、口にしたのはそんな言葉だった。

 ジョウは記憶を喪った。全部じゃない、まだらに、ここ5、6年という近い部分を。航路に伏せていた海賊とはからずも交戦することになり、ファイターで出撃した。迎撃され機体は大破。緊急脱出したが、そこを狙われた。レーザーの光条が回収ポッドを貫き、ジョウを吹き飛ばした。
 銃撃を掻い潜ってあたしが2で回収にいったけれど、ひとめ見ただけで瀕死状態だと分かった。頭部からの出血がひどい。意識はもちろんなかった。あたしの全身の血が凍った。
 緊急で、最寄りの中立衛星の救命に駆け込んで、開頭手術となった。
 その間およそ10時間、あたしは生きた心地がしなかった。
 何とか一命を取り留めたと聞いた時は安堵のあまり泣き崩れてしまった。
 こんなのーークリムソン・ナイツ、テュポーンとの戦いのとき、重傷を負ったので最後で、もうないと思っていた。この人があんなにひどい怪我を負うなんてことは、きっともうないはず、と。
 何の根拠もなく。
 ーー希望的観測だったんだ。と思い知らされた。
 術後も、昏睡したまま目を覚ます気配が一向に訪れないジョウを見守りながら、それを痛感した。

「何で女の人が、クラッシュジャケットを着てるんだ?タロス。そっちの、--後ろの緑の子どもは誰だ?」
 ジョウはあたしと、タロスの背後にいたリッキーを不思議そうに眺めながら、そう言った。
 ようやく主治医から許可が下りて、面会ができるようになった頃。
 数日前に、意識が戻ったとは聞いていた。ひとまず安堵するチームのあたしたちに、主治医は言いづらそうに言葉を濁しながら、実はとつづけた。
「どうも、記憶障害を併発しているようです」
「記憶、障害?」
「ええなにせ頭にあれだけダメージを負ったんですから、何も後遺症もないことは難しいだろうと思っていたのですが……。どうも、話を聞いていると、その」
 歯切れが悪い。あたしは焦れた。
「なんなの?」
「ーーいや。そのあなた、責任者の方ですか」
 主治医はあたしから目を逸らして、タロスに目配せした。別室へ、ちょっとと呼ぶ。
 残されたあたしはリッキーと目を見交わすしかできなかった。
 嫌な予感が、した。

 それから二日経って、ようやく面会の許しが出たのだ。そわそわして、朝から何も手に付かず今にもジョウの病室に飛んでいきたい気持ちでいたけど、タロスにいいか、手術のせいで大分ジョウも変わってしまったから、驚かねえようになと何度も噛んで含めるようにして言われていた。その分、身構えていた。
 それはそうでしょう、あんな大けがしたんだもの、そんなの分かってるわよォとあたしは自分を励ました。
 そして、とうとう、ジョウの個室に入って行って、彼との対面を果たしたのだけれどーー

「あんた……、誰だい?」

 髪を短く刈ってーー頭の手術をしたいせいだ、そこに白い包帯を巻いた姿で、ジョウはベッドの上体を起こしていた。黒いTシャツ。ぼんやり窓の外を見つめている。精悍さが際立つヘアスタイル、少し痩せた身体。入隊した軍人さんみたい。
 でもそれ以外は、何も変わらなかった。懐かしさが込み上げる。
「ジョウ……来やした」
 そう言って巨躯をかがめるようにしてドアをくぐった。
 その後をあたしと、リッキーが続いて。
 こちらを見て、ぱっと顔を上げて「タロス」と目を細める。
 声が、話し方が、元のまんまでーータロスがさんざんジョウの変化を驚くなよと言い含められてきたぶんだけ、懐かしくて、あたしは反射でニ三歩彼に走り寄った。
「ジョウ」
 よかった。心配したのよ。もう身体はいいの。
 言いかけたあたしに視線を移し、ジョウはすっと表情の抜け落ちた顔になって口を開いた。
「あんた……誰だい?」
 え。
 一瞬。頭が真っ白になった。
 いま、なんてーー
 と言葉の意味を理解する間もなく、ジョウは
「何で女の人が、クラッシュジャケットを着てるんだ? タロス。そっちの、--後ろの緑の子どもは誰だ?」
「みどりの、子どもだってえ?」
 リッキーがずっこけた。
 えーーえ?
 あたしは固まったまま、身動きできなかった。タロスは困ったように頭の後ろを掻いた。
「説明しやしたぜ、ジョウ……。これは、うちの航宙士のアルフィン。ガンビーノの後釜で。こっちは、機関士のリッキーでさあ」
 あんたのチームクルーですよ。そう付け加える。
「俺のクルー?」
 ベッドの上胡坐をかいて、ジョウはじっとあたしを見つめる。
 けげんそうに。
  外見は、確かに彼だけどーー声も仕草も、髪型以外はまったく手術より前と変わらない様子のジョウだったけれども、
 決定的なことが、違っていた。
 彼の中から、あたしに関することーー出会ってから、メンバーになって一緒に過ごしたここ数年の記憶だけがすっぽりと抜け落ちていたのだった。

(2)へつづく

青森県立美術館での「描く人 安彦義和展」詳細が更新されました。
庵野さん、高千穂先生とのトークショーも上映会も盛りだくさんです。GWは当県へお立ち寄りになられてはいかがでしょう?笑

そうして、どこに落ち着くかさっぱり分からぬ連載開始です。設定が苦手という方は閲覧なさらないでください。

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