梅が満開になったが、枝の手入れもしていないので、徒長して花はまばらに感じる。紅梅の樹に白梅が接ぎ木してあり、こちらはまだ蕾である。『和漢朗詠集』は藤原公任が選んだ、和漢の詩歌集であるが、梅を詠んだ歌もある。そのなかで、王朝人の美意識を感じるものに
梅花雪を帯びて琴上に飛び
柳色煙に和して酒のうちに入る
梅の花が雪のように舞って琴の上に落ちる、柳の薄緑は野辺の霞と溶け合って酒盃のなかに映っている。陶淵明や漢王朝の貴人が梅の花の咲く庭で、琴を楽しみ、酒宴を開いたという趣向を詠んで句である。平安王朝の貴族たちは、先進国である唐の文化にあこがれ、競って梅の木を自分の家の庭に植えた。
東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ 菅原道真
道真は延喜元年正月、貶せられて大宰府に赴任する。家にあった梅に、呼びかけた歌である。梅は主人を慕って、筑紫まで飛んで行ったという飛梅伝説が生まれるもとになった。