背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

甘い指先2

2013年10月30日 05時01分44秒 | 【図書館革命】以降
【1】へ

のどが渇いて、眠れない。
何度も寝返りを打って、ベッドの中悶々とし。あきらめてベッドから抜け出した。
時計は見られないがおそらく深夜。12時は回っていると思う。
ゆっくりと階段の手すりを伝って、玄関に降りた。玄関ロビーの共有スペースに置いてある自販機でカップコーヒーを買う。
いつも使い慣れている機種なので、コイン入れの場所も大体のボタンの位置もわかっている。本来ならシュガーなしが好みだが、今夜は仕方がない。押し間違えたとしても、あったかいコーヒーなら御の字だった。
電子音が鳴って、受け取り口からカップを慎重に取り上げる。目が見えないので、指先の感覚が頼りだ。自販機に寄り掛かってコーヒーをすすっていると、
「眠れないの、あんたも」
とだしぬけに声をかけられて飛び上がった。
柴崎。
声の位置から、ソファに掛けているらしい。察するに、共有スペースに先に来ていて、コーヒーを何とかかんとか購入して、ほっと一息つく、その一部始終を見ていたらしい。
ひとが悪い。
「なんだよ。驚かすなよ」
手塚が言うと、柴崎は座ったまま「驚かしてないわよ別に。あんたが後から来ただけでしょ」と憎まれ口をきいた。
手塚はソファへ動こうかどうか、瞬時迷った。でも、カップを持ったまま移動するのは至難の業だと思い、そのまま自販機に預けていた。 やけどしかねない。
それに……。
「あんたも、ってことはお前も眠れないのか」
やけに唇が熱い。
コーヒーを含んでいるだけだとは思えない。これはきっと、しるし。恋の。
この女が刻んだ。
「……よくその目でコーヒーを買えるわね。コインがいくらかも見えないんでしょうに」
体よく話題を変えられた。手塚はやれやれと思いつつ、
「長年の習慣だからな。寮内のことならなんとかなる」
「明日、仕事は」
手塚は肩をすくめた。
「この目が元通りになるまで出勤するなだと」
「鬼教官からのお達し?」
「まあな」
「ふうん。いいな。おおっぴらに公休ね」
さすがにその言い方にはかちんときたので、手塚は「好きで休むんじゃない」と言い返した。
「訓練は休みたくない。勘が鈍るし、実戦のとき遅れをとる羽目になるのは不本意だ」
「ごめん。悪かったわ」
案外素直に柴崎は謝った。
手塚の手の中でコーヒーが熱を失っていく。
こんなことを話したいんじゃない。核心から目をそらしている。お互いに。
一番話したいことは、もっと別にある。それは……、
手塚は顔を柴崎に向けた。目には映らないが、彼女の居住まいはわかる。
きっと前かがみで膝の上に肘をついて俺を見上げている。長い黒髪が頬に落ちかかっている。湯上り、化粧っけがなくても、口紅を挿していなくても、自販機の灯りが青白く照らす横顔は、はかなく美しいことだろう。
「……なんであんなことしたんだよ」
熱の余韻を掌に感じながら、手塚は口を開いた。
「え」
「なんでさっき、食堂であんな。……」
ひょっとしたら勘違いかもしれない。自分の思い違いかもしれない。
人気のなくなった食堂で、柴崎からのキス。
いたわるような。掠めるような。やさしい口づけを刻まれた。しっとりした唇の感触が胸を焼いて眠れない。どうしても。
柴崎が答えないので、焦った。相手の反応が見えないのはこんなに心もとないものなのか。
口を勝手に言葉が突いて出る。
「お前いつもだよな。あの時だっていきなりそっちから。こっちの気持なんかお構いなしで。……すればしたで、別に関係が変わる訳でもなく、しっぱなしで」
ってか、こんなことを言いたい訳じゃない。不意打ちを追及したいんでもない。
ただ、真意を知りたいそれだけなのに。なんだってこう余計な言葉が後から後から。
手塚は自分を呪いたくなった。自爆だ。唇を噛む。
自然、沈黙が訪れた。
黙した彼をしばらくじっと眺めていた柴崎がソファから立ち上がって傍に来た。
手塚は気配を察して身を固くする。
シャンプーの匂いが、鼻をくすぐる。
「理由が聞きたいの? なんでキスしたか、なんでキスするのかって。あたしが、あんたに。それがあんたの本心?」
抑揚のない淡々とした口調。感情が読めない。
でも熱を帯びている。それはたぶん自分の胸を今焼いている、持て余している類の熱と同じ種類のもので。手塚はたじろいだ。
「あたしの口で言わせたいの? 聞ければあんたはそれで満足なの?」
柴崎が近づいてくる。
手塚は返す言葉もない。
柴崎は言った。ナイフを鞘から抜くように。
「つまんない男」
「……」
面目なさ過ぎて顔をあげられない。
いたたまれなかった。包帯で目を合わせられなくてよかった。そう思ったのは、今日二度目だ。
さっきの、食堂でのこととは逆の理由で。柴崎の視線を目の当たりにせずに済む。
「あたしが今夜眠れずにここにいた理由も言えば、満足する? あんたと同じよ、って言ってほしいの」
「もういい」
反射で、振り切るように言って代わりに柴崎を抱きしめた。細い体を腕に囲って口を塞ぐ。
カップを持っているので、しゃにむにできないのがもどかしい。
激しく奪って、唇を離して吐息をつく。心臓が唇から飛び出しそうだ。
と、
「……口封じ? 古典的ね」
揶揄するような声が腕の中からして、一層血がたぎった。腕にいっそう力を籠めようとしたとき、
「貸して。あたしが持つわ」
と手からカップを取り上げられた。
両手がフリーになり、これは抱きしめてほしいという柴崎のサインなのだと分かったら、スイッチが入ったように我武者羅に抱きしめていた。
「好きだ。言わせようとしたんじゃない。言いたかった」
でもいつも出し抜かれて悔しかったんだよ。すがりながらそう言うと「言い訳みたい」と笑う声がして、ぽんぽんと背中を片手であやされた。
「まあいいわ。許す」
言いながら、彼の背をさする手つきが優しくて、うれしいような悔しいような複雑な気持ちになり、いっそうきつく柴崎を抱きしめた。


