梁山泊は河南省黄河の流域で、川の氾濫でできた一大沼沢地である。黄河の氾濫は頻繁に繰り返され、五代十国時代には、水路と丘陵が複雑にからむ入り組んだ地形が、この地への侵入を防ぎ、反乱軍や盗賊の隠れ家的な巣窟となった。宋代にはこの梁山泊を拠点にした宋江の反乱が起こり、宋王朝はその鎮圧に苦労した。
明代になるとこの反乱の中核となる36人の好漢、言ってみれば武術に優れた英雄だが、これをモデルにした小説『水滸伝』が出版さ江湖の人気を博した。その裏には、権力の腐敗、弱いものを虐げる王朝への反発があったものと見られる。
梁山泊は日本でも有名で、しばしばこれに模して使われることが多い。私の学生時代は木造の古く汚い学生寮に住んでいたが、ここで時の政治批判や安保反対の話をしていると、「ここはまるで反政府の梁山泊な」とよく言われた。北方健三の『水滸伝』は、新刊の文庫が出ると求め、布団のなかで一巻一晩というスピードで読んだ。それほど、この物語には読者を引き込む物語のテンポがあり、キャラクタライズされた英雄に魅力がある。
このほど昭和30年代に書かれた吉川英治の『水滸伝』を読んでいるが、こちらも北方に劣らず面白い。その物語のテンポは北方よりも早く、『水滸伝』を面白さを躍動させている。この物語に登場する英雄は、誰もが酒を好む。中国の好漢はその条件のひとつが酒に強いことあるような気さえする。そういえば、昭和の40年代のころの職場では、「酒も飲めない奴にろくな仕事はできない」などという言葉がまかり通っていた。これなども、『水滸伝』の影響であるように思える。