背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

Vergin Snow (4)

2022年02月06日 09時44分23秒 | CJ二次創作
保つはずがない。自分の理性なんて、全くあてにならない。
ってか、これってまさに新手の拷問か何かじゃないのか、それとも新手の罰ゲームか。クソ寒い洞穴にアルフィンと閉じ込めて、おのれの我慢の限界を知れっていう天の思し召しか。忌々しい。
リッキーの台詞が頭の裏に蘇る。
「兄貴、もうちょっとそのままそこにアルフィンと二人でいたほうがいいんじゃない?で、きちんとごめんって言って、仲直りしないとだめだよ」
一ー知ったような口をききやがって、あいつ。
ジョウは奥歯を噛み締めた。
さっきから自分の心臓の早鐘がアルフィンに聞こえやしないかと、ただそれだけが気がかりだった。どれだけ自分が動揺しているか。この状況に混乱しているか知られると想像するだけで、なんだか居ても立ってもいられなくなる。男の沽券にかけて、クールに、それはそれは平然と彼女を受け止めたいのに。当然の権利を主張するかのように若い身体が裏切る。
……柔らかい。
華奢だし、スレンダーなのに、どうして腕の中に入れるとアルフィンはこんなにふっくらと優しい手触りなんだろう。しかも、いい匂いがする。髪と肌からふんわりと淡い香りがして、いやでも心を掻き乱す。
あと一つ、何かきっかけを得れば、化学反応を起こすように自分の身体が確実に変化するであろうことが、彼にはよく分かっていた。
ジョウは痛みに耐えるようにそっと目を閉じた。
なんだかもう、彼女を正視することさえできない気分だった。
アルフィンはアルフィンで、貝のように自分の中に閉じこもって心を落ち着かせようとするので精一杯だった。
あたしからジョウを誘った。水を向けたのだ。何があっても動じないでいたい。
たとえそれが、性的なことを彼から引き出すことになろうとも。
そんな覚悟で口にしたはずなのに、いざこうして身を寄せ合っていると、じっとしていられない。呼吸をするのも憚られる。いっそ両手で顔も耳もきつく覆って、寝袋の中にすっぽりと潜り込んでしまいたい。そんな衝動を押さえ込むので必死だった。
首の後ろに、彼の腕が差し込まれている。
あたし、男の人に腕枕してもらうの、初めて。
逞しい筋肉の感触が、自分の頭を支えている。外の寒さと夜の闇から護ってくれるように、力強く。
それを感じるだけで、頭の芯がぼうっとなって冷え切った身体の芯がじんわり熱くなってきそうだった。
ジャケットを脱ぎ、インナーシャツだけになったジョウは、しなやかな身体を持て余すように横になっている。薄いシャツに鍛えた身体のラインがうっすら浮かび上がって、意識を逸らそうといくら頑張っても「男」を感じてしまう。しかも少し汗の混じった、陽だまりのような乾いた匂いもして、身体を添わせているだけで心をわしづかみにされたように苦しい。
肩幅、広いなあ...………。
胸板も、こんなに厚い。ジョウの身体にさえぎられて、向こうの岩肌が全然見えないよ。
さりげなく当たってる顎も、がっしりして大きい。
本当に、全然違うのね。女とは。
ジョウの身体はあったかいな。
まるで春の日に、外でお日様の光に抱かれているみたい。
「ねえ」
吐息をつくように、そっとアルフィンが彼を呼んだ。
「何か、話して、息が詰まりそうよ」
ちょっとでも動くと、唇と唇が触れてしまいそうで。
見上げて彼を見たい。でもできない。
ジョウもまた、アルフィンの顔をのぞき込めずに、冷気を湛えた洞穴のむき出しの壁に向かって言葉を返した。
「何かって……そんなこと急に言われても」
正直、密着感が気になって、会話をするどころではない。そう言いたいところであるが、心にしまっておく。
それに、ともすれば忘れてしまいそうだが、今俺たちは。
「第一、けんか中だろ、俺たち。<ミネルバ>じゃ口も利かなかった」
アルフィンがそうか、と頷いた。
「そうだったわね」
「なのに話だけはしろっていうのは変だろ」
皮肉っぽく付け加える。案の定、アルフィンはむっとふくれた。でも、ふくれても愛らしい表情は彼の目に入る位置にない。
「そうだけど、それでも。……いったん休戦、今だけ」
ずいぶんと都合のいい提案に、ジョウは鼻を鳴らした。
「休戦ねえ」
「悪い?」
「いいえ」
全然悪くはないけどさ。と、内心苦笑するジョウ、ケンカも長引くと厄介だ。謝るタイミングも、和解するポイントもあいまいになってしまっていた。
このまま自然に仲直りかな、そう思いつつ話題を探していると、アルフィンからそっと促された。
「じゃあ、あのことを話して」
「あのこと?」
「あたしたちのけんかの原因。バードのことよ」
ジョウは鼻の付け根にかすかにを寄せた。やっぱりそこは避けては通れないのか。
「あれか」
「どうしてあんなことしたのか、ちゃんと話して聞かせてほしい」
アルフィンの声はともすればき逃してしまうほど小さい。
いや、小さく聞こえるのは、それは自分がの中に彼女を取り込んでくぐもっているせいだと、それぐらい自分たちが密着しているのだということにジョウは改めて気づかされた。
彼女はまだ寒さのせいか身体を小刻みに震わせている。もしかしたら、自分と同衾する緊張がそうさせているのかもしれない。
少しだけ逡巡したが、ややあってジョウは口を開いた。
「俺が、あんなに邪険にバードを扱ったことを、君はおかしいと思ってるんだよな」
「......」
アルフィンは答えない。でも沈黙が肯定を意味していた。
「元々は、君に対する依頼だって断りを入れて、バードがコンタクトを取ってきたっていうのに。だろ?」
ジョウの言うとおりだった。
「.……じゃあなんであんなことしたの?」
ずっとずっと訊きたかった。理由をジョウの口から聞かないと、どうしても納得できなかった。
ようやく疑問符を口にできて、頑なだったアルフィンの心がすっと解けていく。
触れ合った太腿から伝わってくるジョウの体温が、自分に移り始める。アルフィンはわずか首をもたげ、ジョウを仰いだ。
見上げるとき、一瞬、ジョウの唇が、アルフィンの額に触れた。
睫毛と硬毛が触れ合う近さで、二人は見つめあった。息を殺すようにして。
あまりにも近すぎるせいで、目の焦点が合わせられない。
ジョウはアルフィンの瞳の紺碧で、アルフィンはジョウの瞳の漆黒で、それぞれ視界を満たした。そのまましばらく二人は沈黙に身を置いた。
「俺が」
勝躇いがちに、ジョウが口を開く。視線をふいと逸らしながら。
熱い吐息にくるまれた声が、アルフィンの頬に触れた。
「俺が、パードのことを君に話さなかったのは……」
それは。
「やつが担当する連続猟奇殺人事件のおとり捜査に、君を貸してほしいっていう依頼だったからだ」


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1 コメント

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おはようございます (ゆうきママ)
2022-02-07 08:57:35
そりゃジョウが断って当然だし、アルフィンに詳しく話さないのも分かる。
アラミス経由で依頼したら、問題ないのにね。チームで、護衛しながらの囮捜査なら、アラミス経由なら、うけざるを得ないのに。
タロスは、この件知っているのかなぁ。
投稿、楽しみにしています。
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