コーヒー味のするキスを何度も交わして。離れがたい思いはいっそう募り。
やがて手塚は柴崎に手を引かれて、二階へ続く階段を上がっていった。
二人を見咎める者もいなかった。
闇が彼らを優しく押し包んでくれた。

(「夜の部屋」に続く)

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コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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続くって! (たくねこ)
2013-10-30 13:10:15
よっしゃぁぁぁぁぁぁ!で握りこぶしです
コメントがアホですが、久しぶりの手柴で浮かれきっているせいですので
お許しくださいませ~~~~m(_ _)m
返信する
うわっwwヤバいww (ツンデレラ)
2013-10-31 06:05:37
うわーっ!!!と叫んで転げ悶えたくなりました!

そ、そう来ましたか!まさかのその夜…!
そうですよねぇ、考えたらそうですよねぇ!
あの後、夜に眠れる訳なかったですよねぇ!!!
お互いに連絡も何もないけれど、引きあうように呼び合うように、同じ場所にいるわけですよねぇwww

手塚がヘタレっぽく見せといて、でも、やっぱり最後の一言を言える手塚に、
おっしゃあ!と思いましたです!(拳)
その一言が言えるから、最後には柴崎に寄り添える手塚なんでしょうねw
でも、柴崎の、手塚を切るかのような畳み掛ける言葉に、柴崎らし過ぎてドキドキしました。
私が言われてる訳でもないけど、見捨てないでくれ!って思っちゃいました。もちろん、見捨てるというか切りきれる柴崎でもないのはわかってるのに。
でも、そこが柴崎だな!!とw

こんな素敵な続きがあったとは…!
ありがとうございますwww



返信する
このままここで終わっても (あだち)
2013-11-02 02:16:26
話の流れは壊さないようになってますので、それはそれでお楽しみくだされば。。。

>たくねこさま ツンデレラさま
柴崎は素直じゃないので、こういう切り替えししかできないと思うのです。決してあたしも眠れなかったのと寄りかかる女じゃない。
そういう柴崎が、私はいじらしくて仕方ないです。
返信する

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