ミネルバの朝は昏い。朝だけでなく、昼も夜も日がないちにち、真っ暗だ。
銀河を航行しているから、窓の外はいつも漆黒。壮大な宇宙空間が広がるばかり。
なのだが、
「ーーん……」
ふっと目が覚めた。と、同時に気が付く。
俺が、アルフィンの胸に抱かれて眠っていたことに。
ここは自室のベッド。見慣れた俺の部屋の天井だ。しまった。
「あ。 俺……寝落ちした?」
むくっと頭を起こそうとする。けれどもアルフィンは慌てずに微笑んだまま「そうみたいね」と俺の髪を撫でてくれる。
小さい子にするみたいに、優しい手つき。
俺はそこで再度気が付く。自分がまっぱだかでアルフィンに抱きしめられていることに。彼女は俺のTシャツを羽織っているだけだが、それでも素肌は見せていない。
再び思った。やらかした、と。
いろいろ、謝罪の言葉が脳裏を巡る。この状況を鑑みるに、俺はきっと、……
そんな俺の動揺を見透かしたか、アルフィンは唄うような口調で「いいの。気にしなくても。ゆっくりしよう、まだタロスもリッキーも起きる時間じゃないから」と言う。俺の髪を掻いぐりながら。
「うん……」
先手を打たれて、俺は黙るしかない。アルフィンのふくよかな胸に抱かれる。
昨夜、俺たちはここで何度も愛を交わした。ベッドが壊れるんじゃないかと思うほど激しく、若い身体を打ち付け合った。
先を競うように高まりを極め、俺は意識を失った。ある一点に到達したあと、 気絶するみたいに、がくっとベッドに倒れ込んだのだ。
そこから先の記憶がない。
ということは、事後の処理やあれこれを全部彼女に任せたということだ。
アルフィンにすっかり委ねて、俺は朝までぐうぐう寝込んでいたーー
気恥ずかしい。いたたまれない。 なんだよ、おぼえたてのガキかっつうの。
さんざん彼女にしでかしておいて、寝落ちとかーーありえん。
断腸の思いでじっとしていると、俺を胸に抱いたままでアルフィンが口を開いた。
「気持ちよかったね。きのう。最高だった」
俺の額を出して、ちゅ、とキスを刻む。
「ん……」
そう言ってもらえると幾分救われる。でも俺は、フォローしてもらったことでさらにいたたまれない気持ちになった。
気恥しくて顔をいっそうアルフィンの胸に押しあてる。
ふふ、と含み笑いがして、俺の頭を更に撫でた。しなやかな手。
「避妊具、ゆうべで全部使っちゃったから、しばらくはお預けですよ」
耳元で囁かれる。
「え、」
思わず反応してしまった。顔を上げると、アルフィンと目が合った。
「ーーん?」
「……っ人が悪いぞ、アルフィン」
反応を揶揄って楽しんでるだろう。そう抗議する。
アルフィンはどこ吹く風だ。にこにこして、
「次の寄港地で買い足すまでは、ダメ。ね? それは我慢して」
と言う。
「はい……」
俺としては頷くしかない。
アルフィンはいい子いい子と俺の髪に自分の指をくしゃっと絡めた。
「今起きて朝ごはん作るわね。エッグベネディクトでいい?」
ジョウ、好きよねと囁く。
「うん。好物だ」
「よかった」
「なあアルフィン。俺なんか全然かっこ悪いな、きょう」
思わず漏らしてしまった。長い溜息と共に。
「え」
「いいとこなしだ。セックスの後寝落ちして、君に処理してもらって、夜中じゅう抱っこしてもらって、起きてもいいようにあしらわれてみっともない」
自分がいやになるよ。そう言うと、
「そんなことないよ」
アルフィンは言った。
「みっともなくないよ。ジョウの素でしょ。あたし、見られて嬉しい」
っていうか、見られるのあたしだけだし。と笑う。
ああ……、敵わないなこの子にはと俺は眩しく思う。
「格好悪くてもいいのか、俺」
がっかりしないかと彼女を窺う。
「格好悪くてもいいよ、ジョウなら。いつもみたいに凛々しくチームを引っ張るジョウも好きだけど、えっちの後全裸でぐーすか寝落ちしちゃうあなたも好きよ」
ダイスキ、とキスを落とし込んでくるから、俺はもう限界だった。
「アルフィン」
と身体を入れ替えて、彼女に覆いかぶさろうとしたら、すかさずストップがかかった。
「それはだめ。さっき約束したでしょ。次の港で買い足すまでは、だめでーす」
可愛くきっちり制止した。
「~~~」
むむむと唸って俺はベッドに撃沈した。どさっ。
ミネルバの朝は昏い。朝だけでなく、昼も夜も日がないちにち、真っ暗だ。
でも、アルフィン。君が居れば窓の外は24時間漆黒の世界でも、船の中はいつも真昼の眩しさなんだよ。
君は俺の光。
END
「ミネルバの朝」の対になるお話です。
コメントをありがとうございます。。。いつもいつも感謝でいっぱいです。
私も6巻の姫のウーラへの振る舞いは、こっぱずかしくてまともに読めない(今でも)と申しますか、いたたまれないで本を閉じてしまうのですが。
この年齢になってくると、男の人の目線でも考えられるようになり、姫のように高貴な子が、あんなふうに身もふたもなく嫉妬を露わにしてくれるというのは、なんとも男心をくすぐるのではないかなと思うのであります。。。。ジョウもあとから優越感っていうか、ほんましょーがないわな、あいつは。とかニマニマしてそうです。ね?